神が遊んだ不完全な世界

田所舎人

主人公(仮)と聞き込み調査

 街に到着した圭介と凛はユズルの情報を頼りに薬や医療器具を扱う店を訪ねて聞いてみたが、この時期は人通りが多く客の顔を覚えているような人はいなかった。「このような客は来ていないか?」と問えば「そんな客に見覚えはない」と答える。
 途方に暮れた俺たちは昼食を取りながら今後の行動を決めることにした。
「凛、とりあえず目立つ店には全て入った。だけどテイラーの姿を見たり、覚えている人間はいなかった。ユズルから聞いた話によると大衆が化学薬品の臭いがするらしいけど、薬を売ってる店なんだ。臭いがしてるのが当たり前なんだよ」
 溜息をつきながら、昼食に箸を伸ばす。今日の昼食は大衆食堂で注文したご飯と味噌汁、主菜の鳥肉の揚げ物と新鮮な葉物のおひたし。今回の昼食だが、個人的には当たりだ。鳥肉はやや小さいが食べやすく、表面に乗った胡麻がいい香りを立て、口内で溢れる肉汁の香りが鼻腔を通り、なんとも言えない幸福感を与える。箸は止まらず、おひたしに伸びる。料理人のオリジナルの調味料なのだろうか?青々とした香りと出汁の甘爽やかな味が口いっぱいに広がる。こうなると箸はご飯に伸びずにはいられない。ご飯をかき込み、味噌汁をすする。味噌の深みが染み渡った麸が噛めば噛むほどいい香りを放つ。
「……困りました。……圭介。あなたの眼は使えないのですか?」
 凛は魚の開きの身を解しながら圭介に問いかける。
「それだけどな、俺はテイラーの魔素を見たことがないんだ。だからいくら眼を凝らしたところでテイラーがテイラーだと認識できないかもしれないんだ。それにこれだけの人通りだからな……。光の強弱で多少は見分けがつくかもしれないが、ここは学術都市なんだ。優秀な魔術師や学術者がいるからな」
「そうでしたか……。あ、これ美味しいですね」
 醤油の染み込んだ焼き魚の身を口にしながら圭介に答える。


「街の中を適当に散策してみよう。手掛かりは足で稼ぐ。探偵の基本だ」
 味噌汁の残りを一気に飲み下し、箸を置く。
「今度は眼を使って街を回ってみよう」
「しかし、先程は眼を使っても無駄だと言ったではないですか」
 凛は訝しげに圭介の言葉に疑問を呈す。
「それなんだけどな、やっぱりできる手段は使うべきだなと思ったんだよ。もしかしたら薬の副作用によって体臭が変わったように精製された魔素にも違和感があるかもしれないからな」
 椅子にかけたコートを羽織り、立てかけていた十夜を手に取る。


 スイッチを入れて魔眼を開く。人通りの多い方へ視線を向けると数多くの色の光が映る。人それぞれ魔素の光の強弱が異なり、光が強い何人かは教授か学徒であろう。露天商の中には何人か光の強い者もいる。豊富な知識や経験を持った人なのだろう。
「やっぱり、眼の力だけで解決できるような事件じゃないよな……」
「圭介の眼には数多の光が写っているんでしたね」
 凛は改めて圭介に問う。何かの思惑があっての再確認か。
「ああ、一人一人違う色だ。色の意味は恐らく性質。光の強さは魔素の濃さ。俺はそう認識してる」
 圭介はちらりと近くで商売をしている露天商に視線を向ける。
「あの露天商だったら色は少し濁った黒緑色だな。あんまり綺麗な色じゃないかな。光の強さで言えば、あまり強い光じゃないな。一般的な強さだと思う」
「濁った黒緑ですか……。その色だとどんな性質を持っているのでしょう?」
 そこで圭介は言葉につまる。持つのところ、色が性質を表していることは間違いないとは思うのだが……。
「実を言うとな、色が性質を表してはいるんだが、それも個々によって変わってるんだ」
 圭介の言葉に凛は頭を傾げる。圭介自身もどう説明したらいいかわからないのだが。
「それはどういうことでしょう? 同じ色であるならば、同じ性質ではないんでしょうか?」
「……普通はそう思うんだが、例えばだ。若草師匠が水を生成してるときの魔素の色は白黄色だったんだ。だけど、ニーナちゃんが水を生成してるときは白緑色なんだよ。同じモノを生成したにもかかわらず色は違うんだよな」
「……なんとなく分かりました」
 納得はしつつも不思議に思っている凛の口から漏れるように圭介の耳に届いた。
 圭介自身にも良くは分かっていない。圭介からしてみれば、この力は携帯電話やパソコンみたいなものだ。どうやって動いてるのかは分からないが、表面上は使うことができる。単なる便利な道具・能力なのだ。
「ちなみにですが、私の色はなんですか?」
 凛が好奇心から圭介に問う。
「凛は青緑で強い光を放ってるよ」
「青緑ですか」
「うん。綺麗な色だよ。透き通った綺麗な海が光を反射しているように綺麗だ」
「自分の知らないことを圭介に知られるというのは少し、恥ずかしいですね」
 そう言いながら右手で頬を掻きながら目線を逸らす凛。
「では、圭介は何色なんでしょうか?」
 凛は気を取り直したように右手を剣の柄にかけ、聞く。
「俺の色? それなんだけどな、俺は俺自身の色が見えないんだよ」
 これまた凛は頭を傾げる。
「自分自身の色が見えないんですか?」
 圭介は腕を組み、視線を自分の腕に向けるが、視界に映る自分の腕は肌色であることしか分からない。
「占い師が自分を占わないのと同じように自分自身の色は見えないんだろうな」
「そのようなものなんですか?」
「そのようなもんなんだろうさ。考えてもしかたないことだ」
 そう言って歩を進める。


 暫くすると見たことある光が視界に映った。引き締まった体格に猛禽類を連想させる瞳、情熱的な赤髪を結わえ、くすんだ赤色の光を放つ人物。ユニリアス・キニアリブだった。
「ユニさん!」
 圭介はユニに向かって声をかけながら近付く。
「おや、圭介じゃないか。あのあとどうなったか心配してたんだぞ」
 ユニは圭介の首を右腕で逃がさないようにガッチリと組み、圭介の腹筋を抉るように殴る。
「結構鍛えたみたいだな」
 かなりの威力が込められた拳を納め、圭介を解放する。
「ユニさん……相変わらず乱暴ですね」
 圭介は少し悪態をつきつつもユニと再会できたことが嬉しいのか自然と口元が緩む。
「そういえば、お前の隣にいる刃物のような女の子は誰だい?」
 そう言って視線を凛に向けるユニ。その視線と刃物のような女の子というフレーズで凛のことを指しているのだろうと思った圭介は若草道場で彼女と知り合い、訳有って同行していること、そして、この街に来た理由を説明した。
「なるほど、そういうことか。だったら私も手伝ってやろう」
 ユニの好奇心を秘めた瞳が圭介と凛を捉える。圭介は短いながらも猫のような彼女の性質は理解していた。
「それは助かります。手探りで店に聞き込みをしてたんですが少し手詰まりだったので……」
「私からもお願いします」
 凛は圭介の隣に立ち、鋭い視線をユニへと向ける。初対面でユニの視線を真っ向から浴びて萎縮しない人間も珍しい。圭介はなんとなく凛がユニを品定めしている気がした。
「私にどーんと任せておきなさい」
 ユニは豊満な胸を叩き大きく揺らす。よくも垂れないものだと圭介は思った。
「その探し人の特徴を教えてもらえるかしら?」
 圭介はユニにユズルから聞いた外的情報と体臭が化学薬品の臭いに変化していることを伝えた。
「そんな特徴的な人物なら誰か覚えてるかもしれないわね。臭いって意外と記憶に残るものだから」
 ユニはああでもない、こうでもないとつぶやきながら思考を重ねる。
「私に付いてきなさい」
 ユニは圭介と凛を連れ歩を進める。



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