NPC勇者〇〇はどうしても世界をDeBugしたい。みたい!?

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第26話B #4 『残念勇者の伝説』




「この辺まで来れば良いだろう。」

 ハックが馬車に乗り込んできた。

「よくあんな事考えたなぁ〜ハック!まさかあのけいぼうをこんな使い方するなんて思いつきもしなかったよ!」

「ねーすごいよねぇ〜」

 ハックは無言だが全力のドヤ顔を決めていた。

「…私も少し、勇者殿を見習っただけだ。」

「へ?俺??」

「私にも使えただろう?勇者殿直伝の、『恋の魔法』って奴がね。」ぱちっ

 ハックはウィンクして来た。それを見てたまらずみんな吹き出してしまう。



「後ろ、楽しそうで良いですねぇ。」

「ヤンドも後ろに乗ればいい。前は私が見る。」

「いや、ここは同じ『戦士』同士、親睦を深めるのも一考かと!」ぱちっ

「…………。」

 ヤンドも真似してアンジェラにウィンクしてみたが。効果は無かった…

「それにしても…これ…」

 サイカが置いてあったけいぼう+20を手に取り、様々な角度から眺める。

「あぁ、サイカ達には見せて無かったっけ?俺のデバッグ能力の1つで、いくらでも装備を強化出来るんだよ。」

「ふぅん、成る程ねぇ。勇者君のこれ、すっごく『立派』よぉ?」

「「「お、おおぅ」」」

 サイカの、大人の女性特有の色気ある表情と言葉使いに思わず男性陣が、「反応」し前屈みになる。

「!!ムカー」バコッ

「痛って!何しやがるタリエル!」

「ふん!!ムカついたから殴っただけだよ!」

「あのなぁ!何もそのけいぼう使って殴る事ねーだろーが!死ぬ所だったぞ!」

「へーん!すけべなエロマルたんなんて死んじゃえ!!」ブンッ

「アイタっ!たはは…」

 タリエルの投げたけいぼうは勇者を飛び越えてヤンドの頭に当たって戻ってきた。


「こらよさんかタリエル!ヤンド殿に謝れ!」

「すけべな人達になんか謝んないもんね〜!べーだ!サイカも変な事言わないでよ!」

「あらあらごめんなさいねぇ〜うふふ。でも、太くて黒光りしてるコレ見てると…なんだか、主人が、帰ってきた見たいで…うわぁ〜〜んあなたぁ〜〜」


「いやいや何を思い出してんのサイカさん!?辞めなさいよ!」

「サイカさん!いけませんそんな事…けしからん、けしからんですぞぉ!」

「ヤンド…とりあえず、鼻血吹こうか。」

「ふむふむ。黒光りで思い出す、と…」

「アンジェラ!深く心に刻み込むな!」

「…冗談はさて置いてみんな。『残念』なお知らせ。」

「「「うん?」」」

「馬、追いかけて来てる。しかも、今1番会っちゃいけない人。」

 荷台から後ろを覗き込むと、綺麗な白馬にまたがった騎士風の男が、何やら怒鳴り声を上げて近づいて来る。どう見ても、領主カルガモットだ。

「「「うーん。コレは『残念』だ。」」」



「で、どうする?面と向かって話する?」

「うぇ〜〜!私あの人苦手〜」

 何故かまたハックがタリエルの発言の後に顔を隠して咽せている。前にも確かこんな事があった気がすると不信に思う勇者。

「うむ、領主様とはいずれ何処かのタイミングで直接対決するとは思っていたが…まさかこんなにも早く出会ってしまうとは。流石の私でも計画外の行動だ。」


「…いや、待てよ?」

「どうしたのだ?勇者殿?」

「物は考えようじゃねーか?どうせ今からアイツの家に行こうってんだ。しかもどっかでアイツから情報も聞き出さなきゃいけないんだろ?」

「それはそうだけど…どうするの?勇者君。」








「拉致ろ、アイツ。今なら誰も見てない。」ニヤリ




 一瞬みんなは勇者のその発言にビクッと反応するも、良く良く考えると合理的な判断だと理解し、それはそれはとても汚い悪い笑顔で荷台から見える「彼」の方向を振り返るのだった。









「辞めろ!離せ貴様ら!領主に向かってそんな事許されるとでも思ったのか!?」

 カルガモットは幌馬車に近づいた途端、ハックの拘束魔法にかかり落馬していた。その様子を見てゆっくりと勇者が馬車の荷台から降りて来る。

「よう。こんな所で会うとは奇遇だな、カルガモットさんよ。」

「…ついに尻尾を掴んだぞ!ニセ勇者め!私が必ず貴様に引導を渡してやる!」

「ほぅほぅ!魔法で拘束されたのに威勢のいいこった。ま、今のうちに口が使える事を感謝するんだな。」


「な、何をする気だ!貴様ら!」


「まぁ…一応、『悪いよう』にはしねぇよ。くっくっく…」

 顔バレしたくないというタリエルを除く、パーティのみんながズラリとカルガモットを円で囲み、皆一様にニヤニヤとしていた。


「や、止めろ!くっ殺せ!!」


「…騎士って追い詰められると本当に言うんだな。あのセリフ。」

「まぁアンジェラ殿、こんな状況なら誰だって諦めるさ。それより、私の拘束魔法はそれ程長く持続しない。そろそろ本物の縄で縛ろう。」

「おし、ヤンド。まずは見られないように奴にズタ袋を被せてくれ。」

「イエス!マイリーダー!!」


 ヤンドもノリノリでカルガモットの頭に袋を被せる。ある程度呼吸は出来るように口の周りは余裕を持たせてやった。

「うがっ!離せ!貴様!!」

「っち!うるせーんだよ!!」ボカンッ

 袋を被せられたカルガモットの顔面を、勇者は思い切り殴りつけた。

「フガッ!!」バタン


「「「うっわーさいてー」」」


 みんなからのブーイングに、勇者はニヤリとする。

「いーだろどうせ気絶させなきゃいけないんだし!それにコイツは顔合わせる度にニセ勇者とかイチャモンつけて来てムカついてたんだ。タリエルだってムカついたからさっき殴っただろ?何が違う?」


「「「ひっでー」」」

「まぁ、いいさ。おーいタリエル。荷台からロープ取ってくれ!」

「嫌よ!私、犯罪の片棒を担ぎたくないもん!!」


「しゃーねぇなぁ。アンジェラ、ロープってどの辺り?」

「あー、みんなが荷物積む前にあった木の箱の中。」

「げ!あの奥かよ。仕方ねえ俺が取るか。」

 勇者は荷台に乗り上がり、奥に置いてある荷物が邪魔で近づけない大きな木箱の中に手を突っ込んでロープを探す。


「えーっとどれどれ…?」ムニュ


むぐ!うぅーんうん!


「おい、なんか木箱が唸りだしたぞ?何入れてたんだ?」

「え?幌の修理道具とか、幌布だけど?」

「幌布?それにしては柔らかい感じがするぞ?」ムニュムニュ


んぐぐ!うむーんぐむ!うむむ!!


「…おい気のせいじゃねーぞ?覗き込めないけど中になんか居る?のか?」

「あー猫かも。」「幌布をかじりに来たネズミの類いだろう。」

「ねずみぃ?どー触っても毛の感覚なんて…あ、ロープあった!」シュルッ

うむむ!うむうむうぐぐ!!うむー!!


 勇者が箱から取り出したのは、乙女の胸当てブラジャー(水色)だった。驚いた言葉も発する間も無く、箱の中から色の白い手が伸びてきて、それをひったくる。



「………。」


 恐る恐る荷物をどけて、箱を開ける勇者。中にいたのは、はだけた衣服に胸を手で押さえて隠す、泣き顔のエルフの女の子だった。つい最近まで、この子と似たような人と一緒に働いてたなぁと思い返す勇者。




「「「ま、マリーナぁ!?!?!?」」」







第26話 END





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