NPC勇者〇〇はどうしても世界をDeBugしたい。みたい!?
第120話 #9「剣」の、達人(カルガモットsub)
カルガモットにハックが話した今までの経緯は大まかにこのようになっている。
・現在大陸の空がこうなっている(プログラムの羅列)のは、特に問題はない。
・今はDM装置が大陸中で使えない。
・勇者〇〇は、どうやらこの大陸のどこかに居るらしい。が、細部は不明。
・勇者〇〇を探しに、運営側からリディが大陸にやって来た。
・勇者の行方や、この先のヒントを得る為には、もう一度残念勇者の墓(ザゥンネ家の先祖の墓)を開き、リディに見せなければならない。
そこで、カルガモットは渋々先祖の墓に案内したが、リディ以外には墓への立ち入りを許さなかった。奥の部屋はもう誰にも見せたく無かったからだ。
そしてリディだけが墓の中へと入って行き…既に2時間近く経過していた。
「随分かかるねぇ」
「うむ、そうだな。」
皆は馬車の中で寝転がり、リディが出てくるのを待った。カルガモットだけは忙しなく入口の前をウロウロしている。
その時、入口が開いた。
中からリディが出てきた。
「お!開いたよ!」
「終わったか?して、どうだったのだリディ?」
リディは、無言のまま端末を操作し、入口を『消し去った』。
「「「え?」」」
「確認しました。そして…この場所は完全に消去しました。」
いつもの砕けた感じは一切無かった。リディは真面目そのものだった。
「………………ありがとう。」
カルガモットは目を閉じて、リディに深々とお辞儀した。
「まず1つ。奥の部屋の事についてだけど、あなた方にはお伝え出来ません。ですが、色々分かったのでこれから私はゲームからログアウトします。」
「と、言うことは…」
「どうやら人間関係のもつれがあったようです。それだけ言っておきます。」
ふぅぅ、と深くため息をつくリディ。意を決して言葉を紡ぎ出す。
「私が…大陸来たのは、理由があります。それは人探しです。」
「それは、勇者殿の事を言っているのか?」
「…残念ながら違います。私の…先輩です。このサウザンドオルタナティブ2を一緒に作った人です。ゲーム完成前に…失踪しました。」
「…ふむ」
「私は…その足掛かりとして、勇者〇〇を名乗る男にコンタクトを取りに来ました。唯一知ってる可能性がある人物です。」
「なるほど…それで勇者殿を探している訳か。」
「そう言う事になります。だけどここの奥の部屋から得られた情報は、現実世界側に問題があった事を示していました。ですので私は向こうで調べ物をします。」
「うむ、分かった。」
「次にもう1つ。皆さんにお聞きします。」
「「「うん??」」」
「この扉が開いた時、誰が近くにいましたか?」
「え?みんな居たんじゃない??」
タリエルがキョロキョロする。アンジェラも頷く。
「みんなと言うと…誰になりますか?」
「えーっとねぇ…まずは今居る私とアンジー、ハックさんでしょ?それからマリリーたんに、サイかーちゃんとヤンドっちとマルたん!」
「タリエル…あだ名で呼んでも通じないだろうに。」
「あれ?そう言えばカモはその時何処に居たんだ?縄切って逃げただろ?」
「…私はあそこの林の中に潜んで居た。そなた等の行動を見る為に。」
「へー!そんなすぐ近くに居たんだ!」
「……話をまとめますが、パーティーメンバーとカルガモット以外には誰も居ませんでしたか?」
「あぁ、すまんその通りだ。」
「…やはりそうですか。その時、急に扉が開いたんですね?」
「そうだよ!そう言えば、アレ開けたのマルたんじゃないって言ってたよね?」
「うむ?私はてっきりカルガモット殿が遠くから開けたと思っていたのだが?」
「すまん。…私は明け方を知らない。」
「「「え?!?!?」」」
「と、言うよりも私が近付いたら開くのだ。だから遠くから開くのを見ていて、私はこの中の誰かが開けたと思っていたぞ?」
「やっぱり…そうですか。ちなみに、あの扉が開くのはザゥンネ家の領主がメンバー内にいる事が解除キーとして指定されていました。」
「「「…え?」」」
アンジェラが切り出す。
「え?それっておかしくないか?あの時カモはまだメンバーって訳じゃなかったぞ?…まぁ、拉致はして来たけど。」
「近くに居たので誤作動…と言う訳でも無いだろうな。」
「じゃあ誰がどーやって開けたのさ?まさか他に誰か居たって事!?」
「待ってくれチリードルさん。私は君達をつかづ離れずで監視してたが、付近に怪しい者所か、誰一人として居なかった!断言出来る!」
「どーなってる?、どう言う事??」
皆があーだこーだと自分の考えを話し出す。
俯いたリディが話し出す
「…答えは分かっていました。その確認がしたかったんです。」
「確認…?当てがあるのか?」
「誰がは分かりません。でも開けた人は分かります。」
「だ、誰なんだよ?」
「…………………装備」
リディがメニューボードを操作する。
ガシャン!
\ゴーン/
「「「うおぉぉ!!??」」」
皆で話していた中央に、突然大柄なフルプレートの戦士が現れる。独特な鐘のような音を出しながら。
「う、ウィンダム・ウィズダム!?だと?!」
「なんだこの巨躯の兵士は!?何処から現れた!!」
「あー落ち着いてカモ領主!デクノボーは敵じゃ無いよ!中身空っぽなの!」
「リディ!こいつが開けたのか!?」
「いいえ、この子じゃないわ。でも…無色透明で無味無臭である事には変わりない。」
「つまり…?」
「私の知らない誰かが、サウザンドオルタナティブ2にログインしていた。そして、その誰かは管理者権限を持っていて、この場所に来ていた。そしてあの扉を強制解放した。」
皆、一気に血の気が引いた。
『神様』なんて存在、雲の上にしか居ないと思っていた。
それが、我々の知らない内に現れて、後ろから介入していたのだ。
そして、その正体不明の何者かは…
『何かをする為、もしくは得る為に、この扉を開けて我々をこの奥に導いた。…無色透明で無味無臭を使って』
ゲーム制作サイドの者だけが使えるNPC、無色透明で無味無臭。
完全に透明で、その存在には触れないし、気付く事も出来ない。
その存在が、我々の間を通り抜けて、黒いメニューボードと同じ力を行使して扉を開いた。
「なん…何が起こっているのだ!?」
ハックが怒りを顕にしてリディに喰いかかる。
「ごめんなさい。私にも分からない。」
リディは表現を変えなかった。しかし握り締めているその手は微かに震えていた。
「…一通り調査したら、またゲームに戻ってくる。その時までに、もし丸丸に会ったら捕まえておいて欲しいの。」
「捕まえるも何も、勇者殿は我々の仲間だ!」「わかってる!!!」
リディは怒鳴り声をあげた。
「…私にだって、大事な人は居るの。その人を探す為なら、何だってやるの…」ポロポロ
表情は変わっていない。しかし、リディの目からは涙が零れていた。
「………フン!勝手にしろッ!」
今のは完全に八つ当たりだった。ハックには珍しく、やり場のない怒りを持て余していた。
「……さぁ、要件は済んだ。皆行くぞ。」
「待って欲しい。リディ氏に頼みがある。」
カルガモットは姿勢を低くしお願いした。
「その能力をもってここに…新たに先祖を弔う墓を作ることは出来ないか?」
「グズッ……えぇ、出来るわ」
リディが端末を操作すると、そこまで大きくはないごく普通の墓石が現れた。『ザゥンネ家の英霊を称える』と、書いてある。
「…ありがとう。恩に着る」
「リディ!我々は次の仲間の所に向かう!会いに来るなら、私の居る地点に来るか、先に『ヒガンの里』で待ってるがいい!!」
 
「……わかったわ」
何に対して怒っているのか…自分でも分かっていないハックは、ぶっきらぼうに言い放つ。
「それでは、1度ザゥンネ家に寄ってから次の旅へと出発しよう!」
「はーい、じゃーねぇ〜魔女っ子〜」
「リディ、またな!」
「リディ氏、他の造物主に会ったのなら、よろしく伝えてくれ!」
タリエル、アンジェラ、カルガモットが馬車に乗り込む。
「…また会いましょう。必ず。」
悲しい顔のリディは端末を操作すると、ログアウトして行った。
第120話 カルガモットサブストーリー END
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