NPC勇者〇〇はどうしても世界をDeBugしたい。みたい!?

激しく補助席希望

第7話B 勇者はどうしても理解出来ない。みたい?


 数分経って手近に投げつける物もなくなり、タリエルとハックは落ち着きを取り戻したようだ。肩で息を切るハックが勇者に気になった事を切り出す。

「そういえば勇者殿、先程やむにやまれぬ事情でその勇者の力を手に入れたような風に申されたが・・・もしかしてその黒いがそうなのか?」

 心臓が飛び出すかと想った。なんでハックは知ってるんだ?

「おおっと!な、なんの事かなー?」

「先程メニューボードでステータスを確認された時、上着の裾の辺りにチラッと見えた。そしてあやつに恋の魔法とやらを掛けたであろうタイミングで、そこから何か振動するような音を聞いた。出来れば見せてもらいたい」

「え!?何!?マルたんそんな変な物私に使ったの?ちょっと出しなさいよその『乙女キラー』を!」

 ハックは興味の顔で、タリエルは怒りに満ちた顔で迫ってくる。散々迷ったが、何か情報が得られると思って正直に話す事にした。

「実は、俺にも何が何だか分からないんだが・・・これが何か分かる?」

 思い切って二人の前の机の上に出す。文字化けした黒いメニューボードを。

「「・・・これは」」

 二人はしばらくそれを見つめた後、それぞれ店内に置いてある色々な文献を調べ始めた。二人してあーでも無いこーでも無いと独り言を言いながら本を探す。しばらくすると一揃いの書類をかかえて戻ってきた。

「ど、どう?これ?何か分かる?」

 二人は顔を合せ、先ずはタリエルから話し始める。

「えーっと、鑑定局員の立場で色々調べて見たんだけど、端的に言わせてもらうよ。この『アイテム』は、『0G』です。」

「はぁ?なんだそりゃ??」

「やはりそうか、うむ。私の方からも検証したいことがある。少しいいか?」

「え?はぁ、どうぞ」

 そう言うとハックはゆっくりと手のひらを黒いメニューボードに落としていく。指先というより
、手のひら全体を上に乗せるとすぐに手を戻した。

「ふうむ。検証は以上だ。つまりこれが答えになる。」

「え?どういうこと?」

 二人はまた顔を見合わせ、少し困った表情で見つめあい沈黙する。何かを話していいのか迷ってるみたいだった。

「どうしたの?何か分かるの?これの事」

「そう、それが答えよ。私達は『何も分からない』。けど、これは『アイテム』なんだよ」

「なんだよ勿体ぶってそんな事か!」

「違うぞ勇者殿。それがわかったからこそ困惑している」

 訳が分からない、何を言っているんだ二人は。

「まずはわたしから説明するね。鑑定局の仕事は何やってるかわかるマルたん?」

「そんなの、『鑑定』に決まってるだろ。違うのか?」

「そう、鑑定。予めカテゴライズされた属性に従い、それらの価値を分析する。それが鑑定」

 何か引っかかる言い方だな。でも何か重要な事の気がする。

「次に私から説明しよう。勇者殿は私のこれが何かわかるか?」

 そう言うとハックはポーチのポケットから物を出す。『紫色のメニューボード』だ。

「ん?紫色だ!?」

「やはり知らぬか。これはNPC専用のメニューボードだ」

 ハックが今、信じられない言葉を発した。

「勇者殿がこの支局に入ってきた時に、何か違和感を感じなかったのか?我々が随分と人間らしくしていることに。」

「や、一般人属性の人だって話は出来るでしょ!ハックさんの説明じゃ余計こんがらがってきちゃうよ。」

 一呼吸置いてタリエルが語り出す

「つまりこういう事。私は鑑定局員として『大陸』に存在する全てを検索したけれど、これと同じ物を判定する事が出来なかった。でもこれは持ち運び出来る時点でオブジェクトじゃない。では何か?答えは『アイテム』。存在しているはずがないので、価値は最低の1Gもつかない。だから0G。」

「各プレイヤーの所持している物で、この大陸で他者が干渉出来ない物。それは即ち、メニューボード。」

「プレイヤー同士ですらも触れないのにNPCは?モットあり得ないよね?でもハックさんは触れた。ここに間違いなく存在する、接触可能な物。つまり『アイテム』。でもそんな情報は存在しない」

 ぐにゃりと視界も思考もゆがむ.二人はなんでそんな事言ってるんだ?なんでそんな『NPCが知り得ない絶対的』な事を?

「私達がここで仲良くおしゃべり出来るのは、ただのイベントキャラクターじゃない。私達はここがゲームの世界だって理解しているNPCだからだよ」



第7話 END

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