NPC勇者〇〇はどうしても世界をDeBugしたい。みたい!?

激しく補助席希望

第130話 sideB 折れないプライド



 事の始まりはこうだ。




 アンジェラは何の分野においても、明確に自分より強いと感じる相手にはそれを試さずに居られなくなる性分の持ち主だった。



 カルガモットの時もそうだったが、タリエルの<現金の亡者キャッシュグール>異名を持つ天賦の才。これにももちろん前から惹かれていた。


…そしてついにその時が来た。タリエルと二人きりになるタイミングが。


 そしてさらに思った。

『絶対的に自分が不利な場面から、彼女はどうやって勝利をもぎ取るのか?』

それでタリエルに自分のフィールドである、『腕力』という分野で賭けの申し出をしていた。



─それで現在に至る。


「きゃーちょっとやめて!アンジー!」

「うるせぇぇ〜勝負しろぉぉ〜」


 アンジェラの悪酔いがさらに悪化してきて、さっきまで1人静かな夜を楽しんでいたハックの部屋は喧騒に包まれていた。


「あぁもう!いい加減に落ち着くのだアンジェラ殿!」


「ヒック!まだ…しょうぶは終わって無いんだぁぁ〜」ぐでんぐでん



「…埒が明かないな、仕方ない。状態魔法『トランキライズ』」


 ハックの手から青い沈静化の魔法が放たれる。アンジェラの表情はみるみる柔らかくなり、そのままカルガモットのベッドの上に寝転んでしまった。


「…なんだ、錬金術師は癒しの魔法も使えるのか。」

「癒し?とんでもない!」


 ハックはベッドの上で寝息を立てるアンジェラを見つめながらこう言った。

「…これは、怒り狂う猛獣や興奮状態のモンスターに使う魔法だ。人に使うものではない。」





「…そ、そうか」ゴクリ

 カルガモットは、それ以上何も言えなくなった。


「しかし、アンジェラ殿も考えた物だな。タリエルに腕力で勝負を挑むとは。流石のソナタでも勝ちを引き込む事は出来まい。」


「しょうがないじゃんか!!チンチロリンやろうとしたらアンジーが馬鹿力でお椀割っちゃうんだもん!」

「かのキャッシュグールが勝負から逃げ出すか…ぷぷっ!いい気味だ。仲間から金をかすめとろうとするからそうなるのだ。まぁ、最もソナタの細腕では私でも余裕で勝てるがな」







「…なん…だと??」カチン










 タリエルの表情が一遍した。

 それを見てハックは「しまった!」と小声を漏らす。



「言えよ。もっかい言ってみろよハックさん。誰が勝負から逃げるって??」


パチンッ

「さ、さぁ!夜も遅いしもう寝るぞ皆!カルガモット殿、済まないがこの状態のアンジェラ殿は動かせそうにもないので、部屋を変わってくれ!」



 わざとらしく手を打ち、急に話題を変えようとするハック。







 …しかし、もう、遅かった。火は着いてしまった。





 静かにテーブルに移動し、席にゆっくりと腰掛けるタリエル。



 その目は完全に勝負師ギャンブラーの表情だ。



「さ、座りなよ?じゃなきゃ始められないから。」


「タリエル、貴様!」

「チリードルさん、いくら非力とは言え、錬金術師も妙齢の男性!力での勝負は止めた方がいい!怪我をしてしまうぞ!」

「カルガモット殿!ほ、本人を前にしてそれを言うか!?…まぁ、非力なのは認めるが。」



 ハックとカルガモットが必死に止めるが、1度勝負師の顔になったタリエルはてこでも動かない。

「…私はいいのよ?この勝負降りても。でも本当にいいの?年下の女の子に腕相撲の勝負挑まれて、裸足で逃げ出したなんて噂が出たら、せっかくの家名に傷が付くんじゃないのぉ?」

「うぐっ!?」




 ハックは渋い顔をしながら、タリエルの正面に座った。

「我が家名を出されては私も勝負を有耶無耶にする事は出来ない。勝負させて貰うぞ!」

「グッド!!」パチン


 タリエルはニヤリと笑って、指を鳴らした。


「カモ、審判ジャッチしてちょうだい。」

「わ、私が!?済まないがチリードルさん。腕相撲と単純に言っても、詳しい知識がある訳ではない。」







「そうねぇ…それじゃしっかりとルールを決めましょう。公平な審判が出来るように。」




 タリエルが提示した勝負内容は以下の通り。






『腕相撲』

・相手と腕を組み合わせ、相手の手の甲をテーブルに付けた方が勝ち。

・勝負が始まってからは、いかなる理由があっても決着が着くまでは勝負から抜けることは出来ない。

・相手の身体に直接危害を加えるような事や、それ以外の理由でも相手の手以外を触ると反則負け

・武器、アイテム他それ以外でもあらゆる勝負に有利な装飾品の使用は不可

・自ら手を離したり、勝負から逃げるような行為は認めない。これも反則負けとする。

・力を入れ始めるのは、審判の合図があってから。

・勝負は1回限り。終了後に更なる勝負を申し出るのは許されない。







「…これでどう?あくまで一般的なルールだけど。」

「分かった、異論はない。」

審判ジャッチとしても不足はないと判断する。両者納得か?」


「「オーケー!!」」




「それじゃあ…」ガタッ




 タリエルが席から立ち上がる。ハックがなぜ立ち上がるのか不思議に見ていると、ふぅと一呼吸置いてから仕事モードの顔立ちに変わった。





「名前は、タリエル・チリードルと申します。この度の一騎打ち、名も乏しい私の申し出を受けて頂いたこと、感謝申し上げます。」


 ハックも勢いよく立ち上がった。




 ─これは、家名を出してハックを勝負に引き出した事に対する、タリエルなりの『誠意』であった─




「…ハック・ロウラン・ブラックスワンだ。この勝負、我が家名にかけて誠心誠意を持って取り組むと誓おう。」








「…両者、席に着いて。」




 審判ジャッチカルガモットに促され、2人は同じタイミングで席に着く。



「カルガモット・ザゥンネが審判を務める。公平な審判と、あらゆる不正を見逃さないとここに誓う。」




 ハックとタリエル。

 2人は見つめ合いながら、不敵に笑う。


「それでは…手を差し出して」


 机の上に差し出された、それぞれの右手をカルガモットが服の上から触って確かめる。武器やアイテムは隠されていないようだ。


「ハック、勝負する側の指輪は外すべきだ。」


「…あぁ、分かった。」



 ハックは右手の指輪類を外す。


 もう一度素手を確かめて、カルガモットは不正はないと認めた。


「…それでは、お互い手を組んで」


 机の上でパシンと手を合わせる。


「今日、こんな事になるなんて想像出来た?うふふ」

「貴様とは長い付き合いだが…1度 力の差と言う物を解らせた方が良いな。」ククク



 2人は不気味に笑い合う。お互いの視線からは闘志が火花を上げていた。



 今、自称美少女鑑定士と、普通より非力な31歳の因縁の対決が幕を上げる。





「これより勝負を始める。お互一切の心残りの無いように勝負せよ…レディ…スタ「ぐぉぉおお〜もう飲めないってばぁ〜」」





「「「……………。」」」






 カルガモットのベッドの上に寝転ぶアンジェラが、盛大ないびきと寝言を言う。




 辺りの空気は完全にしらけ切ってしまった。




 毛布をはだけさせ、丸出しのお腹をボリボリとかくアンジェラ。








「何故こうも…我々は肝心な時に締まらないのだろうな。」







 哀れみの目でカルガモットは、はだけた毛布を優しくアンジェラにかけ直してあげた。



第130話 END

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