神が遊んだ不完全な世界

田所舎人

主人公(仮)と研究資料

 圭介は渡された光を放つ魔具を片手に持ち、全く光がない書庫を進む。書庫は不思議と埃が積もっておらず、きちんと手が行き届いているようだった。
 圭介が歩いている書庫で閲覧可能な書籍は様々だ。料理のレシピ本や剣術の指南書、生命の成り立ちや魔素の流れといった様々なジャンルが並べ置かれている。手は行き届いているが、ジャンル別に配置されていないことに圭介は首を捻る。
『美味しい肉じゃがの作り方』『鉱物の不思議』『全ての源は魔素である』『弐之太刀不要』『正しいお茶の飲み方』全く関連性が無いものが並べられていた。
 更に進むと下りの階段を発見する。階段はどこまでも続いており、目的の場所に辿り着くにはまだまだ時間が掛かりそうだった。


 圭介の目的の書庫には『研究資料:フランシス・ノーブル・スクウェア』と表記がされ、一つの区画となっていた。
 圭介は研究資料や参考資料、作成日の順に目を通していく。ユニから貰った前情報の通り、フランは医術や生命に関する研究を積極的に行っているようだ。並べられた資料の題名は『魔素と再生』『生と死の定義』『老いと魔素の関係』『先天的魔抵抗力』『魔素分与と拒否反応』『魔素の純化』等といった様々な研究を行っていた。
 圭介は『魔素と再生』という資料を手に取り斜め読みをする。
『自然治癒と魔的治癒には大きな隔たりがある。自然治癒とは時間を掛け治すということは一般的に知られており、魔的治癒も自然治癒の延長線上にあると考えられていた。しかし、魔的治癒とは自然治癒とはかけ離れていたものだった。魔的治癒は体内魔素を負傷部に集中させることで肉体的損傷を繕うということは経験的に知られてきた。しかし、再生部を確認すると自然治癒とは異なる現象が起こっている。自然治癒の場合は傷痕が残る。しかし、魔的治癒の場合、傷痕が見られない。
私は健康児と生まれつき片腕のない奇形児で実験を行った。健康児の両腕を肩口から切り落とし、肩口からの再生を試みる。結果は元通りとなり傷痕も見られない。奇形児の場合も同様に行う。結果は片腕は再生するが、もう片方は再生しない。このことから、魔的治癒を施した場合、魂の情報から肉体のあるべき姿を呼び起こし、再生していると結論づけた』
圭介は次に『先天的魔抵抗力』といった本を手に取る。
『生物は先天的に魔術に対する抵抗力を持つ。例えば、Ⅰという人物がⅡという人物に運動魔術で動かそうとする。しかし、ⅡはⅠの魔術的作用を無意識的に抵抗する。この抵抗力は非常に強力である。例えⅠがⅡよりも優れた魔術者だとしても、Ⅱは無意識に抵抗することができる。ただし、ⅠがAという物体に運動魔術を行使し、AをⅡに衝突させることで負傷させることは可能である。このことから生物を効果的に負傷させるには魔術を間接的に作用させることが有効である』
 といった内容だ。次に圭介は魔素の純化という本を手に取る。
『魔的治療を他人に施す場合、魔素を純化させる必要がある。供給する魔素が対象と異なる場合、対象は無意識に抵抗し、有効的治療は行われない。このとき、魔素を自然界に存在する純粋な魔素へと変質させ供給することで対象の体内魔素を水増しすることができる。ただし、供給する魔素は純粋なため対象の魔素を薄めるように増え、肉体的損傷は再生させることができるが全快にはならない』
 といった内容。
 圭介は次々に資料を手に取る。経験的に知っているものや今まで知らなかっものなど様々だった。そして、本棚に納められている中でも最新の研究内容が『先天的魔抵抗力の減退』と題されたものだ。それを手に取り読み進める。
『魔抵抗が起こるのは術者と被術者が保有する魔素の相違である。ならば、両者の魔素を近しいものにすれば魔抵抗は発生しないのではないか。その疑問から実験を行った。術者の血液を被術者へ輸血することで部分的に術者と被術者が近しい魔素を保有することにより、魔抵抗力を弱めることができる可能性がある。といったものだった。
実験には数十といった被検体が浪費されたが、実験は成功した。この実験から分かったことは輸血を行うに当たって術者と被術者の適合性といった問題があった。適合しなければ、被検体は拒否反応を示し、死に至った。
術者と被術者との適合性は依然として不明ではあるが、適合した場合、被術者の血液を術者の血液に入れ替えることで術者からの干渉への抵抗力は減退する』
大まかながら、そのような内容が記載されていた。そして、最後のページには魔術に抵抗をすることができず、玩具のように扱われた実験成功の被検体の末路が記載されていた。


 ケア達は地下図書館の浅い階で様々な書籍に触れていた。特にユニは目の色を変えて力の限り書籍を積み上げては机に運び、次々の目を通していった。カンナは児童向けの童話等を好み、ニーナと共に楽しそうな本を探していた。ケアと凛は本よりも珍しい地下図書館の館内を歩き回っていた。
「さすが学術都市の地下図書館。尋常ならざる書籍の数ですね」
 凛は本棚に規則正しく並べられた書籍の背表紙を見ながら呟く。
「この図書館はレスリックの歴史から見れば、とても重要な施設なんです」
「歴史ですか?」
「ええ、随分昔の話です。この地には一人の魔術師がいました。魔術師は地下室でひたすら研究を行っていました。そんな魔術師の下に弟子を志願する魔術師が次々に集まってきました。志願する魔術師たちは自らの財産を全て弟子入りのために使い、教本や魔術書は自然とこの地に集まりました。そして、人が集まるところでは行商が行われるようになりました。行商が始まれば自然と交易所ができます。そして、商売が行われれば税を取るため役人がやってくる。そうすると役人の家族もこちらに移転する。役人がやってくれば衛兵が派遣される。そうすると衛兵の家族もこちらにやってくる。そういった連鎖から街ができました」
「街があるから人が来るのではなく、人がいるところが街になるんですね」
「そういうことです。そして、面白い話ですが、この街の原点。無名の魔術師の研究所の場所は現在、失われています」
「それはおかしいですね。話ではこの図書館は街中の地下に張り巡らされている。だとすると、研究所の場所は明らかになってるはずなのでは?」
 凛は不思議そうに顎に手をあて思案する。
「普通に考えればそう思います。しかし、実際に見つかってはいないんです。噂では研究所はどこかに移転した。研究所は異なる世界に飛ばされた。研究所はもっと奥深くにある。そして、学長だけが研究所の場所を知っている。といった憶測と噂が飛び交い、どれが本当の話なのか分からなくなっています」
「その研究所には何か重要なものが保管されているんでしょうか?」
「それは分かりません。ただ、その無名の魔術師の研究内容が保管されている可能性は十分ありますね。世界中から魔術師が集まるほどの研究です。よほど素晴らしい研究だったのだと思いますよ」
 ケアはどこか含みのある笑みを浮かべる。それとは対照的に難しい表情を浮かべる凛は考えることを諦めた凛は本棚に目を通す。そこには『二之太刀不要』というタイトルの本があった。手に取って文字を追う。
「どうかしましたか?」
 ケアが凛に問いかける。
「……こんな下らない内容まで取り扱うんですね」
 本には絶対折れない重い剣と神速の腕があれば全てを切断できると記していた。
「世界の全ての書籍を収集していると謳われているだけはあります」
 珍しく笑みを浮かべた凛は背表紙に『二之太刀不要 フロスト著』と記してある本を本棚に戻す。



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