NPC勇者〇〇はどうしても世界をDeBugしたい。みたい!?

激しく補助席希望

第124話 sideB 3歩進んで何歩下がる?




「さぁ、着いたぞ」








 ハック達は悩みに悩んだ末、ひとつの選択肢をえらんだ。その先にあったのは…






「うわぁ!とってもきれい!」

「なんとも…神秘的な場所だな」

「凄い、初めて来た。」








 彼がたどり着いたのは、サイカの亡き夫であるシゲアキの故郷、『ヒガンの里』だった。



 結局の所、戦士の一団が言い残した『リトル勇者』なる者の情報はキャラバンでは得られなかった。

 どうしてもその『勇者』というワードには引っかかるものがある。しかし、そこに全てをつぎ込んで何も得られなかったのでは仕方がない。



 なので、ハック達はまず仲間と合流する事にした。


「ヒガンの里とヤンド殿の寺院には手紙を出しておいた。もう既に手元には渡っているだろうし、話は早く進むだろう。」

「…門番が出てきたぞ。」


「警戒は…する必要が無いだろう。我々の話も通っているはずだ。」


 ハックは馬車の速度を弱め、門番の手前に停める。

「すまぬ、ファステの街から来たハック・ロウラン・ブラックスワンという者だ。我々の仲間であるサイカ殿に会いに来た。通して欲しい。」


 門番の男は全身黒装束で、まさに歴戦のニンジャと言った出で立ちだ。


「……話は聞いている、通れ。しかしサイカには会えない。」

「何!?」

「……詳しくは長老が話す。前の者に続け。」

「前の…?うぉっ!」


 ハックが気付かぬうちに、全く同じ服装のニンジャが立っていた。音も気配もしなかった。


「す、すごいね、まさにニンジャの里って感じだよ!」

「あれは…忍び足のスキルなのか?全く気配を感じ取れなかったな。」

「うぉぉ〜羨ましいなマリーナ!私もコレ覚えたい!!」

「これ、良さないか!」


「「「はーい」」」

 ハックに叱られ、馬車から顔を出していた3人は静かになった。



─ ─ ─ ─ ─


「旅の者、よく参られた」



 ここはヒガンの里、長老の家


 長老は伝統的な和装束に、真っ白な長髪と口元には長い髭が生えていた。


「里の長と見受ける、突然の訪問にも歓迎して頂き、感謝申し述べる。」


 こういう場面での、カルガモットの貴族ならではの処世術スキルは大変役に立つ。


「どうかゆっくりしていって下され。」


「長老殿、我々が今回来た目的は、我々の仲間であるサイカ殿とマリーナ殿に会いに来たからです。」

「うむ、手紙出したのはダークエルフのそなたであるな?ブラックスワン家の名に恥じぬ、懇切丁寧な配慮、誠に感謝致す。」

 長老は深く一礼をした。ハックも驚いてそれに合わせる。

「…しかし、今すぐサイカとマリーナちゃんには合わせる事は出来ないのだ。そこは理解して欲しい。」


「すいません、理由を伺っても?」




「2人は今、コウロン山にて初級忍術の最終試練を行っておる。」

「なんと…そう言う事でしたか」


 とりあえず、退っ引きならない様な理由では無いことにホッと胸を撫で下ろす一同。

「最終試練の内容については里の掟で伝える事は出来ない。既に3日程経っているので…そうさなぁ、遅くとも10日以内には山から降りてくるだろう」

「「「10日!?」」」


 それ程かかると思っていないチームメンバーは目眩を起こす。



「少し…仲間と話させて下さい」

「あいわかった」






ヒソヒソ
(どうすんのよハックさん!10日も滞在するお金ないよ!)

(しっ!聞こえるぞタリエル!里の人々に我々が苦しい生活を送っている事を悟られる訳には行かない!)

(しかし…錬金術師、これは困った事になったぞ?いくら女忍者サイカとの仲とは言え、この人数が10日も世話になると里の負担も大きい。)

(困ったなぁ…)


(行くしか…なくね?海沿いの街!)

(((エッ!?)))

(サイカとマリーナには修行終わったらそのまま山の反対側に降りてきて貰えばいい!)

(いや、流石にそれはおこがましすぎないか?戦士アンジェラよ?)

(あーもうハックさん決めて!)



(…うむ、わかった!)





「…長老様、少しお願いが」


「何かな?」

「我々、少しばかり野暮用があるので…サイカ殿に伝えて欲しい事があります。」

「ふむ?」



「修行が終わったならば、山の向こうの海沿いの街に降りてきて貰えるよう、伝えてくれますか?」


「ふむ、承った。」



「うっしゃ!!」「ちょっとアンジー!!」シッ!


「ありがとうございます。それでは、我々はこのまま海沿いの街に出発させて頂きます。」



「あ!ちょっと!もういっこお願いがあります!!」

 タリエルが長老に頭を下げた。

「何かな?小さなお客人」



「あの…シゲアキさんのお墓…お参りしてもいいですか??」



「ほぉ…シゲアキとな?」ピクッ

 長老は髭を擦りながら考え事をしていた。


「スイエン、連れて行って上げなさい。」


「…はっ」

 ここまで連れて来てくれた黒装束の男が返事をして、案内してくれた。




─ ─ ─ ─ ─ ─




 長老の屋敷を出て、農園沿いに歩くと奥に墓地が見えてきた。



ヒソヒソ
(気付いたか?錬金術師)

(あぁ、この里、かなり人が少ないな)




 数人とすれ違い、農園で作業している人も何人かは居た。



 しかし、これと言って住人と言う住人はほとんど居なかった。居ても皆、やせ細った人ばかりだ。



「着いたぞ、ここがシゲアキの墓だ。」

 ヒガンの里の墓地は変わっていて、敷石はあるが墓石は無い。代わりに、刀が1本突き刺さっていた。かなり古いが、銘の所にシゲアキと掘ってある文字が読める。


 突き刺さっている根元には、サイカとマリーナが添えただろう花々と、草団子が置いてある。







 …そこには優しい風が、吹いていた。






「シゲアキ殿…やっと会うことが出来たな。」



 ハックはそう言うと、腕に沢山付けているアクセサリーの中から、シンプルな腕輪をひとつ取り、シゲアキの墓に添えた。



「…ダークエルフの仲間の弔い方のひとつに、普段身に付けている物を供えるという弔い方がある。受け取って欲しい。」

 そう言うとハックは目を瞑り、静かに黙祷をした。


「じゃあ…あたしも。これ、シゲアキさんに上げます!」


 今度はタリエルが、貴重品入れから小さな指輪を出した。赤い石がはまっている。

「私も出す!」

 アンジェラは癒しの効果のある乾燥させた薬草を供える。お茶に使うハーブの1種だ。


「私からもこれを備えさせていただく。安らかに眠ってくれ。」


 カルガモットは小さなダガーナイフを供えた。


 それぞれの祈り方で、皆はシゲアキの冥福を祈った。




「…シゲアキの事、感謝する。旅の方々よ」



 皆の弔いに、スイエンがポツリと謝辞を述べた。シゲアキの最後や、カッポンでの旅のことをサイカから聞いていたのであろう。その顔は、どこか影を感じさせる表情だった。




「どうかこれを持って行って貰いたい。我が里で取れた薬草を使った生命回復の仙薬だ。供物のお礼に受け取って欲しい。」


 そう言うとスイエンは小さな薬袋をハックに渡した。ハックも一礼をしてそれを受け取る。


 しばらく全員で、シゲアキの墓を見つめていた。














「…他に居なくなった仲間を探しているとサイカから聞いた。どうかあなた方の旅路に幸運を。」


 入口まで案内してくれたスイエンは、ニンジャ特有の礼の仕方で祝福してくれた。


「シゲアキに対する御礼、長老に代わり感謝を申し述べる。…それでは」


 それだけ言うとスイエンは帰って行った。








「良し、それでは…出発するとしよう。『リトル勇者』なる者を探しに!」


「「「おー!!」」」



 結局の所サイカやマリーナには会えなかったが、2人の修行の成果を期待し、ハック一行は海沿いの街『ソラスタ』に向けて出発した。



第124話 END

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