NPC勇者〇〇はどうしても世界をDeBugしたい。みたい!?

激しく補助席希望

第1話B 勇者はどうしても先行プレイをしたい。みたい?


 よくあるファンタジーRPGよろしくの風景が目の前に広がっていた。

 鎧を着て剣を携える屈強な男達、どこの物とも言えない独特な民族衣装に包まれた村人、モンスターに引かれた荷台を先導する行商人。石畳をそのまま壁に使ったような雑な作りの家々、そしていろんな植物と奇妙な鳴き声で空を飛ぶ何かの生き物。そんな雑多の中にいつの間にか壁に背を向けて立っていた。立っていたと言うか、そこに現れたと言うか何というか、出現した。

 だがそれらの景色はゲーマーにとって、なじみの深い光景ばかりであった。


「・・ここ前作にもあった最初の街『ファステ』だよな?体感化するとこんな感じになるのかー。へー。つーか・・ええぇぇー!!オープニングムービーとか前作までのストーリーのおさらいとか登場キャラの紹介とか何もないの!?こんないきなり街から始まるMMOなんてある!?」

「もしかしてムービー作成間に合ってない?そういや開発陣の有能な人がヘッドハンティングされて引き抜かれたとかなんかネットでちらっと見たけど、アレって本当の噂だったのか?」

 とりあえず当たりを見回す。本当にチュートリアルすら始まる気配がない。話しかける人はおろか、近寄ってくるNPCすら居ない。

「ま、マジかよ・・。まぁ、先行テストプレイなんて前作経験者ぐらいしか応募しないだろうし、前作はチュートリアルめっちゃ長くて不評だったもんなぁ。とりあえずコレはコレでよしとするか。ではまず・・」

 初めてのゲームであれ、前作のシステムとそこまで大きく変わってないと見る。なぜならここ最初に訪れる街『ファステ』がそっくりそのまま再現されているからだ。だったらこの通路の先にアレがある。

 そう。DM専用端末が。

「さーて先ずはブルースクリーンで人をびびらせてくれた礼をたっぷりお返し為なくちゃなァ・・この匿名メッセージを送ってよォ!クックック・・・」

 ゲーム「サウザンドオルタナティヴ」ではプレイヤー同士のやり取りにこの端末から短いメッセージを送る事が出来る。通常であれば、視認出来る範囲である限りプレイヤー同士でメッセージを送る事が可能であるが、別クエスト中の味方だったり、先にログインしたフレンドなんかに連絡をする時にはこの端末にならんで順番を待つ必要がある。

 なぜそんな面倒なシステムでメッセージを送るのかと言うと、運営が1通送る度に1G掛かるようにして儲けようとしたとか、苦情メールが殺到し過ぎて数を減らす為に場所を限定したとか所説ある。

 だが逆に一言の苦情に1Gをわざわざお金をかけると言う重みが非常にプレイヤーにウケて、みんな面白くない事があったり、レアドロップが中々落ちなかったり、ボスが強すぎてクリア出来などの苦情(ただのクレーム)をその日その日一日のプレイの終わりに運営ホームへ向け匿名メールとして送るのがハードサウザンドオルタナティヴプレイヤー(強サウタナ民)の日課だった。

 なのでいつもDM専用端末の近くには罵詈雑言を大声で受話器に向かって浴びせるプレイヤーで溢れかえっていた。

「・・おや、今日は静かだなって当たり前か。テストプレイ始まって10分そこらで文句言いに来てるのなんて俺ぐらいのもんだろうしな。しかし考えて見れば初っぱなテストプレイでブルースクリーンが見られるなんて逆についてたのかもなぁ~」

 そう言いつつDM専用端末の受話器に手を伸ばす。そういやこの端末って確か大昔に本当にあった公衆電話って名前の通信設備がモデルらしいんだよな。

「!!しまった、そういや所持金・・・あぁ、良かった、持ってる」

 ここに来るまで装備やステータスを一度も確認してなかったが、初期値として100Gの金貨1枚を持っていた。ここら辺は前作と変わってないなと確認し、財布から取り出し金貨をDM専用端末に入れる。すると残りの金貨がお釣りとして自動的に財布の中に戻ってきた。

「さてさてDMっと・・ん?注意事項??えー『前作での匿名によるメール送信機能は不評だったので、今作からは廃止します』だって!なんだよコレぜってー嘘じゃん!運営必死だなw」

 そんな評価一度だって聞いたことない。ただ単に運営回線がプレイヤーのお悩み相談窓口みたいになってるの嫌がってるだけだろ。ほんと自分達にしか良いように設定しないんだから全く。これでもう一つ苦情の内容が増えたな。

 なんて事を考えながら宛先を運営回線にダイヤルを合せて受話器を耳と口に宛がう。これは口頭で答えた事を自動で文章化しメールに変えて送信する素晴らしいシステムだ。

 音声ガイダンスにしたがって文面を声に出す。

「えーっと・・『ゲーム開始と同時にブルースクリーンになって落ちかけました、メニューも黒い画面で文字化けしてます!もっとちゃんとデバッグした方が良いですよ~』っと。ま、とりあえず一通目はこんなもんで良いでしょ。」

「・・・プレイヤー名:勇者マルマル、カラノ、伝言ヲ、承リマシタ」

 相変わらず機械的な決まり文句が受話器から聞こえてくる。前作でも何千何万と聞いた言葉だ。

「それから・・2通目も宛先同じっと、内容は『対策取ってくれないと安全にゲームが出来ません!一回落ちてから、返信待ちます。』うーむ、良し。」

「・・・プレイヤー名:勇者マルマル、カラノ、伝言ヲ、承リマシタ」

「よーし大体はOKだな。取りあえず一端セーブしてまた立ち上げよっと。それにしてもなんだ?このダサい匿名は、何て言ってた?ゆーしゃ、まる・・??」


 そこまで自分で言って気がついた。さっき注意書きに何て書いてた?匿名は廃止??なんで『廃止』なんて書き方をするんだ?そんなの『偽名』使ったら誰が誰だか分からないじゃないか。でも『匿名は廃止』されたんだ。何故か。それは文句や苦情が多かったから。じゃあ、どうすれば文句や苦情が少なくなる?その為に、何を廃、止・・・  ?

「偽名が使えないんじゃない!そもそも名乗れないんだ、他に別の名前を。なぜなら、『名前の入力を廃止』したからだ!!だから、この『DM専用端末』は言った。俺の・・・」

「・・・『すでに』決定されているプレイヤー名を!!」

 ゆっくりと、恐る恐るポケットからメニューボードを出す。ステータスを表示させる時や近くのプレイヤーと通信するのに使うのがこのアイテムだ。

 10センチぐらい、薄い緑色で金細工のある長方形の板状の真ん中をタッチすると空中にステータス画面が浮かび上がる。ゆーっくり視線を上に上げていく、まさかと思った事が的中しないように、と。


 ステータス画面左の上の隅にはこう書かれていた。


プレイヤー名:勇者〇〇
職業:勇者(デバッグ専用)
職業特性:なし(デバッグ専用)
固有スキル:なし(デバッグ専用)
所持金:100G



 ・・・うかつだった。なぜこんな大事な事を忘れていたんだろう。    
 MMORPGを遊ぶに当たって最も大事な事、『コレ』さえ最初にビシッと決まればその後のゲームライフは安泰、決まらなければ何時間か悩んで中々解決しない『アレ』を・・・!!


「俺、キャラメイク、して、ない・・・のに、何だこのキャラクター・・・」

 あまりに酷いキャラ名でめまいがする。なんだこの低級ステータスは。職業特性なしなんて聞いた事無いぞ!そもそもサウタナに勇者なんて職業ない。なぜならこのゲーム魔王が存在するような設定じゃないからだ。コレってアカウント事消去しないと何回ログインしてもこんな名前に?ああ、あのまま進めるんじゃあ無かった・・・と顔を押さえよろめき後悔していると、さっきメニューボードを出したポケットから何かが落ちた。

 しゃがんで拾ってみる。それは…



 黒い、文字化けしたメニューボード、だった。



第1話 END



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