ドラゴン好きな人いる? 〜災竜の異世界紀行〜

兎鼡槻

第123頁目 全知はあの地にあるんですかぁ?

 暗闇の中、時折『エーォ』と鳴くウィールに驚かされながら俺は香辛料の使い道を考えているのだった。

「(期限が伸ばせる? 意外と融通利くんだな。)」
「(うーん……まぁね。)」
「(なら今から一通り浮かんだ方法を書き留めておいてくれ。あと、あらかじめ言っておくけど、全部が使えるかはわからないんだよ。この中のどれかが使えたらいいなって感じだな。そこはお前らが工夫して頑張れ。)」
「(うんうん。)」
「(まずはパリツィンな。ここでは汁物は作らないのか?)」

 そう、一番手はキムチ鍋っぽい奴だ。キムチの作り方なんて知らないが、前世ではトムヤムクン然り辛い汁物というのが全世界で親しまれていた。石窯の使い方なんてわからない。なら、普通の竈料理を食わせてやればいいのだ。

「(スープはあんまり作らないみたい。竜人種の口の形ならスープは飲みにくいだろうしね。)」
「(そ、そうか……それもそうだな。)」

 俺がオクルスで食べたスープ料理を苦に思わなかったのは匙みたいな食器があったからだ。しかし、あれは不変種用の食器なのである。ここにもあるとは限らないだろう。それでも……。

「(うん。なら普及させればいい。無いってことはチャンスの可能性もある。パリツィンを使ったスープ料理を作るんだ! 味さえ良ければ道具なんてすぐ揃えるだろ。)」
「(それだけ美味しかったらだけどね。)」
「(それと、パリツィンを風呂に入れると良く温まるって……聞いた。)」
「(それも角狼族の村で?)」
「(あぁ。)」
「(そんな事あったっけ?)」
「(あったんだよ! それとえっとモピーだっけ?)」

 もう今回は多少疑われても仕方ないだろう。俺がそれだけ色々関心を持ってたって事で納得して欲しい。

「(モッピィね。)」
「(それはちょっと使い道がわからん。でも、生魚と一緒に食べたら美味しそうだと思う。)」

 もし、それが本当に山葵わさびの辛さを持つ香辛料なら絶対いつか確保したい。それと醤油と魚さえあれば俺の理想的な食事だよ……。

「(生魚ってそれクロロの趣味でしょ。)」
「(そうだけど本当に合うと思うからモッピィと塩で生魚食うと美味いって伝えといてくれ。)」
「(……試すのは自由だし別にいいけど。)」

 モッピィは覚えておいていつか俺も試食しよう。でも、簡単に手に入る代物なんだろうか。

「(それで……なんだっけ?)」
「(メガッサとハチュネ。)」
「(そうだそうだ。酒に臭いを付けるやつと臭み取りだろ?)」
「(うん。)」
「(酒の奴はそのまま使ってだな。酒蒸しにすればいいと思う。特に海鮮物はこれで美味しく食べられると思うぞ。そんで……もう一つがよくわかんないんだよな……優しい辛みか……。)」

 パリツィン程辛くないんだっけか。そんなのパリツィンでいいじゃんな? 辛さの種類が違うのか? パリツィンを楽しんでる種族が弱い辛さなんて何に……。

「(そのあんまり辛くない奴ってもうちょっと情報ないか?)」
「(ハチュネ? ハチュネは臭いも強くなくて保存料になるから昔から親しまれてるんだよね。それと、体の不調を改善するって事で生薬としても有名かな。なんでもその……ゃくの効果とかがあるとか……。)」
「(ん? なんだって?)」
「(と、とにかく、健康にいいの!)」
「(お、おう。そんな勢いよく言わんでも……。)」
「(もう!)」

 プリプリと突然不機嫌な雰囲気を醸し出すミィはそっとしておき、教えて貰った情報を整理して用法を考える。健康に良くて……生薬……少し辛い……………………あっ。

 生姜?

 厳密には完全な別物なんだろうが、生姜をイメージしたら唐辛子とは違った使い方が頭に浮かんでくる。生姜、つまりジンジャーだろ。魚好きとしてはやっぱりガリ……って言いたいけどあれは食感も大事だからな。形状によっては無理か。ならジンジャーエールとか、ジンジャークッキーとかどうだろう。生姜焼きを推したい所だけど、多分似たような使い方は既にされている可能性が高い。なら甘味に使うのが一番だ。お菓子とかがそんなに研究されてないと助かるんだが……まぁ提案するだけなら”タダ”だろう。

「(ハチュネでお菓子を作れ。)」
「(え? 臭み取りなんだよ?)」
「(わかってるよ。でも、一度熱を通して辛みを出すんだ。それをお菓子に使う。えっと……これは角狼族の子供達が好きだったお菓子なんだが、何かの穀物を粉末状にして砂糖と合わせ、ベスの乳で纏めてよくこねる。こん時に一度火を通したハチュネとを混ぜ込むんだ。そして、それを小さく千切って平たい小石みたいな形にしたら石窯で丁度いい時間だけ焼く。時間はわからん。いっぱい作って正解を探せ。)」

 クッキーとかビスケットってそんな感じで作れるよな? あってるよな?

「(そんなの食べてた? 作り方まで知ってるって事は誰かに聞いたんだよね?)」
「(角狼族の母親の一人だよ。覚えてないのか?)」
「(えー……? 全然覚えてない。)」
「(いつも起きてるってのは嘘なんじゃないか? あんなに懇切丁寧に教えてくれたのによぉ。)」
「(そんな事ないもん! 私すっごい記憶力良いんだからね!?)」
「(いいからいいから。ちゃんとしっかり伝えてくれ。)」
「(わかってるってば! 絶対そんな事なかったよぉー……。)」

 ぶつぶつ言いながらも今頃マレフィムに俺が言った内容を伝えてくれているんだろう。しかし、角狼族の村は便利だなぁ。もう『全知はあの地にあり』って勢いで全部あそこで知った事にしてるけど……よくもまぁバレないもんだ。

 しかし、いい加減眠い。明日も朝から狩りに行く予定だってのに……でも、俺のこんな意見なんて役に立つのだろうか。鍋とか風呂とか結構大掛かりだし、モッピィはまともな案出せなかったし、メガッサは苦し紛れの案だし、ハチュネに至ってはかなり難易度が高い。砂糖や小麦粉の代わりが無かったらまずどうにもならない。せめてヒントくらいにでも……。


*****


 クロロさんから頂いた助言を細かく地面に風魔法で刻み記します。

「(全く、本当に何処からこんな考えが浮かぶのやら。)」
「(本当だよ! 絶対こんな方法とか教わってない!)」
「(四六時中クロロさんに貼り付いているミィさんさえ心当たりのない知識というのは不可解ですが、今回ばかりは感謝致しましょう。)」

 スープ料理に甘味に薬湯ですか……どれかは上手く行くと良いのですけど……。

「す、凄い。確かに薬湯という使い方がありましたね! 一度に結構な量を使うのでもし気に入っていただけたら……。」
「その調子ですよ、ルウィアさん。その悪い顔を忘れてはなりません。」
「わ、悪い顔!? そそ、そんな顔してないですよ!」
「だそうですよ?」
「ぅーん……ちょっとだけやらしい顔してたかも。」
「ア、アロゥロまでぇ!」
「あら、それが香辛料の使い方の案? 意外と思いつくものね。」
「えぇ、三人で考えればこんな物ですよ。」
「わー……アメリさん、すごーい。」
「本当に、アメリさんには敵わないですよ。」

 アロゥロさんとルウィアさんが私を称賛致しますが何処か違う意味も含まれているようでなりません。まぁ、いいでしょう。これを成功させれば二人共心の底から私を尊敬せざるを得ないはずです。

「ではですね。皆さんには食材の調達をお願いしたいと思います。この際、少し使いすぎてもその分は私達が再度買い取るから問題無いという意気込みで挑むのです。食料班と薬湯班に別れ、手が空いた方がもう片方を手伝うようにしましょう。」
「えっと……ぼ、僕は食料班ですかね。」
「私も!」
「いえ、アロゥロさんには土魔法で浴場を作って頂きたいです。私もお手伝い致しますので。」
「あ、そっか。それならわかった。」
「私も手伝うわよ?」
「助かります! それならばルウィアさんをサポートしていただけないでしょうか? 村の中で調達と言ってもやはり彼は……。」
「……そうね。そこまで差別意識の強い村ではないのだけれど、全員が全員そうとは言えないわ。その辺りは私がしっかりフォローしましょう。」
「お願いします。」
「あ、ありがとうございます。」

 一先ずは試す準備といったところですね。取り掛かるまでにかなり時間を使ってしまいました。

「それでは! 行動しま……。」
「待ちなさい。」
「っと……如何致しました?」

 早速動き始めようとした所をテレーゼァ様に止められてしまいました。期限を伸ばして頂けるとして今後の事を考えれば早く行動して損はございません。まだ何か気に留める事でもあると言うのでしょうか。

「皆今日は休みなさい。」
「な、何を仰られ……!」
「何もおかしな事は言ってないわ。貴方達は長旅をしてきたのよ? 無理をしても上手くいく可能性が減るだけよ。確かに色々気になる事はあるでしょうけど、ここで無理をして成功させるという経験は得るべきでないと思うの。」
「焦って失敗する可能性を増やすより確実に物事を運べ、という事ですか……。」
「そうね。別に危険な事をする訳ではないというのはわかってるわ。でも、商談は言葉一つ違えただけで思わぬ方向に転ぶものよ。」
「……ふむ。心情的には反論したい所ですが、私が今焦っているのは事実なのです。」
「アレだけ大口を叩いたのだから気持ちはわかるわ。お嬢さんにも良心があるはずだものね。」
「まぁ、そういう事です。」

 見栄を張れるのと罪悪感を感じないとはいうのは決して同じ意味ではなく、私は前者のみに該当致します。出来る限りの事をして利を全て掴み取りたい。そんな我儘を通そうとしてるのですからどうにか早く正確に終わらせたいと思ってしまうのです。

「それならわかるでしょう?」
「……そうですね。どうやら自分の意見を通せる材料がないようです。これが浮かばないというのも疲れている証拠でしょう。」
「まぁ。ふふっ、本当によく口が回るのね。」
「わ、笑わないでください。これでも悔しいのですからね。」
「そうね。ごめんなさい。」
「ルウィアさんとアロゥロさんも宜しいですか?」
「え、えぇ。寧ろそういった提案は僕がするべきでした……。何もかも引っ張って頂くばかりで、すみません……。」
「いつか貴方が引っ張ればいいのです。ですから、今は休む為にしっかりと寝ましょう。ね。アロゥロさん。」
「うん! 私もちょっと気疲れしてて今魔法使うの厳しいかなって思ってたから……。だから、明日頑張る為に頑張る!」
「えっと、頑張る為に休む、だよね?」
「そう! 頑張って寝なきゃ!」
「普通に寝て下さい。」

 と言った私が明日の事ばかり考えて中々寝付けなかったりしたのですが、それは特に関係ないですよね。






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