NPC勇者〇〇はどうしても世界をDeBugしたい。みたい!?

激しく補助席希望

第27話 #5 『残念勇者の伝説』



「…で、どうして黙ってついて来たんだ?」

 やっとの事で泣き止んだマリーナを、顔面にくっきりとビンタの跡が残る勇者が問い詰める。

「だってえ…グズっ。みんなが遠い所に行ってしまうような…そんな気がしたんだもん…えっく…」

「…あのなぁ。着いて来たいなら最初っからそう言えば良かったのに。そうしたらそのつもりで冒険の計画だって組めるんだぞ?第一、ミンギンジャンには…」

「まぁまぁ勇者殿、マリーナ嬢だって立派なパーティの一員だ。私は戦力が増えて嬉しいと思うぞ?良く決断したね。マリーナ」

 ハックが優しくマリーナの頭を撫でて慰める。マリーナもだいぶ落ち着きを取り戻した。

「まーたハックはすぐそうやって甘やかす〜!」

 勇者は自分の口から思わず出た言葉に、何故か自分でおかしく思えた。

「…なんか、ハックが母親でユーシャが父親みたい。」

「…それ、どうリアクションすれば良いんだアンジェラ。」

「は、ハック君にママキャラ取られたッ!!」ガーン

「そして何故へこむんだサイカさんよ…。」

「マリリーたん泣かないでねぇ〜おーよちよち。」

「…私、ついにタリエルさんに子供扱いされちゃいました。ぐすん。」

「え?…え?」

「ふむ、とりあえずここに居ても拉致があかぬ。みんな馬車で移動しよう。」

「「「はぁーい」」」

 ハックに諭され、マリーナを含めた全員が馬車に乗り移動を開始する。

 …カルガモットは、ヤンドとアンジェラにグルグル巻きにされて乗って来た白馬の上に縛り付けられ、馬車の後ろにさらにけん引されていた。










「で、これからどうする?このまま計画通りに進める?」

 勇者が馬車のみんなに話を振る、マリーナはまだ少し落ち込んでいた。

「そうだな、マリーナ嬢が加わったのと、領主の身柄を拘束出来た事により計画を変更する必要があるな。」

「わ、わた!私!帰りませんから!どうしても皆さんに付いて行って外の世界が見たいんです!!」

 マリーナの決意はどうやら硬いようだ。

「わかったいいよマリーナ、このまま付いておいでよ。」

「でもてんちょーさん心配してるんじゃない??」

「確かに…マリーナちゃんは大事な1人娘ですものねぇ。」

 みんなはどうするべきかと口々に話始める。

「自分は、パーティを二分化してファステに無事を伝える組みがあった方がいいと思います!リーダー。」

「…確かに。それはあるなぁ。」

「ふむ…ではこうしよう。2組に分かれて、1組は歩きで隣町を目指し、領主の家に侵入する。もう1組は馬車で一度ファステに戻り、店長殿に無事を伝えてから直接領主の土地を目指す。…これに異論はあるか?」

 皆は一様に頭をひねって考えるが、誰も特に思い浮かばなかったのでハックの出した案に賛同した。

「では、一度ファステに戻る組に戦力を集中させたいので、冒険者組で動いてもらっても構わないかな?」

「あぁ。」「はい!」「わかったわ。」

「では残りの私、勇者殿、マリーナ、グールで隣町を目指そう。」

「ちょっと!それ通り名ですら無いじゃん!!何グールって!!」

「うむ、みんなの賛同も得られた事であるし、この先の野営地まではこのまま進もう。アンジェラ殿、頼むぞ。」

「わかった。」

「コラ!無視すんな!ハックさん!!」

「あまり騒ぐでないタリエルよ。後ろの領主様がお目覚めになるぞ?」



 荷台に乗っているみんなが後ろの白馬を覗き込む。まだグルグル巻きにされズタ袋を被せられた『それ』は、意識を取り戻していないようだった。

「なんて言うか…本当に…」

「「「残念な奴…」」」


 カルガモットの身体が、一瞬ピクリと寝返りを打った。そんなように見えた。







 勇者達の馬車は、あともう少しでファステ近郊の野営地に到着するという所まで来ていた。


「しかしよ〜アンジェラ。よくこんな上等な馬車持ってたな?自分で買ったの?」

「いや?前にパーティ組んでた奴らが置いてった。」

「えぇ?!良いのかよ。勝手に使っても。」

「問題ない。多分そいつ等は、戻って来ない。」



 一瞬の静寂。


 勇者以外は余計な事聞くなという表情をしていた。

「す、すまんアンジェラ。変な事聞いちまった、忘れてくれ。」

「いや?…あぁ、違うそんなセンチな話ではない。奴等はクソッタレだったからな。」


「え?そうなの?」

「ああ。何も言わずこの先の野営地に私と馬車を置いて消えていった。雇われたから御者やってたけど、雇われて無かったら関わりもしたくない連中。」

「成る程なぁ。冒険者にはロクでもない奴もいたもんだな。」

「アンジェラ殿、まさかとは思うが、そなたの言う関わりたくない連中とは…」

「流石錬金術師、察しが良い。プレイヤーだ。」

「「ぷ、プレイヤー!?」」

「おい!それいつの話だ??」

 自分以外にプレイヤーがこんなにも『近く』に来ているとは思いもしなかった。しかもアンジェラが前に話していた1つ前のパーティ。もしかしたら何か手掛かりになる事があるかもしれないと勇者は話に食いついた。

「いつ…?えーと…3…いや2週間。そのぐらい前かな?」

「そ、そいつらと何処から来たんだ!?」

「ん?私は元々、プリウェイというここからかなり離れた街で冒険者をしていたのだが、どうしてもファステまでの御者を頼まれてさ。かなり弾丸だったから嫌だったけど、報酬が良かったから受けた。」


「プリウェイ?ハック何処だその街?」

「うーむ…私は立ち寄った事が無いのでわからないな。」

「あ!私前ちょっとだけ住んでたよー!鑑定局の勉強してる時住んでた!」

「ほぉ!ではかなり『王都』に近いのか?」

「そうそう、歩いてギリ通えるぐらいの所〜」

「そ、そんな遠くからアンジェラちゃん来てたのね。長旅だったでしょ?」

「休憩なしでずーっと走らされた。」

「「うぇぇぇええぇぇえ!?!?」」

 勇者以外の皆がひどいというリアクションをする。余程ここからは王都もプリウェイも遠いのだろう。

「二度と会いたく無い、本当にひどいクソッタレな『3人組』だったよ。全く。」


「…うん?3人?」



 …勇者の心に1つ、引っかかるものがあった。



『2〜3週間前の出来事』
『遠くから馬車で来た』
『クソッタレな3人組』



 横で聞いていたハックも、タリエル、マリーナも変だなと言うな顔をしている。



「なぁ、アンジェラ。」

「何?ユーシャ?」







「そのプレイヤーって、『すーぱーたくや神』って名前じゃ無かったか?」

「!!!知ってるのか!?ユーシャ!」


「…あぁ、どうなったかまで知ってるよ。俺がハメて街のみんなでボコボコにして、くたばったぞ。そいつ等」



 一際大きな笑い声が、馬車から野営地に響き渡ったとさ。めでたしめでたし。



第27話 END




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