NPC勇者〇〇はどうしても世界をDeBugしたい。みたい!?
第41話 #18『残念勇者の伝説』
「お前ら!一体どうやってここまで入ってこれたんだ!?」
「え?マルたんが扉開けてくれたんじゃないの??」
「俺は何もしてないぞ??」
「ユーシャがやったんじゃないのか?」
「リーダー、さっき罠だって言ってませんでした?」
「あぁ!そうだ!!あの通路は特に何も無かったんだけど、こっちの広間に出た途端、通り抜けれなくなったんだよ!」
パーティーは皆集まってギャアギャアとそれぞれが色々な事を言い合った。
「皆の者、1度落ち着くのだ!」
「ハイ!みんなおしゃべり止めましょー!!」
ハックとサイカが声を上げ、ようやく落ち着きを取り戻した。
「勇者殿、とりあえず得られた情報を共有してくれ。」
「あぁ、ハック。とりあえず俺はあの通路を通ってここの広場にでた。奥の方まで1度行って帰って来たんだが…あの木の扉、どうやら普通の扉じゃないみたいでさ。抜けられないんだ。」
「なんと!」
「俺もこの通り抜ける能力が発現したばかりだし、イマイチ使いこなせてないんだけど…出来る扉と出来ない扉があるみたいだ。」
皆で通ってきた木の扉を見る。別段と変わった所もなく、普通にダンジョンで使われるような扉だ。
「…特に変わった扉って感じでもないんですけどねぇ。」
「うん。触った感じもおかしい所は無かった。」
「とりあえず、この扉の事は後回しにして…ここは一体何なのだ?」
「多分だけど…伝説の勇者墓なんじゃないかと思う。この場所自体が。」
一同は改めて周りを見回す。切り立った崖に囲まれ、月明かりが差し込み、流れる川にキラキラと美しく反射している。草花や背の低い小さな樹木も生い茂っていて、確かに『それっぽい雰囲気』があった。
「この先はしばらくこんな庭園みたいな感じで続いてるんだけど、奥の方はまあまあ大きな広場になってて、そこで終わりなんだよ。」
「お、終わり?」
「あぁ、行き止まりになっててそこから進む所がない。とりあえずそこまで行くか?」
勇者の提案に皆が頷き、庭園の中を進んで行った。
綺麗な石版を敷き詰められた庭園を通っていくと、一際大きな広間に出た。辺りは木々で囲まれていて、より一層神秘的なオーラを放っている。
タリエルとマリーナは見るもの全てが珍しく、目をキラキラと輝かせてはしゃいでいる。
「すっごいね!マリリーたん!こんなの初めて見たよ!」
「私もですよタリエルさん!こんなにも美しい世界があったなんて…」
マリーナは目に涙を浮かべていた。
「…やっぱり、着いてきて良かったです!!!私!!」
「そりゃ良かったな、マリーナ。」
マリーナの肩に横から優しく手を当てる勇者。サイカやアンジェラ、ヤンドとハックも優しい笑顔を送る。
「ま、今度からはちゃんとミンギンジャンに断ってから来いよ。じゃなきゃまたヤンドが腕相撲に巻き込まれて、みーんな二日酔いの餌食になっちまうからなぁ!」
「「「どわっはっはっは!!」」」
皆の笑い声が、誰も居ない広間に響き渡った。
「さて、これからどうしたものか。」
「とりあえずアレ、調べる??」
アンジェラの指さしたアレとは、広間の奥に不自然にある、とても大きな岩石だった。設置してあると言うより、まるで上から落ちてきて、壁の一角に突き刺さったとでも言わんばかりの物だ。
「ぶっちゃけここで1番怪しいのはそれなんだけどさ。さっきも色々と調べたけど何も無かったんだよなぁ。」
とりあえず岩石の周りに集まり、皆はペタペタと触ってみたり、動かせないか押したりしてみた。
「うむ、特に変わった所は無いな。」
「どう見てもただの岩、ですよねぇ。」
「「「うーん。」」」
「…そこまでにしてもらおうか。」
急に声をかけられ、後ろを振り向く一同。さっき通って来た広間の段差の上に、人影があった。
「誰だっ!!」
「ここまで来て誰が出てくるか分からない貴様でも無いだろう。ニセ勇者よ。」
影の中から姿を表したのは、カルガモットだった。
「貴様等がどういった手段でここまで来たのかは置いといて、そこから先は何人足りとも進ませる訳には行かない。我が祖先、ザゥンネ家の英霊の為に。」
カルガモットは凄まじい怒気を全身から放っていた。
「おうおう領主さんよ。そりゃ一体どういう事だ?」
「どうもこうもない。貴様等がこれ以上私の祖先を汚すのを許せないだけだ。大人しくすれば命だけは許してやろう。抵抗するならば…」
「待って頂きたい!領主様、我々は墓泥棒をするつもりなど一切ない!領主様の祖先について調べて居るだけなのだ!」
「……何?」
カルガモットの表情に、より一層怒気が高まるのを感じた。
「領主様、お願いです!どうかこのまま見過ごして貰う訳には行きませんか!?せっかくみんなでここまで来たんです!お墓をちょっと見るだけで構いませんのでどうかお願いします!!」
マリーナが深々と頭を下げてお願いをした。その姿を見たカルガモットからは、怒りの感情が少し薄らいだ様に見えた。
「わ、私からもお願いします!領主さん、ホンのちょっと見たら帰りますし、ここの事は誰にも言いませんから!」
「チリードルさん…貴女までここに居たのか。」
「ユーシャは元の世界に帰らなければならない。その為にここを調べる必要があるんだ。」
「………元の世界?」
カルガモットからは怒りの感情が少しづつ薄くなっていく。そこに勇者は不安を感じた。
「おい、ちょっと様子が変だぞ?」
「領主様!リーダーの為にもお願いします!」
「お願いします!領主様!」
皆が代わる代わるカルガモットに願いを叫ぶ度に、彼からの怒りの感情は小さくなっていた。
…と、言うより、『無表情』になっていった。
「そうか、君達は知っているんだな?この世界がどういった理で出来ているのかを。『気付いてしまった』のだな。」
「「「何っ!?」」」
「分かった。済まなかったな、何もしてやれなくて。」
カルガモットが段差を降りて広間に降り立った。その表情はとても悲しい顔をしていた。
「…領主、様??」
「君達は、知らなくて良い世界の理を知ってしまった。そのせいで多くの苦労と苦悩を抱いていたのだな。領民である君達が苦しむのに見てやれなかったのは領主としての私の落ち度だ。」
「な、何?どうしたの?」
「なんかヤバいぞ!」
ゆっくりとカルガモットが近付いてくる。
「今、その悩みから解放してやろう。いずれそうなる運命なのだ。それなのであれば苦悩も、少ない方がいい。」
カルガモットは、
剣を抜いた。
「「「ッッ!!!??」」」
「我が弟もそうなのだ。ある日突然この世界は『げいむ』という中で、我々は『きゃらくた』という物を演じている。そう言い出したのだ。世界はまやかしで、ここに生きる意味はないと言った。その姿に心を痛めた父上は…自ら『領主の地位を降りた』」
「なん…だと!?」
「それは本来であれば知らなくて良い知識だ。認識したが故に、要らぬ苦悩を抱いてしまう。だから君達を…」
「お、おい!来るぞ!!」
『その苦悩から解放してやろう。』
\エンカウント/
Boss 『ザゥンネ家の英雄』 が
現れた
第41話 END
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