NPC勇者〇〇はどうしても世界をDeBugしたい。みたい!?

激しく補助席希望

第45話 #4 Boss『ザゥンネ家の英雄』




「さぁ、カルガモット。ケリ付けようぜ。」

「ふざけているのか?例え貴様が戻って来たところで、私との圧倒的戦力差は埋まらないのだぞ?」




 動けなくなったサイカから、勇者に注意対象を変えるカルガモット。2人は対峙しながら広場の中央へと移動して行った。



「しかし、卑怯な手段は使わず最後だけは正々堂々と向かって来た事だけは褒める。抜け。一騎打ちで終わらせる。」

「…その言葉に甘えさせて貰うが
、後悔するなよ?」



「ふん、後悔するのは貴様だ。ニセ勇者。貴様を倒し、私が本物のザゥンネ家の英雄となる。」






 抜いた剣先に力を溜めるカルガモット。それを確認してから、勇者は腰に隠していた一振の小さな『短剣』を取り出す。




「…正式な果し合いとして、こちらから名乗らせてもらう。姓は勇者、名は○○。ダスキド・ザゥンネとの『交渉』により、貴様に一騎打ちを申し込む。」



「何?ダスキドが??そうか…」



 剣先を下ろし、天を仰ぐカルガモット。崖の切れ目から見える月明かりがやけに明るく感じた。




「…先に剣を抜いた非礼を詫びる。この地を守り、民の為に戦うと誓った現領主、カルガモット・ザゥンネである。かの英霊の名誉の為、祖先の築きし平和の誓を全うする為、貴殿の命、貰い受ける。」



「拝名した。領主カルガモット、抜刀させてもらう。」


 勇者は手前に出した短剣を、鞘からゆっくりと抜き出す。その瞬間、青く眩い輝きが刀身から溢れ出した。


「…なんと美しい。」


「『無頼漢の短刀』…俺の、仲間にすら隠していた正真正銘、最後の『切り札』だ。」





 それは、勇者達が最初に潜ったダンジョンの宝箱に入っていた武器だった。勇者がタリエルに鑑定して貰ってから同じ物を購入にて入手し、それをデバッグ能力で強化した。



その強化値、『+50』!!



 もはやそれは、勇者の装備出来るF:Rankではあるものの、人智を超える伝説級の武器を凌駕するオーラを放っていた。


「しかし、その武器で良いのか?本当に一騎打ちをするのだな?」

「あぁ、俺は特異体質でな。レベルが上がっても能力値自体は上がらないんだよ。だからこの武器に頼らせてもらう。」



「ふん、いい剣士は武器に頼り過ぎない。自らの肉体と精神力をもって1つとする。覚えておくことだな。」


「…肝に銘じておくとするよ。さて、この辺でいいかな?」

 片手に短剣を持ち、半身になり前手に構える。


「頼りの武器が『ドス』とはな。まさに与太物で偽の勇者に相応しい武器だ。行くぞ!!スキル:『英霊の加護』!!」


 カルガモットの構える剣先からの赤いオーラが、全身にまとわりつく。まるでそれは祖先の英霊がその身に宿ったように見えた。







「…固有スキル:『悪鬼羅刹への道』」


 勇者もそれに答えて、武器特有のスキルを発動する。刀身からの青い輝きが、腕に伝わりより強く揺らめき出す。








 ハックは、自分の能力がここまで無力だと感じた事は無かった。自らの才覚を信じ、ありとあらゆる分野に精通した。そのつもりだった。



 領主の繰り出す、達人級の剣撃にただただ圧倒された。その刃に倒れる仲間達に、手を差し伸べる事が出来なかった。しかも、仲間を助ける為とは言え自らの放った魔法が仲間を傷付ける結果になろうとは。



「すまない、勇者殿…私には祈る事しか出来ない。本当に申し訳ない…。」


 広場の中央で対峙する2人を、虚ろな目で見守っていた。


その時…



「う、ううん。」
「あいたたた…」


 マリーナとタリエルが身体を起こした。ヤンドとサイカが守ってくれた分、身体に伝わる衝撃はあったものの、深いダメージは負っていなかったようだ。


「二人共!無事か!?」


 駆け寄るハック。2人の身体を確かめる。


「な、何とか怪我まではしてないみたい。」

「私も、大丈夫です。」


「そうか!…済まないが他の者を助ける為に、手伝ってくれ!」



「「わ、分かった!!」」



 マリーナはヤンドの元に回復アイテムを持って駆け寄り、ハックとタリエルでアンジェラ、サイカを岩石の近くに運ぶ。

「ヤンドさん、息はあります!」

「こっちも命に別状は無いみたい!!」


「マルたんは?マルたんはどうしたの!?」


 広場の中央で睨み合う2人の様子を見て慌てふためくタリエル。



「もはや我等のパーティーの命運は、勇者殿に託された。私は…私が思っている以上に、無力だった。私はそれが…悔しい。」



 膝を突き崩れ落ちるハック。その目から頬を伝い、涙が溢れこぼれ落ちた。


 視線をハックから勇者に移すマリーナとタリエル。ハックの無念さは戦闘員では無い彼女等2人も痛感していた。


「ま、マルたーん!!頑張ってぇ〜〜〜!!!」

「マルマルさん!お願いします!!」


 大きな声を出し勇者に声援を送る。今出来ることは、それしか思い浮かばなかった。









 タリエルとマリーナの声に一瞬だけ視界を動かす2人。


「ははは、声援があるのは嬉しいなァ。どう思う?カルガモット。何にそこまで固執するのか知らねぇけどさ、俺には沢山の仲間がいて色々と道を指し示してくれる。だから俺は迷わないし、その分みんなを守る必要がある。今のアンタに、誰か肩持ってくれる人居るのか?…それがアンタの目指す道か??」



「ここは戦闘地域だ。今あるのは私とお前のプライドのぶつかり合いのみだ。女子供の声にうつつを抜かす暇はない。」


「おー言うねぇ。タリエルがこっちの肩持ってるのによ。」


「…今は誇りが何よりも大事だ。最初は弟ダスキドの為ではあったが、今は違う。恋心など関係ない!これは男の意地だ。通させてもらう。」



「…そうか。済まなかったな、冷やかししちまって。」


「お互い、譲れない物が多くて大変だ。」



「「くっはっはっはっはっは!!」」




「もしかしたら、俺達違う形で会ってたら、案外上手くやってたかもな。」



「まぁ、その時にこそ最初から私が勇者を名乗らせてもらうがね。」





 2人の心は整ったようだ。







「「_いざ、尋常に。」」





第45話 END


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