NPC勇者〇〇はどうしても世界をDeBugしたい。みたい!?
第49話 #21ep『残念勇者の伝説』
─あれから、1週間が経った。
勇者がこの世界に来てから27日目
「ねぇ、ユーシャ。ずっとこうしてるの?」
「いいじゃねぇかよ。時間はたっぷりあるんだからさ。」
「もうクエスト目標数は達成してる。」
「…分かってるよ。もうちょっとだけ。」
勇者はアンジェラと2人で、街の外にある池のほとりで釣りをしていた。カルガモットとの一件があってから、まるでふぬけにでもなったように勇者は、釣りや素材収集のクエストを受けてはボーッとしていた。
今日は勇者と一緒にクエストを受ける当番がアンジェラだった。
「…ねぇ、この協栄ギルドのクエストで10数ゴールド稼ぐより、喫茶店でバイトした方が遥かに利益えられるんだけど。」
「たまにはこんなのんびりしたクエストで日銭稼ぐのも悪く無いだろ?戦士の休日って奴だ。」
「ユーシャ、最近休みっぱなし。」
「…うるせぇよ。お、きたきた」
▷勇者 は 沼ナマズ を釣り上げた!
「イエーイ!13匹目!」
「そのうちナマズいなくなるよ?」
「どうせ明日にはリスポーンしてるさ…」
アンジェラはやれやれと言った表情で返事はしなかった。
その後はパタリとアタリが来なかったので、昼を少し過ぎた辺りに勇者とアンジェラはファステの街に帰った。
街に着くとすぐにアンジェラは別行動を取り、勇者は釣った魚をヤンド、サイカの順でおすそ分けしに行った。
「いつも悪いわね、勇者君。」
「いやいや、俺とハックだけじゃ食べきれ無いしさ。貰ってくれると嬉しいんだよ。」
「タダで貰う訳にも行かないし、どう?料理するから食べて行く?」
「あー、いや、すまん。今日はこの後大魔導飯店に行かなきゃならないんだよ。」
「…マリーナちゃんの事??」
「そういう事。またな、サイカ。」
笑顔で手を振り見送るサイカ。2つ先の家の角を曲がって勇者の姿は見えなくなった。
「心配ね…マリーナちゃんも、勇者君も…」
サイカは1週間前のファステの街に帰ってきたばかりの時を思い出していた。
「俺からも頼む!みんな一緒に着いてきてくれ。このままじゃマリーナがミンギンジャンにハッ倒されちまうよ。」
勇者は街に着くなり、パーティのみんなにお願い事をしていた。それは、みんなで一緒にマリーナと帰り、ミンギンジャンに謝って欲しいという事だった。
最初マリーナは1人で行くと言っていたが、街が見えてくるなり急に泣き出してしまったのだ。見かねて勇者が着いていくという流れになったのだが、翌々考えて勇者が行った所で火に油を注ぐ結果になりそうだったのだ。
───
店の前に着いても、マリーナはその1歩を踏み出せずにいた。勇者が「行こう」と声を掛け、扉を開く。
店の中にはいつもの常連客やゴロツキ共でごった返していたが、皆マリーナが帰ってきた事に気付き驚きの表情をする。…ただし、驚きの表情だけで誰も声は上げなかった。
「お、おう。みんな。ミンギンジャン居るか?」
客達は無言のまま厨房を指差す。そこには、こちら側に背を向けて料理を作るミンギンジャンの姿があった。
「よう、ミンギンジャン。マリーナ無事に帰ってきたから。あの、あまり責めないでやってくれないか?悪気があって黙って俺達に着いてきた訳じゃないんだ。なんというか…」
そこまで言った勇者を遮って放ったミンギンジャンの言葉は、とても信じられない物だった。
「…別に、帰ってこなくても良かったのによ。」
今まで泣きべそをかいていたマリーナの顔が一瞬にして怒りの表情に変わり、下唇を噛み締めながら無言で2階の居住スペースとなっている階段へ向けて走って行った。
そこからはめちゃくちゃだった。
勇者は激昴し、厨房めがけて突っ込んで行こうとするのをいつもだったらふざけて悪ノリするゴロツキ共が抑えて殴り合いになり、それを止めようとするハックとアンジェラ。
もみくちゃになりながらも、ヤンドやサイカがなんとか暴れる奴を次から次へと店の外に追い出してとりあえずは落ち着かせる。
そしてゴロツキ6人がかりでやっと抑え込まれた勇者の元にミンギンジャンが近づいてくる。
「!!てめぇ!ミンギンジャン!!」
「おいトンマ。」
ミンギンジャンは全くの無表情だった。いつも怒って怒鳴り散らしていたミンギンジャンしか見たことの無い勇者はその表情に呆気を取られた。
「…な、なんだ?」
「後で話がある。落ち着いたら俺の所に来い。」
それだけ言うとミンギンジャンは背中を見せて厨房に戻っていく。
「…!」
「お久しぶりですね、『料理長』。」
終始無表情だったミンギンジャンだが、サイカの事を見た瞬間、表情を少しだけ変えて、また元の無表情に戻った。
その後、ゴロツキ共の話を聞くによるとマリーナが居なくなったその日の夕方にヤンド、アンジェラが来てマリーナを預かっているとの話を聞いてからミンギンジャンはあの様子らしい。ゴロツキ共が面白がってヤンドに酒を飲ませた時だけ、酔っ払って腕相撲の勝負はしたものの、それ以降はずーっと大人しかったそうだ。
「俺達だけじゃ〜なくてよォ、他の常連達もみーんな心配してたんだ!大将の事だよ。俺達が勇者のあんちゃんのトコからマリーナちゃん連れて帰るかって聞いても、いらんの一言で終わるし…なんかあったのかぃ??」
「なんなんだ??すまん、…わからん。」
勇者にも皆目見当もつかない状況だった。
「おう、言われた通りに来たぞ。ミンギンジャン。」
この前の一件でまだ腹が立ったままの勇者は、大魔導飯店入るなりぶっきらぼうな態度で接した。
「…トンマ、上がれ。」
ミンギンジャンはのれんを準備中に変えて、客が入って来ない状態にしてから自室に向かった。
部屋に通されると、部屋の奥にこちらに背を向けて椅子に座るマリーナの姿が見えた。
「とりあえず、ここ座れ。」
マリーナが居る席とは少し離れた机の前に座らせられると、ミンギンジャンがコーヒーを持ってきた。
「なんだ?茶なんか出しやがって。なんの話なんだよ?」
「…娘の事で話がある。」
「マリーナ、の事??」
「…知ってるかどうかは分からんが、言わせて貰う。俺達は血の繋がった『親子』じゃない。」
「……は?なんだそのギャグは?そんなのオークとエルフで種族違うんだから、見たら分かるだろ??」
薄々は感じていた。何故この2人が『親子』なのかを。何故ならこの2人は『母親』に関する話題を一切しないからだ。別れて出て行ったのならそれでもどっちかはそのような態度を取るだろうし、死別しているなら写真や思い出の品ぐらいあるものだ。ただし、ミンギンジャンの部屋にはそのような物は一切ない。
だから、『母親』は元から居ないのだろうと口には出さなくとも推測はしていた。
「で、それがどうしたんだ??」
「お前、この街を出て行くつもりだろ?」
ビクッとした。
カルガモットの一件でこの街周辺には調べる価値のある物がないと分かった故に、勇者はこの1週間、密かに旅立ちを考えていたのだった。
「だったら、どうしたんだ??」
「率直に頼みがある。娘を連れてって欲しい。」
「はぁ!?」
第49話 END
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