NPC勇者〇〇はどうしても世界をDeBugしたい。みたい!?

激しく補助席希望

第115話 #4「剣」の、達人(カルガモットsub)





「よっと…ここもね」


 リディは凸凹な森の中の不整地を慣れない足つきでよちよち歩きしていた。

 普段は<無色透明で無味無臭サイレス・エアレンツ>である『ウィンダム・ウィズダム』に乗って移動するのだが、こうも入り組んだ森の中を移動するのには不向きだった。


 なので今は1人で歩きながらデバッグ作業をしている。



 黒いメニューボードを使って、岩肌のマップテクスチャーを持ち上げる。それをそのまま奥に引っ込ませると、その下からは綺麗な清流が現れた。

「まったく…パーマーチーフ、あれだけ口酸っぱくマップの繋ぎ目に気をつけろって自分で言ってたのに。」


 ヤレヤレと言う表情とタメ息をこぼし、次の場所へと向かう。

「さーて次は…わぁお。ここすごく大きいテクスチャーね。」

 今までのマップの貼り間違いは比較的小さな物が多かったが、今度のはかなりの大きさ。ざっと10メートル四方と言った所だ。


「これは〜左に移動させよっと。ほいっ」

 テクスチャーの張り替えはデバッグメニューで行う。なので、いくらサイズが大きくても『重さ』を感じる事は無かった。

 軽々しく持ち上げ、ポイッと放り投げる。すると先程と同じように下からは…





『ドラゴン』が現れた。







「…でっ!?ぎゃぁぁモンスター!!」


 庭にある大きな石を持ち上げたら、その下のジメジメした場所から気持ちの悪い虫が出てきた。


…そんな勢いで、テクスチャーの下からはドラゴンが出てきたのだ。

 恐らく、今のテクスチャーはサイズも大きく隙間もかなり広かったので、テクスチャーと下の川の間に入り込んでしまったのだろう。


グギャァァァアアアオオォォ!!!


 ドラゴンは不意に自らの暗くて心地いい寝床が明るくなってしまって激昴した。



「や!やばやばヤバい!!うぃ!ウィンダム・ウィズダム!!あ!装備!!」



 <無色透明で無味無臭サイレス・エアレンツ>を戦闘で使用するとなるとどうしても『隙』が生まれてしまう。

 召喚されたばかりのサイレンスエアレンツは、透明で透き通った状態である。もちろんそのままでは攻撃をする事も防御させる事も出来ない。

 召喚し、アイテム欄を開いて装備品を移動させ、そこから更に装備させる。


 この『ワンテンポ』遅れるせいで素早く戦闘に参加させられないのが<無色透明で無味無臭サイレス・エアレンツ>の難点になっている。


 だが、目の前にいきなりマジでキレてるドラゴンM K Dが現れたリディはパニック状態に陥っている。

「ちょっと待って『上書き』してないの!!今リスポーンするのは不味いって!!」

 慌てふためいて尻もちを着くリディを、ドラゴンは待ってくれなかった。




グルルルロロロロォ…




 喉を唸らせ、大きく口を膨らます。

『ブレス』の体制だ。



「わぁぁヤバいもうダメっ…」



その瞬間…







「そこまでだっ!!」



ザシュッ!!



グォオオ!?ゴボォ




 一陣の風と共に、白馬に乗った騎士が現れる。通り抜けざまに喉を切りつけ、ドラゴンのブレスをキャンセルさせた。


 リディには速すぎて何が起こったのか分からなかったが、いつの間にか白馬に跨る騎士の腕の中にいた。


「へぇ!?ふぇえ!?!?」

「大丈夫ですか??もう安心です。」

 リディは顔を見て心臓が跳ね上がる。

 何故なら、リディに取っては馴染み深い『良く知ってる顔』だったからだ。





「あなた…カルガモット・<エヴァージーン>・ザゥンネね!」

「な…何と!!これは…!!」


 ドラゴンから距離を取ると、カルガモットは優しくリディを地面に降ろす。


「あ、ありがと」

 リディがお礼を言ってもカルガモットは無言だった。


─そして何故か、片膝をついて頭を垂れた。


「へ?」

「危機迫る状況とはいえ、無礼をお許し下さい。『姫様』」

「は、はぇ!?」

「お供の方もお見えにならない様子。叱らばこのカルガモット、今だけでも姫様の『騎士』となる事をお許し下さい。」

「ひ、ひめ?私ィ!?」

「ザゥンネ家の嫡男にして、前代の領主であるこのカルガモット。先祖の名に恥じぬ働きをしてみせます。」

 そう言うとカルガモットはキレイホースを近くに寄せる。

「これは我が領地で最も優れた馬です。…姫様の様な美しき方に乗って頂けたなら、我が愛馬キレイホースもさぞ鼻が高い事でしょう。」

「え!?あ!ちょ!!」

 慣れた手つきでキレイホースの上にリディを乗せる。


「後は…ドラゴン討伐の一切をお任せ下さい、姫様。このカルガモット、也はこのようなものですが『手早く済ませる自信と実力』はあります。それでは!」


 パシンとキレイホースのお尻を叩くと、キレイホースは空気を読んで優しく柔らかい足取りで歩き出す。

「ちょっと!!ねぇってば!!」



 遠ざかるキレイホースを見届けて、カルガモットは振り向きざまに剣を抜く。


 目指すは目標。

 『沼渡り』のドラゴン




「ドラゴンを討伐し、姫様を助ける。ふはは!まさにこれこそ私の望んだ『勇者』の姿だ!!!来い!!」


 先程かけたエネミーサーチの結果は驚く物だった。



スワンプドラゴン…『沼渡り』

そのレベルは128!!



「相手に取って不足なし。その称号、カルガモット・ザゥンネがもらいうける!」

 剣を抜き、カルガモットはドラゴンに向かって走り出した。



第115話 END

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