NPC勇者〇〇はどうしても世界をDeBugしたい。みたい!?

激しく補助席希望

第132話 sideB 因縁の勝者は




 かくして、腕相撲の勝者はタリエルの見事な策略により決定してしまった。


 あの後、壊れた音を聞きつけた宿屋の主人が来て、『そこに寝ている酔っ払いが壊してしまった』と言う事にして部屋の机は替えてもらった。



「んっふっふー!いや〜〜勝利の後のお酒はまた格別ねぇ!!」



 静かになった部屋の中では、タリエルだけが笑い声を上げている。


「チリードルさん…しかしあなたは凄い人だな。」


「いやぁ〜それほどですけど〜??なんちゃって!!きゃは!」


 先程お世辞は金にならないと真顔で発言していたとは思えない程の豹変ぶりだ。



 一方、ハックは神妙な顔つきで大人しく席に座っていた。

 悔しがると思っていたタリエルは、その予想外の反応に少し物足りなく感じていた。


「タリエルよ、今回は私の負けだ。自らの非力を忘れて慢心した、私の敗北だ。存分に誇るがいい。」

「え?…あぁ、うん」


 いつにもなく素直に負けを認めてションボリとしているハックを見て、困惑するタリエルだった。


「さ、煮るなり焼くなり好きにしてくれ。どうせ貴様の事だ、何かしら罰ゲーム的な物も考えていたのだろう?」

「うーんとねぇ…」

 悔しがって嫌がるハックにアレやコレやを考えていたのは確かだ。しかし、タリエルの予想とは違いまさかここまで大人しくなるとは思っていなかった。






 ─だから、タリエルはコレを『チャンス』だと思った。1番仲の良い、ライバルとはまた違う意味だが今まで競い合ってきたハックを、完膚なきまでに叩き付ける時だと─








「……んじゃ、こっちきて」


 ハックの裾を掴んで、誘導するタリエル。

 そしてそれを心配そうに見つめるカルガモット。






「はい、ここに寝て」

「え?うむ」トサッ



 言われるがままに、タリエルに押されてベッドの上に座るハック。




 そして、タリエルは飛び込むようにハックをベッドの上に押し倒した。



「はぁ!?」「うおっ!?」


 ハックもカルガモットも声を上げる。タリエルは尋常じゃない顔つきだった。何故か鼻息が荒い。




「え、エロい事しちゃる!!」

「おい!?」「なんだとっ!?」



 タリエルのまさかの発言にハックも、カルガモットも焦る。


「アンタを倒すってのは…最もアンタが予想外な事をしてそれは意味をなすのよ!だから…ハックさん。覚悟してね??」きゃは


「「待て待て待て待てぇっ!!!」」



 それはもう、全く持っての予想外だったタリエルの行動に2人は慌てふためいた。

 そして何故か押し倒されているハックよりもカルガモットの方が慌てている。

「や!やめなさいチリードルさん!いけません!!」

「貴様!そんな強がりを言った所で、そのような経験無いだろう!!」


「あーうるさい!!負けたんだから大人しくなすがままにされればいいのよ!!なーに、天井のシミを数えてる間に終わるからさぁ〜うっへっへぇ〜!!」ジュルリ



 ニタニタとわざとらしい笑顔を浮かべてタリエルはにじり寄る。嫌がるハックも抵抗するが、それよりもそばで見ているカルガモットの方が慌てていた。


「待ってくださいチリードルさん!!今は…その、止める理由が正直思い付きませんが!やめて下さい!!」


 絶賛片思い中の相手が、別に好いてもない相手を、それもただただ負けさせると言う理由だけで色仕掛け?をするのを黙っては見ていられない。…が、何をどう考えてもそれを止めるに相応しい正論が思い付かなかった。


「ふっふざけるのも大概にしろ!タリエルよ!!」

「うるさいっ!勝負に負けたんだから大人しく言うことを聞けっ!」

 タリエルもやぶれかぶれだ。顔を真っ赤にしながら、何をどうして良いかも分からぬままとりあえずハックに詰め寄る。



「ハァハァ、いざ!尋常にっ!!」


「「やめろぉぉ!!」」




 …と、タリエルがハックの素肌に触れた途端に。






ビリビリビリビリッ!!!





「わきゃぁぁぁぁぁああ!?!?」







─バタン







 何故かタリエルに電撃が走り、黒焦げになって後ろに倒れた。






「………え?」

「はぁ、はぁ、はぁ、助かった…」



 キョトンとするカルガモット。

 そして、ハックの手に握りしめられた『ソレ』。


 魔除けのお守りだった。酔っ払ったアンジェラやタリエルが部屋に突入してくる直前にハックがおまじないをかけていた物だ。



「邪なる者が身体に触れた時に1度だけ身を守る為の物だが…やはり備えておいて正解だったな。」

「えぇ〜…よ、よこしまなる者って」




 すっかり気を失ってしまったタリエルを見下ろすハックとカルガモット。


 試合に勝ったが勝負には負けたとは、まさに今のタリエルそのものだった。












─そして、翌朝。







「うわぁぁぁああ!?!?!?」





「うーん…なんだ全く騒々しい…」ゴロン



 昨日の夜の喧騒から解放されたハックに訪れたのは、残念な事に隣から聞こえる大絶叫による目覚めだった。


 ハックは目も開けずに枕を顔に被せ、そのけたたましい『何か』から身を守ろうとした。




 しかしその『何か』は、ハックを放っておく所かむしろ重くのしかかってきた。…いや、飛び込んできた。



「てんめぇぇぇええ!!ハックゥゥゥウウ!!!」ドンッ

「うがっ!?なんだ急に!!」グハッ


 昨日もタリエルにのしかかられたが、それよりも遥かに堅くて重い感触が降ってきた。ハックはたまらずのけぞろうとする。


…が、その『何か』は、ハックの襟元を掴んで離そうとはしない。



「よくも!!ヤリやがったなこの野郎ぉぉおお!!!」


「……は?うわ!待て待て待て誤解だ!!」




 その『何か』とは、アンジェラだった。



 酔いすぎて昨日の夜をほとんど覚えていないアンジェラ。朝、目を覚ますと何故か隣の部屋で起き上がった。

 驚いて飛び上がると、自分の衣服がヨレヨレで半分脱げかかっていた事に気付く。

 …そして、スヤスヤと隣のベッドで寝息を立てるハックの横顔。







 アンジェラの頭に浮かんだ事は1つだ。




『ハックに寝首を搔かれた!!』






「仲間だと思って安心してれば!貴様ァッ!!」ドゴンッ


「うわっ!落ち着け!!アンジェラ殿!君の思ってるような事など起きてはいない!」

「じゃあなんで私はココで寝てんだよ!!お前が運んだんだろ!」

「運ぶ…のは、したのか?一応。」


「やっぱり!!!!!」

「違う違うそうじゃない!!酔って暴れる君を落ち着かせたのだ!」

「落ち着くゥ!?じゃあなんで服が脱げかかってんだよ!!」

「それは知らん!!君が酔って脱いだんだろう!!」


「そんな事ある訳ないだろぉぉ!!戦士の純潔破った罪は重いからなぁ!!!」


「し、知らん!君の勘違いだっ!!」






 ガタガタとハックの部屋から騒々しい物音が響いていたが、ドアの隙間から青い光が差し込んで来た後、部屋の中は再び静かになった。



 部屋からはアンジェラにつかみ掛かられてヨレヨレになった、寝癖が付いたままのハックがため息を付きながら出てくる。



「はぁぁ〜、もう宿屋に泊まるのは辞めよう。むしろこっちの方が疲れる…」ガチャン



 朝食を取りに行こうとロビーに向かおうとするもの、ハックは隣の部屋の扉の前に座り込む人物に目が行く。カルガモットだ。



「か、カルガモット殿!?そんな所に座られてどうしたのだ!?」


 カルガモットは目の下にクマを作って疲れきった顔だ。

「錬金術師…私にだって騎士としてのプライドがある。いくら仲間とて、結婚前の男女が同じ部屋で夜を共にすることなど…出来るはずが無いであろう!!」


「え?……あぁ、はい。」





 なんとカルガモットは好意を抱いてる相手であるタリエルと同じ部屋で寝るのが恥ずかしくなって、扉の前にずっと座っていたのだ。



(うん…決めた。宿屋に泊まるのはもう辞めよう)


 せっかく休む為に少ない身銭を切って宿屋に宿泊したのだが、より一層心にダメージを負ってしまったハック一行だった。


第132話 END

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