神が遊んだ不完全な世界

田所舎人

主人公(仮)とハイオク邸

 レスリックの郊外にハイオクの屋敷はあった。
 広大な敷地を有するハイオク邸は名誉教授という称号を得た際に贈られたものだそうだ。
 個人研究所を持ち、自ら欲する書籍を保存する個人図書館も所有する。
 ハイオクという人物はそれだけ学術都市レスリックでは必要とされる人物なのだ。
 今回の研究発表という祭日に多くの人物が訪れるが、その中にハイオク氏の研究見たさに訪れる人達も多い。
「ハイオクさんって凄い人なんですね」
 感心したような声を上げるニーナ。耳がそわそわしている辺り、実際に感心しているのだろう。
 今、圭介達がいるのはハイオク氏の邸宅の広間だ。長机に腰を下ろし、ハイオク氏の話を聞いていた。
 ハイオク氏は圭介の様々な問いに答えてくれた。その中でも魔術というモノについて面白い話を聞いた。
 圭介達が使っている魔術とは魔素という全ての源を行使して現象を起こすことだ。魔素はエネルギーにもなりえれば、物質にもなりえる。大気、地面、海、さらには空さえも魔素で構成されている。
 魔術というモノは人間の精神にも大きく関わっている。それは知識、信仰、閃き、妄想。様々な要素に分けられる。
 知識とは自らが学んで知り得た論理的な情報に基づいて魔術を行使する。知識さえあれば、それを基に様々な応用をすることができる。ただし、知識を蓄えることはこの世界においては難しいという欠点がある。圭介がこのタイプだ。
 信仰とは経典における神話を基にした魔術だ。信じる力がそのまま魔術の強さに直結する。経典は入信すれば誰でも入手でき、習得は容易である。ただし、自らの信仰心に比例するため、神を疑うことは即ち力を失うことである。ニーナがこのタイプだ。
 閃きとは直感で物事の確信を突くこと。これは努力でどうにかなるものではなく、天性の才能に依存する。このタイプは子供の頃は神童と呼ばれることが多く、教わることなく魔術が使えることが多い。
 妄想とは自らの世界を構成し、自らの論理を確立し、魔術を行使する。生半可な妄想力では魔術を行使できず、知識や信仰と反合しあい、まともな魔術を使うことはでいなくなる。ただし、時々現れる妄想と信仰が合わさると狂信者と呼ばれる危険な存在となることがある。こういった人物らは社会不適合者となり討伐対象となることが大半である。
 これらは魔術を行使する上での個人の資質である。このような能力が前提にあり、魔具という補助道具は足りない部分を補うこととなる。
 次は魔具について説明しよう。魔具とは前述のように魔術の行使を補うものであるが、その性質は主に知識に近いものである。魔具師は自らが持つ知識を物体を依代にして分け与え、定着させる。そして魔素を通わせることで魔術という現象を引き起こす。この魔具の品質は魔具師の知識に依存するため、その魔具師が知っている魔術しか魔具にすることはできない。
 しかし、この前提を覆す魔具師がいる。それがルゥだ。彼女は物質の在り方を理解する超能力を持つため、知らない魔術でも物質側からの働きかけを増長する方向で魔具化するため、魔具師としては破格なのだった。
「魔術ってそんなモノだったんですか……」
 圭介はハイオク氏の話を聞いて驚くと共に思考を巡らせる。
「俺達が追ってるテイラーってやつは人間を魔具にしようとしてるんだろ。だとすると、テイラーは人体に詳しい医者やそれに似た職業についてたのか?」
 ふと先程聞いた、魔具についての説明から圭介はそうたどり着いた。
「テイラーは魔術の中でも人体に作用する分野、優秀な医術の使い手だ」
 そう答えるのはユズルだった。
「テイラー自身の戦闘力は?」
「テイラー自身の能力は一般魔術師よりやや高い程度だ。ただ、金だけは持ってたせいか高品質の魔具を数多く所有している。それと、先にココに来て調べてたんだが、どうやらどこかの出資者がテイラーに資金援助をしているようだ。恐らく研究内容を軍事利用に考えている輩だとは思う」
 そう苦虫を噛み潰したように顔を歪ませる。
「なるほどな。そういえば、医術って回復魔術みたいなもんか?」
 圭介は知識の中にある単語を口に出し、ユズルに問う。
「医術というのは人間の回復能力を向上させ、自然治癒力の強化。擬似筋肉や擬似血液を創造し、癒着させる。そういった人間に作用する魔術だ。これは人間でなくとも動植物。更には妖精にまで作用することができるのさ」
 そう答えた。
 圭介はそれらの情報を整理するように口元に手を当て黙り込んだ。
「さてと、客人の部屋の用意ができたようだ。一度、荷物を下ろすほうがいい。長旅で疲れているでしょう」
 そうハイオク氏は促す。実際のところ、圭介達は長旅において簡易的とはいえ優れた宿泊施設を建造する能力を持つ圭介のおかげでそこまで疲労の色は濃くないが、荷物を下ろすことには賛成だった。
「では、一度荷物を下ろしましょう」
 凛の一言を皮切りに皆々はメイドに案内され、個室に案内される。
「野村様のお部屋はこちらになります」
 そういってメイドに案内された圭介のための部屋は驚く程広かった。約20疊程の広い部屋に豪奢なダブルベッドが一つ、高級そうなテーブルと椅子が一対。その下にはこれまた素晴らしい絨毯が敷かれていた。そして、この世界で初めて見たガラス製の窓があった。壁際には何枚かの絵画が飾られていた。恐らく凛達も同じ様な部屋に案内されたに違いない。
「今晩の御食事はこちらでご用意させていただきます。それまでどうか御寛ぎ下さいませ」
 そう言ってメイドは頭を垂れ退室する。
「ふぅ……」
 大きなベッドに重くなった腰をドサリと下ろす。携帯で時間を確認すると時刻17:00である。夕食まで多くの時間はない。鞄に入れたままにしてある荷物を点検しながら時間を過ごす。






<コンコン>
 誰かがドアをノックする音が聞こえる。
「どうぞー」
 圭介は間延びした声をあげる。
「失礼します」
 そういって現れたのは先程のメイドだった。
「御食事の用意ができました。広間までご案内いたします」
 そういって、ドアを開いたまま圭介が部屋を出るのを待つ。
「ああ、ちょっと待ってて」
 ベッドから降り、靴を履いて部屋をでる。
「そういえば、この家ってカナリ大きいけどハイオクさんと貴女達のようなメイドさんしかこの家にはいないんですか?」
 前を歩くメイドに声をかける。
「はい、今は私たちのようなメイドと旦那様しかいらっしゃいません」
 そう答えるメイドの物言いに若干の違和感を覚えた。
「『今は』ということは、前はどうだったんでしょうか?」
 もう一度尋ねるとメイドの首が少しだけ俯いたかと思うとそのまま黙ってしまった。そんなメイドの後をついていくと、最初に通ったときには気付かなかった綺麗な女性の絵画が飾られていた。
「お綺麗な女性ですね」
 素直に思ったことを口に出した。圭介の呟きはメイドの耳にも届き、足を止める。
「その絵画の人物は奥様です」
 メイドは圭介の隣に立ち、説明する。
 この人物の名前はメチル。ハイオク氏が今日、研究が行えるのも彼女がいたからこそだそうだ。日夜、ハイオク氏の身の回りを献身的に世話していた。そんな二人が結ばれることは自然なことだった。そんなある日、ハイオク氏の研究成果が認められ名誉教授という称号を得、この屋敷に引っ越し、ハイオク氏がメチル氏のことを気遣い彼女らのようなメイドを雇うこととなった。それでもハイオク氏の身の回りの世話はメチル氏がすると譲らなかったそうだ。そんなメチル氏はメイドとも仲が良く、頻繁に惚気話を聞かされたそうだ。そんな生活を送っていたある日、買い物に行ったメチル氏が攫われるという事件が起こった。当時のハイオク氏はとても取り乱したということだ。
「そんな込み入った話を僕にしていいんですか?」
 疑問に思った圭介がメイドに思ったままを問う。
「……」
 黙り込むメイド。そんな彼女の表情を圭介は覗き見る。表情は暗く、悩ましげであり、話したいが話していいものか迷っているといった雰囲気だった。メイドは手が白くなるほどスカートを握っていた。
「話しにくいことならいいですよ」
 そうメイドに気を使った。そして、それと同時に一つ閃きがあった。それはメチル氏の誘拐にテイラーが関わっている。そういったものだった。
「すみません。この先は私共の口からは言えません。おそらく旦那様がお話くださると思います」
 そうメイドは深く頭を下げる。
「分かりました。ところでメイドさんの名前ってなんでしょうか」
 好奇心から圭介は聞いた。
「私の名前はサクヤと申します。野村様が滞在なさる間は私が身の回りをお世話させていただきます」
「あれ?もしかして俺達一人一人に貴女のようなメイドさんがつくんですか?」
「はい」
「あー、もしかしたら揉めてるかもしれないなー」
 圭介はそう呟いた。



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