ドラゴン好きな人いる? 〜災竜の異世界紀行〜

兎鼡槻

第62話

「ふぅ……無事に着いてよかったです。」
「ふーん。本当に通行料取られないんだな。」
「やはりオクルスとは全く規模が違いますね。」


俺達は橋を渡り終えてテラなんとかって国に着き、橋からぶちまけたような街をゆっくりと進んでいた。ここは『タムタム』という街らしいのだが、やはりオクルスと比べたら小さい街に思えてしまう。というか、実際にオクルスよりは小さいんだけど。


だが、街の活気は決してオクルスに劣っているとは言えない。上品と呼べるモノではないが、目にする人はどいつもこいつも覇気に満ちている様に見える。と言ってもあれかな。可変種ばかりだから表情がよくわかってないだけかもしれない。それに、なんだか皆こっちを見ているような……。


「しかし、この街も行商で賑わっていますね。」
「お、オクルスで仕入れた物をここですぐに売り出すという方もいますから。」
「なるほど。リスクを背負ってあの距離を何度も行き来するのはどうかと思いますが、それでもやっていけてる人がいるのですね。」
「ぼ、僕も父さんや母さんがいない状態で渡ったのは初めてですが……あそこを平然と何度も往来する人の気がしれません……。」


メンタルを鍛えるべくは俺よりルウィアなんじゃないのかな。こいつは謙虚というよりオドオドしてるだけに見えるし……でも、急に親の庇護下から放り出されたらそんなもんか……俺も最初はきつかったもんな……。


「引き車関係の店が多いですね。見てください。あんなに沢山エカゴットと……う、ウナァ!?」
「ど、どうしたんですか!?」


マレフィムはウナの姿に驚いて俺の背中に隠れてしまう。そして、驚いた声に驚くルウィア。うーん……これはセーフかな。俺も隣の人が大声出したらビクッてするし。ってかあれがウナなのか。クロウ達同じくらいの犬だな。でも……なんだろう……違和感があるな……歩き方が……おかしい? でも何がおかしいのかは明確に言えない。もやもやするなぁ……覚えとこ。歩く姿を見てモヤモヤするのがウナな。そうならないのが角狼族。って角があるから見間違えねえか。アホだな。


「何をニヤニヤしてるんです……?」
「え? してた?」
「してました。も、もう、ウナは通り過ぎましたか?」
「あぁ、もういないぞ。」
「あ、アメリさんはウナが苦手なんですね。」
「……ま、まぁ、ほんの少しですけどね。」
「あれでほんの少しかよ。」
「そ、それよりもですよ。ここに引き車関係の店が多いのは何か理由が?」


マレフィムが言っている通り、先程から過ぎる店過ぎる店は木材加工、車輪、牽引してくれるベス等と確かに引き車に関係のありそうな商品を取り扱っている店が多い。


「た、『タムタム』はですね。引き車レースが盛んなんです。」
「へぇ! 面白そうだな!」
「見には行きませんからね? 恐らくウナもいるでしょうし……。」


ウナが恐いだけじゃねえか! 一応ルウィアの護衛って事だから我侭は言わねぇけどさ……いつかまた此処に来たら見てみたいなぁ。


「あっ、そうじゃん! 帰り! 帰り道ならいいだろ?」
「わ、私は行きませんからね!?」
「なぁ、ルウィア。まさかエカゴットとウナが競争する訳じゃねえよな?」
「そ、そうですね。えっと、エカゴットとウナは競技が分けられてて、その上、厳しいレギュレーションもあるって父さんから聞いた事があります。」
「ほら、エカゴットのレースならいいだろ?」
「ま、まぁ……それなら……。」
「(はぁ……もし旅の途中でウナの群れが襲ってきたら私が一人で対処するね。)」
「(しかないな。)」


でも嫌いなら襲われた時遠慮なくぶっ殺せるんじゃないか? ベスじゃないかもー! なんて考えずに済む……ってそれはないか。


「村がどの方向かはわかってるんですよね?」
「え、えぇ。ですが、今はこの引き車を停められる場所を探しています。」
「どうしてですか?」
「その……や、宿代が無いので……初日から野宿になってしまい申し訳ないんですけど……。」
「宿代くらい私が出しますよ。」
「い、いえ! そ、そこまでしてもらう訳には! そ、それに、引き車を停めるガレージ代金等も掛かりますし……。」


確かにこの引き車をそこら辺に放置して宿屋に泊まるってのは出来ないよな。それに合わせて宿屋もガレージを設置してんのか。商人ってのは賢いなぁ。


「では、どうするのですか?」
「今日は……ガレージだけ借りて夜を越そうと思います。そこで今後の具体的な方針を話し合いたい……です。」
「ガレージか。野宿じゃないだけいいんじゃないか? 俺はそこまで野宿とか気にならないし。」
「す、すみません……本当に……。」
「謝んなって。気にならないって言ってるだろ。」


それにガレージにちょっと興味もあるしな。引き車の部品とかが色々あったりするんだろうか。別にそういうのに詳しくは無いけどギミック的なのはちょっと見てみたくあるし、この引き車を改良する知識とかは欲しい。これから長い時間お世話になる訳だしな。


「あ、こ、ここです。」


その言葉と同時に俺達の乗る引き車は右折して停止する。どうやらこの目の前にあるとんでもなく長い屋舎がガレージらしい。ルウィアは引き車を降りて屋舎の一番端にあるタバコ屋の様な小さい窓口に駆けて行く。あそこで一日分の料金を支払うんだろうな。ここは宿屋じゃなくてガレージ専門店なのかも。ん? なんか中の獣人種のおっちゃんがこっちを指差してるな。何かあったんだろうか。そんでルウィアがなんか説明してる。おっ、虚石出した。普通に鍵を借りられたようだな。


「お、お待たせしました!」
「何かあったのか?」
「は、はい。あの、ソーゴさんが貴族の方かと聞かれまして……。」
「俺が? 貴族? もしかして、竜人種だからか?」
「は、はい。一応、否定はしたんですけど……違うんですよね……?」
「おう。生憎生まれも育ちも良いとは言えないぜ。」
「そ、そうですか。貴族では……ないですよね。それじゃあ、引き車、ガレージに入れちゃいますね……!」
「あぁ。」


貴族ねぇ……さっきからすれ違いざまに俺がジロジロ見られてたのはそれが原因か? 貴族ってそうほいほい出歩いてるもんなのかよ。でも4つの国がくっついてるんだっけか……すっごい馬鹿みたいな計算だけど、それって王や貴族も4倍って事だもんな。それなら出歩いてても……あれ?国土ってどっちが広いんだ?


「なぁ、帝国って4つの国から出来てるならやっぱり国土も広いのか?」
「国”土”という意味ならあまり変わらないですね。しかし、魚人種の縄張りである海域を合わせたら帝国の方が広いと言えます。」
「魚人種かぁ。それは卑怯だな。」


よく考えれば可変種って陸海空を余裕で全制覇出来るじゃん。全動物VS人間みたいな戦いだろ? それなのにどうやって王国は勝ち残ってるんだろうか。もしかしてドダンガイみたいなのが沢山いたのかなぁ。


「卑怯ではないですよ。恐らく可変種の多様さによる優位性を踏まえてそう評価されてるのかもしれませんが、不変種の扱う『神巧学』はそれに勝るとも劣りません。」
「『神巧学』? それは魔法かなんかか?」
「魔法とは似て非なる物ですね。帝国、というかイデ派には『魔巧学』と呼ばれています。星欠石等、魔法を応用する技術を突き詰めていく学問です。それにより生み出された『神巧戎具』は多くの可変種の命を奪ったと記録に残されています。」
「技術ねぇ。確かにオクルスってよくわからない道具とかあったなぁ。」


高鷲族の村とかにもあったけど、化学っぽい何かが研究されてるというのはそこかしこで見て取れた。まさか大量破壊兵器まであるとは思わなかったけど……だって魔法でいいじゃんって思うし。


「それでも流石に敵わないだろ。陸海空の全てから襲えるんだぜ?」
「現に王国は未だ健在でしょう。それに、帝国はとても強大な勢力でしたが、寄せ集めという事もあって内部であまり連携が取れなかったそうですよ?」
「なんだそれ。あほくさ。」
「種族が違えば生態も常識も異なるものです。仕方ありませんよ。」


要するに仲間割れしてマトモに戦えなかったって事じゃねえか。情けねえなぁ。


「えっと……ここですね。」


そう言ってルウィアは引き車を停めた。着いた場所は木簡シャッターの付いた、少しボロいログハウス調のガレージ。そのシンプルな形と構造はなるべくしてなったんだろうな。という感想しか生まれない。デザインに拘らなければ大体は四角になるさ。


ルウィアは慣れない手付きで鍵を開けた。そして、シャッターの横にある歯車に着いた取っ手を回していく。徐々に開いていくシャッター。中には……なーんもないな。道具すらも置いてねえ。期待して損した……。


そこにルウィアはエカゴットを誘導して引き車ごと引き入れる。とりあえず荷台から降りるか……よっと。ふと空を見上げればもう夕方だ。


「なぁ、飯どうする?」
「……ど、どうしましょう……。」
「今日は私がご馳走しますよ。」
「そ、そんな……申し訳ないです……!」
「アメリ、聞いて無かったけどお金って残りどれくらいなんだ?」


その質問を受けて、マレフィムは自身の鞄から虚石を取り出し確認する。


「残り60万ダリル程ですね。そういえばラブラに通貨を替えた方がいいですか?」
「ろ、60万!? け、結構な大金じゃないですか!?」


マレフィムから所持残額を聞いた途端、急にガレージ内をキョロキョロと見回すルウィア。そして、声を落としてマレフィムに忠告し始める。


「(そ、そんな大金持ってるって大声で公言しない方がいいですよ。)」
「(確かに、少し無用心でしたね。気を付けます。)」
「それって高いのか?」
「と、とんでもない大金って程ではないですけど……ふ、普通なら持ち歩こうとは思わない額ですね。」


この世界の相場がわからんからなぁ。普通なら持ち歩かない額……6万円くらいか? ゲーム機買う時くらいしかそんな大金持ち歩かないしな。でも、ルウィアがあんな警戒するくらいだからもう少しするのかもしれない。10万円くらいかも。でもそれじゃあちょっと今後旅するには心許無い額かもな……節約しよ……。


「す、少しだけ、ラブラには換金した方がいいかもしれないです。」
「ですよね。」
「ラブラってあれか? 帝国の通貨的な……。」
「そうですね。100ダリルが大体120ラブラくらいになります。」
「うえっ……めんどくさそう……。」


経済とか数学とかは何年経っても好きになれない。この世界にも学校ってあんのかなぁ。俺は行きたくないけど、この世界の数学って凄い進んでそうだから通いたくねえな。四則演算を披露するだけで天才呼ばわりしてくれるならちょっとだけ通いたいけど。先生はミィとマレフィムだけで充分だ。


「で、でしたら、今から両替に行きましょうか。」
「そうですね。そのついでに何か食べられる物を買いましょう。」
「やったぜ!」
「ぼ、僕のは自分で払いますよ。」
「その少ないお金は非常用に持っておいて下さい。」
「で、でも……。」
「……それなら、これが売れたら少しだけ分け前をいただきましょう。それまでは貸しに致します。」
「……! そ、そうしてください! 絶対……! 絶対返しますので……!」


オクルスの裏通りで育ってきた割りには義理堅い奴だよなぁ。環境が悪いと性格も歪むって聞くんだけど……もしかしてルウィアってただ貧乏だっただけ? いや、それを悪い環境って言うんじゃないのか? よっぽどマトモな親だったんだろうなぁ。

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