NPC勇者〇〇はどうしても世界をDeBugしたい。みたい!?
第16話A そして勇者は能力に恐怖する。みたい?
「…で、もう一回聞きますけど、誰にも見られてませんか??」
「大丈夫だって!確かに工房には何人か人居たけど、誰も他の奴が何作ってるかなんて気にしてなかったよ。」
「ならいいんですけど…マルマルさん、この能力の事はなるべく人に知られない方がいいと思いますよ。」
勇者はマリーナにクギを刺されてしまった。あまりに度が過ぎた知名度は危険を呼んでしまうからだ。まさかここまで大事になると思ってなかった勇者は少しへこんでいた。
「わかりました〜っと。以後気をつけます。」
そこに鼻を鳴らしながらタリエルが勇者に近づいてきた。
「クン、クンクンクン…」
「なんだよタリエル!?俺臭うのか?」
「うん。するよ?『良い匂い』。だってココに来たのってただ知らせる為に来た訳じゃ無いんだよね?私だって伊達に鑑定局員やってるんじゃないわ。お宝探せるぐらいに『鼻は効く』んだから。」
流石鑑定局員。いや、<現金の亡者>と言った所か。タリエルはカウンターに入ると、いつもの砕けた雰囲気を消して完全に営業モードに切り替えた。
「それでは、お品物を拝見させて頂きます。お客様。」
「お、おう。頼む。これなんだが…」
勇者は紫色の布に包まれた長い棒状の物をカウンターの上に置く。タリエルは白い手袋をはめて、丁寧に布をめくって行った。
「 ……これは。」
輝かしいというか、恐ろしい程に高級なオーラを放つソレが姿を現わす。光なんて放つ筈が無いのに、ソレからは光が射しているように見える。
「俺が作った…けいぼう、+20だ。査定して欲しい。」
「Fランク装備ですので、査定料は基本が10G、その他に査定額によって別にギャランティが発生しますが、よろしいでしょうか?」
「ああ、その場合分割で払ってもいいか?」
「勇者〇〇様からは特別な信頼がありますので、当方はかまいません。それでは査定に入らせて頂きます。」
相変わらず、仕事となるといつもの不抜けた感じは微塵も感じさせないプロ根性。流石タリエルとしか言いようが無い。初めて対応してくれた時と一緒だ。マリーナはソレをみて目をパチクリさせている。
「マルマルさん!タリエルさんって、こんなに変わっちゃうんですね!私始めて見ましたよ!」
「落ち着けってマリーナ。」
「タリエルさんも凄いんですけど、なんですかこの+20って武器!こんなに強化されてる武器、聞いた事無いです!!こんな高級なけいぼうでモンスター叩いたらバチが当たりますよ!」
「だーから落ち着けってマリーナ!もしかしたらこれですぐ借金が返せるかもしれないんだ。」
勇者はソレを期待していたのだ。もし高額な買取値がついたら、お釣り無しでいいからミンギンジャンに譲り、残りの借金を帳消しにしてもらおうと思ってけいぼうを鍛えた。だが、+12を超えた辺りからなんだか怪しいオーラを放ち始めたので、怖くなって+20で辞めた。本当だったら+99ぐらいまで作る予定だったのに、人目の付く工房ではそれ以上の作業は無理だった。
「さすがに裸で持って歩くのすらヤバくなったんでな。とりあえず手近にあった布で包んで来たけど…いくらぐらいすると思う?」
「いや、あんな凄いの見た事ないからわからないですけど、アレ、パパに譲って借金の代わりにするって事ですよね?アレがウチの家宝になるかもしれないなんて、うわ〜すっごいドキドキする〜」
しばらくタリエルはけいぼうを手に取って眺めていたが、今は本を探している。必要な情報が載っているものを探しているのだろうか。5分程で一冊の本を抱えて戻ってくる。
「おまたせしました。それでは査定結果について説明します。こちらのアイテムについた買取額は、5940Gです。」
「おぉー!でも、そこまで高くはなかったな。詳しく教えてくれないか?」
「それでは説明します。先ずはプラスになっている査定項目を。まず1つ目、+20という強化値です。基本攻撃力に+20され、そこから更に1.38倍のダメージ補正がかかります。この能力だけで見ると伝説級の武器と言っても過言ではありません。」
「すげぇ、常にクリティカルダメージよりもかなり多いダメージを与えられるのか!」
「次に2つ目、このけいぼうには(天罰)の効果がついています。攻撃した対象に、ランダムで与えたダメージと同じ量のダメージをもう一度与えます。」
「マルマルさん!天罰って伝説級のパッシブスキルですよ!!」
「査定にプラスな影響は以上です。次にマイナスになっている部分について説明します。1つ目はあくまでFランクの装備だという事です。基本的に美術品としての価値はつきません。」
「つかないって言っても、これこんなにオーラ出てるから見た目充分だろ。」
「た、確かに」
「続いて2点目、これらの有能な効果を持ってしても、一般的に販売されている武器よりも攻撃の効果は期待出来ない、という点です。」
「まぁ最弱武器だもんなぁ。ちょっとした剣もってたらすぐ倉庫行きだな。」
「以上の点を踏まえ、使用できる武器として査定しました。ですので能力的に上となる青銅の大剣よりも低い価格の5940Gになります。ですが…」
「ん?何かあるのか??」
「このアイテムには査定に影響をしない問題があります。当店での買取は拒否させていただきます。」
「は?おい、なんでだよ!?」
「過去20年までの『大陸』に伝わる伝記伝承等を検索しましたが、+20という能力値を持った装備を見つける事が出来ませんでした。ですので買取は拒否させて頂きます。」
「はぁ!?オイ、意味わかんねーぞ?なんでそれで買い取らねー決断になるんだ?」
「鑑定局が、この顧客情報を守りきれない可能性があります。」
「…あー。はぁ、わかった。そう言う事か…」
タリエルは買い取れ無いでは無くて、買い取らないと言っている。何故か?それは顧客を守る為だ。マリーナ達との会話でもあったように、<国宝級の師>の作った作品は戦争の原因にもなるらしい。一個人や団体を超えて、領地同士もしくは国同士の争いの産まれる『可能性』を、公式な買取記録として残すと言う事がどれ程危険な事か。この情報は簡単に人を死に至らしめる。だから買い取らないと、タリエルは止めてくれたのだ。
「…すまん!タリエル、ありがとう。」
「こちらこそ。今回、この様な残念な結果になりましたがまた是非とも次の取引をお待ちしています。」
深くゆっくりとタリエルはお辞儀して、柔らかく微笑んだ。何故かその営業スマイルに勇者はドキッとしてしまう。
Aパート終了→
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