NPC勇者〇〇はどうしても世界をDeBugしたい。みたい!?

激しく補助席希望

第26話A #4 『残念勇者の伝説』


 18日目の朝。



「さ、勇者殿。準備は出来たかな?」

「あぁ、いつでも行けるぜ!ハック」


 二人で互いの様子を見つめ合う。何方も準備は万端だ。

「「よし!行くか!」」


 錬金術工房の扉を勢い良く開ける勇者。差し込む晴天の眩しさに目がくらむ。足早に駆けていくと既にセーブポイント前に皆集まっていたようだ。真っ白な幌が貼ってあるアンジェラの幌馬車らしき物も見える。


「おーい!みんなおまたせ〜!」

「あ、ユーシャ来た。」

「おはようございます!リーダー!」

「勇者君、おはよ。」

「ふぁぁ〜〜。まだ眠い〜マルたんおはよー」

「おーすみんなぁ!…アレ?タリエル朝から居ていいの?」

「ハックさんに脅されて来ないと酷い事するって言われた。」

「随分とまた…シンプルな脅しだな。」

「でも鑑定局に申請出して支店の営業は止めてあるから大丈夫だよ!うまいやり方教わったし!」

「…大丈夫なのかぁ?」

「問題なし!これでマルたんと冒険出来るよっっ!!」


「じゃ、とりあえず私が御者するから、みんな後ろ乗って。」

「悪いなアンジェラ。頼むぜ!」

「アンジェラ、自分も前に座るよ。いいかい?」

「いいけど…どうしたの?ヤンド?」

「モンスターが出た時、馬車の中に居ると、馬車を壊しちゃう恐れがあるからさ…」

「「「あー…」」」

「それでは、荷物を積み次第出発としよう。各人最終チェックをするのだ。」

「「「りょーかい!」」」


 皆が色々と荷物を運び載せていく。アンジェラは替えの武器や鎧、ハックは狩りの材料に携帯食料と飲み水、サイカは生活に必要な家財道具色々などと次々と入れて馬車の中はあっという間に半分が埋まってしまった。

「みんな中々の荷物だなぁ。冒険ってリアルに考えるとこんなにたくさんの物が必要なのか。」

「さ、荷物を積み終わった者からこれに着替えて欲しい。」

 ハックが皆に手渡しているのは不思議な刺繍が背中に入った初級Fランク装備の魔道士のローブだった。

「ハックさん、これなーに?」

「フフッ、コレがクエストを受けずに街を出る秘策だ。基本的に門番とは私が話をするので、皆は検問を受ける時に言葉を発してはならぬぞ?良いか?」

「これで通れる?」

「うーん。でも、ハック君が考えたんだし、みんなで従いましょうか。それになんだか面白そう!」

「この…丸が2つ重なったような刺繍はなんですか??」

「それこそまさに秘訣なのだよ。街の装飾専門店で全員分揃えるには初級装備でしか買い揃えられなくてな。」

「ま、他でもないハックの計画だし大丈夫だろ。」

 パーティはそれぞれ自分の装備の上から茶色いローブを羽織る。

「えへへ〜マルたんお揃いだねえ〜。」

「何言ってんだ俺だけじゃないだろう。」

「もーこれだから勇者君は女心が分かって無いわねぇ…」

 サイカとタリエルがやれやれと言った表情でため息をつく。それを遅れてアンジェラも真似する。

「ユーシャ、まだまだ。」

「いや絶対アンジェラ分かってなかっただろ!」

「さぁ!準備出来たなら出発するぞ。皆静かに。」


 ハックだけが歩きで馬の横に立ち手綱を引く。御者席にはヤンドとアンジェラ。それ以外のサイカ、タリエル、勇者は馬車の中に乗り込んだ。

「わー馬車乗るの久しぶり。隣の小さな街行く事も最近無かったからなぁ。」

「俺は全くの初めてだよ。隣の街ってどんな所?」

「街って言っても、領主様のお屋敷の近くにある、「集落」って言った方がいいのかしら?ちょっとした宿屋と酒場、それ以外は全部地元の人の家だけよ。」

「あー、なるほど。領主の家で働いてる人達が住んでるだけの街って感じか!」

「マルたんせーかーい!」

 ゴンゴンと馬車の壁が叩かれる。うるさいという合図だろう。

(静かにしてましょうね。)ヒソヒソ

(そうだな!)


 しばらくすると馬車のスピードが落ちていき、完全に止まる。馬車の中で3人は息を潜める。

「えーい!止まれぇーいい!!止まれ止まれぇ〜いいい!!」

 既に止まっているにも関わらず門番らしき男の声が口うるさく停止を急かす。

「通行証かギルドクエスト受注証明を見せてもらおう!」

「………。」

「ん?どうした??早くしろ聞こえなかったのか?」

「……….。」


 ハックは無言のまま答えない。

(おい、どうしたんだ?このままだと馬車の中とか点検されないか?)

「聞こえただろう!!通行証を出せ!」

 段々と門番の声色に怒気がこもってくる。

(マズイぞ!?何やってんだハック?)

(マルたん!しぃ〜!!ハックさんを信じて!!)

「怪しい奴等だな!馬車の中を点検させてもらう!!」

 ドカドカと歩く足音が馬車に近付いてくる。

(ヤバイぞ大丈夫か!?)


ーーその時


「頭が高いぞ!門番よ!!」


 今まで一度も聞いたことのない、凄まじい大声で叫ぶハック。その衝撃は馬車の中までビリビリと響いてきた。

(うおっ)(きゃあ)

「この馬車に乗られるお方を誰だと心得ておるのだ!!これはザゥンネ家の意向と捉えて良いのかッ!?」


 突然啖呵を切り出したハック。あまりの勢いに門番もたじろぐ。

「こ、これは失礼を。どちらの貴族様でいらっしゃいますか?」

「き、きっさまァァァ!!それでも街の衛兵かぁぁ!!」

 ハックは更に怒鳴る。どんどんと威勢を強く出す。

(うっひょ〜ハックこえぇ)

(前にもふざけて魔道書の上にコーヒーこぼしたらこんな勢いで怒ってたよ!)

(あらあら、それはタリエルちゃんが悪いわね)


「た、大変申し訳ありません。本日に付いては、高官の来訪予定はございませんでした故…」

「何っ……そうか。それは失礼をした。」

 今度は急に声のトーンを落とし、柔らかい口調となった。

「騒ぎを恐れた領主殿のご意向なのだろう、失礼した。我々は極秘にこの地方を訪れた旅の一団だ。この馬車にはとても高貴なお方が、身分を隠して乗られている。」

「はぁ、どのような…方なのですか?」

「街の安全を守る衛兵であれば教えるのも致し方ない。この中には、この大陸4人目となられる<国宝級の師マスターアートワークス>が乗られているのだ。」

「は、はは。冗談ですよね…??」

「ふむ、コレを見ても疑うと言うのかね?」

 ハックはあるものを取り出して天高く掲げた。それは陽の光を浴びて、太陽よりも輝いて見えた。


「そ、それは!?!?」

「<国宝級の師マスターアートワークス>が鍛えられたものだ。常人の技から逸脱したコレを見ても、まだ疑うのか?」

 それを見た門番は狼狽する。しかし、ここにもっと狼狽した人物が一人、勇者だ。ハックが手に持つそれは、まごう事なき勇者がノリと勢いで作ったけいぼう+20だったからだ。

(あ、アイツの言ってた切り札ってコレだったのかよ!?)

 けいぼう+20を作って手に余した勇者は以前それをハックに渡していた。ハックはそのけいぼうにローブの刺繍と同じ紋章を刻み込んでいた。二重丸の形ではあるが、内側の円が外側の円と下部の縁で接触している、魚の目や鱗模様の形に似たような模様だ。


「は、ははぁ〜〜〜ッッ!!」

 門番が地にひれ伏す。あんな物を見せられたら誰だってそのようなリアクションを取るだろう。


「まだ世にその名を知らしめていない4人目の<国宝級の師マスターアートワークス>。その方がファステの領主に用があると召喚されたのだ。意味はわかるな?」

「は、はい!」

「やがて大国となるこの領地に、無駄な戦火を持ち込むのは貴様も無用だとわかるはず。なぁ、未来の王国警備隊長殿。この事は他言無用ぞ?」

 ハックがウィンクをし、脅しをかける。門番は腰が砕けてしまったようだ。


「王国…俺が、未来の警備隊長…!?は、はい!どうぞお通り下さい!!!」

 警備隊長の肩書きの響きに我を取り戻した門番は、裏返った声でそう叫ぶと、シャキッとした姿勢に戻りビシッと最敬礼をする。

「…わかれば良いのだよ。わかれば。」

 そう言ってハックは馬の尻を叩くと、馬車は軽快に進んで行った。



Aパート終了→

コメント

  • 激しく補助席希望

    面白い!です!!

    0
  • 有林 透

    面白いです?

    1
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