NPC勇者〇〇はどうしても世界をDeBugしたい。みたい!?

激しく補助席希望

第--話 そして運営は『彼』を再度認識した。らしい。




「ふぁ〜っと…とりあえずノルマ達成〜くぁ〜〜疲れた〜〜」


『サウザンドオルタナティブ2』プロジェクトチーム内、プログラム担当ブース



 蕗華は朝からテストプレイで溜まったDMのクレーム対処に追われていた。1つ1つの苦情を事実かどうか調査し、修正を加えるという作業だ。運営チームの中でも直接データ観測や統計からのクエスト嗜好の方向変換、モデリング修正といった他のチームよりかは遥かに軽い作業ではあったが、本来2人でやるべき作業をひとりで淡々とこなすのも疲れるものだ。息抜きに椅子にもたれかかり大きくてを伸ばし欠伸をした。

「これで最後ね。とりあえず大きい問題は未成年者のログインだったけど…あら?」

 通報者名を見て疑問が湧いた。この名前に見た記憶があるからだ。

「あれ…?これNPCからの通報になってる?え!?どして!?」


 『ファステ』という、前作にも登場した街をそのままそっくり再現しようと言う提案があり、ワールドの1番端っこにポツンと設置された街がある。当然普通のプレイヤーならゲームを始めてからリスポーンする最初の街『プリウェイ』から出発したとしてもこの『ファステ』にたどり着くまでにかなりの時間を労する必要がある。
 何故かその街から未成年プレイヤー違反の通報があったのだが、通報者をよく見ると街の住人として設置したキャラクターからの物になっていたのだ。

「…たまたま同じ名前?だったのかしら?」

 その疑問を解決する為に蕗華は少し詳しくファステから来たDMを集中的に調べる事にした。

 …その時。

 送信に失敗したDMが一件、通知された。失敗しているので内容も宛先も不明だが、場所はファステだった。

「ん…サーバー落とした今来てるって事は、もしかしてホントにキャラクターが通報したのかしら?でも、どうやってそんな事…」


 ふと、憧れの先輩の姿が頭を過ぎる。時間のかかりそうな案件に頭を抱える蕗華だった。







「…ねぇ、ちょっと!ウエンディ!」

「何ロジカ?小声で話さないと行けないような頼み事?」

「そうなのよ。サーバールームにある端末からゲームにログインって出来るんだよね?パスわかる?」

「えぇ!?今サーバー落としてるんでしょ?無理じゃないの?」

「あの別部署で開発されたエンジンあるでしょ?あれが原因っぽいバグを見つけたんだけど、ゲームにインして見なきゃ確かめられないのよ。」

「そんなのチーフか部長に頼めばいいじゃない?」

「公に出来ないのよ。多分だけど、『彼が』絡んでると思うの。」

「彼ってテンマ?」

「そう!もしかしたら別垢使ってテストプレイに侵入してたかもしれないのよ!バレたら情報保護でみんなクビよ!」

「なん…!ホントなのロジカ?」

「だからお願い!私達にまでとばっちりを食う前に、そのバグの原因消しときたいのよ!」

「ハァ…あのねぇ、私は知らないからね?辞めて出てった人のプライドのせいでクビになり掛けてるからと言って会社のコンプライアンスも守れない人間だと勘違いしないで欲しいわ。」

 そう言いながらウエンディは付箋紙に文字の羅列を書いて、ソレをデスクのよく見える所に貼り付けた。

「私今からコーヒー汲みに行くついでにロジカが外回りに出てったって話をチーフに吹き込んで来るから、もしその間に私のデスクを探して秘密のパスを見つけようったってそうは行かないからね?わかったロジカ?」

「ありがとウエンディ!後でビールとピザ奢る!」

「2つづつよ〜」

 そう言ってウエンディは席を離れた。その付箋紙を手に取り自分のIDの後ろに貼り付ける。自分の机に戻ると蕗華は必要な書類の束を抱えて誰にも見られないようにブースを出て行った。









 蕗華は1つの仮説を立てた。それはゲーム内のキャラクターがある種の意思とも呼べる行動原理に基づいて活動した為にプレイヤーを通報したのではないかと。それを裏付ける為に調べたが、やはりゲーム内に潜入してみない事には詳しく分からなかった。

 表面上のデータでは、ゲーム内の活動は停止しているはずである。しかし、ゲームエンジンが独自にこのゲームの世界観をよりリアルに構成する為に地形、風土、人の移り変わりをシュミレートしゲーム内のみ時間を加速してそれらの再現行動をしていたとすればどうだろうか?

 サウタナ2の設定上では400年前まで遡るキャラクターデータも存在する。もし仮にゲームの中の世界だけ本当に400年も経過していたのなら何が独自進化していても不思議ではない。

 それを確かめるのにはどうしてもゲームにログインするしかない。蕗華は思い切ってゲームの中に飛び込んだ。

…正確に言えば、人格シュミレータが見せる居なくなってしまった先輩の影を追う為に。








 やはり蕗華の仮説が正しかった。決められた通りに動くもしくは会話をするキャラクターは1人もいなかった。まるで生きている人間と変わらない、どんな会話にも対応出来るNPCがゲーム内に一般住民として多数存在していた。これがサーバーに過剰な負荷をかけている原因なのだろう。

「これが…天馬先輩が望んだ新しい人格シュミレートシステムなの?」


 蕗華はただただ愕然としていた。天馬先輩はチームに隠れて何かをしている事は気付いていたが、まさかこれ程のものだとは思わなかった。通りで熱心にNPCの設定を打ち込んでいた訳だ。詳細まで細かく設定すれば設定する程、それを元にゲームエンジンがそれらに関わる情報を世界から構築し、人格シュミレーターがさらに人間性を補う。

「…天馬先輩。あなたはここを使って神になろうとしていたのですか?」

 雑踏の中で小さく呟くその声は、一瞬にしてかき消されてしまった。


 プリウェイに降り立った蕗華は、早速デバッグメニューを取り出し目的の街に向かう。

「目的地:ファステ 位置:リスポーン点」

 一瞬目の前が真っ青に染まるが、すぐに景色に色が戻る。そこはもうファステだった。


「さて、まずは先輩の作ったキャラを探すとするか。」

 各プレイヤーの位置なら捜索出来るのだが、NPCの位置となると端末から直接操作して位置を特定しなければならない。つまり、ログインしてしまってからは直接自分で探す必要があった。ゲーム内時刻はまだ昼過ぎを示している。とりあえず1番有力な所は冒険者ギルドだ。まずはそこに行く事にした。



 ギルド内でウロウロしているとNPCの1人が話しかけてきた。騎士の姿をしている。確かこのキャラは…

「騎士のカルガモットと申します。初心者の方でしたら私がクエストに同行しましょうか?」

「あ!いや〜、違うんです。人探ししてるので。」

「そうですか。それではその人探しを手伝いましょう。」

「いいですから!自分で探しますので!」

「ですがお困りのようですし、冒険者として誰かを頼るのは恥ずかしい事ではないのですよ?」

(思い出した。『残念』だコイツ。天馬先輩が作った)

「ん?どうされました?」

「なんでもない!です!…あの、丸丸って名前の人知ってます?」

「な!?あの様な者に関わるのは辞めなさい!あなたの品を落とすだけですよ?」

「知ってるの!?今どこ!!」

「奴は確か何人かとクエストに行っている筈だ。どの、なんのクエストかまでは知らないが用心した方がいい。あのニセ勇者は悪巧みを考えているに違いないからな!」

「クエスト!?NPCなのに!?そんな、あり得ない!」

「??その、えぬぴーとかは知らないが、君も充分気をつけるのだぞ。」

 そう言うと騎士は去って行った。丸丸というキャラクターはどうやら他のNPCを引き連れてクエストに出たという。それは全く以ってあり得ない話で、何故かと言うとNPCは必要以上に自分の持ち場を離れて行動したり出来ない規制がかけてあるからだ。

「あのキャラの属性を変えたのは確かに私だけど、もしかして…本当に先輩だったの??」

 蕗華の疑問は深まるばかりであったが、それを解決する為には本人に直接あって確認する以外に方法はない。蕗華はとりあえず、街の中で丸丸が帰ってくるのを隠れて待つ事にした。













「ん〜しょっと!ねぇ!!いい加減起きてよ!もう!!」

 とりあえずこの丸丸と名乗るキャラクターを引きずる蕗華。人目につかない、邪魔の入らない場所まで気絶したままのこの男を運ぼうとしていた。

「ちょっと!!目を覚まして!!」

 パチパチと顔を叩くと本人が目を覚ます。驚いて逃げようとするのを必死で止める。

「待ってってば!言う事聞いて!あなたに聞きたい事があるだけよ!!」

 丸丸はようやく落ち着きを取り戻し現状を理解し始めた。

「教えて。あなた一体誰なの??何故天馬と呼ばれていたの?」

「〜〜」

「え!トンマの間違い!?天馬じゃ無くて?本当に?」

「〜〜」

「名前名乗れないってどういう事よ?」

「〜\\ ビィィィッ //」

「そうか!個人情報か!」

「〜〜」

「ログアウト出来ないって?なんでよ?」

「〜〜」スッ

「あぁーー!!そっか!ごめん、それ私が書き換えたの!ごめんなさい!」

「〜〜」

「わかったわ!でも聞いて頂戴、私は開発チームの…えーっと、プレイヤー名は『リディ』よ。あなたが送ったとされるDMと、その他にもDMを送ったNPCがいるでしょう?私はそれを調べに来ただけなの。」

「〜〜」

「しょ、しょうがないでしょ!人が取り残されてるなんて誰も思う訳無いじゃない。プレイヤー情報は世界の6つに分かれたサーバーがシンクロしない限り更新されないわ。つまり、配信日を待つしか無いの。」

「〜〜」

「時間?あぁ、とりあえず大丈夫よ。プレイヤーが誰も居ない時はゲーム内時刻は最速に設定されてあるから。テストプレイが終了したのは昨日よ。」

「〜〜」

「今は私が隠れてログインしているから、現実と同期している感じね。」

「〜〜」スッ

「あぁ、それね?確かに開発者専用端末よ。黒いのがその証拠。」

「〜〜」

「え!?本当だ!文字化けしちゃってる!?ログアウト出来なかったのはこれが原因よ多分。」

「〜〜」

「だから謝ってるじゃない!そもそもなんで全然関係ないあなたが管理者権限のセーブデータに干渉してる訳?クラックしようとしたの?」

「〜〜」

「レンタル筐体!?」

「〜〜」

「あー。わかった。とりあえず調査して一刻も早く現実に戻れる様に手配するから。」

「〜〜」

「嫌よ!なんで日本まで行かなくちゃ行けないのよ!私今住んでるのロスよ!」

「〜〜」

「それは…そうだけど。」

「〜〜」

「わかったから!そんなに怒らないでってば!いい?」

「〜〜」

「仕方ないわね〜いいわよ。とりあえず安心して。あとお願いがあるんだけどログアウトした途端ウチの会社訴えたりしないでよ!」

「〜〜」

「私プライベートで日本に行くって言ってるのよ!?大体にしてあなたがここに閉じ込められる原因じゃないもの!!」

「〜〜」

「うぐっ!そうだけど…」

「〜〜」

「…わかったわよ。でも最後に聞かせて。『不知火 天馬』の名前に聞き覚えはある?」

「〜〜」フルフル

「そう…わかった。残念ね。」

「〜〜」

『いや、そう言う訳では無いわ。それはあなたの思い過ごしよ。』

「〜〜」

「うん。そう。あ、あなたの名前聞きたいんだけど!」

「〜〜」

「そっか…ねぇ、例えば書いてみるとかは?」

「〜〜!!」

「そうそう!書けるじゃない!そのまま地面に書いてみて!」

「〜〜」

「そう、わかったわ。それがあなたの名前ね?」

「〜〜」

「お願いだから、私がまたコンタクト取るまで大人しくしてて。今私もここにいるのは違法なの。だからお願い。DMを運営に送るのはやめて。リディになら大丈夫だから。」

「〜〜」

「とりあえず、私の存在は他のNPCにも言わない方が良いわ。造物主がいきなり出て来たら余計に混乱させるだけだもの。」

「〜〜」

「残念ながら、それは治せない。ログアウトしてアカウントを作り直すしかないわね。」

「〜〜」ガクッ

「またチャンスがあったら来るけど、それまで1人でも大丈夫?」

「〜〜」グッ


「そう、仲間ね。わかったわ、それじゃあ何かあったらリディにDM頂戴。フレンド登録しとく…NPCだからそれもないのか。」

「〜〜」

「それは秘密よ。色々試してみたら?」

「〜〜」

「わかったわ。ここで何があっても現実に影響する事は無いから、思う存分に楽しんで欲しいわ。近い内に必ずログアウトさせてあげるから2、3日待っててね。」

「〜〜」

「もう私時間もヤバいから帰るわよ。それじゃあね。」

「〜〜!!」

「すぐこっちに来るようにするから大丈夫!待ってて!」




 -リディはログアウトしました-





「ふぅっと!バレ無いようにブースに戻らなきゃ!」

 蕗華は持ってきた荷物をまとめてサーバー室を出る。廊下を通りコーヒーを汲んでから部屋に入ると、アイザック部長と出くわした。

「おっとロジカ。おや、ウエンディからコーヒー飲みに外に出たって聞いたけど、まだコーヒーを飲んでたのかい??」

「部長!すいません失礼しました。」

「良いんだよ。ここは自由が約束された職場だ。皆が思い思いにやりたい事をやって初めて良い作品につながるからね。」

「あ、ありがとうございます。私やる事溜まってたのでこれで!」

 そう言うと蕗華は足早に自分のデスクに戻った。

「やれやれ、テンマの穴はまだまだ塞がってないようだな。それも仕方ないか。」


 バタバタと仕事をこなす彼女を見ると、つい後ろに付いてくる彼の姿を想像してしまう。


「テンマ・シラヌイは何故ここまでした事を今になって手放したのか。それで1番得をしないのは彼だろうに。その夢に付き合わせた彼女まで置いて行ってしまって、一体君はどこにいるんだ?」

 チーフの部屋の飾ってある開発チームみんなで撮った集合写真を見つめて、思わずため息をつくアイザック。



「この大陸じゃ、なんでも『アリ』。そう言ったのは君だろうに…」







END…?



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