NPC勇者〇〇はどうしても世界をDeBugしたい。みたい!?
第20話B そして勇者はフィールドで詰む。みたい?
 
「これが遺跡ねぇ。地表面が墓地で、中がランダムダンジョン。そういう所は前作と一緒か。」
ゲーム『サウザンドオルタナティブ2』では、フィールドに存在する固有名詞のついた建物以外はランダムダンジョンとなっており、そこに設定されているドロップ率でアイテムが出現する仕組みとなっていた。入手したものについては複数回繰り返すとドロップ率が表示され、何回か挑戦してアイテムを探し、めぼしい物が手に入ったら次のダンジョンを探すのが定石だ。ただドロップ率が低いからと言って必ずしもレアアイテムであるという保証は無い。そこで先人のプレイヤーから情報を入手するのが重要となっていた。
「お、赤いセーブポイント。でも俺リスポーン関係無いし、あんまり有り難みはないな。」
赤い色のセーブポイントは、セーブが出来てもそこではリスポーンしない仕組みとなっている。例えば街でセーブし、ダンジョン前でもう一度セーブしてから全滅になると、街のセーブポイントからのリスポーンとなる。
「ま、とりあえず一旦セーブっと。コボルドの討伐はダンジョンの中?外?」
「どっちでも大丈夫。関係あるのは討伐数だけ」
「なるほどねぇ。じゃあ外で待つ方がいいんだよな?ヤンド。」
ザーッ「凄く助かります!どうしても狭い所だとバック対処が難しくて…」
ヤンドは遺跡前からギリギリ目視出来るぐらいの森林の間にいて、こちらを覗いている。
「なぁ、本当にずーっとそんな感じなのか?」
ザーッ「ハイ、パーティ組むときはいつもこうしてます。」
「そうか…」
ヤンドのこの状態にも困ったものだった。何故頑なに同行するのを拒否するのか、流石にダンジョン内に入ってもこのままだと進行に影響を及ぼしそうだと勇者は考えた。
「ちょっと早いけど、オヤツにしましょうか??」
サイカが満面の笑みでお茶の準備を始める。冒険者内で唯一の一般人であるサイカも、正直言って不安材料の1つであった。
「サイカさーん。そりゃ気持ちは有難いですけど、ダンジョンを目の前にした墓地の真ん中でオヤツはちょっと…」
「適度な栄養補給は冒険者の基本。」
アンジェラは剣を納めて出されたお茶を啜っている。コイツも良く分からん奴だ。
「…いただきます。」
流れに身を任せ、勇者もお茶とクッキーを頂く。苦味のあるお茶の味と甘みの強いクッキーがまた絶妙であった。…ここが墓地の真ん中でなければなお良かっただろう。
「なぁ、アンジェラはどうして冒険者になったんだ?」
「無い。特に」
「えー何かあるだろ?」
「私にはNPCとしての『設定』がほとんどない。バックラウンドも。だから『普通の冒険者で戦士』。これが最も重要。」
「そういう事か…成る程。」
アンジェラが普通である事に強いこだわりを見せていたのはこれが原因なのだろう。それ以上突っ込むのは彼女の為にやめておいた。
「サイカさんは?今は主婦ですけど、昔は冒険者だったんですよね?」
「私は「来たぞ!」」
メニューボードから聞こえたヤンドの声に、3人の間に緊張が走る。サイカは急いで荷物をまとめた。
「アンジェラ!サイカさんを守って!ヤンド、何が来たんだ?」
ザーッ「小さい姿の魔物の群れだ!多分コボルドだろう。だけど、数が多い。そっちに向かってる!」
「一人で無理するなよ!ヤバかったらそのまま隠れてて!」
ザーッ「いやいや、こんな時こそバック対処の見せ所だよ!少しでも減らしとくから、見晴らしの良いところに移動して!視界から外れるからボード通話はこれで切れるよ!」ブツッ
ヤンドとの会話が途切れた後、森が騒がしくなった。多分戦っているのだろう。
「ユーシャ!遺跡の前に移動しよう!あっちの方が広い。」
「わかった!アンジェラ先導して!」
「リョーカイ!」
「あらあら、大変な事になったわねぇ」
「サイカさんも危ないからアンジェラについてって!!」
勇者は腰からこんぼうを引き抜く。人目についても怪しまれないように、控えめの強化がされたこんぼう+3だ。ダンジョン前にアンジェラが到達すると、不意に足を止めた。」
「……?」
「どうした?」
「シッ!…聞こえる?」
「えぇ?」
…オ…ーオォーォォォー…
遠くからモンスターの咆哮のような音が聴こえて来る。
「まずいか?大型っぽい反応じゃないかコレ!」
「わからない、聞いた事無い声だ!」
「ヤンド君大丈夫かしら??」
「くそう、やっぱ一人じゃ無理あるだろ!」
「まてユーシャ!助けに行くな!」
「なんでだよ!?」
「もう囲まれてる。」
「な!?」
近くの茂みを注視する。不規則に低い草花が揺れていた。
「グロロロロ…」
何体か森から姿を表す。それはコボルドではあったが、どうやら様子がおかしい。
「まずい、アンデットコボルドだ!」
「アンデット?神聖系の魔法か武器が必要だな。誰か持ってるか??」
「私は無い!」「ごめんなさい私もないわぁ」
「じゃあ仕方ない、ひたすら叩いて、動かなくなったらヤンドの方に逃げよう!」
アンデットなどの不死属性モンスターは、神聖系のダメージを与えない限り消滅しない。ある程度のダメージを与えても、再び立ち上がってくるのだ。
「ここは墓地だけど、アンデットが出たという話は聞いた事無い!ヤンドも準備してないと思う!」
「おいおい初戦から全滅プレイなんてごめんだぜ!?チャンスを見つけてさっさと引こう!」
近くにいるアンデットコボルドにこんぼうを振り下ろす。ダメージがあってよろけるも、再び襲ってくる。
「うおりゃ!」「サァ!」「えーっと、えい!」
3人で背中あわせになり、近づいてくるものから順に叩いていく。アンジェラは剣で切りつけているが、サイカはフライパンやらオタマやら調理器具でブン殴っていた。
「叩くってよりも、蹴っ飛ばして遠くに押し返そう!その方が効果がありそうだ!」
「ユーシャ、随分戦い慣れてるな!」
「伊達に前作1256時間もプレイしてないよ!そん時の勘さ!!」
「え〜っと、心なしか数増えてませんか〜??」
「ゲェ!?確かに!」
…グオ…オォーォォォーオォー…
「叫び声もどんどん近付いてくる!」
「少しでもいいからヤンドに近付こう!!オラァ!!」ガギッ
「フゥ!ハァッ!!」ズシャ
「えいっ!たぁ!!」ボコォ
背中合わせの3人が森の際に届く距離まで来た時、大木が一本森の中を突っ切って飛んできた。
「ヤベェぞ!ヤンドが危ない!」
「これ以上突っ込むのは無理だ!ウチらまでやられてしまうぞ!」
「コレはちょっとまずいかなぁ?」
「ゴァァアアァアアアァア!!!」
「っっひ!!もう近くだ!くそ!!」ガギッ
「さて!どんなデカブツか楽しみだな。」バシャ
「怪獣相手は遠慮しま〜す!」ボゴン
ふと、急にアンデットコボルドの群れの動きが止まる。どうやら森から聞こえてくる叫び声の方に集中したようだ。
「オイ!チャンスだ!俺たちよりも生命力の強い方に向かってる!距離を取るぞ!」
せっかく後数歩で森の中に入れたが、この数の敵をそのまま無策で引き連れていてもヤンドを助ける事は出来ない。なので勇者達は一旦墓地の中央まで下がった。
「まずは森の中のモンスターを確認しよう。場合によってはこのままダンジョン内に逃げ込む!」
「来るぞ!ユーシャ!」
「グァアァアァァアァ!!!」
樹々の間から飛び出し、ついにそいつは姿を現した。足元まで滴る全身の返り血、大きく鋭く尖った爪、恐ろしいほどに筋肉質で頑丈そうな四肢、闘争心むき出しのキバ、逆上し理性のかけらも感じられない真っ赤な目。全身から溢れ出る殺戮のエネルギー。
どこからどう見ても、まさにそれは『ヤンド本人』に間違いないようだ。
Bパート終了→
「これが遺跡ねぇ。地表面が墓地で、中がランダムダンジョン。そういう所は前作と一緒か。」
ゲーム『サウザンドオルタナティブ2』では、フィールドに存在する固有名詞のついた建物以外はランダムダンジョンとなっており、そこに設定されているドロップ率でアイテムが出現する仕組みとなっていた。入手したものについては複数回繰り返すとドロップ率が表示され、何回か挑戦してアイテムを探し、めぼしい物が手に入ったら次のダンジョンを探すのが定石だ。ただドロップ率が低いからと言って必ずしもレアアイテムであるという保証は無い。そこで先人のプレイヤーから情報を入手するのが重要となっていた。
「お、赤いセーブポイント。でも俺リスポーン関係無いし、あんまり有り難みはないな。」
赤い色のセーブポイントは、セーブが出来てもそこではリスポーンしない仕組みとなっている。例えば街でセーブし、ダンジョン前でもう一度セーブしてから全滅になると、街のセーブポイントからのリスポーンとなる。
「ま、とりあえず一旦セーブっと。コボルドの討伐はダンジョンの中?外?」
「どっちでも大丈夫。関係あるのは討伐数だけ」
「なるほどねぇ。じゃあ外で待つ方がいいんだよな?ヤンド。」
ザーッ「凄く助かります!どうしても狭い所だとバック対処が難しくて…」
ヤンドは遺跡前からギリギリ目視出来るぐらいの森林の間にいて、こちらを覗いている。
「なぁ、本当にずーっとそんな感じなのか?」
ザーッ「ハイ、パーティ組むときはいつもこうしてます。」
「そうか…」
ヤンドのこの状態にも困ったものだった。何故頑なに同行するのを拒否するのか、流石にダンジョン内に入ってもこのままだと進行に影響を及ぼしそうだと勇者は考えた。
「ちょっと早いけど、オヤツにしましょうか??」
サイカが満面の笑みでお茶の準備を始める。冒険者内で唯一の一般人であるサイカも、正直言って不安材料の1つであった。
「サイカさーん。そりゃ気持ちは有難いですけど、ダンジョンを目の前にした墓地の真ん中でオヤツはちょっと…」
「適度な栄養補給は冒険者の基本。」
アンジェラは剣を納めて出されたお茶を啜っている。コイツも良く分からん奴だ。
「…いただきます。」
流れに身を任せ、勇者もお茶とクッキーを頂く。苦味のあるお茶の味と甘みの強いクッキーがまた絶妙であった。…ここが墓地の真ん中でなければなお良かっただろう。
「なぁ、アンジェラはどうして冒険者になったんだ?」
「無い。特に」
「えー何かあるだろ?」
「私にはNPCとしての『設定』がほとんどない。バックラウンドも。だから『普通の冒険者で戦士』。これが最も重要。」
「そういう事か…成る程。」
アンジェラが普通である事に強いこだわりを見せていたのはこれが原因なのだろう。それ以上突っ込むのは彼女の為にやめておいた。
「サイカさんは?今は主婦ですけど、昔は冒険者だったんですよね?」
「私は「来たぞ!」」
メニューボードから聞こえたヤンドの声に、3人の間に緊張が走る。サイカは急いで荷物をまとめた。
「アンジェラ!サイカさんを守って!ヤンド、何が来たんだ?」
ザーッ「小さい姿の魔物の群れだ!多分コボルドだろう。だけど、数が多い。そっちに向かってる!」
「一人で無理するなよ!ヤバかったらそのまま隠れてて!」
ザーッ「いやいや、こんな時こそバック対処の見せ所だよ!少しでも減らしとくから、見晴らしの良いところに移動して!視界から外れるからボード通話はこれで切れるよ!」ブツッ
ヤンドとの会話が途切れた後、森が騒がしくなった。多分戦っているのだろう。
「ユーシャ!遺跡の前に移動しよう!あっちの方が広い。」
「わかった!アンジェラ先導して!」
「リョーカイ!」
「あらあら、大変な事になったわねぇ」
「サイカさんも危ないからアンジェラについてって!!」
勇者は腰からこんぼうを引き抜く。人目についても怪しまれないように、控えめの強化がされたこんぼう+3だ。ダンジョン前にアンジェラが到達すると、不意に足を止めた。」
「……?」
「どうした?」
「シッ!…聞こえる?」
「えぇ?」
…オ…ーオォーォォォー…
遠くからモンスターの咆哮のような音が聴こえて来る。
「まずいか?大型っぽい反応じゃないかコレ!」
「わからない、聞いた事無い声だ!」
「ヤンド君大丈夫かしら??」
「くそう、やっぱ一人じゃ無理あるだろ!」
「まてユーシャ!助けに行くな!」
「なんでだよ!?」
「もう囲まれてる。」
「な!?」
近くの茂みを注視する。不規則に低い草花が揺れていた。
「グロロロロ…」
何体か森から姿を表す。それはコボルドではあったが、どうやら様子がおかしい。
「まずい、アンデットコボルドだ!」
「アンデット?神聖系の魔法か武器が必要だな。誰か持ってるか??」
「私は無い!」「ごめんなさい私もないわぁ」
「じゃあ仕方ない、ひたすら叩いて、動かなくなったらヤンドの方に逃げよう!」
アンデットなどの不死属性モンスターは、神聖系のダメージを与えない限り消滅しない。ある程度のダメージを与えても、再び立ち上がってくるのだ。
「ここは墓地だけど、アンデットが出たという話は聞いた事無い!ヤンドも準備してないと思う!」
「おいおい初戦から全滅プレイなんてごめんだぜ!?チャンスを見つけてさっさと引こう!」
近くにいるアンデットコボルドにこんぼうを振り下ろす。ダメージがあってよろけるも、再び襲ってくる。
「うおりゃ!」「サァ!」「えーっと、えい!」
3人で背中あわせになり、近づいてくるものから順に叩いていく。アンジェラは剣で切りつけているが、サイカはフライパンやらオタマやら調理器具でブン殴っていた。
「叩くってよりも、蹴っ飛ばして遠くに押し返そう!その方が効果がありそうだ!」
「ユーシャ、随分戦い慣れてるな!」
「伊達に前作1256時間もプレイしてないよ!そん時の勘さ!!」
「え〜っと、心なしか数増えてませんか〜??」
「ゲェ!?確かに!」
…グオ…オォーォォォーオォー…
「叫び声もどんどん近付いてくる!」
「少しでもいいからヤンドに近付こう!!オラァ!!」ガギッ
「フゥ!ハァッ!!」ズシャ
「えいっ!たぁ!!」ボコォ
背中合わせの3人が森の際に届く距離まで来た時、大木が一本森の中を突っ切って飛んできた。
「ヤベェぞ!ヤンドが危ない!」
「これ以上突っ込むのは無理だ!ウチらまでやられてしまうぞ!」
「コレはちょっとまずいかなぁ?」
「ゴァァアアァアアアァア!!!」
「っっひ!!もう近くだ!くそ!!」ガギッ
「さて!どんなデカブツか楽しみだな。」バシャ
「怪獣相手は遠慮しま〜す!」ボゴン
ふと、急にアンデットコボルドの群れの動きが止まる。どうやら森から聞こえてくる叫び声の方に集中したようだ。
「オイ!チャンスだ!俺たちよりも生命力の強い方に向かってる!距離を取るぞ!」
せっかく後数歩で森の中に入れたが、この数の敵をそのまま無策で引き連れていてもヤンドを助ける事は出来ない。なので勇者達は一旦墓地の中央まで下がった。
「まずは森の中のモンスターを確認しよう。場合によってはこのままダンジョン内に逃げ込む!」
「来るぞ!ユーシャ!」
「グァアァアァァアァ!!!」
樹々の間から飛び出し、ついにそいつは姿を現した。足元まで滴る全身の返り血、大きく鋭く尖った爪、恐ろしいほどに筋肉質で頑丈そうな四肢、闘争心むき出しのキバ、逆上し理性のかけらも感じられない真っ赤な目。全身から溢れ出る殺戮のエネルギー。
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