ドラゴン好きな人いる? 〜災竜の異世界紀行〜

兎鼡槻

第115頁目 人から預かった大切な鞄に干し肉入れたりします?

「もう終わった話だ。」
「許せない……! 終わってないと今言ったでしょう! 終わる時と言うのはこの手の中に再びあの子が飛び込んできた時、その時よッ!」

  村長様に案内された地下の一間にてテレーゼァ様の声とは到底思えない様な怒号が木霊します。私はルウィアさんやアロゥロさんと目を合わせて何事かと聞き耳を立てました。村長様に向けるテレーゼァ様の剣幕からしてただ事ではなさそうです。

「……やめろ。争う気等無い。」
「私だってないわ……! でも、貴方のその態度が気に入らない。全て諦観《ていかん》し、血の繋がった我が子すら感情の外へ押しやってしまうその態度が……!」
「言いたい事はわかるが、私にどうしろというのだ。悲観に暮れ、己の首を掻き切れとでも言うのか?」
「その気があったならそんな言葉を口にはしないでしょうね。」
「て、テレーゼァ様、落ち着いて下さい。」

 私の出る幕ではないというのはわかりますが、今にも村長様に襲いかかりそうなテレーゼァ様を見てはじっとしていられません。ここはどうにかして落ち着いて頂く他無いでしょう。しかし、凄まじい怒気です。どれだけの魔力が彼女のアストラルに含まれているのか知りませんが、まるでマナが震えているかの様ですよ。ちょ、ちょっと粗相をしてしまいそうです。

「ごめんなさいね。お嬢さん。やっぱり私はこの人と冷静に話す事は出来ないみたいだわ。」
「……一つ、言わせてくれ。」

 やはり、同じ刺鏖竜《しおうりゅう》族と言いますか……村長様もテレーゼァ様も全く引く気がありませんね。絶対に敵対なんてしたくありません。お願いですからどちらも余計な事は言わないで頂きたいです。ここから瞬時に逃げるには、もうなりふり構わず風を吹かすしかないでしょうか。いえ、そもそも今はミィさんがいるのです。それにファイさんもいます。このお二方に守って頂くしかないですね。なので、もしもの際は出口ではなくファイさんの近くに避難致しますか……。

「私は今、どんな挑発でも耐えられる自信が無いわよ。」
「気に障るかどうかは貴様が判断する事だ。その上で言わせて貰おう。私は……後悔している。」
「それは挑発と受け取っていいのかしら。」
「それは自由だと言ったはずだ。私は、我が子を失った事には納得している。しかし、テレーゼァ、貴様を失った事には納得していない。そういった結果も含めて私はやり方を間違えていたと言わざる得ないだろう。」
「……我が子を失った事に納得しているですって……? 名より先に死を与えておいて……?」
「テレーゼァ様、いけません。」
「……ッ……! わかってるわ。でも駄目、これ以上私が此処にいてゲラルを殺さずにいられる気がしない。私は村を出るわ。」

 テレーゼァ様はこれまでに見たこともない形相で洞穴の外へ歩き始めます。どうしましょう……。

「待つのだ。貴様の全てを理解する事は出来ないが、貴様を苛立たせているのは私だという事はわかる。私はここに居続ける事はない。せめてルウィアの傍にいる事はしてやってくれ。」

 慈悲深い言葉だと思います。自分が気に入らないなら失せるからルウィアさんの力になって欲しいと仰って下さったのです。それを聞いて何か思う所があったのかテレーゼァ様も歩みを止めます。ですが……。

「…………その温情を……何故自分の子には向けられなかったの……ッ!!」
「テレーゼァ様!?」

 目視等出来ませんでした。気付けばテレーゼァ様は村長様の首を跳ね飛ばそうと腰から生える刺翼で斬りつけていたのです。村長様は咄嗟に自身の刺翼で防ぎましたが、尋常ではない威力に弾き飛ばされてしまいました。しかし、村長様もテレーゼァ様から視線を外す事なく轍《わだち》を残しながら立ち続けています。とても人の為せる動きとは思えません……。

「ぐぅ……! 相変わらずの重い一撃だ……!」
「やはりデミ化していては踏ん張りが効かないわね。」
「ハハハッ……! デミ化をして支えも無くこれだけの力を出せるという事が驚嘆に値する……! やはり惜しいぞ……! 貴様を失くすなどあってはならない事だ……!」
「おやめになって下さい!」

 私がこの戦いに私如きが混ざっても擂《す》り潰されるだけです。

「……えぇ、そうね。やめるわ。見なさい、あの顔。私が暴れようとゲラルは喜ぶだけ。それに触れるのも不快よ。ゲラルを吹き飛ばせたおかげで少し冷静になれてよかったわ。」

 と、有り難い事に怒りを鎮めて下さるテレーゼァ様。あまりの急さに拍子抜けでしたが、その方が助かります。なにせ、このお二方は感情一つでここら一帯を蒸発させられる実力を持っているのですから……。

「刺鏖竜《しおうりゅう》族であるテレーゼァ様方が争えばこんな小さい洞穴なんて一溜まりもありませんよ!」
「わかってるわよ。だからやめたでしょう。でも……失せなさい。出来るだけここには来ないで。」
「なんだ。もう終わりなのか? しかし、目的が闘争でないのも確かだ。お前ら、騒がせて悪かったな。荷降ろしを続けてくれ。」

 あれだけの一撃を受けてもなお、余裕で物資を運ぶ村の方達に語りかける村長様。それすらも挑発に思えて私は気が気でありません。テレーゼァ様も……やはりこの通り苛ついておられます。

「聞いてるのかしら?」
「あぁ、聞いている。従って私は退散するとしよう。」

 ふぅ、助かりました。本当にどうなるかと思いましたよ。村長様は平気そうですけど、化物と化物が争っている姿は小動物からすればとても心臓に悪い……しかし、あの翼の使い方。やはりデミ化しても武器として使用するのですね。村長様の口ぶりからして支えを使えばより強力な一撃を打ち込めるのでしょう。せめて良い情報を得られたと思いたいですね。

「はぁ、本当に頭に来るわ……。」
「そ、村長様と仲が悪かったんですね。」

 蟀谷《こめかみ》を抑えてため息を吐くテレーゼァ様に恐る恐るといった様子で率直な感想を述べるアロゥロさん。

「……昔色々あったのよ。ルウィアはきっとあぁならないから安心しなさい。」
「な、なんでそこでルウィアが出てくるんですか!」
「はい?」
「それにルウィアは奥さんに嫌味なんて言わないよね?」
「え、お、奥さんって……えっと……。」
「ほら、遊んでないで村長様を納得させる方法を考えますよ!」
「ってそうですよ! ぼ、僕てっきり、アメリさんに何か考えがあってあんな事言ったんだと……。」
「あると言えばあります。まぁ、そう焦らずに…………アァ!?」

 そうです。私の今回の秘策に使うはずだったメモ……! 今クロロさんが持っているじゃないですか!!

「ど、どうしました?」
「秘策の為に必要な物……ソーゴさんが持っていますね……。」
「ソーゴさんの鞄ですか?」
「それなら取ってくればいいじゃないの。私が同伴するわ。」
「す、すみません。良い案があると言っておきながら……。」
「アメリさんの良い案ってなんなの?」
「実は友人から頂いた料理のメモがございまして……そこに香辛料の使い方が載っているはずなのです。」
「へぇー! そこから美味しい料理のレシピを見つけちゃおうって作戦なんだね!」
「明確なレシピがあるかはわかりませんが、ヒントにはなるのではないかと。」

 あのレシピに書いてあるのは食材の下処理や、基本的な知識ばかりでした。癖の強い香辛料の使い方にも少し触れられていたかとは思いますが……こればかりはしっかり読み返さないといけませんね。

「やっぱりどうするかはこれから考えるんですね……。でも、頑張るしかないですよね……!」

 ルウィアさんはやっと覚悟が決まったようです。そのやる気をいつでも出すべき時に出せればよいのですが……。

「勝手に契約をして悪かったとは思っています。ですが、こういう経験もするべきですよ。」
「それはアメリさんが言っちゃ駄目じゃないかな。」
「では、今のはアロゥロさんの言葉という事で。」
「そ、それもどうかと思う!」
「ほぉら、日が暮れる前に行くわよ。」
「は、はい!」

 既に洞穴から出ようとしているテレーゼァ様の後を追います。クロロさん、ミィさんが一緒に居るとは言え寂しそうにしてそうですし何か励ましの言葉でも掛けてきましょうか。


*****


「おかしいわね……? 誰もいないわ。」
「ですね。一体何が……。」
「ん? え? 誰……? ってマレ……ん゛ん゛ッ!!」
「ソーゴさん! 何処に行っていたのですか?」
「ゴホッゴホッ! ……えー……ぁー…………散歩。」
「狩りね。」

 テレーゼァ様がばっさりと断定します。何かそう言い切れる材料があるのでしょうか?

「えっ、いやっ、そんな……。」
「この臭いは古い血の臭いじゃないわ。狩りをしてはならないと……!」

 今日は怒ったテレーゼァ様をよく見ますね。ですが、先程の村長様に向けられた怒気とは全くと言っていいほど毛色が違います。先程のテレーゼァ様と言ったら……うぅ……。

「で、でも、狩ったのは本当に小さい奴で……! 騒がしてなんていないんですよ……!」
「それでも私は狩りはいけないと言ったでしょう! 何故言った傍から言いつけを破るのかしら?」
「でも、俺、障害があって……。」
「幾ら私が嘘を気にしないと言ってもそんな……!」
「テレーゼァ様、それは本当です。」
「……? 坊やに障害が……?」
「えぇ、彼は精神肥大症という障害を抱えています。」
「……聞いたこともないわね。」
「珍しい障害ですよ。精神が必要以上に肥大化していくという物です。」
「そんなの…………待ちなさい、まさかその精神の糧に食物が消費されていると言うの……?」
「その通りです。」
「……何故それを早く言わないの……!」
「ご、ごめんなさい……!」

 結局怒る事には変わりない……と言いたいですが、クロロさんに詰め寄るテレーゼァ様から命の危険を感じる様な恐ろしさは全く感じません。にしても、今日はいつもよりテレーゼァ様の感情の起伏が激しい気がします。やはりあの村長様と話した影響なのでしょうか……。

「全く……! 危うく坊やを殺す所だったわ!」
「いえ、小さいベスを狩ってれば多少は保つので……。」
「多少じゃ駄目よ。不摂生はマテリアルもアストラルも蝕むもの。ちゃんと食べてちゃんと寝なさい。」
「は、はい。」
「なら、騒ぎを起こさなければ狩りはしていいでしょう。……何かあれば私が庇うわ。」
「ごめんなさい……。」
「いい? 派手な魔法を使っては駄目よ。静かに賢く息の根を止めなさい。」
「はい……。」

 デミ化していてもしっかりと反省しなくてはならないという圧が伝わっているのでしょう。クロロさんは私やミィさんに対しての様に軽々しく反抗的な態度を取りません。少し癪《しゃく》に障りますが、これも貫禄という物なのでしょう。……いつかクロロさんも私の貫禄に跪《ひざまず》く日が来ると思います。

「にしてもよくこの方がテレーゼァ様だとわかりましたね。」
「え? そりゃあわかるだろ。翼とかまんまだし……ってかもう戻ってきたのか? ルウィア達は?」
「まだ色々とやることがあります。なので、アニーさんのレシピを頂きたいのです。」
「これか? なら渡すけど、紙だけ持ってっても無くしそうだし鞄ごと持ってけよ。」
「大事な物なら私が持ちましょう。」
「これはアメリの大事な友達から貰った鞄なんですよ。」
「そ、ソーゴさんっ!」
「あら。なら丁重に扱わないと駄目ね。」

 そんな余計な事を言わずに黙って渡してくださいよ! もう! なんてちょっとした腹立たしさを心の奥にしまい込んだのですが、テレーゼァ様が鞄の中を漁り始めました。私の言っていたレシピを探しているのでしょう。
 
「ん? これは……干し肉か。」
「な!? なんて物をしまってるんですか! 臭いが移ってしまいます! ……あぁ! もう薄っすらと臭いがするじゃないですか!」
「だ、大丈夫だって。今度香草でも詰めておくからよ。」
「香草って香辛料の事じゃないですよね?? 下手な誤魔化しなんてしたら流石の私も怒りますからね!?」
「もう怒ってるじゃねえか……。」
「これだからソーゴさんに持たせるのは嫌だったんですよ! 狩りの時は血を着けないよう置いていったりと配慮していたと思えばこれですもんね! 行きましょう! テレーゼァ様! 消臭効果のある香辛料があると聞いた事もあります! のんびりしていたら臭いが消えなくなってしまいますよ!」

 大事な鞄なのに! なんで彼にはこうもデリカシーが無いのでしょう! 普通人から預かった鞄に干し肉を入れますか?? 神経を疑います!

「ふぅ……坊や、後で謝っておきなさいね。」
「わ、わかってますよ。」
「では、また何かあれば来るわ。騒ぎを起こしてはいけませんからね。」
「わかってますってば!」

 少しであれば香辛料は使わせて頂けるでしょう。……全く、クロロさんの心配なんかして損をしました。





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