NPC勇者〇〇はどうしても世界をDeBugしたい。みたい!?

激しく補助席希望

第85話B 『サイカ先生の隠密講座』




タッチ争奪戦:ルール説明

4:4に別れて試合

・相手に気付かれ無いように忍び寄り、相手にタッチ出来たらその人はアウト

・敵のリーダーにタッチ出来たら勝利、もしくは敵の全滅

・武器、装備、アイテム、魔法、スキルの使用は禁止

・タッチされた者はその場で30秒大きな声でカウントし、それから馬車に戻る。復活無し

・…「タッチ」については身体であれば何処でも「可」




「それじゃあ…タッチ争奪戦開始〜!!」

 5分間の潜入タイムが終わり、サイカの掛け声で一斉に始まった。

 辺り1面はしんと静まり帰っている。

(良し…少しづつ前進だ!)

 勇者はゆっくりと動いて進んでいく。ある程度の月明かりはあるので、迂闊に何も無い所を進む訳には行かない。小さな薮や立木を利用し、激しい動きをしない様に慎重に足を進める。



ガサッ

(!?)

 すぐ近くで物音がして、足を止める。


(…なんだ?風か?それとも小動物か??)

 特に何も感じなかったのでまたゆっくりと前進し始める。

 しかしこの時点で勇者は狙われて居たのだ。


(うっふっふー!丸見えだよマルたん!!後ろからタッチしてあげるからねぇ〜)

 勇者に気付かれない様にタリエルが後ろから忍び寄っていた。



 一方その頃ハックは…


(おや?…体型的にアレはマリーナ嬢か??)

 前方に人影を見つけ、注意深く観察する。

(この場合は下手に動かない方が得策だろう。しばらく様子を見るか。)

 マリーナは1人でキョロキョロとしている。暗闇の中で慣れない一人行動なので不安がっているのだろうか。

(移動し始めたらやり過ごして敵の大将首を狙うとし…おや?)


 マリーナはこちらを向いた。

(まずい!近すぎてバレてしまったか!?)ゴモッ


 ハックは口に手を当て呼吸音を殺した。マリーナは真っ直ぐこちらに近付いてくる。

(どうなんだ!?バレているのかいないのか…この距離では下手に動けぬ!)


 ハックは地べたに寝転がって姿勢を低くした。

(くっ!南無三!!)

「…あの、誰か居ますか?!」


 マリーナは声を掛ける。ハックは微動打にしない。

「………良かった、誰も居ない。さっきからずっとトイレ我慢してたんだけど…そこの茂みでしちゃおっと。」

(なッ!?!?)ドキィ

 マリーナの「とんでも」発言でハックの心臓は大きく跳ね上がった。どうしようかとたじろいでいるとあっという間にハックの側まで来てしまった。

「一応最後の確認して…良し!」

 マリーナは衣服をゴソゴソし出した。

(止めろ!マリーナ嬢!!!頼むから止めてくれ!!!)

 ハックは常に真っ黒な衣装を着ている。しかもダークエルフ種であるハックの肌は暗い色の青だ。闇夜に溶け込み周囲の茂みと完全に同化してしまっている。


(ぐっ!うわぁぁ!!!)

 愛弟子のとんでもない行為に、このままゲームを続けるかそれとも彼女の尊厳を守るべきか悩むハック!




 ─そしてさらにその時、カルガモットは…


 一応、隠密行動について昔訓練した事のあるカルガモットは、比較的素早く行動していた。そこに…


「………カモ領主」


 木の生えていない、ちょっとした空間のど真ん中にアンジェラが1人立ち尽くしていた。カルガモットに気付いた様で、名前を呼んでいる。


「…そんな所で堂々と、何をしている?」


「アンタに用があったんだよ。」

 スタスタとアンジェラは近付いてくる。

「…用だと?一体何用だ?」


 近付いてきたアンジェラはニコッと笑っていた。そして…

 本気も本気の全力手刀を顔面に放った。

「うぉ!貴様!!」

「…タッチしたら、勝ちだ」

「クッ!フハハ!!そうか分かった、乗ろう。」

 カルガモットは剣と鎧を外した。

「訓練の趣旨とは違ってしまうが…素手で1発入れた方が勝ち。…それでいいな?」

「あぁ、頼む」


「行くぞ!ハァァ!!」ザシュッ

「ふんッ!」スッ


 突拍子も無く2人で素手のバトルを始めてしまったのだ。






 忍び寄るタリエル、勇者はそれに全く気付いていない。

(うっふっふ!マルたん覚悟!)


「タァーッチ!!」ニギッ

「うお!」ビクゥ

「どぉーだマルたん!隠密スキルなら私の勝ちだよ〜!って、何コレ?」ニギニギ

 暗いまま飛び込んだので良く分からなかったが、タリエルはどうやら勇者の股間の辺りをマントの上から触ると言うより握っていた。



「何!?このまーるくてぶっとくて固い感触…ひゃえ!?!?」ニギニギ


「…ばかやろう。それは俺の『けいぼう』さんだ」ギュム


 タリエルの顔面を、ムンズと掴む勇者。


「え!?え!?コレって!?!?」

「だから警棒だってそれ!ほら!!」パラッ

 マントを捲る勇者。…確かにタリエルはマントの上から勇者が作ったけいぼう+20を握り締めていた。

「…ルールは相手の身体にタッチ、だったよな?お前が掴んだのは俺の装備だ。だから俺の勝ちだよ。」


「くやしいぃ〜〜!!」ジタバタ

「ほれ、さっさとカウント取りな!」

「全く…乙女になんてもの握らせるのよ!」

「てめぇが勝手に飛びかかって握って来たんだろうが!!」


「ちぇ〜!分かったよ!えーっと…いーち!」

バゴォォォン!!


「「なんだ!?」」


 タリエルがカウントを始めるのと同時に、とてつもない轟音が鳴り響いた。



─ ─ ─

バゴォォォン!!


「きゃ!?」「うわっ!!」



 マリーナがしゃがんで『お花を詰む』直前に、轟音が響き渡る。


 思わずその音に驚き声を出す『二人』。


「「……え?」」


 ハックは「しまった!」という顔をしている。マリーナはそのハックからわずか1メートルも離れて居ないような所にしゃがんでいた。


「き!きゃぁぁぁああ!!変態!!」

「うわぁぁぁ待て待て誤解だマリーナ嬢!!」

「ふぇっ!?ハック先生!?」

「私が先にここに隠れて居たのだ!君が近付いて来て身動きが取れなくて…なんでもいいから早く隠してくれ!!」


「なんでもっと早く言ってくれなかったんですか!?サイテーです!!」

「すまん!本当にすまんマリーナ嬢!まさか、急に用を足すとは思っても見なかったんだ!!何も見てないから!!嘘じゃ無い!!」


「ま、まだ用なんて足してません私!!!!」


「とりあえず今怒るところはそこじゃないだろ!?」


ドゴォォン!!


「うわ!」「きゃあ!?」


「と、とにかく私はあの音を調べるから!その隙に用を足してくれ!」ダッ



「ハック先生のスケベ!エッチ!サイテー!!」



 ハックは全速力で逃げて行った。





 ─そしてその轟音の正体はと言うと…


「でやぁぁああ!」バシュッ

「甘いっ!!」バシンッ


ドォン!

 アンジェラの蹴りを寸前の所で躱して受け流し、蹴りは木に直撃した。


「戦士アンジェラよ!先の戦いで大分成長したようだが…まだまだ荒削りだ!素手ですら私に一撃入れることが出来ないなら剣を入れるなど10年は早いぞ!!」

「絶対当てる!当ててみせる!!ハァァ!!」ザンッ


 アンジェラの手刀が空を切り裂く。カルガモットはそれを蝶の様に華麗に避ける。

「ではこちらから行くぞ!フゥア!」ザズンッ

「うあぁ!!」スッ

 カルガモットの強烈な一撃を辛うじて回避するアンジェラ。


 そこへ騒ぎを聞きつけたハック、続いて勇者とタリエルが駆けつける。


「なんだなんだどうした!?」

「何!?なんで戦ってるの!?」

「どうしたんだ二人共!?」

 そこにちょっと遅れてマリーナも来る。

「なんなんですか一体!?」


「どけ!邪魔をするな!!」

「これは我々のプライドをかけた戦いだ!しばらく引っ込んでいろ!」

「「「なんでこんな事になってんだよ…」」」


「行くぞ!カモ領主!」

「来い!アンジェラ!」


「「でりゃああぁぁ!!」」

ヒュッ

パシン!



 2人の放つ全力の一撃。その間にどこからともなくサイカが舞い降りて、2人の一撃を片手で止める。

「おやめなさい!何をしているんですかあなた達!!」

バシーン!
ビターン!


 二人共サイカからビンタを食らう。

(((うわぁ!痛そ〜)))

「遊ぶのもいいけど少々度が過ぎますよ!めっ!!」

「「…はーい」」しゅん

 アンジェラとカルガモットは叱られてしゅんとなった。さしずめ我が子を叱る母親の様だった。

「まったく…目を離すとすぐこうなんですから!次にこんな事したら晩御飯抜きにしますからね!」


 アンジェラとカルガモットはペコペコと頭を下げる。

「「へへーん!いい気味だぜぇ!」」

 その姿を勇者とタリエルが後ろからはやし立てる。

「コラ!怒られている人を馬鹿にするんじゃありません!」

「「は、はーい。サイカ母さん…」」

「全く…勇者殿達にも困ったものだ。」

「ですよね!……あ」

 ハックとマリーナが相槌を打つも、二人共目があって何やら気まずそうにしていた。

「ん??なんだ?…ははぁ、さては『暗闇』でなんかあったな??」


「「な、なんでもないです!!」」

 焦ったように言葉を合わせる2人を見て、怪しむ一同だった。










プ〜ン…

「うわ!また蚊だ…ここ蚊が多いなぁ…」

 ヤンドは1人真っ暗な森の中で立ち尽くしていた。


「試合…どうなったんだろう…誰も狙いに来ないのはそれはそれで寂しいなぁ…あぁ、サイカさんにタッチしたかった………」



 ヤンドはその後3時間程そのまま放置され、すっかり忘れていた皆に後で回収されましたとさ。めでたしめでたし。



第85話 END

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