NPC勇者〇〇はどうしても世界をDeBugしたい。みたい!?

激しく補助席希望

第47話 #19ep『残念勇者の伝説』




『フレッシュヒール』


 ナユルメツの回復魔法でパーティ一同のダメージが癒された。冒険者組も大怪我から復帰し、話せるようになった。


「ナユルメツ、頼む。こいつも回復してくれ。」

 勇者は事切れたカルガモットの亡骸をだき抱える。

「…ブレイブハート、そいつはもう死んでいる。やるのは回復じゃなくて復活魔法になるけど…良いのかい?」


「あぁ、頼む。俺も殺すつもりなんて無かったが、手加減して戦える相手じゃ無かったんだ。」

「はいよ。それじゃあ…」

 ナユルメツがカルガモットの傍により、ゴニョゴニョと小さな言葉で呪文の様なものを唱える。内容まではなんて言っているのかは分からなかった。


 カルガモットの身体が一瞬中に浮き上がり、白い光を放つとまた地面に横たわった。


「どうした?失敗したのか??」

「いや…肉体は元に戻った。後は精神が戻って来るだけだ。こいつも疲れたんだろう。しばらくこのままにしておけば起きるだろうねぇ」



「リーダー!」「勇者君!」「ユーシャ!」


「あぁ!みんな!!良かった!」

 回復した仲間の元に駆け寄る勇者。

「倒したんだな!ユーシャ!」

「あぁ、辛うじて勝ったよ。」

「すいません、自分そんなに役に立てなくて…」

「ヤンド!何言ってんだ、助かったよ!」

「私もあんまり活躍出来なかったなぁ〜」

「サイカが攻略の手口を見つけてくれたんだ。ありがとう!」




「ねぇ!ちょっと!マルたーん!!」

 少し離れた所からタリエルが呼んでいる。今度はそちらの方に駆け寄る勇者。


「おーい、どうした…って、うわぁ」

 体育座りしたハックが、これでもかというぐらいに黒いオーラを放ってへこんでいた。それを一生懸命背中をさすってマリーナとタリエルがなだめていた。

「ハック先生、恥ずかしくてみんなに顔向け出来ないとか言って塞ぎ込んじゃったんです。」


「もぉー!マルたんがやっつけちゃったんだから終わりでいーじゃんか!なんでそんなへこんでんのさー!!」


「すまない…みんな…」

 ハックがマイナス思考になってる所を見るのが初めてな勇者は、可哀想とか励ましてやろうという感情よりも、笑いの方が先に込み上げてしまった。

「…ぶっ……くく、いや、すまん。」

「ちょっと!何笑ってんのさ!!」
「そうですよ!マルマルさん!」


「いやぁ、なんというか…慌てふためくハックなんて、そうそう拝めるものじゃ無いなーと思ってさ。くくっ」

「「まぁ、確かに…」」

 ハックの身体から溢れるオーラが、黒いものから怒りを表す赤いものへと変わっていく。

「普段から鼻高く話してる奴が、アレはないんじゃないかなーと。」

「「うんうん」」

「ま、一応頑張ってたみたいだし、お礼言っとくか、ありがとよ。ハック」

「「一応って」」くすくす





「わ、私だって頑張ってたんだからなぁァァー!!!」


 鼻水垂らしながら泣きわめくハックが勇者に掴みかかった。

 その様を見て、パーティの一同は大いに笑いあった。









「さて…」


 一段落ついた一同は巨大な岩石の前に集まっていた。カルガモットはまだ目を覚ましていなかった。


「とりあえず、領主様はこのままにするとして…」



 ここから先が、完全に手詰まりになってしまっていた。


「多分だけど、この岩で塞がってる所。この先に何かがあるのが間違い無さそうなんだが…」


「「「うーん…」」」







「可能性は、とことん追求するもんさ。ブレイブハート」

 皆が押し黙って居ると、意外にもナユルメツが口を開いた。


「なんだって試してみる。そうすれば巧妙の光ってのが見えてくる。そうやって悩んで解決するのが定命の者モータルのいい所さね。」


「ナユ…」

「持ってるもの、フルに活かして見ればいいんじゃないか?それじゃ、私はこの辺で。」



 そう言うとナユルメツは笑顔で手を振りながら影の中に消えていった。


「わかった。ありがとう、ナユルメツ。」


 勇者はミンギンジャンから貰った手帳を取り出す。

 色々とページをめくってみては、
岩石の周りをあちこち調べ始める。


「これ…うん。多分そうだ…」

「ユーシャ、何かわかった??」

「これを見てくれ。」

 勇者は地面と岩石の隙間に挟まった草を指さした。


「ここに草が生えてるって事は、比較的最近に岩石はここに置かれたハズだ。」

「なるほど、つまり人為的にここに置かれた訳だな?勇者殿」

「ミンギンジャンの残した手帳を見る限り、何かの『イベント』があってここに岩石が置かれた訳ではない事が分かる。冒険の記録を見ても、そのような経験が語られていない。」


「それって…どういう事なの?勇者君?」

「多分だが…ゲーム上のイベントとしてここは塞がれたのでは無い。つまり…」


「「「つまり??」」」


「何か理由があってカルガモットがここを塞いだんだ。だからここは、何かの仕掛けギミックがあって開閉する訳では無いって事だ。」


「それって…この岩石はどかせないって事に…なるんですか??」


「多分な。」


「な、何それ!?結局解決になってないじゃんか!!」


「でも、なんとかなる。ナユルメツがそう言ったんだ。そんな気がする…」


「リーダー、どうするんですか!?」



「信じるしか…ない。」




 勇者は片手に黒いメニューボードを握り、もう一方の片手を岩石に当てた。


「ゲームの設定上、これは本来有り得ない事エラーなんだ。そしてそれを直す為に作られたのが勇者○○であり、デバッグメニューだ。だから…」



 黒いメニューボードが激しく唸りを上げる。



「俺は…この『Bug』を、正しい方向へ、修正する!!」




 一瞬の静寂の後、勇者の身体から黄色いオーラが溢れ出る。それは、手に触れている巨大な岩石を包み込んだ。


「うぉぉ!これで!どぅだぁぁぁ!!」



 勇者が手を高くかざすと、岩石は中に浮き上がった。そして、そのまま上に飛んでいき、ちょうど真上にあった切り立った崖の一部に吸い付くと、周りの崖同様に岩石は同化した。


「「「え、えええぇぇええぇぇー!?!?」」」


「はぁ、はぁ…やっぱり…出来た…!!」




 黒いメニューボードは次第に光を失っていった。そのままメニューを開く。


「ここに新しく書いてある。『オブジェクト移動』!これが、デバッグ能力の本来の使い方!!」


「す、凄まじいな!」

「マルたんかっこいー!!」

「ホント…笑っちゃいますね。ここまで凄いと。」

「流石は我等のリーダーです!!」

「勇者君!ナイス!」

「…で、これがそうなのか?ユーシャ?」


 アンジェラの指さす先に、岩石の重みで潰れた入口があった。その先には下へと続く階段が見えている。



「あぁ、みんなで降りよう!」


「「「おー!!」」」



第47話 END

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