NPC勇者〇〇はどうしても世界をDeBugしたい。みたい!?

激しく補助席希望

第63話B 『タリエル先生の賭事講座』





 『テイルドロップ』

 2つのサイコロを使うギャンブルの1種。サイコロの合計値が奇数か偶数かにコインをかける。奇数の事を余計な数で尻尾が出ている(テイル)と表現したのがこのゲームの始まり。

 先にディーラーが器の中にサイコロを入れてテーブルに逆さまに置き、数字の見えない状態で賭けはスタートする。プレイヤーは参加額を支払った後それぞれテイル(奇数)かドロップ(偶数)に賭け金を提示し、全員の意見が出た所で今度は更にそれよりも上に賭け金を上げるかを決める。ただし、金額を引き上げる事は出来るが、提案後には金額を下げたり賭ける側を変えたりは出来ない。

 ただ全員が片側に掛けた場合(ドボン)は最低参加額だけディーラーが取り、その勝負は流れとなる。

 全員の賭け金が決定した後、器が開けられて勝負が決まる。勝った側には賭け金が払い出されるのだが、負けた側の人数の多さによって割るのでその都度金額が変わる。基本は負けた側の賭け金がそのまま使われるのだが、不足分についてはディーラーから貸し出されて支払われる。

 そしてこのゲームの面白い所。それは使うサイコロにある。通常の正六面体のサイコロなのだが、サイコロに振ってある数字は1〜6ではなく、0〜5になっているのだ。





「さーて今日の最強勝利者であるザガル様が最後の賭けに出るぞ!!俺から毟り取りたい奴はかかってきな!!」ダンッ

 ザガルは乱暴に参加賭け金をテーブルの上に叩きつける。このテーブルは最低参加金額は30ゴールド。10ゴールドコインが3枚になる。

 ザガル以外の3人は渋い顔をしながらテーブルにコインを投げ出す。タリエルはこれまた丁寧に3枚を重ね、両手でコインをテーブルに置く。右手の脇には残りのコインが入った小さな袋を置いている。


「それでは、参加者5名でゲームをスタートします。ダイスにご注目下さい。」カラン

 ディーラーは慣れた手つきで金の模様が描かれた黒い器にサイコロを2つ入れる。ここで注目を集めるのは、イカサマや仕掛けが無いかプレイヤーに確認させる為だ。


 カクテルをシェイクする様な手つきで器を子気味よく振り、一瞬でテーブルの上に伏せる。

「…では、札を手に取りテーブルに伏せて下さい。」

 ディーラーの言う札とは、テイル側かドロップ側かで色分けされた札の事である。それぞれのプレイヤーは他から見えない様に1枚選び、手のひらの下に隠してそのままテーブルの上に置く。


「全員の札が揃いましたので、1番のプレイヤーからオープンして下さい。」

 ここで言う1番とは、左側に座っているザガルの事を指している。ザガルはニヤつきながら手を上げて札を公開する。…赤い札、『テイル(奇数)』の札だ。

 それを見て隣りのプレイヤーも手を上げて順に札を公開する。3人共緑の札、『ドロップ(偶数)』だった。

「ヒュウ!まさか最後のゲームがドボンなんてつまらねー結果になるかとヒヤヒヤしたが…コレで勝負は確定だな。おい嬢ちゃん!さっさと札見せな!!」

 ザガルに催促されて、タリエルがゆっくりと手を上げる。







 タリエルの札は、『青い札』だった。




 一瞬の静寂の後に響き渡ったのは、爆笑の嵐だった。何故なら、タリエルが提示したのは『レストアヘッド(頭もない)』。その札が意味するのは合計値が奇数でも偶数でも無い、『両方のサイコロが共にゼロ』に賭けると言う意思表示だからだ。

「ぐひゃひゃひゃしゃしゃ!!おいおいちゃんと賭けのルール聞いてた方が良かったんじゃ無いか!?!?お嬢ちゃん、それは最も確率の低い札だぞ!?」

 ザガルが嘲笑する。他のプレイヤーも、周りで見てる人達ですらもタリエルの札に笑っている。しかし、タリエル本人だけは澄ました顔だ。



「…それでは札が別れた事により、このゲームは成立します。掛け金の提示をどうぞ。」


 ディーラーのその言葉を待ってたかのように、被せ気味で大金の入った大きな袋を2つテーブルに叩きつけるザガル。

 その袋を確認しようとディーラーが手を伸ばすも…

「いいよいいよ!どうせ他の奴らには払えん!何故ならこの袋は隣の3人とさっき降りたアビーから巻き上げた今日の勝ち分だ!ま、俺と勝負したけりゃこれぐらいは出してもらわなきゃ困るねぇ!!!」

 ディーラーは袋に伸ばした手を1度戻す。

「…1番プレイヤー様からの要望がありました。賭け金は確認しないとの事ですがよろしいですか?」

 他の3人はハイハイと言った表情でコインを3枚だけ出す。参加金額と同じ金額を最初に出すと言うのは、これ以上賭けに参加しないと言う意思表示だ。誰であってもどうせ負けるなら手痛いダメージは受けたくない。ザガルの出した何千枚か分からないような金額では勝負出来ないのだ。

「降りる」
「俺も降りる」
「こっちも降りる」

 ザガル以外の3人は早くも勝負を諦めた。

「5番プレイヤー様、賭け金の提示をどうぞ。」

 ディーラーに促されてタリエルが出したのは、右手の横に置いていた小さな袋そのままだ。

 その仕草を見て周りの見物客から「やれやれ」と言ったヤジが飛ぶ。



「…嬢ちゃん。本気か?負けたら俺が掛けた額とおんなじ枚数払わなきゃいけねぇんだぞ??」


「…えぇ、もちろん存じ上げてます。」

 ディーラーに袋の確認をしない事に同意を示し、タリエルは賭けを『続行』した。


「…それでは、ファーストディールが成立しました。各プレイヤーについては更なる引き上げを行って下さい。」

「おい!俺はいいぞ!!」トントン

 ザガルはテーブルの上を2回タップする。それはセカンドディールに何も上乗せで賭けないと言う意思表示だ。

「5番プレイヤー様はどうします?」



 タリエルはゆっくりとした動きで袋の隣に1枚だけコインを出した。


「私はコレで『全部』です。」


「…かしこまりました。」



 2回目の賭け金が決まったタイミングで、タリエルに飲み物が出された。ディーラーからのチップの返しであろう。

「ゆ〜っくり味わいな、嬢ちゃん。恐らくそれが最後に自由に味わえる酒だ。あんたは特別可愛いから、払いきれなかった分は『カラダ』で払って貰うからよォ!へっへっへ!!」

 ザガルは完全に勝った気でいた。何故なら、ザガルが賭けたのはテイル。確率にして18/36。1/2の確率でサイコロの合計値は奇数になるからだ。反対にタリエルが賭けたのはレストアヘッド。1/36と最も低い確率。


 この勝負、どう見てもタリエルが圧倒的に不利だった。


「…セカンドディールが成立しました。これよりダイスオープンです。」


 見物客も諦めムードだ。ほとんどの客が違う話しをしたり、他のテーブルに目を移す。か弱い女の子がボロ負けする所を見たがる特定のモノ好きぐらいしか、この勝負に注目していない。


 ザガルもシラケ切った顔でタバコに火をつけた。



「それでは参ります。この勝負…」



 ディーラーが神妙な顔付きで器に手をかける。




 プパーっと煙を吐き出し、帰り支度を始めるザガル。最後の最後に面白くない勝負になって興醒めだ。酒をもう少し飲んでから仲間と合流しよう。そんな事を考えながら席から立ち上がり、荷物を持ち上げまとめようとすると…







「「「うぉぉぉおおおぉぉ!!!」」」






 とんでもない大絶叫が聞こえて思わず体勢を崩してしまう。ザガルはどこかのテーブルで誰かがジャックポットでも当てたのかと周囲を見渡す。


 だが、周囲にそんな雰囲気は微塵も無い。



 見物客は、まるでエルダーデーモンとダークエンチャントドラゴンと死神貴族デス・ノーブルを一遍に見た、と言う様な表情でこちらを見てくる。

「な、なんだ…?」





「1番プレイヤー様、席にお戻り下さい。掛け金の支払いがまだです。」



「…あ!あぁ!そうだった!自分で掛けてた金を忘れてたよ。うっかりしてた。…で、俺のコインは?」


「…失礼ですが、1番プレイヤー様に受け取って頂くコインはありません。」




「はぁ?何言ってんだ?おいディーラー!!」


「賭博場でディーラーさんに手を出すのは良くないと思うよ?ちゃんと座って結果を聞き直したら?」

 タリエルがニヤっとしている。









 まさか…








 そんなはずは無いとザガルは自分に言い聞かせる。何故なら、負けたコイツがこんなに飄々として居られるわけが無いからだ。じゃあ、勝負はどうなった??








 唾を飲み込み、器をのぞき込むザガル。




 途端に身体中から冷や汗が溢れ出てきた。












 


 サイコロの目は 0:0 













「聴き逃してしまった様なので、もう一度伝えます。この勝負、『レストアヘッド』で5番プレイヤー様の勝利です。」

















 ザガルは、床に倒れ込んだ。






Cパートへ続く→

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