神が遊んだ不完全な世界

田所舎人

主人公(仮)とユニ

 ユニの後についていく圭介と凛。不思議と圭介が視線を感じるのは、きっと美人二人の同行者のせいだろう。片方は獲物を狩る猛禽類を彷彿とさせる赤髪の美女。もう片方は氷細工のような繊細な肌を持った金髪碧眼の美女。
結った赤髪を揺らすユニの堂々とした歩みは人通りの多い街路に一筋の人垣を作り、滞ることなく足を進められる。
「ところでユニさんはレスリックに何しにきたんですか?」
 圭介は少し早足でユニに近寄り肩を並べる。
「何をしにきたかって? この時期にこの街を訪れる者に聞く意味があるのか?」
 ここは学術都市レスリックで今は学術発表会を二日前に控えた日だ。
「それはそうですけど……。誰の講演を聴きに来たのか教えてくださいよ」
「そうだな。講演を聴く時間があるなら、『ハイオク』・『ゲシュタル』・『フラン』この三人の講演は間違いなくタメになるぞ」
 ハイオクはもちろんあのハイオクのことだろう。
「ゲシュタルさんとフランさんってどんな方なんですか?」
「ゲシュタルというのは魔術書の研究者だ。文字に魔素を込め魔術を発動させたり、発動した魔術を効率良く運用したりする研究をやってる。本を魔道具にして運用することにも長けている。そして、フランは医術の使い手で医術が人体に及ぼす影響というものを研究している。まぁいかがわしい研究もしているそうで悪い噂の絶えない女だよ。しかしながら、フランの研究のおかげで人命が助かってることも事実なんだ。だから悪い噂はたつが、フランのことを根から嫌ってる奴ってのはそんなにいないんだ」
「やっぱり、ああいうところの人って変わってる人が多いですからね」
「よく分かってるじゃないか。変人や偏屈なやつが集まった結果、こんな街ができたようなもんだからな。そんなところに集まる私たちも変人ってことになるがな」
 ユニは快活に笑いながら裏路地に入る。
「たぶん、ここらへんにいると思うんだけどな」
 そう言いながら突き当たりで何かを探すように頭を動かす。
「おお! 久しぶりだな。ユニ!」
 角の向こう側から中年ぐらいの男の声が聞こえてくる。
「おお、ラデス! 久しぶりだな。どうだ? ここ最近は?」
 ユニそう言いながら角向こうに消える。それを追う圭介と凛。角の向こう側では二十人ぐらいの小汚い男たちが薪を燃やし暖を取りながらユニを歓迎していた。
「この時期は人が多くてな。寄付金もたんまり入るせいか上質のパンが食えるぜ。やっぱり神様、教会様、学長様ってなもんだぜ」
 ラデスは圭介と凛がそこにいることに気づいたのか二人に目配せをする。
「こいつらはユニの連れか?」
「ああ、人探しで付き合ってやってるんだ」
 圭介と凛は小さく頭を垂れる。
「俺は野村圭介と言います。テイラーという人物を探してるんです」
 そういうと、ラデスは「テイラー? テイラーって奴を知ってるか?」と仲間に問いかけるが、好ましい解答は得られなかった。
「ラデス。ここ最近、変わった話は聞かなかったか? 密入国とか密輸入とかの話」
「そうだな……。確か、ルクスのやつが何か言ってたな。おーい! ルクス。ちょっと来いよ」
 ラデスは大きな声で呼ぶとラデスより少し若い30代程の男性が現れた。髪は霞色で彫りの深い顔立ち。着ている服は古く年季が入っている。
「なんですか? ラデスさん」
 ルクスは右手にちぎられたパンを持っており、口周りが油で光っていた。
「最近、密輸や密入国の話をしてただろ。詳しく教えろよ」
 ラデスがそう言うとルクスは「ああ、あの話ですね」と切り出すといくつか話してくれた。それは次のとおり。
1.数日前、南の衛兵がある人物に買収された。その後、NCBが出回っているという話。
2.奴隷商が十数人の奴隷を輸入したが、人数が合わないという話。
3.住民が何人か行方知れずになっている。
とのこと。
「ユニさん。NCBってなんですか?」
「NCBってのは違法的に作られた薬のことだよ。魔薬の一種でな。『産声をあげない胎児』の意味から来てる」
「……」
 凛は少しだけ眉を顰めた。
「……あんまり耳障りの良い話ではなさそうですね」
 圭介はそれだけを零した。
「奴隷の数が合わないってのはいつものことか」
「いつもの手口ですよ。上のもんはわかってるくせにいまだに規制なんかしやしない。きっと金を握らされてるんだろうさ」
「しかし、その中にテイラーってやつがいてもおかしくないな」
 ルクスとユニがこの街の上層部について思うところを話し合っている。
「とりあえず、この街で行方不明になってる人達の何人かはテイラーの犠牲になってるのかもしれませんね」
「ルクス、もしかして最近お前たちの中の何人か顔を見せない奴いないか?」
「そういえば、ルーメンさんとカンデラさんの姿を最近見かけませんね」
 その言葉を発したとたん、ルクスはその意味を察して顔色が青くなる。
「ユニさん……もしかしてルーメンさんとカンデラさんが犠牲に?」
「それはまだ分からん。この時期だ。もしかしたらいい仕事にありついたのかもしれないし、運が悪ければ凍死したのかもしれないな。ともかくだ。怪しい人物やおかしな事件があったら私に知らせろ。いつもの方法で頼むよ」
「分かりました」
「これは礼金だ。あとは任せたぞ」
 そういうとユニは圭介と凛の手を取り路地裏から出る。
「ユニさん。大丈夫なんですかね?」
 圭介が少し不安を感じつつもユニに尋ねる。
「大丈夫だろうさ。情報ってのはああいうやつらのほうが握ってるもんさ。それよりも圭介、まだ時間はあるか?」
「ええ、大丈夫ですけど? どうかしました?」
「若草道場で修行したんだろ? 少し手合わせするぞ」
「ええ!?」
 剣を握って僅か2ヶ月の圭介にユニは腕前を見せろというのだ。
「魔術も使ってもいいし、なんなら凛と二人がかりでもいいぞ?」
「いや……あの……それはちょっと……」
「お前に拒否権なんてあるとでも思ってるのか?」
 そういうとユニは圭介の手首をおもいっきり捻る。
「痛いですって!! 分かりましたから! 放してください!!」
「よしよし、従順な奴は好きだぞー。凛もどうだ?」
「そうですね。是非お手合わせを願います」
「じゃあ、迷惑にならないところに移動するか」
 そういうとユニは圭介と凛を抱えて大きく跳躍する。
「最短距離で行くぞ」
 冷たい大気を感じながら郊外へと移動するのだった。



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