NPC勇者〇〇はどうしても世界をDeBugしたい。みたい!?
第61話 #4 『娯楽と堕落の街カッポン』
「お、見ろアンジェラ、タリエル。ヤンド達帰ってきた!おーい!」
「あ、勇者君達、ちょうどいい所に居たわね。」
「すいません、リーダー。こっちはまともに買い出し出来なかったです。この街、なんでもべらぼうな値段してまして…」
「え!?そーなの??」
「飲水だけでもって思ったんだけど、それですら手持ちのお金よりも高くて…」
「…あちゃ〜、もしかして見かけない冒険者だからって、俺らから根こそぎ金むしり取ろうとしてたかもなぁ。」
「んっふっふー!ヤンドもまだまだねぇ!私なんか逆に値切りして儲けちゃったわよ!」
「え!?ホントかい?タリエルちゃん。」
「うん、キャッシュグールは伊達じゃなかった。」
「今度は私が買い出し付き合ってあげるわよ〜!もちろん、サポート代はもらうけどねぇ!」
「仲間から根こそぎむしり取ろうとすんなよタリエル!…で、なんでマリーナはしょぼくれてるんだ?」
「えーっと…悪い店主に騙されそうになったのを、サイカさんに助けてもらって…その…」
「マリーナちゃん、気にする事は無いって言ったのに…」
「あーそういう事。こっちもとりあえず一通り街の中を見てきたけど、あまりいい成果は無かったよ。」
「いい装備ははあったけど、買うまでの物じゃなかった。」
「ふむ、やはり皆でまとまって行動した方が得策だったかもな。」
「そーいえばカルガモット見た奴いるか??」
「カモ君?こっちでは見かけなかったけど??」
「うーん、まぁでもアイツの事だから上手くやってるかな?それじゃあ…」
勇者は目の前にある温泉宿を見上げる。
「1人足りないけど、行きますか!温泉!」
ここの宿屋は宿泊とは別で、隣にある温泉が利用出来る。もちろん門番が言ってた通りにタダだった。
男性用の脱衣場に付くなり勇者はハイテンションで装備を外し始める。
「しかし、勇者殿がそこまで温泉好きだとは意外だったな。」
「リーダー、凄く嬉しそうですね。」
「んん?何言ってんだおめーらァ??」
勇者は凄みのある笑い顔を浮かべる。こんな時は、大抵良くない事を考えている証拠だ。
「温泉イベントと言ったらぁ…ある種の付き物があんだろうが!グッヘッヘ!」
「まさか…貴様!やろうと言うのでは無いだろうな!?」
「え?え??」
「ウブなヤンドにはちと刺激が強いかもしれんが…そうだ!俺はやる!!」
「ハック導師!リーダーは一体何をなさるつもりで!?」
「決まってんじゃねーかぁ!<秘境への到達>だよ!」
ハックは額に手を当てやれやれと言った表情をしている。
「け…けしからん!けしからんですぞリーダー!!事もあろうにそんな事!!」
勇者はガシッとハックとヤンドの肩を掴む。
「いいかぁ?俺の世界でも、男同士の友情の中に、『裸の付き合い』ってもんがある。」
「「男同士の、友情!?」」ゴクリ
「真に心の通じあった仲間だけが出来る事だ。」
「「真に心の、通じあった仲間!?」」ゴクゴクリ
「そうだ。お互い汗を流し、共に絆を磨いた者達は、仲間として温泉に入る。俺はその絆を深めたくて温泉に行こうとしたんだ。」
「だ、だからって!それと<のぞき>は何も関係性が…」
「知ってるか?『同じ秘密を共有した』奴は、更に絆が深まるって事をよ!」
「「な、なんだってぇ!?」」ガタッ
「俺はこの世界にいつまで居れるか正直な所わからん!だから、お前らとは居れる限り一緒にいて、深められるだけ絆を深めたい!」
「勇者殿!」「リーダー!」
「そんな俺の気持ち…分かってくれるか??」
勇者は目からツツーっと一筋の涙を流す。ソレは男達の心に美しく響いた。
「…仕方ない!勇者殿!気配の消し方は私が教える!!」
「リーダー!今度ばかりは『バック対処専門』なんて嘘、付きませんからね!!」
「お、お前ら…」ポロポロ
3人はしっかりと肩を掴みあった。
「いいか!この場に堅物のカルガモットが居ないのは千載一遇のチャンス!奴がいたら絶対止められたからな!!」
「「おう!」」ガシィ
「俺達は、決してハダカが見たい訳じゃない!友情を深める為にやるのだ!!」
「「応!!」」ガシッ
「いいなぁ!必ず成功させて生きて帰り!俺達は秘密を共にする!男の友情の為に!!」
「「えい!えぇい!おおぉ!!」」バシッ
3人は腰に巻いたタオルがめくれるのも構わずに大きく飛び上がってハイタッチをした。
その時、壁の向こうから小さく女性陣の声が聞こえてきた。
どうやらナユルメツまで出てきて、向こう側でキャッキャウフフと騒いで居るようだ。
「「「このチャンス!逃してなるものか!!」」」
「据え膳食わぬは男の恥!!行くぞ!!」
「「おぉぉおおぉおおぉ!!」」
ある種の怒号の様に、けたたましい雄叫びを上げて勇者達は浴場へ続く扉に手をかける。
「いざ!」
「「勝負!!」」ガララッ
扉を開けると真っ白な湯気が脱衣場まで溢れ出てくる。ここまでのハイテンションでなりふり構って居られない3人は、良く確認もせずに湯船に向かって飛び込んで行った。
「イヤッホォォオウウゥゥ!!」
「クアァアァァア!!」
「うぉぉおおぉぉ!!」
ガギン!!
「「「ぐ!ぐわぁぁぁああ!!」」」
勇者達は間違いなく湯船に飛び込んだ。しかし、そこに発生した効果音は『ザブン!』では無く、『ガギン!』だった。
何故なら、湯船にはほとんどお湯が無く、湯口の近くですら足のくるぶしが隠れるぐらいのお湯しか湧いて無かったのである。
なので、勇者達は全裸のまま全力で岩だらけで底が丸見えの露天風呂に飛び込んで行ったのだ。当然タオル1枚しか巻いてない男3人は足を挫き、岩肌で尻を擦りむき、勢い殺せず転がり込み、肩や背中とあちこちに切り傷を作った。ヤンドに至っては滑って転び頭まで打ち付けていた。
「ぐぁぁ!!痛ってぇ!!なーんでお湯が無いんだ!!」
「うっく!盲点だった…まさか露天風呂にお湯が無いとは思わなかった!いつつ…」
「うぐぐ…頭がぁ…」
その騒音を聞きつけて壁の向こうの女湯から声が掛けられる。
「おーい!マルたん!大丈夫!?」
「マルマルさーん!なんか凄い音がしたけど大丈夫ですかぁ??」
「ユーシャ!最近は全然お湯が湧いて出てこないから湯船には浸かれなんだって!桶に溜めて浴びて終わりらしい!」
「…なんか怪我でもしたのかい?ブレイブハート。あっはっは!」
「「「さ、先に教えてくれよォ〜〜!!」」」
湯船に浸かって疲れを癒す所か、大怪我をしてしまった男性陣3人組だった。
第61話 END
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