NPC勇者〇〇はどうしても世界をDeBugしたい。みたい!?

激しく補助席希望

第111話 #11 『見よ、勇者は帰る』



「そっちの準備は出来た?」

「もっちろん!ホント出発に間に合って良かったよ!」

 タリエルはニコニコ顔でピースする。

「鑑定局本庁への出向命令は今朝届いた。これで唯一の懸念だったタリエルの扱いが解決したからな」

「誰が後釜になるのかは分からなかったけど、とりあえずカウンターに色々と店の事書いた手紙置いて来たから大丈夫だよ!さっき組合にも一時閉店のお知らせ出してきたし!」

「手紙か。DM端末が出来てから久しく書いていないな。…私も書いておくべきだな。良し、食事を済ませた後にササッと書いておこう。」

「誰に出すの?」

「私の実家と…後は仲間たちの元へ書こう」

「なるほど」


 アンジェラ、タリエル、ハックが淡々と話を続けて行くのについていけないリディ。

「あの、結局どうなったの??」

「ん?当初は我々3人でこの街を出発する。一人づつ仲間をピックアップして旅を続ける事になった。」

「当面の間…もしかしたら、もうファステには帰ってこないかもしれないね。」

「そ、そうなの」

「…リディはどうする?」


 アンジェラに聞かれて、直ぐには解答出来ず腕を組んで考え込んでしまった。


「…着いてきたいのならまだ馬車には空きがある。その部分は心配しなくても良いぞ?」

「…や、ごめんなさい。」



 予想に反してリディが拒否の姿勢をとる。驚くハック達を見てリディは慌てて否定する。

「違うの!馬車に乗るって事よ!」

「「「え?」」」

「私は…このゲームを楽しみにここに来たんじゃ無いの。基本的にNPCあなた達の行動には介入するのは避けたいのよ」


「…つまり??」

「私は私で後ろからついて行くわ。だから私を仲間と思ってもらったり、戦力の宛にされては困るわ。」

「ふーむ、成程な」

「まぁ言って神さまだしねぇ。それがいいんじゃない??」

「ちょっと…神様なんて呼ぶのやめてよ」

「では、こちらとしても我々の行動を阻害しない限りはそちらに干渉しない。これで良いか?」

「えぇ、それでお願いするわ。最も、デバック作業もあるから色々と途中抜けたりするしね。居ない様な物と考えて頂戴。」

「ではもう1つお願い…いや、協定を結びたい。」


 ハックは姿勢を正した。


「なんなのよ?改まって??」


「勇者殿に関する情報は、隠さずにお互い共有する。これでどうだ?」



 視線がリディに集まる。リディは目をつぶり一呼吸置いてから言葉を続けた。


「分かった。こちらの要望は、勇者○○に会ったら二人きりで1度話をさせて貰いたい。その一点よ。」

「うむ、それでよかろう。」スッ


 ハックは右手をリディに突き出した。リディもその手に答える。


「…交渉、成立ね」



ギュッ


 2人は固く握手をした。












 昼食を取り、その他の諸々の準備を済ませる一行




 大魔道飯店の前には、物々しい大型の馬車が止まっていた。

 最早それは馬車と言うよりは装甲車で、あちらこちらからトゲが突き出ている。

そしてその馬車には本来馬が繋がっている部分に、丸出しのエンジンの様なものが繋がっている。



「へぇ…魔導エンジンなんて大枚叩いたわねぇ。」

 リディが素直に関心する。


「これ、魔導エンジンって言うの??」

「あら、あなた知らなかったの??」

 キョトンとしたタリエルにリディが説明する。

「MPを動力に変える移動手段よ。でもこれ『課金』しなきゃ手に入らない様なシロモノよ?どうやって手に入れたの??」

「まぁ…失うものは『小さく』は無かったがな。」


 アンジェラとハックはとても寂しそうな顔をしていた。

「俺達が使ってる中で最高の奴を手放したんだ。上手く使ってくれよ!錬金術の先生!!」

 大魔道飯店の常連、通称『山賊狩りの山賊』と呼ばれていた『捨我道シャーガード』の一味が店の前で見送りに出てきた。


 この大陸での移動手段は通常馬で引いた馬車になるのだが、競走馬でも無い限りその移動速度は限られたものだ。捨我道シャーガードの使っていたこの大型高機動馬車は、馬の速度の10倍は早いスピードで移動する事が出来る。最も、それを動かすに相応しい魔力の持ち主が必要になるが。


 アンジェラが持っていた馬車は普通のサイズの馬車だ。この馬車で勇者パーティーが長距離を移動するには荷物も詰めなければ乗車人員もカツカツである。

 そこで、アンジェラは馬車を売り『前金』に変えた。捨我道シャーガードの持っていた食材運搬用のこの馬車を手に入れる為に。そして…



「全く…本当にトンマを探す為だけにお前がアレを手放さなきゃならんかったのか?あんな男の為にか??」

「………あぁ、彼との友情は何にも変えられないからな。」


 ミンギンジャンは納得出来ないと言った表情だ。






 …何故なら、ハックはアンジェラが売った『大切な馬車』の足しにする為に、ハックの所有している『大事な物』を手放したからだ。



 ハックが所有している、この街にある唯一の宝物。






 それは、『錬金術工房』だった。






 ハック達は話し合い、アンジェラの馬車を前金に、錬金術工房を売り渡す事でこの馬車を手に入れたのだ。



「では、準備が出来たなら乗り込もう。」

「…おいハック!!」バッ


 ミンギンジャンはハックにある物を投げ渡す。


「…これは?」

「トンマがバイトの時に使ってた『前掛け』だ!金無くなって困り果てた時コレ持ってきたらまた働かせてやるって伝えとけ!!」



「…ふふっ、ありがとう店主殿。店主殿は優しいな」

「う!うるせぇ!!こっちは騒がしい連中全員追っ払えてせいせいしてんだよ!!さっさと行きやがれ!!」



(デレた…)
(大将がデレた…)
(あの人喰いブッチャーが…)

「お前ら心の声聞こえてんぞごぉらぁぁぁ!!!」


「やべぇ!大将がキレた!!」
「今日はずらかるぞ!俺達の新しい拠点に!!」
「みんな、元気でなぁ!!」
「勇者のあんちゃんによろしく伝えてくれよぉ〜!ヒャッハァ〜!!」


捨我道シャーガードの連中は大騒ぎしながら『錬金術工房』のあった方へと駆け出していく。



「ぷっ!あはははは!!」

「くっくはは!面白い連中だ」

「ほぉ!アンジェラ殿が笑うとは珍しいな!」

「うるさいっ!行くぞ!」カァァ






 そう言ってタリエル、アンジェラ、ハックは新しい馬車に乗り込む。

「さて、先ずはカルガモット殿だ!我々の仲間を一人づつ探しに行くぞ!!」


「「おぉー!!!!」」



 ハックが御者席に乗り、手綱に魔力を込める。

 魔導エンジンからは紫のオーラが上がり、宙に浮かび上がる。


「それでは、行くぞ!『レッツエンジョイ!サウタナライフ』の旅だ!!」




バゴォォォォオオン




 馬車は爆音と砂煙を上げると、あっという間に視界から消える程のスピードで遠ざかって行った。






 その姿を感慨深く見つめるリディ。


「…天馬先輩、貴方の言ってる事、少し理解出来ました。『キャラクターは大陸ゲームの中で生きてる、大陸ここじゃ何でもアリ』って。」


 生き生きと活動し、自ら考え、各々が主張をする。


 まさしく天馬先輩が望んでいた通りになったゲーム内と、そこに生きるNPC彼等を見て、渚力 蕗華(しょりき ろじか)リディ・ドレイアムは考えを改めさせられた。



そして、ニコリと笑うと帽子をかぶりなおし、馬車の飛び去った方向に歩いて行くのだった。


第111話 EN…








「ねぇ、何やってるの??」

「うぐっ!!」





 ファステを出てから、30分もしないウチにリディはハック達の馬車に追いついたのだ。


 確かに、リディはウィンダム・ウィズダムに移動用の鎧を着せて、その上に乗って移動しているので普通に歩くよりかは遥かに早く移動出来る。


 だが馬車に追いついてしまった。


「こ、これはこれはリディ殿、こんな所で会うとは奇遇だなぁ!あはは!」

「奇遇じゃないわよあなた達の方について行ったんだから必然でしょ。で?それはどうしたの??」


 リディは真っ黒な煙を上げて動かなくなった魔導エンジンを指さす。


「あ、あぁ、これか?これはだな…」

「調子乗ったハックが魔力込めすぎて、魔導エンジンがオーバーヒート起こした」

「バカもの!!言うんじゃない!!」

 ハックが顔を赤くしてアンジェラを止めようとしたが、時既に遅し。

 タリエルに至っては怒りマーク全開でそっぽを向いている。





「リディ、頼みがある。」

「何?アンジェラ?」

「デクノボーでこの馬車を引っ張って欲しい。」ぺこり

 それはそれは深いため息を付くリディ。ハックは一生懸命に壊れた魔導エンジンを治そうとしている。



「……いい?私達はたまたま同じ方向に向かっているわ。だから、私が前を歩いててもおかしくはないわね?」

「うん」

「そしてたまたま…ウィンダム・ウィズダムの鎧にこの手網が引っかかってたとしても、それを知らなければ私が手伝っている事にはならないわね??いい??」


「ありがとう、友達」

「いいのよ。友達の為ですもんね。」


「ほ!ほら良かったじゃないかタリエル!いやぁたまたま偶然にも同じ方向に進んでくれる者が居て助かったなぁ!!あっはっは!!」




「「「だっっっっさ!!」」」


「…はい、すみませんでした」グズッ



 なんとも勇者○○のパーティーに相応しい冒険の出だしであったとさ。めでたしめでたし。




第111話 END

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