NPC勇者〇〇はどうしても世界をDeBugしたい。みたい!?
第102話 #2 『見よ、勇者は帰る』
「今回については第5回賢人会議を兼ねて我々の全メンバーでの初冒険祝勝会も兼ねているので、皆大いに食べて飲んで旅の疲れを癒してくれ!!」
「って言っても、大魔道飯店でお昼に沢山ご飯食べたしそんなにそこまでお腹減ってないんだけど…」
「まぁまぁタリエル文句言うなって!せっかくハックが準備してくれたんだからさ。それじゃ乾杯しようか?」
「ふがっ!もうモグモグふってるゴクン!」
「アンジェラさん…口の中の物飲み込んでから喋りましょう…ってか!もうかなり食べてるし!!」
「しょうがない奴だな戦士アンジェラよ。こういう時はチームリーダーからの言葉があってから飲み食い始めるものだぞ!」
「いいよこれがウチららしいって!それじゃ!カンパーイ!!」
「あらあら勇者君、まだ誰も飲み物用意してないわよ?うふふ」
毎度の事ながらごちゃごちゃした空気のまま賢人会議は始まった。
─ ─ ─
夕食も進み、少し酒も嗜んだ所でハックが切り出す。
「さて、今日の議題についてだが話したいのは我々の今後についてだ。今回の冒険でそれぞれ思う所があったと思う。」
「あれ?今後って王都に向かうんだろ?」
「それなのだが…勇者殿、いや皆!私は王都に行くならば本拠地を王都に移籍するべきだと考える!!」
「「「なにぃ!?」」」
「ファステの街やここら一帯は、大陸から考えるとかなり外れの方の地域である。我々が今後活動するに当たってここを本拠地とすると色々と弊害が生まれてしまうのだ」
「うん。一理あるね。」
「確かに…大陸の中心部にある王都なら大陸中を見て回るには都合が良い。」
アンジェラとカルガモットはハックの意見に賛成した。
「でも…ハック導師。それだとこの街に住んでる人は引越しをしなければならないと言う事ですよね?皆さん大丈夫なんですか??」
元々この街に住んでいたメンバーは顔をしかめる。確かにいきなり引っ越すと言われてもすぐには決断出来ない内容だ。
「そうなのだヤンド殿。だからこそ皆に聞きたい。このまま勇者殿の冒険に着いて来れるのかどうかを。」
「「「う〜〜ん…」」」
皆無言になってしまった。
「あ、ちょっと先に言わせてもらうけど…」
勇者が立ち上がって皆の顔を見渡す。
「これは強制なんかじゃないって事を強く言っておきたい。あくまで大陸を冒険して回りたいってのは俺のワガママだ。しかも俺だっていつ現実世界に帰れるようになるか分からないし、具体的な日数や将来的な事なんて全くの不確定要素だからね。だから、個人の生活まで圧迫してしまうような事を強制したくは無いんだ。…まぁ、個人的にはこのベストメンバーで冒険出来たら楽しいな〜とは思うけどさ。」
「「「勇者(君、殿、さん)…」」」
ハックも立ち上がる。
「今すぐに回答出来ない事を聞いているのは百も承知だ。だからこそ、この先には必ずと言っていい程にある程度の『別れ』はあると思ってくれたまえ。」
「「「はぁ〜〜〜」」」ドンヨリ
皆は大きくため息を着いた。それぞれの顔を見合わせ、何か言おうとする度に口を紡ぐ。
その沈黙を打ち破るように、決心した顔のサイカとマリーナが話し始める。
「あの、いいかしら?」
「私たち、今日のお昼の後にウチのお店を手伝いながらパパと3人で話し合ったんですけど…」
「ほぅ!どうなったのだ?サイカ殿にマリーナ嬢?」
「うん、結論から言わせてもらうけど、少しお暇を頂きたいのよ。」
「「「お暇??」」」
「私が昔所属していた『料理冒険団』の係累が今回の冒険で解決しました。だから、その報告を里に帰って主人のお墓の前でしたいんです。」
そう言ってサイカは亡くなったシゲアキさんの遺影を取り出す。
「うん、確かにそれはとても重要な事だな!」
勇者はその話に頷く。
「そこでなんですけど…マリーナちゃんも里に連れて行きたいんです。」
「シゲアキさんのお墓にはずっと前から行こう行こうとしてたんですよ。でもパパがまだ私は幼いからって止められてたんですよね。…今日のお昼に話し合った時にはパパはそれを許してくれたんです。」
「そこで…ただ里に連れて行くだけでは勿体ないので、マリーナちゃんにはシノビの里で修行してもらおうと考えています。」
「……成程。考えたな女忍者サイカ。最低限の戦闘能力を身に付けて給仕係を冒険者に仕立てる訳か。」
「さっすがカモ君、話が早くて助かるわぁ〜!」
「「「ほぇぇ〜!」」」
皆はその話を聞いてウンウンと頷いた。
そして、意を決した顔をしてヤンドが立ち上がる。
「じ、自分も良いでしょうかっ!?」
「お、オイオイ落ち着けヤンド!立ち上がらなくてもいいよ。」
勇者に諭されてヤンドと他に立っていた者も1度席に着いた。
「今回のカッポンでの闘技場で、自分は『怒り』や『負の感情』に流されて自らの呪いの力を使ってしまいました。正直言ってこれはモンクの修行僧として恥ずかしい行為です。なので…出来ればですが…その……」
「いいよヤンド。落ち着いてゆっくり言ってみて。」
「ありがとうございます!!リーダー、自分も寺院に帰ってメンタル面の強化を図りたいのです。これ以上皆さんに迷惑をお掛けしない為にも!です!!」
「うん、なるほどなぁ。言ってくれてありがとう、ヤンド!」
「は、ハイ!!」ビシッ
「ニセ勇者よ。私からもいいか?」
「ああ、カルガモット。言ってくれ。」
「我が弟であり現ファステ領領主のダスキドに会って、前領主の父上から受け継いだ負の遺産について話会いたいのだ。カッポンについてはミンギンジャン店長の悪評を上手く使いファステの街に影響が出ないように折衷を測っていたのだろうが、まだまだファステ領には秘密や裏があるかもしれない。それらを全て知った上で公平な判断を示し、ファステ領へのさらなる発展への構想を我々兄弟が話し合う必要があるのでな。これは元領主としての義務だ。まずはこれを解決しなければ貴様に協力が出来ない。」
「うん…うん、分かった。」
「あの、私からも良いですか?」
「お…タリエル。改まって言うって事は…そうだよな。お前は鑑定局員に戻ったばかりだし、それを投げ出す必要なんて「違うの!」」
勇者の言葉を断ち切ってタリエルは話始めた。
「今回の冒険で私たちが見つけた『レデュオン』についてなんだけど、1度王都に戻って鑑定局本部に報告を上げなきゃならないと私は思うの。何百年も見つからなかった伝説の武器が存在した訳だし、そのアイテムデータだけでも書類にまとめて本にする必要があるわ。」
「あー、でもそれって危なくないか?それを読んで探し出す奴が現れるだろ?」
「だからよ!…私が公式に鑑定局としての報告書を作るのよ。地殻変動によって火山の底のマグマに落ちてレデュオンは『消失』したって」
「「「その手があったか!!」」」
「あの武器は存在だけで大陸中を戦争に巻き込むわ。だからその存在はもう無くなりましたって『答え』さえあればその存在にすがろうとする輩も出てこない。…もうサイカの旦那さんみたいに、巻き込まれて亡くなる人を増やさない為にも必要な事なのよ!!」ダンッ
タリエルは涙を浮かべて立ち上がった。
「タリエルちゃん、ありがとう。」
「つまりタリエルよ。ソナタは王都に行く事に賛成と言う訳だな?」
「うん!でもちょっと時間がかかるわ。私の変わりにここの支店を担当する人が見つかって、そこから支店長交代業務をして…そこから本部勤務への転向要望が通れば私も王都に行ける!だから少し時間を頂戴!!お願い!!」
「分かった!タリエルのやろうとしている事はとても大事な事だし、今すぐに急いで王都に行く訳じゃないから大丈夫だよ。」
「マルたん。ありがとう」ギュッ
涙を堪えながらタリエルは勇者に抱きついた。いつもなら勇者も嫌がって突き放すところだが、今回は優しくタリエルの頭を撫でた。
「あー、じゃあ私からもいいか?」
「アンジェラ殿も何かあるのか?」
「ん。ちょっと喫茶店での仕事をちゃんとしたい。」
「「「え??」」」
アンジェラは喫茶店『スケアガーゴイル』で数日バイトを経験していたのだ。何故かそれを続けると言い出したアンジェラ。
「何日か冒険に出て分かった。料理出来る人はもっと多い方がいい。私は戦士だけど、戦闘以外でも役に立つスキルを補いたい。」
「それが…喫茶店?」
「そう。マスターの入れるお茶にはMP回復効果のあるものがある。戦っていない場面ではそう言った薬剤調合だったり、軽食程度なら作れるスキルがあればもっと私は活躍出来る。普通の戦士から、オールマイティな『普通の冒険者』にならなければならない!」フンスッ
「「「おぉ〜〜!!」」」パチパチパチ
アンジェラは鼻息荒く言い放つ。皆はその姿勢に拍手を送る。
「すげぇ!!アンジェラがまともな事言ってるの初めて見た!!」
「……ん?おいユーシャ!どういう事だそれは!?」グイッ
「いてて!やめろって俺が悪かった!!」
「ふん!!」パッ
勇者はアンジェラに首を締められた。
ハックは皆が腹の中に溜め込んで置いた事が吐き出せて良かったと笑顔になる。
「そうか…皆気持ちを決めたのだな?」
「「「あぁ!!」」」
とても爽やかな笑顔で答えるパーティーメンバー達。
「…と、言う事だ。勇者殿、済まないが…」
「あぁ、いいよ分かってるってハック。」
勇者は皆の顔をもう一度見渡して、決断する。
「パーティーを1度、『解散』しよう。」
第102話 END
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