NPC勇者〇〇はどうしても世界をDeBugしたい。みたい!?

激しく補助席希望

第92話 #22『娯楽と堕落の街カッポン』



 タリエルが、べソをかきながらリングより帰ってくる。

「あー、これは俺から説明するよ。」

 何が何だか分からない皆は、とりあえず重苦しい空気だけを感じ取って勇者の言葉を待つ。



「タリエルが…鑑定局員クビになって、ヤンドの所に隠れてた1件があるだろ?…あれは俺のせいなんだ。」

「そう言えば、タリエルさんの不正取引がどうのって話ありましたね!」

「アレは…俺が『コイツ』を値引きさせたからなんだ。」

 そう言って勇者はハーフプレートを撫でる。

「「「え??」」」


「俺がイタズラ半分でデバック能力を使って、タリエルに『値引き』させた。…ミスリルのハーフプレートを100ゴールドに。」



「「「…えぇぇえええ!?」」」


 皆の驚きようは凄かった。タリエルから値引きさせたという点もあるが、超が付く高額アイテムのミスリルに属する、しかも装備するのにランクや職業適正も無く無条件で誰でも装備出来て防御力も上がる一級品を100ゴールドで買った事に。


「その後返品しようとしたんだが、タリエルは自らが決めた事だから絶対に受け取らないとプライドを飲み込んだ。それで今に至るのだが…その後予想外の事が起きた。」

「…あ!それってあの!!」

「アイツらか!あのクソッタレプレイヤー共!!」


「そう。値引きさせた直後にプレイヤーがファステの街に乗り込んできて、あちこちを荒らした。当然鑑定局にもプレイヤーは乗り込んで来て、金品の類を盗んで行った。」


「リーダー…つまり、どういう事ですか!?」

「<危機管理鼠リスキー・マウス>が提案したのは、『ハーフプレート』は直接値切られたのでは無くプレイヤー達に『盗まれた』という被害に変えるというものだ。そしてその現場にいた『冒険者』、つまり俺の事だが、緊急で俺に奪還を依頼した。その後プレイヤー達は捕まって民衆に裁かれたが、その時依頼した冒険者から報酬の代わりに『減額』を要求され、それを承諾せざるを得無かった…って事で良いんだよな?」


「………はい、そう…です。」


 タリエルはいつもより更に小さくなっていた。

「「「………なるほどぉ〜」」」


 続けてハックが語る。

「盗んだ張本人は既に裁きを受け、なおかつその奪還を手伝った者にアイテムは買われた。…その事実改変があのリコという者が提示した第2回戦を1Gで負けてもらう条件だったのだ。だから私は勇者殿にタリエルの負けを認めてくれるよう頼んだ。そうすれば、タリエルは負ける代わりに鑑定局員の地位という自らの尊厳を取り戻せるからだ。」


「ごめん…なさい……」グズッ

 タリエルはまた泣き出した。




 そのタリエルの頭を、クシャクシャと勇者は乱雑に撫でる。

「ふぇ!?…マルたん。」

「いいから笑ってろ!最後に勝てばそれで良いんだから!な?」

「ありがとう…」ズルッ

「あぁ、もうほら鼻かめって!」



「しかし…腑に落ちない点がある。」


 ハックは腕を組み考え込む姿勢を取る。


「あの者…リコは一体今回の賭けで何を得られたのだ??」

「俺もそこは不思議に思った。代打ちとは言え、カシリアはリコに責任を取らせないと約束していた。勝負をマルっと投げ出して、適当に負けていてもある程度の報酬は貰えたはず。今回の勝ちに何が隠れているんだ??」



「「「う〜ん…」」」


 勇者達は頭を悩ませたが、答えは出て来なかった。









「クックック!ありがとよ代打ちさん。見事勝ってくれたねぇ!!」

「…別に、あなた方の為ではない。」

「わかってるよぉ!ほら、例の物だよっ!」ジャラッ


 カシリアはカジノコインが沢山入った袋をリコに差し出した。

「奥で換金してきておくれ。そうすれば正真正銘これはアンタが勝ち得たカネになる。私達の間には金銭のやり取りはないって事さ。」


「………。」パシッ

 リコはその袋を受け取ると、中身を確認した。


「…では、私はこれで失礼する。」

「ちょっと待っておくれ!」




「…なんだ?まだ用か??」


「折角の店長の座を自ら手放しちまったんだろ??アレで良かったのかい??」


「…ぷっ」

 リコは吹き出した。


「こんな辺境の王都から最も離れた様な地に派遣されて、調べ物ひとつしたらそのまま常駐員として残ってくれだと。馬鹿馬鹿しい。…奴が店長に戻って『最も徳をした』のは他でも無くこの私だ。…まぁ、奴がこの事に気付くかは些か不安はあったものの、『最も大きな可能性』を見い出せればこんな事簡単に想定出来る。やはり統計は嘘を付かないものなのだよ。アッハッハ!!」



 そう言ってリコは帰って行った。

 王都に戻る格好のチャンスと、通常の10倍の報酬と、<現金の亡者キャッシュ・グール>を賭けで負けさせたという実績を得て。








「さぁ!第1回戦は挑戦者チームの勝ちとなりましたが、第2回戦は我等がグロットン一家の勝ちとなりました!続いての第3回戦は一体どうなる事でしょうか!?」



 会場アナウンスの盛り上げの努力で、第2回戦の静だった空気は一変してきた。


「おい!!」

 リング脇で勇者が大声を出す。観客の注目がこの破天荒な挑戦者達に集まる。


「3回戦目は大将戦と行こうじゃないか!!お互いのリーダーが意地を賭けてぶつかり合うのも悪くねーだろう?」



ウォォォオオオォ

パチパチパチパチ


 その提案に歓声が湧いた。

「…いいだろう。私だってこの地位を築く為に数々の『問題』を解消してきたんだ。舐めてもらっちゃグロットンの名が泣くってもんさ!!」


 先程の勝利に気を良くしたのか、カシリアは勇者の申し出に快諾した。


「姉貴、次は何の勝負にするんで?」

「そうさねぇ。大将戦に相応しいのは…」

「ちょっと待て」


「「…あぁん?」」

「2回とも試合内容決めたんだろ??最後ぐらいウチらに決めさせろや。」

「「………はぁ?」」

「は?じゃねーだろ。普通に考えてそうだ。最初は闘技場の格闘ルールをこっちの意見も聞かずに勝手に進めた。次に2回戦目は今度急にルールを変えてギャンブル戦にした。しかもそれをこっちは認めたってのにお前ら…グロットンってのは相手のグランドじゃ戦えない様な腰抜けが名乗る名前なのか??」

「「な!なんだ「そーだそーだぁ!!」」」


 その野次は、観客席から飛んできた。


「俺達は闘技場の賭けを見に来たんだぞ!!」
「さっきからルール変更ばかりで卑怯だ!正々堂々と戦えよ!」
「いい加減グロットン共はフェアに試合をやれー!!」


 普段からグロットン一家はあの手この手の卑怯な手口を使って賭け試合を開いていたのだろう。あちこちからは不満を訴える声が聞こえてきた。

「おだまりッ!!そんなに言うならやってやろうじゃないのよ!!さっさと席に着きな!!」ドカッ

 そう言って怒りを顕にしながらカシリア・グロットンはリングに上がり、先程の勝負で使われたテーブルに座った。


「ヒュウゥ!!」「いいぞぉ!!」

 カシリアが素直な姿勢を見せることでごく1部から歓声が上がる。

「…よし、これでいい。」

「マルたん!」

「おう、任せとけ!!お前の分もしっかり勝ってくるからな!」

「頼んだぞ!!勇者殿!」

「ところでユーシャ、何で勝負するの?」

「まぁ…見てからのお楽しみって事で」ニヤニヤ

「「「???」」」ポカーン

 勇者は仲間達に勝負内容を告げずにリングに上がって行った。




─ ─ ─


「で?随分勿体ぶるけど何で勝負するのさ?腕っ節だってアンタには負けないぐらいの自信はあるぞ?」


「ふっふっふ…そんな勝負じゃナンセンスだ。ここは大人同士で、スマートな戦いをしようぜ?カシリアさんよ。」


 勇者は後ろに振り返り、手を振ってバーテンダーを呼ぶ。


「おーい!!ここで1番度数の高い酒持ってきてくれー!!」



 しばらくすると、バーテンダーは木箱に入った酒の瓶を持ってくる。何やら封印もされている様だ。


「この店で1番アルコール度数が高いのは、この『グラマツィングラ』にございます。強烈な覚醒作用のある薬草、『グラム草』しか食べない草食系のバジリスクの雛をそのまま1匹丸ごと蒸留酒に漬けたもので、度数は62度になります。」

「「「おおぉ!!」」」



 観客が一気にどよめいた。それ程有名で名の知れた酒なのだろう。


「これをどうするんだい?まさか飲み比べなんてやるんじゃないだろうねぇ??」



「…そのまさかだよ。ルールは簡単、どちらかが酔い潰れて飲めなくなるまでやる。ただし、ただ飲み比べやってもつまらんからなぁ。」

「それで?」

「…酒を飲みながら、『相手に本気で惚れた方が負け』これでどうだ??」





「……………ぷっ」



「「「どわ〜はっはっは!!!」」」


 会場中に爆笑の渦が巻き起こった。



「まさかこの土壇場でそんな馬鹿な事言い出す奴も居たもんだねぇ!いいさ気に入ったよ。やろうじゃないか」


「…ならバーテンダーさん、酒をついでくれ。ロックで頼む。」


「かしこまりました。」



「「「あーあ。」」」ニヤニヤ




 結末の見えている勇者チームは、笑いが止まらなかった。



第92話 END

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