NPC勇者〇〇はどうしても世界をDeBugしたい。みたい!?

激しく補助席希望

第125話 sideA 彼と彼女の関係




 場所はエステート大学。

 その向かいにある、大学生御用達のコーヒーショップ、『フリントロック』に蕗華とウェンディは来ていた。


シルヴィア・エステバン─

 不知火 天馬の『元恋人』に会うために。


 店に入る前にウェンディが念を押す。

「いい?失踪の事は伝えてはダメよ?警戒して何も教えてくれなくなるから。ね?」

「わ、わかってるわよ」


「…何か聞いてたの?」

「………え?」


「恋人の話よ。天馬に恋人が居たなんて初めて聞いたんだけど?」

「それは…聞いた事ないけど…天馬先輩に恋人が居たって別におかしくもなんともないわ」

「…そう?私はあの変人にはロジカぐらいしか釣り合わないと思ってたけど?」

「なぁ!?」

「いい?入るわよ?」ガチャッ

 蕗華の返答も聞かずにウェンディは店の中に入って行った。











「いらっしゃい。良かったわね、今日は試験日だから学生も少ないよ」




 綺麗な長い金髪の、チェック柄のシャツにデニムのタイトパンツを履いた、かなり痩せた女性が1人でカウンターの中で作業をしていた。



 店のあちこちには大学生と思われる集団の写真が貼られてある。蕗華はつい、その中から天馬の姿を目で探してしまった。


「…………注文は?」

「「え?あ…」」


 思わず2人はその店員に見とれてしまい、一瞬何を聞かれたか分からなかった。


 白い肌にそばかすが特徴的な彼女の顔は、所々に生活の疲れが見える。…そんなイメージだった。


「あの…私達「アイスアメリカン!エクストラホイップとキャラメルソース追加!」」


 蕗華が聞き出そうとした途端、ウェンディが注文でそれを遮る。「焦るな」という意味であろう。



 出てきたのはただのアイスコーヒーだった。


「スタボ(スターボックスコーヒーの意味)に行ってそんな注文してね。」

「…ワァオ、サービス満点ね」

 発言とは全く違う表情をして、ウェンディは出てきたコーヒーを飲む。


「…で?そっちは?」

「えっ!?あの!か、カフェラテで!」




 定員に正面から見つめられて、蕗華はオドオドしてしまった。ウェンディはやれやれと言った表情だ。



 蕗華の分のカフェラテが出てくると、その他にもクッキーが2枚出された。


「…チャレンジする?」ゴトッ


 そう言って店員はなんとクッキーの他に拳銃の様な物を机の上に置いた。見た目はかなり古い。


「ちょっと!!」「ワォワォなーんでコーヒー頼んだだけで銃が出てくるのよ!?」


「…やっぱり知らなかったわね?ここは『フリントロック』よ?」


 そう言って店員は机の上の銃を横回転でコマの様に回し始めた。カウンターの上がかなり傷だらけだったのだが、多分これが原因だ。何度もやっているのだろう。

「フリントロックって?」

「ここのお店の由来。このビルを買ったオーナーが初めて中に入った時、古いフリントロック銃が置いてあったんだって。…で、オーナーがそれを取ろうとした時に間違って手から落としたら、その銃は装填されてて暴発した。」


「え?それでその人は?」


「オーナーは片手に、金属製の水筒にコーヒーを入れて持ってた。それに玉が当たって跳弾した。」


 そう言うと店員は天井を指差す。1箇所だけ確かに銃弾がめり込んだ様な跡があった。


「それで、この店をフリントロックって名前にして、幸運の象徴だったコーヒーを販売した。」


「…ぷっ!何それチープな話ねぇ。そんな古い銃がそのまま発砲出来る状態の訳ないじゃない?」

 ウェンディは思わず吹き出す。



「さぁね?私もそう教わっただけだし。信じるか信じないかはあなた次第よ。………でも、この銃はアナタを標的に選んだ。」


 机の上で音を立ててクルクルと回っていた銃は、蕗華の方に銃口を向けて止まった。


「はい、アンタの奢り。それがフリントロックのルール。」


 ハッとした表情の蕗華は、渋々ウェンディの分もコーヒー代を出す。

「ふぅん?クッキーまでくれて友達にコーヒーを奢らせたのね?訂正するわ。ここはすっごくサービスのいい店ね」ケラケラ


 予期せずにコーヒーがタダになり、ウェンディは笑って喜んでいる。蕗華は渋い顔だ。


「………ん。」



 そこに店員が手を差し出す。


「…ん?え?」

 とりあえず、その手を握り返そうとするとはたかれる。


「…鈍い人ね?3人分よ」


 店員はいつの間にかコーヒーを持って飲んでいた。蕗華はさらに悔しがり、ウェンディはそれを見てさらに笑った。








「ふぅん。あなたがブルバーにアップした人なんだ」


 お互い軽く自己紹介をした後、その店員…シルヴィアは、改めて蕗華をマジマジと見つめる。その後コーヒーを1口飲んだ。

「…で?要件は?」

「えーと…天馬さんとは『同じ仕事』をしてまして…天馬さんと連絡が取りたくてですね」

「同じ仕事?私は連絡先知らないわ。…でもたまーにテンマはコーヒーを買いにこのお店にくるわよ?」

 その言葉を聞いて蕗華の胸は高まった。しかしその事を知られてはならない。落ち着いた雰囲気という演技を最大限にした。

「天馬さんは…いつ頃来られますか?」


「えーっと…でもここ最近は全然来てないよ。って言っても、元から年に何回か来るだけだけども。」

「最後に会ったのは?」

 今度はウェンディが聞く。

「…ん?半年?いや、1年ぐらい前になるかな?」


 失踪よりもさらに前になる。蕗華とウェンディはその言葉を聞いて少しガッカリした。

「で?なんでテンマを探してるの?」


「クライアントから仕事の依頼が来てまして…エージェントとして、さらにランクアップした報酬を提供したくて連絡先を探しています。」


 ウェンディが、濁した様な嘘の様な内容で答える。


「依頼?どんな??」


「企業秘密です」

「ふぅん…」



 シルヴィアはまたコーヒーを飲んだ。壁の写真をたまに見つめる。


「天馬さんって…前にあるエステート大学に通って居たんですよね?」


「えぇ、そうよ。私と同じ学部だったわ。」


「…その、交際、されていたんですか?」


「若気の至りって奴よ」


 シルヴィアは苦虫を潰した様な顔をする。あまりいい思い出ではないようだ。

「ごめんなさい。変な事を聞いてしまって。」


「いいよ。どうせすぐ別れたし。」

「え?すぐ別れたんですか?」

「…大学辞めろって言われて、それでケンカ別れ。本人は罪滅ぼしのつもりかもしれないけど、それでちょくちょく顔を出すようになったのかな」


「大学、辞めたんですか?」

「いいえ?卒業したわよ?」

「「え?」」

「あの人…テンマって男の口癖みたいなもんだけど、『非凡な奴は非凡らしく生きろ』みたいな事言われたの。私があまりいい成績じゃ無かった事をね。」

 それを聞いてウェンディはなんて奴とオーバーにリアクションした。確かにその言葉は何回か天馬から聞いた事のあるセリフだった。


「大学の時からここでバイトしてた。…結局卒業後も上手く大学での知識を活かして就職する事は出来なかった。で、ここに逆戻りって訳よ。」


「そう…だったんですね。」



 皆無言になってしまった。そのタイミングで、他のお客さんが何人か入って来た。


「…テンマがもし来たら、あなた達が来た事を伝えておくわ。それでいい?」

「はい!出来ればお願いします!」



 ここにいてもこれ以上収穫が無いと踏んだ2人は、帰ることにした。



「それでは、何かありましたら連絡お願いします」

「えぇ、あなた達も『軍の仕事』大変でしょうけど頑張ってね」

















「「………え?」」



「テンマと同じ『情報部』の仕事なんでしょ?さっき『同じ仕事』って言ってたわね」






「…いや「どうもありがとうございました!」」


 蕗華が違うと言う前に、ウェンディがそれを遮る。そしてそのまま店を出た。



 店を出た途端、足早に車へと戻るウェンディ。


「ちょ!ちょっとウェンディ!!」



 車に乗り込むまでウェンディは一言も話さなかった。


「ねぇ!どういうつもりよ!」


 ハンドルを握ったまま、怒り顔で固まるウェンディ。


「聞いてるの!?」

「ロジカ…本当の事を言って。」

「はぁ!?」

「さっき言ってたでしょ!コーヒーショップの店員!テンマが情報部の人間だって!!!」


「なんかの勘違いなんじゃないの?」

「じゃあ教えてよ!なんの為に会社からもアパートからも車で1時間も離れた所にわざわざ来て、軍属だなんて嘘つくのよ!?」




「それは…」



 それにしてもおかしい話だと蕗華は思った。事もあろうに、『不知火天馬』が軍隊所属?


 あの、そこら辺歩いてる女の人にだってケンカしたら負けそうな薄い胸板の先輩が軍人だって?


「ウェンディは信じるの?天馬先輩が軍隊に所属してるって?バカも休み休み言ってよ!」






「じゃあ『あの噂』はなんなのよッ!!」



 ウェンディが怒鳴った。


「う、噂?なんの噂??」


「ゲームの事よ!サウザンドオルタナティブ2!!」



「…え?」



「軍事転用が目的で開発されたって!ディープウェブに書かれてるの知らないの!?」


「は、はぁ!?」




 蕗華にとってそれは寝耳に水の全く聞いた事の無い話だった。


「な、何言ってるの?そんな訳ある筈ないじゃない?だって、それ私達が作ってるのよ!?」

「確かに私達が作ってるわ!!でも!会社はどう言うつもりか分からないじゃない!!」




 ウェンディは涙を溜めていた。その噂…軍事転用の話は前から知っていたが、そんな訳ないとウェンディは無視していた。しかし、開発チームイチのゲームデザイナー兼プログラマーの男が失踪して、その後に軍属だったかもしれないなんて出ては話が別だ。


「だからロジカ!ハッキリ答えて!彼に怪しい所はなかったの!?」

「怪しい所なんてある訳ないじゃない!!あの天馬先輩だよっ!?」

「『産業スパイ』ならそんなの簡単に騙せるじゃない!!」








「さ、『産業スパイ』…??」






 その言葉が、蕗華の耳にやけに重く感じた。






第125話 END

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