NPC勇者〇〇はどうしても世界をDeBugしたい。みたい!?

激しく補助席希望

第57話 『野営地での休息2』



「結構移動してきたけど、まだまだ時間かかるなぁ」


 あれから4時間程が経過した。流石に少し疲れたという事で馬車を止めて休憩する事にした。今は皆で火を起こして暖を取っている。


「うぅ〜流石に夜だと寒い。」

「ふむ、もっと早く到着するかと思っていたが…これではカッポンに着くのは深夜を過ぎるかもしれんな。」

「え〜!?それじゃあお店とか空いてないかもじゃん!!ご飯も食べれないの!?」

「タリエルちゃん、我慢しましょうねぇ」

 タリエルがヤダヤダとタダを捏ねて、それをサイカがなだめている。

「なんか…サイカがウチに来てからより一層タリエルが子供化したような気がしないか??」

「勇者殿、私もそれは感じていた。前はもっと芯の通った奴だったのだが…」

「実際、タリエルさんって何歳なんですか?」

「うー…む、そう言えば、聞いた事無かった。」

「多分ですけど、意外に見た目より年齢は高いと思いますよ?自分が予想するに多分…15とか?」

「え?ヤンドそれむしろ低すぎじゃないか!?」

「カルガモット殿は?何か知ってるか?」

「ん?何がだ?」

「タリエルの歳!」

「なぁ!?チリードルさん?わ、私は…知らん」

「…前から気になってたんですけど、なんで元領主さまはタリエルさんを苗字で呼ぶんですか?なんか見てるとよそよそしい所もありますし…そう思いません?アンジェラさん。」

「え?うーん。わからん」


((ウチの女の人達は鈍感なのか?あんなの見てたらすぐ気付くだろ普通…))





 駄々を捏ねていたタリエルは、いつの間にかサイカの膝枕で寝息を立てていた。



「サイカって、ほんと皆のお母さんって感じするよな。」

「サイカさんの面倒見の良い所見てると、地元の修道院や兄弟達を思い出しますね。」

「へーヤンドには兄弟が居るのか?」

「いや、ホントの血の繋がった兄弟ではないんですが…モンクの修道院で育った子供達は、皆兄弟として扱われるんですよ。」


「成程、修道院か。さぞかし大人数の兄弟だろうな。」

「ふふふ、やんちゃなのから面倒見の良い奴まで沢山いますよ」





「…みんな、家族がいて兄弟が居るのか…」

 勇者は、ちょっとだけ寂しそうな顔をした。



「勇者殿には、勇者殿の帰りを待ってる人は居ないのか??」


「俺?いや…特に居ないなぁ。」

「リーダーは兄弟居ないんですか?」

「あぁ、一人っ子だ。」

「親は?」

「かなり離れて暮らしてるよ。親が住んでる所は若い人に仕事が無くてね。」

「なるほど、出稼ぎに出ている訳か。」

「いやそういうんじゃないんだけど…説明難しいな。うーん…」






 焚き火を見つめて黙ってしまった勇者。






(おい錬金術師、また何か地雷を踏んでしまったのか私は?聞かなければ良かったか?)

(いや…勇者殿の家族について触れたことは無かったが、多分嫌な事ならあからさまに濁したりするだろう。多分大丈夫なハズだ。)

(マルマルさん、前みたいに悩んでる時の表情してますよ??)

(何々?なんかあったの??)

(アンジェラ、もうちょっと空気読む練習しようか…)






「今は…皆が家族だよ。」





 勇者がボソッと小さな声で呟いた。




「「「え?」」」



「あ、いや、なんでもない。」




 ヤンドが笑顔になって勇者の隣に座る。

「さ、悩みが有るなら相談するのは家族にするのが一番だと思いますよ?リーダー!」

 ヤンドと反対側にハックが座る。

「うむ、年長者として色々なアドバイスが出来るだろうしな。まずは身近な存在に頼る事を覚えるといい。」

「…なんだよ男2人が暑苦しいなぁ」

「じゃあ元同僚の優しいお姉さんが話を聞いて上げますよ?」

「えー?マリーナはお姉さんって感じよりも妹ってイメージだろ!」

「じゃあ私ならどうだ?」

「アンジェラは…えーっと…なんだろう。親戚の人?」

「兄弟姉妹ですらない…のか?」



「「「あっはっはっは!!」」」






「…さて、充分休めたしそろそろ出発するか」

「そうだな勇者殿。行こう」

「はーいタリエルちゃん。そろそろ起きましょうねぇ〜」

「えーまだ眠ーい」

「馬車の中で寝れば良いだろ?タリエル、ほら行くぞ?」

「…抱っこ」



「はぁ?」

「…抱っこして、連れてって」





 ハックがこちらに顔を向けないように吹き出していた。マリーナとヤンドは「いいぞやれやれ」といったジェスチャーをしてくる。



「ね?家族だったら甘えて良いでしょ??」

「てんめぇ…起きて聞いてたのか…」

「お願い、すぐそこまでじゃんか!」




「ったく、しょうがねぇなぁ〜」


 後ろの方から、口笛や囃し立てる声が聞こえる。

「ただし、恥ずかしいから目をつぶってくれ。見つめられると…その…」

「え?…あ、はい…」

 冗談交じりで話したものの、まさか本当にやってくれるとは思ってないタリエルは、かなりドキドキしていた。しかも、いつにもなく勇者の顔は真面目だった。

「目を閉じたか?じゃあ…行くぞ?」

「は、はい!」


 いつにもなくしおらしい声を出して、タリエルは目をギュッと瞑った。すると、腰とお尻の辺りに力強い腕の感触があった後、身体がフワッと中に浮いた。


「うわ、うわわわわ!!」

 目をつぶっていても分かる。コレはお姫様ダッコという奴だ。タリエルの胸が弾む。


「うわぁ〜〜!お姫様ダッコされちゃったぁ!!」

「イエーイいいぞ〜!!」

「ヒューヒュー!!」

 皆が囃し立てるその声を聞いて、ますますタリエルの胸は熱く高鳴る。その火照りを覚ますように、勇者の装備するハーフプレートの冷たい感触が心地良かった。


そのままズンズンと力強く運ばれ、馬車の荷台に降ろされる。


「…あり、がとう。」

「いえいえ、こちらこそ。喜んでもらえて何よりです。『チリードルさん』」







「へ?」パチリ





 あまり人には呼ばれない苗字呼びで、タリエルは夢から覚めた。


 そこにあった顔は、期待していた勇者の顔ではなく、照れ笑いするカルガモットの顔だった。鎧の感触は、勇者の装備していたハーフプレートではなくカルガモットのプレートメイルであった。




「こぉんのぉ!!!お呼びじゃないんだよォォォォ!!!」バゴォン





「ぐぅあぁ!!」ドサッ





 カルガモットがタリエルの本気マジパンチで張り倒される様を見てゲラゲラと笑う勇者とハック。

 そしてそれを離れた所でやれやれといった表情で見つめるマリーナ、ヤンド、サイカ、アンジェラだった。



第57話 END

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