NPC勇者〇〇はどうしても世界をDeBugしたい。みたい!?

激しく補助席希望

第78話 #2『レデュオン』と『ゴータリング』


─翌朝


「うぁぁ!よく寝たぞぉ!!」


 アンジェラが朝から大きな声を出していた。誰も起きていない時間帯に、1人でストレッチをしている。

「もぅアンジー、何時だとおもってんのよぉ〜」

「起きろ!ほら起きろ皆!」


 何だかやけにハイテンションのアンジェラだった。

 昨日ナユルメツに泥酔の効果を取り除いて貰った後、また直ぐにアンジェラは寝始めた。…案の定、傷を治すのは拒否していたので、自然治癒力を高めるバフだけ掛けてもらっていた。そのせいだろう。

「おい!朝飯を作ったぞ!皆起きろ!!」


 アンジェラは1人で狩りに行き、野ウサギを数羽捕まえてきたのだ。今はそれを丸焼きにして、朝から酒を飲んでそれにかぶりついている。


「んぐんぐ!ごくん!うめぇ!」



「…なんか、あの一戦からよりワイルドになったな?」

「戦士としてのレベルが上がったのだろう。これはこれで良かったのではないか?」

「逞しいなぁ…よし、自分も頂くよアンジェラ!」

 ヤンドは寝袋を素早く畳み、アンジェラの隣で肉に噛み付く。それを見た皆は寝床から起き、アンジェラの用意した食事にありつく。

「全くホント野蛮なんだから!ここには一般ピープルもいるってことを忘れないで欲しいわね!プンプン!」

「…ひと勝負で500万も勝っちゃう一般人ってなんですか?」クスクス

「あ!笑ったわねこのー!!」


「朝から元気ねぇ〜若いっていいわぁ」

 そこに、上半身裸のカルガモットが森の中から帰ってきた。




「なんだ?もう起きていたのか。」

「おいおいこっちのセリフだよ!そんな格好で何処行ってたんだ?」

「あぁ、近くの川で水浴びだ。温泉の源流が流れているのか、それ程冷たくなかったぞ?」

「それは良いけど、カモ君ちゃんと服を着てね。食事中にはしたないわよ」

「これはすまぬサイカよ。」



(ねえ!タリエルさん!)ヒソヒソ

(なによ?マリリーたん?)モシャモシャ

(元領主様って、いい身体してませんか??引き締まってて、それでいてエルフの私ですら妬いちゃうくらいに色白で。)


「ブホォ!エッホエッホ!!」

「きったねぇ!てめぇ何すんだタリエル!!」

「ごめんマルたん!マリリーたんが朝から変な事言うから!!」

 タリエルが肉を盛大に吹きこぼし、それを勇者が真正面で受け止めてしまった。




「元の皆に戻れて良かったですね!」

「あぁ、本当にそう思う。」


 ヤンドとハックはコーヒーを飲んでいた。



─勇者達に訪れた、久しぶりの団らんだった。それは、まるで昨日の事がわずか1日で起きた事とは思えないくらいの激しさであった事を物語っていた。


「おしっ!飯食ったら出発だ!!」



「「「おー!!」」」







 しばらく馬車を進めると、大きな門が見えてきた。

「どうやら、ここが登山道の入口の様だな。」

「お?セーブポイントもある!って事は、ダンジョン扱いなんだな。こりゃ敵も沢山出そうだなぁ。」


「ふぅむ、馬車で行けるのはここまでの様だな。門の所に置いて行こう。」


「え!?馬車置いてくのかよ!荷物は?」

「携行用の食料だけ持って、後は置いて行く。」


「えぇ〜〜!?盗まれないのか??」

「「「え?」」」



 勇者以外の皆はキョトンとした顔をしていた。

「何言ってるの?所有者の名前が入った馬車には他の人はアクセス出来ないよ?」


 勇者はハッとしてしまう。


(いけねぇ、あんまりリアルなんでついゲームの中だって事を忘れちまうな。そりゃ当然か、馬車も『所持品』扱いなんだし。)


「あー、すまん。勘違いだ。」

「変なマルたん〜」

「では、それぞれ荷物の準備をするように。出来次第出発する。」

「「「りょうか〜い!」」」

 ハックの掛け声と共に皆が装備を整え始める。



 勇者はこれと言ってやる事が無かったので、セーブする事にした。


 青色のスフィアに手をかざして起動する。

「マルマルさん。ファステでもたまにそれやってましたけど、何なんですか?」

「え?あぁ、セーブと言ってだな…」

「それプレイヤー専用の端末でしょ?今のNPCのマルたんでもアクセス出来るの??」


 タリエルの質問に、勇者もそう言えばと頭を悩ませる。

「いや、データの保存だから…出来てるハズだ!」

「それをしておくと、どうなるんです?」

「え?いや…それは勿論死んだ時に…」

「マルマルたん死なないじゃん?意味あるの?」

「いやぁ〜でも記録セーブってのはなぁ…」

 自分で説明しておいてどんどん頭に疑問が浮かぶ。


(そう言われて見ればそうなんだよなぁ。ログアウト出来ないんじゃセーブしても意味無いのか?どーなんだ?)

 とは思うものの、長年のゲームの感覚で取り敢えずセーブしてしまう勇者だった。



─ ─ ─ 



「ではこれより山頂にあるとされる温泉の源流に向かって前進する!」


「「「おぉ〜!!」」」

 ハックの掛け声により勇者パーティーは前進し始めた。

「いやぁ〜なんだかんだ言ってフルメンバーの冒険って初めてじゃないか?ワクワクするなぁ〜!!」

「確かに。」

「ふん!ニセ勇者よ。そう浮き足立っていると事故の元だぞ?」

「なーに言ってんだよカルガモット!みんなで協力すればどんな困難だって乗り越えられるさ!」


「マルマルさん。ハッキリ言って私やタリエルさんと大して戦闘力変わらないんですから、皆さんの迷惑にならないようにしましょうね?」

「おいマリーナ!せっかくやる気になってんのに水指すなよ!!」

「確かに、ウチのパーティーは戦闘職と非戦闘職が見事に別れてるからねぇ。」

「えーっと…私(アンジェラ)とヤンド、カモ、サイカが前衛戦闘向きで…」

「後衛には魔術を使える私が向いていると言えよう。」

「で?マリリーたんと美少女鑑定局員(元)が一般ピープル枠で…パーティーの穀潰しがマルたん?」

「はぁ!?穀潰しだと!?」

「だってそーじゃん!マルたんレベル上がってもステータス値がずーっと変わらないんでしょ?」

「うぐっ!」

「しかもそのステータス値が低すぎて魔法が覚えられない。」

「うがぁ!!」

「唯一使えるのは…100ゴールドが無限に使える財布と、鍵抜け能力でしょ?…後はアレか。ハレンチ能力」

「うごぉ!!!」ガクッ


 見事なスリーコンボが勇者に決まる。

「べ!べらぼーめぃちくしょー!俺だってやる時はやるんだよ!!」



「「「ふ〜ん…」」」ジロォ〜


「なんだその目は!お前ら俺の事をそんな風に思ってたんだな!」


「「「べつにぃ〜」」」シラー


「もう怒った!!見てろよ!貴様らただのNPCに解決出来ない様な事が起きたら俺に頼るしか無くなるんだぞ!そうなっても知らんからな!!」



 勇者はプリプリ怒って先に歩いて行ってしまった。


「…うふふ!あんまり意地悪が過ぎましたかね?」

「いや、でも事実。」

「ほらほら!リーダーの悪口ばかり言ってると置いていかれますよ!さぁ行った!!」


 ヤンドが優しく和ませて他のメンバーも勇者の後に着いていく。



…が。





「あれ?マルたん止まってない?」

「おーい!勇者殿!何があった??」


 勇者は振り返って呆然としている。



「どーしたんですか〜!マルマルさーん!」

「勇者くーん!何かあった…ってわぁ!!」


 皆が追い付くとそこはとんでもない光景だった。

「「「は、橋が落ちちゃってる!!」」」


 登山道を少し行くと深い渓谷とその下に川が流れているのだが、そこにかかる細い吊り橋が切れて落ちてしまっていた。


「あちゃ〜〜!こりゃ進めないなぁ。」

「そう言う訳か。」

「どうしたの?カモ領主?」

「(チリードルさんが名前を呼んでくれるのは嬉しいが…)オホン!温泉が名物の街で温泉が枯れたのなら、誰だって原因を究明しようとする筈だ。なのに誰もしなかった。それは『コレ』が原因だからだ。」



「「「なるほどぉ!!」」」



「で、どうする?」




 勇者が皆に問いかける。



「は?マルたんがさっき自分で言ったんだからね!他のキャラに出来ない様な事が起きても俺に頼るなって。ほら出番じゃん。」


「ぐっ!!」


「確かにコレはどうにも出来ない状況だな。」


「ユーシャ、橋をかける能力無いのか?」


「そんなもんあるわけねーだろ!!」



「はーつっかえ」



ビクゥ!



「ねーやっぱマルたんって穀潰しなんじゃ無いのぉ??ねぇ〜??」ニヤニヤ


「ち!ちきしょぉぉ!!」ジタバタ



 悔しがる勇者を見て、一同は大いに笑ったのであった。




第78話 END

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