NPC勇者〇〇はどうしても世界をDeBugしたい。みたい!?
第20話A そして勇者はフィールドで詰む。みたい?
勇者がゲーム内に取り残されてから13日目。今日もいつも通りの日課である大魔道飯店でのバイトを終えた。もうすっかり朝の仕込み作業とミンギンジャンの怒鳴り声に慣れ、それが当たり前の様になっていた。そして今日は待ちに待った初フィールド散策。13時に冒険者ギルドに待ち合わせをしており、勇者が急いでギルドのフロアに入ると既に3人は到着していた。
「おまたせ〜みんな!」
「オス、ユーシャ。」
「勇者さんどうもです。」
「勇者君、こんにちは。」
改めて自分が組んだパーティを見ると、感慨深いものがあった。これから彼らとやっとサウタナらしい事が出来ると思うとワクワクしてくる。
「それで、どうだった?アンジェラ?」
「午前中にヤンドと1つ軽い素材集めのクエストを受注してみたが、特に異常なくフィールドに出れた。ユーシャも大丈夫だと思う。」
昨日アンジェラがプレイヤーが居ないとフィールドに出れないと言う話をしていたので不安だったが、アンジェラの思い過しだったらしい。勇者はホッと胸を撫で下ろした。
「いやーこのまま街から出られないかと思ったけど良かったよ!」
「どうして勇者さんはクエストを受注出来ないんですか?」
「聞いてくれよ!この『勇者』って職業が、初級にも中級にも属して無いせいで職業適性に引っかからないんだ。だからこれからもどこかに行く時は誰か別の人にクエスト受けてもらう必要がある。」
「そうなの?大変ね勇者君も。」
「サイカさん、その背中の大荷物は??」
「あぁ、コレ?生活に必要なありとあらゆる家政道具を持ってきたわ!コレで1週間は持つわよ!」
「いやそんな、今日中に帰って来ますよ!?」
「<家政全般>の名にかけて!備えあれば憂なしってね!」
サイカさんがウフっと笑って可愛らしくウィンクする。ちょっとドキっとしてしまった。
「まぁ本人がそれでいいならいいんですけど…アンジェラとヤンドさんは午前中何したの?」
「簡単なコボルドの討伐だ。サクッと終わらせて来たよ。」
「自分は…その、後方を警戒してました。」
「え!?2人で行ったのに後ろで見てたの??」
「たかだかコボルドぐらい一人で充分!」
「なんでそこでアンジェラが怒るんだよ…」
「そ、それで勇者さん。今日はどのクエストにしますか?」
「うーん…コレと行って特に決めてなかったけど、なんかいいの有る?」
「あらあら、勇者君がリードしてくれなきゃ困るわ。リーダーでしょ?」
「じゃあ俺もコボルド退治行きたいかな!モンスターから取れる強化用の素材が欲しいし。」
「手取り早い所だと近くの遺跡になりますか?あそこだと内部に入らなくても充分集められると思いますよ。」
「ならそこで決まりだね、アンジェラ受けて来てくれよ」
「リョーカイ」
「うぉぉっしゃぁああ!!外だぁぁ!!」
ついにフィールドに出れた事で興奮した勇者が、目の前に広がる草原に向かって叫ぶ。遠くには山々、近くには森林、彼方此方には砦のような建物と美しい景色が並ぶ。約2週間も街の中に缶詰にされた勇者には当たり前の景色でもより一層綺麗な物に感じた。
「いや〜パーティ組んでなかったらこんな景色も見れなかったかと思うと、めっちゃ感動するよ!改めてありがとう!みんな!!」
「別に大した事じゃ無いし」
「よかったわね。勇者君」
「それじゃ、自分はここから離れて行動します。」
ヤンドはいそいそと離れようと準備していた。
「なぁ、ホントに後ろからついてくるのか?ここらじゃそんな強敵ともエンカウントしないんだろ?」
「そういう、約束ですから…」
ヤンドは荷物を背負い直すと離れて行った。
「なぁ、なんでヤンドはあんなにもバック対処にこだわると思う?」
「得意分野は人それぞれ」
「恥ずかしがり屋さんなんじゃないの?ヤンド君。」
「恥ずかしいってそれだけじゃないと思うんだよなぁ。」
「ユーシャ、遺跡はこっち。あの森の中に見えてる所」
「お!良し、前進するか!」
スタスタと前を歩き始めるアンジェラ。その後ろに勇者とサイカ、さらに後方100mぐらいの所からヤンドが付いてくる。
「結構近くにそんな遺跡あるんだな。アレは何の遺跡なんだ?」
「うーん、ただの初心者慣らしの為のダンジョンだから、特にいわれはないと思うけど。」
「え、そうなの?昔貴族が住んでたとか、魔物が巣を作ってるとかは?」
「そんじょそこらで行けるような所に、伝説なんか無い。」
「いやそれ言ったらそうだけどさ。なんかロマンに欠けるなぁ。」
「へぇ〜勇者君はロマンチストなんだ。」
「そういう訳では無くて…」
ふと視線を落とすと、サイカのすぐ足元の辺りに大バッタがいた。
「え!?!?危ねぇ!!」「きゃあ」
思わずサイカを押し倒し、身体で庇う。だが次の瞬間にはアンジェラが斬り伏せていた。
「バッタ程度で大げさ」
「大げさじゃないだろう!びっくりしたーさっきエンカウント反応無かったよな!?」
「ダメよっ勇者君!未亡人といえど私は人妻!私にはあの人との大切な絆があるからっ!!…アナタァ〜うぇ〜ん」
勘違いした挙句泣き始めたサイカ。とりあえず体制を立て直す勇者。
「ご、ごめんなさいサイカさん!ちょっとびっくりしちゃっただけですから!!」
「ユーシャ、サイカ泣かせた」
「アンジェラも泣き止ますの手伝って!」
ザーッ「おーい」
メニューボードからヤンドの声が聞こえる。
ザーッ「後方は異常なしでーす。」
「あ、はい。」
「他にはいないみたい。」
「そうだ!エンカウントだよ!なんで反応しなかったんだ??」
「??」
「なんでそんな反応なんだよアンジェラ!普通敵が出るときエンカウントってなって敵の情報出るだろ?」
「あーそれ、プレイヤー扱いじゃないからじゃない?」
つまりアンジェラが言うには、プレイヤーが居て初めてパーティとしてこの『大陸』では見なされる。つまりNPCだけの集団が敵と戦おうともそもそもそれは『大陸』においての戦闘ではないのだそうだ。
「えーっと…一応経験値は入ってるみたいだな。アイテムはアレか、ドロップしたらその場に現れるのかな?つーことは…ゴールドだけ手に入らないのか〜」
「そゆこと。はい」
アンジェラは手を差し出して来た。訳も分からず勇者は握手をする。
「じゃなくて、ん。」ぺち
「え?何?」
「ほうしゅう!!」
「あー。はい」チャリン
「わかればいい。」ゴソゴソ
「あのー、勇者君??」チラッ
「えっ」
「ね?」チラッチラッ
「……。」チャリン
ザーッ「あー、オホン!後方の警戒は大変だったな!これには正当な報酬が…」
「いやまて」
ザーッ「そんな!自分達はパーティだろう!?」
「いやヤンドにはやらん。絶対。」
ザーッ「こんなの横暴だ!」
「うるせぇ!だったら前に出て戦え!」
ザーッ「酷すぎる…」ブツッ
勇者は、何故か損はしていないのだが、とても損をした気分になった。遺跡に着くまで勇者はしばらく無言で無表情だった。
Aパート終了→
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