NPC勇者〇〇はどうしても世界をDeBugしたい。みたい!?
第59話 #2 『娯楽と堕落の街カッポン』
「門番から大体の情報は聞いたけど…とんでもない所だな。この街は。」
とりあえずはカッポンの街に入る事が出来た勇者一行。しかし街の様子に困惑していた。
完全に夜の歓楽街と化していたカッポン。街の中に居る人々は大体の者がならず者か野盗、賞金稼ぎに傭兵達。後はそこらじゅうに夜の街を彷彿させるきらびやかな衣装を纏った女性達で溢れかえっていた。
「とりあえずだけど、皆アレ持ってるか?前にハックが作って渡した奴!」
「あぁ、あの紋章入りのローブの事か?」
「皆装備の上からアレを羽織ってくれ。」
「なんでこれ付けるの?」
「仲間の人数が多い方がカモられないからだよ。」
「…あぁ〜なるほど〜」
皆は道具袋からローブを出して羽織る。
「な、なんだ皆、私は持ってないぞ!?」
カルガモットだけは持っていなかった。
「しまった!騎士殿の分を用意するのを忘れていたな。ローブさえあれば簡単に出来るからクリエイトデスクに行ったら作るとしよう。」
クリエイトデスクとはいわゆるクリエイトしてアイテムを制作出来るポイントの事である。大体は街の中にセーブポイント、DM通信機と同じで最低1つは設置されている。
「うっくっく!カモ領主は1人でカモにされちゃえ〜」
「タリエルさん、さっきのお姫様ダッコの件、まだ根に持ってるみたいですね…」
「それでリーダー、まずはどこに行きます?」
「とりあえず温泉!…と、行きたい所だけど、まずは最低限必要なアイテム入手から始めよう。後は誰か行きたい所あるか?」
「武器とか装備品見たい!」
「おっけー、アンジェラは装備品ね。」
「自分とサイカさんで旅に必要な資材を見繕ってきます。」
「あ!私もついて行きます!売ってる食材とか気になりますので。」
「りょーかい、ヤンドとサイカ、それにマリーナが買い出しね。」
「私はちょっと街中見てみたいよ。面白そう。」
「私も初めての街なので探索がしてみたい。」
「うーんと…じゃあアンジェラも含めてハックとタリエル、後は俺で街の中を回るか。」
「私はこの街の長に会って話をしに行きたい。」
「うん、じゃあそれで行ってくれ。1人で大丈夫か?」
「…何かあれば、これで自己解決する。」
カルガモットは剣の柄に手を掛ける仕草をする。
「…まぁ、俺達の中で1番強いカルガモットなら心配要らないか。」
「集合場所はどうする?」
「えーっと…温泉に入れる様に、隣にある宿でどうだ?1時間後に待ち合わせで!」
「「「さんせーい」」」
「あ、資金は立て替えといてくれ、後で俺が出すからさ。」
「「「あざーっす!!」」」
「ふむ、いくら危ない街だからと言って急に襲われたりはしないだろうが…何かあった時は直ぐに馬車の荷台まで戻るとしよう。よいな?」
「よし、じゃあ…解散!」
勇者一行は3つに別れて行動をし出した。カルガモットは颯爽と人影の中をかき分けて進んでいく。ヤンド達買い出し班は商業施設の集中している方向へ、勇者達は街の最も栄えている方向へ歩き出した。
その様子を、人混みの後ろから伺う者達が数名。
「…あまり見ない顔だな。」
「付けてみます?」
「いや、あんだけ目立つローブ着てたらすぐ分かるだろ。」
「へい、分かりました。」
「俺は一応、『お頭』の耳に報告入れとく。ただの冒険者がここに来るのなんか久しぶりだからな。もしかしたらたっぷり絞れるかもしれん。」
「うへへ、兄貴も悪い人ですね。」
「…早速目を付けたお前にゃ負けるよ。へへへっ」
以下にも悪そうな2人組は、去り行く勇者達から視線を外した。
「珍しい品ばかり並んでいるな。」
「凄いね、かなり遠くからじゃないと入手出来ないアイテムばっかりだよ。」
「そんなに凄いのか?」
「ユーシャは知らないだろうけど、ここにあるのはファステやザゥンネ領一帯で取れるアイテムじゃない。」
早速、いかにも怪しい雑貨店に入ったのだが、勇者以外の3人は店内に置かれている品々に驚きの声を上げている。
棚に置いてあるクリスタルをタリエルが手に取って見ていると、店主が話しかける。
「お客さん、目が高いねぇ!これらの報酬アイテムは自分で探すよりも買った方が楽な品ばかりさ。それなんかどうだい?アンデットの体内でしか生成されない珍しいクリスタルだよ?お値段たったの78ゴールド!どうかな??」
「36ゴールド」
店主の声にすかさずタリエルが反応した。
「…おやおやお嬢さん、いきなり半額以下の交渉かい?」
「じゃなくて、価値は36ゴールド。だからそれ以下なら買っても良いけど、それ以上出すつもりはない。」
「いやいやお客さん、原価で取引したらウチらの取り分が無くなって…」
「仕入れたのいつ?」
「へぇ?」
「ずっと売れ残ってるでしょ?かなりホコリ被ってるし…見た所、だいぶ売れてないんじゃ無いの?しかもモンスター倒して手に入れたならまだ払う価値有るけど…誰かさんからの追い剥ぎ品なんて事…」
「う、ウチがどう仕入れてるかなんて関係ないだろ!」
「そう、それならいいわ。私もあなたの原価じゃ儲けがない事情なんて関係ないから。」
「な!くっ!!…分かったよ!じゃあ36…」
「今は26ゴールド」
「はぁ!?」
「こっちは『盗品』かもしれないリスクを買うのよ?購入金額からそのリスクを引くのは定石。だから差し引いた分で26ゴールド。」
「なんだとぉ!?」
「それにこの『死霊の残滓』、一体どのくらいの魂が封じ込められてるのかしら?随分前からここに有るなら、薄れてるか、もしくは魂が消えちゃってるかも。」
「そ、そんな事分からんだろ!!」
「確かに、『私』には分からない。コレは錬金術用の合成アイテムで、私は錬金術士じゃない。」
「な、なら!!」
「でもそこに錬金術『師』がいる。」
タリエルは振り返らずにハックの方向を指差す。
「わかる?上級までの魔術を習得してる人よ?なんなら、なんの魂が入っているかここに召喚して呼び出して貰う事だって出来る。…商売としてはそれも良い賭けだと思うわ。だって良質な魂が入っていたら逆に値段は350ゴールドまで跳ね上がるもの。でも、私の仲間の錬金術師に鑑定してもらうんだから、もちろんその手数料も…」
「わかった!わかったーって!!もういい!充分だ!!確かにそいつはしばらく売れてない!26ゴールドにまけとくよ!!」
「…あら、こんな街で商売やってるんだもの、骨の太い人かと思ったけど、残念ね。」ウフッ
タリエルは丁寧に小銭を揃えて26ゴールドをカウンターに置く。
「それじゃ交渉成立ね。ありがと!」
店主と握手をしてアイテムを受け取るとホックホクの笑顔で帰ってくるタリエル。この間わずか2分である。なんの打ち合わせも下調べも無く、飛び込んだ店でいきなり値切りを成功させたのだった。
「「「さ、流石は<現金の亡者>」」」
「えっへっへ〜儲けちゃった〜!!」
交渉中の時に見せた鋭く冷たい表情など消え失せ、ニコニコのご機嫌スマイルフェイスと化している。
「え?あ、あんた…<キャッシュ・グール>なのか!?う、ウチはもう店仕舞いだよ!!!」バタン
勇者達がタリエルを呼んだ声を聞いた途端、店主から店の外に追い出された。看板もCLOSEに替えられてしまう。
「アイテムの事に関してはホント情け容赦ないなぁ。」
「…アレ、125ゴールド。」
「「へ?」」
「魂の鑑定出来ないなんて嘘。中に入ってるの、キングアンデッドコボルドクラスの中級アンデットだよ!めっちゃ得しちゃったぁぁ〜〜!!」
「「う、うわぁ〜〜」」
ニコニコ顔のタリエルを先頭に、勇者達は次の店に向かった。
第59話 END
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