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第46話 #5 Boss『ザゥンネ家の英雄』





 ついに始まってしまった勇者と領主の一騎打ち。

 広場の中央で対峙する2人と、広場の奥にある巨大な岩石のそばでそれを見つめる仲間達。



 流れる川の水音だけが聞こえる静寂を、先に破ったのは勇者だった。




「でぇやあぁぁぁああぁぁ!!」



 腰の辺りに低くドスを構え、全力で突っ込んでくる勇者。

「馬鹿な!?刺し違えるつもりか??」


 その攻撃はあまりにも真っ直ぐで、愚直で、駆け引きもなく、騙し合いもなく、真っ直ぐな思いのまま突撃してきた。そして…





「ぐ……」





 そして、そのような単純な動きに、対応出来ないカルガモットでは無かった。


「ニセ勇者ぁぁああぁ!!」


 簡単な事だった。持っている武器の長さ、ただそれだけだった。




 カルガモットの剣は、突進してくる勇者の腹に、根元まで深く突き刺さった。勇者の勢いもそこで止まった。


「……………。」ビシャ



 声は出さずに、血だけを吐き出す勇者。カルガモットの剣先から溢れ出る赤いオーラは、勇者に致命傷を与えた事により効果を失った。


「…何故だ、何故なのだ?これが貴様の望んだ決着なのか??」


「い、いいや…ゲホッ……まだ決まってねぇぜ…」




「ここまで来て、これから勝負が動く事などあるか!!」




「…だーから、テメェは俺に、負けるんだよ。」


 カルガモットの剣を握っている腕を掴み、更に身体へと押し込もうとする勇者。


「な、何をする気だ!?ついに狂ったのか!」


「狂ってなんか…ない。ゲホゲホッ!!『勝つ為に必要』だからやる。」


「勝つだと?正気で言ってるのか?もう勝負はついたんだぞ!?」


「………いや、ここからだ。」



 勇者の持つ、無頼漢の短刀に少しずつオーラが溜まり始めて来た。


「なんだ?その武器は??なんのスキルだ!!」


「こんな初級武器に…隠されたスキルがあるなんて、知らなかっただろ??」


「まさか!元から…!!」

「そうよ。…ハァハァ、刺し違えるつもりだったのさ。サイカの攻撃で掴んだ。『刺突』にカウンターは発動しないってね!」






 勇者が川から上がり、広場に降り立つ瞬間が、ちょうどサイカの捨て身攻撃の瞬間でもあった。

 そこでサイカのくないがカルガモットの首筋にかする様子を見て勇者は思いついた。刃物の武器でも、斬撃にはカウンターが発生してしまうが、『刺突』攻撃ならカウンターを掻い潜ることが出来る!

…そして、この武器ならそれが可能!そして、それを有効に使う為には…




 あえて一騎打ちという形にこだわり、形式ばった挨拶をして、空気がより固く、重いものにした。





─スキル発動条件を満たす為に。








 武器固有スキル:『悪鬼羅刹への道』

装備開示:至近:接触:刺突 の条件を満たす場合のみ、会心攻撃確定。その場合に限りダメージ倍率+15倍。




 誰も使わない武器に隠されたスキル。『悪鬼羅刹への道』。

 これはまさに『無頼漢の短刀』にこそ相応しいと言えるスキルである。何故なら、この武器はナイフであるにも関わらず、攻撃方法が刺突しか無いからだ。普通のナイフであれば、斬撃、投擲、刺突の攻撃属性が備わっているものの、これには刺突しかない。


 よって、この武器の正しい使い方はこうである。至近距離にてこの武器を持っていると相手に開示し、相手に接触、刺突となる。つまり、最初から『刺し違える』事前提に作られた武器だ。



 しかし、敵一体倒す為に自分の命を差し出すモノ好きもいない。この武器はただのハズレ武器として、売られても大した価値にならないが故に取引にも使われず、基本見つけたらその場で捨てるような扱いを受けていた。


 …死んでも特に影響のない『誰か』が目をつけるまでは。





「これで終わりだ、英雄さんよ。」







▷勇者○○の攻撃!クリティカル!
『ザゥンネの英雄』に1611のダメージ!





 カルガモットの脇腹に突き立てた勇者のドスは、なんの抵抗もなくスルッとカルガモットに突き刺さった。そして、根元まで突き刺すとクリティカルを示すエフェクト音が、それを行っている勇者ですら驚く程の大音量で辺り一面に響いた。



「が!がはぁぁッッッ!!!」バタン


 カルガモットのHPを軽く5倍は超えるダメージを1度に受け、カルガモットは白目を剥いて倒れた。


「ハァハァ…これが決着だよ。」ガシャン


 腹からカルガモットの剣を抜き取ると、勇者もその場に倒れてしまった。




「どうだ?カルガモット。うぁー…くっそ…いてぇなぁ…」



 薄れゆく意識に身を任せ、そのまま地面に突っ伏し脱力すると、目の前が真っ赤に染まった。


───

「ふぅ、終わったな。」

 即時復活の能力によって蘇る勇者。その前に倒れる、騎士カルガモット。

「さて、終わったぞ!みん…」


「まだ…まだ、おわって…ない!!」


 致命傷を受けたハズのカルガモットが立ち上がった。スキルか何かで辛うじて一命を取り留めたのだろう。



「カルガモット!もう勝負は付いた!」


「祖先の…英霊の為に…通す訳にはいかん!!」

 剣を杖替わりに、力なく立ち上がるカルガモット。一体何が彼をそこまでさせるというのか。

 ヨタヨタと足を前に進め、勇者に掴みかかる。

「ま…まだだ…まだ負けていない」


「チィッ!!」バシィ

 よろよろのカルガモットを容赦なく殴りつける勇者。


「一騎打ちだろ!?諦めろよ!もう勝負は付いたんだぞ!!」



 それでもなお立ち上がり、勇者につかまろうとするカルガモット。





「てめぇ!いい加減に…」




 その手を止めたのは、ナユルメツだった。




「もう良しな。コイツはとっくに事切れてるんだ。」



 ナユルメツに言われて改めて顔を見てみる。先程まで動いていたその顔からは生気が失われていた。



「アンタの勝ちさ、ブレイブハート。だからもう、この可哀想な奴を責めないでやっておくれ。」






▷Boss『ザゥンネ家の英雄』 を 倒した。










第46話 END

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