NPC勇者〇〇はどうしても世界をDeBugしたい。みたい!?

激しく補助席希望

第66話 #8 『娯楽と堕落の街カッポン』


 賭博場の奥にあるトイレまでの通路。そこには不自然に行き止まりになっている箇所があり、案の定、男がスイッチを押すと隠し通路が現れた。中は階段になっており、下へと続いている。



「さあ、こちらへ。」

「「「………。」」」

(もしかしたら、施設のあちこちに隠し通路があるかも知れない。マリーナ達はそこから連れ出されたかも?)ヒソヒソ

(とりあえずは大人しくして、相手の隙を見ようよ!)



 ある程度下ると、見るからに重そうな厳重ロックの扉が現れた。


「1度この扉をくぐると、もう後には引き下がれなくなりますが…それでもよろしいですかね??」

 その男は最早引き下がれない状況であるのに、わざといやらしくそんな事を聞いてきた。

「……はい。」

 ガチャンという、重い音がして扉が開かれた。そこには─




 「ウォォオオォォ!!」ガシャン

「いけぇ!そこだァ!!」
「いいゾもっとやれぇ!!」ドゴン



 上の賭博場とは別の熱気で溢れていた。地下とは思えない程の広さで、部屋の中央には金網で囲まれたライトアップされた場所がある。

 みんなその金網にへばりつくように囲んで、大きな怒号を上げて金網を叩いている。タリエルはしまったと言う表情だ。


「─ようこそ、『地下格闘技場』へ。」







 温泉宿の地下は、かなりの規模の格闘場になっていた。ここでは賭博場よりもさらに危険な違法賭博が繰り広げられていた。

 中にいる人達も、上の賭博場よりもっと凶悪そうな面構えの者達ばかりで、一目で無法者の集団だと言うことが分かる。

「おいおい…とんでもない所に来ちまったな」

「違法な格闘場まで備えているとは…この街はどこまで悪に染まっているのだろうか。」

「…ちょっと、不味い事になったかも。」

「どうしたキャッシュグール?」

「こういう賭けは長くやってないと流れが読めないのよ。試合運びやその選手がどんな人か、最近の調子とか闘い方とかも知らないと…」

「つまり、何がどうなるか分からないって事かい??」

「うーん…ちょっとキツい。」


 賭けに関しては誰よりも熟知しているであろうタリエルがそう言うのだ。かなりの不利な状況に勇者達は改めて何とかしなければと身を構える。

「はい、じゃあ賭けに参加する人の代表者はここに名前を書いてね。」

 先程の男が名簿の様な物を渡してくる。格闘場に入るまでは礼儀正しい対応をしていたのに、今は砕けた感じの態度だ。

「………ほらよ」カキカキ


 雑な字で勇者は名簿に記入した。


「それじゃあ、あっちが控え室だから。順番が来るまでそこで待っててくれや。」

「「「……は?」」」

 男は不吉な事を口走った。

「失礼、今なんと申された??」

「だから『選手控え』はあっちだって!今戦ってる挑戦者が負けたら次の番だ。今のうちからアップでもしとくんだな。」

「おいちょっと待て!賭けには参加するが、挑戦するなんて言ってないぞ!!」

 男は先程勇者が名前を記入した書類を見せる。

「「「あぁっ!!」」」

 そこには『挑戦者名簿』と書かれていた。

「そういう訳だ。あんたらの内、誰が闘うのか知らんがいいファイトをしてくれよ。なんてったって今日はご来賓がいらっしゃるからなぁ!へへへっ!」

 そう言うと男は会場内に消えていった。

「やべぇ!ミスった!スマンみんな!!」

「もーなんで確認しないで名前書いたのよー!!マルたんのバカ!」

「これは…相当不味いな。」

 その時、会場から大きな歓声が上がる。そろそろ決着が着くようだ。

「ま、マジかよ!もう出番か!」

「私!賭け金申し出てくるっ!!」

「待て待てまだ何も決まって無いんだぞ!誰が出るのだ??」

「…その前に、どんな奴が戦ってるか見ないの?」

 皆、それもそうだ。という顔をして金網の張られたリングに近付く。


「ぐおおらぁぁ!!」バシン

「う、うわぁ!」ドタン


 色白でヒョロヒョロの男と、スキンヘッドで上半身にタトゥーの入った大男が一方的な試合を繰り広げていた。


「…なぁ、あの痩せてる方がチャンピオンって事無いよな?」

「絶対無い。」

「それじゃあ、俺らの内誰かがあのハゲマッチョと素手でやり合うのか??」


 みんなの視線が、自然にヤンドに向けられる。


「ちょ!自分はダメですよ!!皆さんも知ってるじゃ無いですか!自分の特性!!」


 ヤンドなら、間違いなく余裕で勝てる。…ただし、間違いなく余裕で相手を殺してしまう。


 <素手の凶戦士ベア・セルク>の能力が発揮される場面であるが、人との試合なのであれば話は別だ。

 「タリエルと細身のハックは無いとして…」

「む!そこであやつと同格に扱われるのは心外だぞ勇者殿!」

「じゃあ、ハックがやるか??」


「………遠慮しておこう。」スッ

「結局逃げんじゃねーかよ!!こうなりゃ死なない俺が出るしか…」

「「「待て!!」」」

「おいおいどうしたんだよ!」

「勇者殿!ここでデバッグ能力を使うのは得策では無い!その存在がここにいる連中にバレたら大陸中に知れ渡るぞ!!」

「リーダーは今回極力表に出ないで下さい!!」

「わ、分かったよ…」ショボン

「………。」ガシャン

 アンジェラが無言で剣を装備から外した。その後は黙々と鎧を脱いでいく。


「あ、アンジェラ殿…」

「ん。大丈夫。」

 鎧を取ってタンクトップのようなインナー姿になると、体操を始めるアンジェラ。

「アンジェラ!あんたに全賭けするから絶対勝ってよ!!」ダッ

「任せろ、キャッシュグール。」

「おいおい待てって!アンジェラ!ホントにあんな大男と闘うつもりか!?」

 そう聞いてきた勇者の胸を、強めに叩いたアンジェラ。

「いっ!」

「私が女だからそんな事を言ってるのか?ユーシャ。だとしたら許さないぞ。」

 アンジェラの目は本気だった。

「私はこのチームの『戦士』だ。1番前で戦うし、その為にここに居る。」

「アンジェラ…」

 そのいきり立ったアンジェラの肩を、後ろから両手で叩くヤンド。

「アンジェラ、君の気持ちは分かる。だから、せめて同じ前衛職としてストレッチの手伝いをさせてくれないか?」




「うん。ありがとう、ヤンド。」

 勝ち目の薄い闘いに行く仲間を、ただ見ているしか出来ない自分に、勇者は腹を立てた。

「くっそぉ!!頼んだぞ!アンジェラ!!お前はこのチームで大事な戦士なんだからな!あんな奴、簡単にのしちまう事ぐらい『普通』にやってもらわなきゃ困るんだぞ!いいな!!」

「…分かってるじゃないか。任せとけ」ニコリ




 その時、またも大歓声がリングから上がった。どうやら決着が付いた様だ。アナウンスがかかる。


「只今の試合、チャンピオン『ゲロッギ』の勝利!これで今日は13勝目!まだまだ余裕のチャンピオンを倒す事が出来る挑戦者はいないのかぁ!?」


 大歓声と共に、大ブーイングも巻き起こる。その横を顎が砕けた挑戦者が担ぎ運ばれて行った。


「おっとここで興行主からの御挨拶!観客の諸君、ステージに注目だァ!!」


 金網があるリングから少し離れた場所に、薄いレースで区切られた場所があった。そのレースの幕が上がると、中からとんでもなく煌びやかで艶かしい服装の女性が現れた。

「うふふ、みんな、滾ってるねぇ。」

 またもや大歓声と大ブーイングの嵐。余程好かれていて嫌われているのだろう。

「一応知らない奴もいると思うから挨拶しとくよ。ここのシマ、この街を仕切ってるカシリア・グロットンだ。今日はみんなに紹介したいお客様がいらしてね。今まで黙り混んでいたけど、どうやら次の賭けに参加するって申し出があったんだ。これを機にアタシの街とカレの街に交流が出来ればと思ってさ。と、言う事で次の試合は親善試合とするよ。みんなもたっぷり金を賭けて楽しんでおくれ。」

 カシリアと名乗る女性、彼女がこの街を仕切っているらしい。とても美しいが、まるでそれは毒を持った生き物が発する攻撃色の様に見えた。

「それじゃあ紹介するよ。かの有名なこの地の領主にして剣の達人、カルガモット・ザゥンネさ。」





「「「………はぁ?」」」




 全くもって予想していない名前が出て、勇者達は素っ頓狂な声を上げてしまう。


「…勘違いしないでほしい、『元』領主だ。今は弟にその座を明け渡している。」

「でも、弟の身に何かあったらアンタが継ぐのだろう?」

「…確かにその通りではある。」

 レースの奥から紹介されて出てきたのは、見間違える事なくカルガモット本人だった。



第66話 END

コメント

コメントを書く

「SF」の人気作品

書籍化作品