NPC勇者〇〇はどうしても世界をDeBugしたい。みたい!?

激しく補助席希望

第109話 #9 『見よ、勇者は帰る』



「う、うーん…」

 リディは目を覚ました。

「あれ?ここは…」

 見覚えのない部屋のベッドで目を覚ましたリディは、メニューボードで現在位置を確認する。



─ガチャン

「おや、やっと目覚めたか」

 そこにハックが現れた。リディは知る由もな買ったが、その場所とは錬金術工房の勇者○○が間借りしていた部屋だった。

「私…気絶して…ねぇ!丸丸は!?」

「残念ながらそなたの読みは外れた。あそこに居たのは我々の仲間だった。勇者殿では無かったぞ」

「な、仲間ぁ!?あんた達って仲間にグールでも居るわけ!?」

「………まぁ、グールタリエルは居るから否定はしないが…」

 リディは呆れたと言う表情だった。

「しかし有力な情報も掴めた。どうやら勇者殿は完全に向こうの現実世界に帰ったと言う訳では無さそうだ。」

「そんなの!当たり前よ!!だから私がわざわざ探しに来てるんじゃない!!」

 リディは少し怒っていた。

「落ち着くのだ。リディよ」

「落ち着けないわよ!…あの嘘つき野郎、見つけたらタダじゃおかないわ!!」

 リディはまだブツブツと文句を言っていた。


「…気になったのだが、何故勇者殿の事を『嘘つき』呼ばわりするのだ??」

「うっ!それは…」

 ハックが睨んだ通りだった。最初に現れた時から『嘘つき』と呼んでいたのが気になっていた。今はタリエルもアンジェラも店番の続きをしに帰ったので、二人きりの今なら聞き出せると思いリディに切り込んだ。

「え、NPCのあなたには関係ない事よ!個人情報なの!!」

「ほう、そう来たか。ならば我々の協力関係も終わりだな。後は個人事に勇者殿を探すとしよう。」

「ふん!こっちだってNPCの助けなんて借りるつもりサラサラないわ!」

「そうか、ならば宜しい!帰りはあちらの出口からでお願いする。」

 そう言ってハックは扉の方を丁寧な手つきで指し示す。

「ただのプログラムのあんた達に探せる訳無いじゃない!お世話様でしたっっ!!」べー


 リディはあかんべーをして帰り支度をする。

「それじゃあね!!」バタン

 リディが寝室の扉を閉めたその直後だった。


「いやぁ〜〜『残念』だなぁ!!勇者殿にもう一度運営と合わせてやりたかった!!」ハァァ

 ハックはわざとらしく大きな声でため息混じりに独り言を言った。


「……………。」

 扉の向こうからは足音は聞こえなかった。ハックはニヤリと笑い独り言を続ける。

「もし私が勇者殿だったら、こちらの大陸に来たならば真っ先に我々に会おうと向かってくる筈であろうに。可哀想に大陸中の草の根を分けて探しても勇者殿は見つからないだろう!!」ハァァァ


「………………。」


─バタン

「おやこれはこれはリディとやら、どうした忘れ物か??」

「…………。」イライラ

「あぁそうか!!出口が分からなかったのだな!それもそうだ。何しろ貴殿は無様にも我らの仲間の1人を見て気絶して運ばれて来たからなぁ。うっかりしていたよ。どれ、出口まで案内しよう!!」ガタン

「……うる!うるっさいわねぇ!!分かったわよ!協力すれば良いんでしょ!?」

 ハックはさらに嫌な笑顔を浮かべてこう言った。


「……無理はしなくて良いんだぞ?」

「します!協力します!!させて下さい!!!!」ガンッ

 リディは悔しさに涙を溜めて傍にあった椅子を蹴っ飛ばした。









「で、街までまた出てきたけどこれからどうするの?」

「ふむ、先ずは我々のフルメンバーと意見交換してからこの先を決めるとする。…場合によっては全員に1度帰って来て貰わなければならないかもな。」

「フルメンバー?他にも誰かお仲間がいるのね?」

「そう言う事だ。勇者○○に導かれし精鋭達だ。」

 そう言ってハックは街にある唯一のDM端末に手を掛けようとする。

「え!?ちょっと待って!!」

「ん?どうしたのだ?」

「仲間って、この街に居るんじゃないの!?」

「え?あぁ、ここの住人ではあるが、パーティーは現在解散していてな。各々の用事を済ませに里帰りしている所だ。」

「…あっちゃ〜〜!って事は今から連絡付けて向かって来て貰おうとしてた?」

「そのつもりだが…何かあるのか?」

「ごめん!それ知らなかったから…その…」

「うん?」








「DM端末、使えなくしちゃった。今アップデートの最中」



「な!?何だと!?」


 ハックは慌ててDM端末の受話器を取る。普段ならその行為だけでも送信オプション画面が開くのだが、何も反応は無かった。もちろん受話器から流れる音声ガイダンスも聞こえなかった。

「どうしてくれるのだ!!これでは連絡が取れないでは無いか!!」

「だってそれ知らなかったんだもん!もっと先に言ってよ!」

「それはいつ行ったのだ!?」

「え?あのお墓の前から離れた時」
 

「ぐぁぁ!?居なくなったと思ったらそんな事をしていたのか!」

「しょーがないじゃん!アップデートを開始するにはゲーム側からの承認パスを入力する必要があったんだから!!」

「全く何をやっているのだ!それはいつ終わる?」

「えーっと…『ゲーム配信日』?かな?」



「は?」



「だから、正式にサーバーがオープンする日よ!その直前には全ての端末が更新されて使えるようになるわ」


「…まて、オープンとは何だ?配信日??」


「あぁもうまどろっこしいわね!プレイヤーがゲームとしてプレイ出来るようになる日よ!!」


 ハックは青ざめる。


「勇者殿の予言が当たったか!これは一大事だぞ!!」


「な、何よ予言って?」

「空が変わったあの日、勇者殿は近々プレイヤーが大量にこの大陸に押し寄せると言っていたのだ。それはいつだ!?」

「一応日付は決まっているわ。でももしもっと早く準備が整っていたら前倒しになるかも。…あぁそっか!今現在でゲーム内はプレイヤーがいない分時間の進みが遅くなっているから、こちら側的にはかなり遅れるかもしれないわ」

「成程、日時的にはまだ少し余裕があると解釈していいのだな?」

「そうね、ゲーム内だったら…計算してみなきゃ分からないけど、1ヶ月ぐらいは先になるかも!」


「…良し!分かった!直ぐに準備にかかる。」

「ちょっと!何処に行くのよ!?」



「決まっているだろう!いつ帰ってくるか分からない仲間を待っていられない!こちらから迎えに行く!」


「え!?ちょっと本気??」


「ついて来たくなければ着いてこなくてもいい!だか我々は明日か明後日にでも出発する!」



 ハックは大慌てで走って行く。



「おーい!明日なったらまた錬金術工房に来るのだ!いいか!!」



 1度振り返り、大声で叫ぶとハックは走り去って行った。





「な、何なのよ、一体…」



 1人残されたリディには何故ハックが慌てていたのか理解出来なかった。



第109話 END

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