NPC勇者〇〇はどうしても世界をDeBugしたい。みたい!?

激しく補助席希望

第31話 #8 『残念勇者の伝説』

─19日目の朝─


 まだ薄暗く、柔らかな朝日の差し込む宿屋のラウンジに、朝から机の上に突っ伏してる者がひとり。我等の英雄、<二重円の勇者ダブリング・ブレイブハート>こと、勇者〇〇だ。

「……うあぁ、寝不足で吐き気が…」

 勇者はタリエルの策略にハマり、朝までチンチロリンを付き合わされるという拷問を受けていた。勇者がラウンジでグダっていると、コーヒーカップ片手にハックが階段から降りてくる。

「おやおや、勇者殿、『ゆうべはお楽しみ』という、状態ですかな??」

 コーヒーを啜りながらニヤけているハックに思わず殺意が湧いてしまう。

「…きっさま〜!!さてはこうなる事知っててタリエルにケンカ吹っかけてたな!!」


「…なんの事だか、サッパリ分かりませんなぁ」ニヤニヤ

 ハックは前に1度、タリエルの出張に護衛として着いていくクエストを受けていたので、タリエルがこの後どのような行動に出るか全て知っていたのだ。自分に被害が及ばぬ様に上手く勇者に気をそらせて誘導していたのだった。


「…後で覚えてろよハック!絶対に仕返ししてやるからなぁ!」

「期待しないで待っておく事にするよ。ふふふ」

「おはようございます〜」

 爽やかな笑顔と共に、マリーナがコーヒーカップを片手に降りてきた。

「あぁ、マリーナ嬢、おはよう」

「オース、マリーナぁ…」

「ハック『先生』、ゆうべはすっごく楽しかったです。また私に色々教えて下さい!」

 何故かイスから転げ落ちる勇者。マリーナの発言は、パッと聞いただけでは普通の会話だったが、『昨晩寝食を同じ部屋で共にした』となれば、全くもって話は別だ。

「お、おま!おまえら!ゆうべは楽しかったって…まさか!!」ガタッ

「ん?どうしたんです?マルマルさん?ゆうべって言ったって……キャア!」カァァ

 自分でしたその発言が、勇者にどのような勘違いを起こさせてしまったか理解したマリーナは、赤面してしまった。

「な、何勘違いしてるんですか!!マルマルさん!ハック先生は貴方と違って、あちらこちらの女のコに手を出す様な人じゃありませんから!!」

「いやまってなんでそんなイメージ持たれてるの?俺?」

「…普段の行いという、事でしょうな。勇者殿」ドヤァ

「うっっっざ!!うっざ!なんだそのドヤ顔!!腹立つ〜!!」

「昨日の夜は、ハック先生に初級の魔法についてレクチャーしてもらってたんです!!」

「あー、そういう事。それで『先生』って呼んでるのね。いいなぁ次は絶対ハックと一緒の部屋にしてもらうからな!」

「勇者殿……男性に求められるのは……ちょっと度胸がいる事なのだが…」

「うるせーよ!今の流れで話分からん訳ないだろ!!」







「おっはよ~〜んっ」ツヤッツヤ

 階段から降りてきたウキウキのタリエルは、眩しいぐらいにツヤッツヤのテカッテカに輝いていた。勇者は咄嗟に顔を逸らす。



「………これは、潤いを得たというか、輝きを増したというか。」

「な、なんでタリエルさん、あんなツヤツヤなんです?」

「うっふふ〜ん。昨日はとっても良かったわよ?マルたん!また今度一緒に寝る時は私の為に『頑張って』ちょうだいねぇ〜きゃははぁ!」グリグリ


「…なーにが寝るだよ!一睡もさせなかった癖に!!求められたってもう絶対お前と一緒の部屋になんかならないからな!!」バシッ


 今度は2人の会話を聞いてマリーナは更に赤くなってしまう。

「いっ!一睡もしてないぐらいに、『寝た』んですか!?!?二人共…あ、あの!そういう思い出は、2人だけで共有した方が…」

「マリーナ…何言ってるんだよ……俺もう疲れた…」ガクッ

「勇者殿、朝からへばってどうするのだ…ちなみに、いくら負けたんだ。」

「大魔道飯店の貸しよりも多く」

 ハックは盛大にむせてコーヒーを吹き出した。

「な!大丈夫ですか?ハック先生!?」

「タリエル…流石は<現金の亡者キャッシュ・グール>…恐るべし。」ゲホゲホッ

「いやぁ~夜明けのコーヒーを仲間と共に飲むのも良いものねぇ!!ね、みんなぁ!!」



 こうして、勇者達の記念すべき1日目の夜は、タリエルの一人勝ちで幕を閉じたのであった。

 …そして勇者達の冒険の夜明けは、まだまだこれからだ。



第31話 END



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