神が遊んだ不完全な世界

田所舎人

主人公(仮)と片翼の妖精

朝。
 圭介は目が覚めると携帯を見る。時刻は午前9時。いままでなら携帯はバッテリー温存のため電源を切るが、この携帯はすでに魔具となっているため、少しだけ魔素を流せば充電の代わりになる。メンドクサいのはバッテリーに急に魔素を流すと壊れる恐れがあるため最新の注意を払う必要がある。この魔具の管はガラスのように脆いのかもしれない。
 窓を開けて、大きく息を吸い込む。心なしか、いつもより暖かく感じる。そろそろ季節の変わり目なのかもしれない。寒いからとカンナに暖かい物ばかり購入したが、春物も調達しなければならない。もちろん、ニーナや凛にも。そんなことを頭の片隅に思い浮かべながら、圭介は身支度を整えるのだった。


 圭介はケアを連れだって再びミクの祝福を訪れる。
「おや、野村さんじゃないか。いらっしゃい」
「おじさん。こんにちわ」
「こんにちわ」
 圭介とケアはジルの父親に挨拶をしながら店内へと踏み込む。
「昨日、ジルちゃんがウチの宿に来たんですけど、おじさん。何か聞いてませんか?」
 いきなり本題を切り出す圭介。それに対しておじさんは閉口する。
「・・・・・・なにか聞いてるんですね?」
「・・・・・・それだがな、ジルは治療を受けることにしたんだ」
「そうですか」
 分かってはいたが、安堵する圭介がそこにいた。
「ジルちゃんはいまどこにいるんですか?」
「ジルなら二階にいるよ。今呼んできます」
 そういっておじさんは階上に上る。
「ケア、治療の方だができそうか?」
 ケアはおもむろに顎に手をあて、「どうでしょう」と答えた。困ったものだ。


 階上から足音がする。二人分の足音。キチンとジルはいたようだった。
「Hello.昨日はいなくてごめんね」
「・・・・・・いえ、急に行ったので、・・・・・・いなくてもしょうがないかなと」
 少しだけ伏し目がちなジル。これからのことを考えているためか。圭介はジルに椅子に座るよう促し、ケアにジルを頼むと告げた。
「分かりました。前にも言ったかと思いますが、私にできることなら力を尽くしましょう」
 ケアはそういって例の瓶を取り出す。これからの顛末を見届けるために圭介は魔眼を行使する。
「これから行う魔術はジルさんの足が動かない病巣を取り除くというものです」
 ケアはジルの白い足に触れる。
「ここが特に大きく巣くっていますね」
 圭介の視界に映るジルの足は確かに強い光を放っていた。
「陰陽、無に帰す」
 そう小さく呟くケア。それだけで放たれていた光は少しだけ弱まる。それと同時にケアが持っていた瓶が割れる。
「ふむ・・・・・・。思った以上に濃いようですね」
 ケアは再び同じ様な瓶を取り出す。その瓶の中にもあの虚空なまでに黒い何かが蠢いている。ケアはそれを床に置き、瓶の蓋を開ける。その蠢く何かは泥の如く瓶から高い粘性を持っているように溢れでてきた。それはアメーバkスライムのようにゆっくりと触手をジルの対して伸ばす。
「ケア、なんか見た目がグロテスクなんだが、これが正しい対処法なのか?」
 圭介がそっとケアに耳打ちする。
「大丈夫です。異常なまでに集中して魔素が貯まっているんですが、表面上を軽く洗いました。これで魔素の濃さ、密度が分かったので、適当な力加減で病巣を潰します」
 そう答えられた圭介はケアを信用してこれ以上は口出ししないことにした。そんなやりとりを見ていたジルは不安になったのか、チラリと圭介を見る。その視線に気づいた圭介は笑って親指をたてた。
 黒い泥のような魔素に似た何かはジルの足に絡まる。ジルやおじさんには見えてはいないのだろうが、見えている圭介としてはあまり気持ちのいい光景ではない。ジルの足は白い肌は全て黒い泥に覆われ、よけい悪化するのではと圭介に思わせる。数瞬、ケアが高速で何かを詠唱する。圭介はあまり耳が良くないせいか、聞き逃した。
 黒い泥は全て溶け、ジルの白い足が露わになる。圭介の眼を通してみても、あの異様なまでに光っていた足はすっかり消えてしまった。
 ジルの体がグラリと傾く。その体をとっさに圭介はジルを抱き寄せる。
「これで成功したのか?」
 そうケアに訪ねる。
「そうですね。少しばかり多く取り過ぎたせいもあって、異常なまでに疲労しているんでしょう。次に目が覚める頃には足が動くようになっているはずです」
 ケアのその言葉を聞いたおじさんは俺達、特にケアに強く感謝していた。感謝された圭介は「俺は何もしてないっすよ」と照れながら、「功労者はケアですから」付け足す。それからおじさんはケアの両手を握りしきりに感謝の意を述べる。そんなおじさんの様にケアは困ったように笑う。もしかしたら感謝されることになれていないのかなと圭介は思った。


 倒れたジルを圭介がお姫様だっこの状態でジルの部屋に運び、ベッドに寝かせる。一人娘が心配なのか、後ろからおじさんもついてくる。そして、ケアは用事が終わるとさっさと店から出ていった。協調性のない奴だ。少しだけジルが起きるまで待つかどうか迷ったが、嫁入り前の娘の部屋に長居するのは失礼な気がした圭介はおじさんに何かあったら宿に連絡をするよう伝え薬屋を後にした。


「さーってっと、どうしたもんかねぇぃ」
 大きく伸びをしながら、少し大きい独り言をいいながら街を散策する。時間的にはお昼。昼食を取ることを決めてカドムさんの店へと足を運ぶ。ふと視界の片隅に見知らぬ知人の姿を見た気がした。


 なんといってもこの店のイチオシは豪快なまでの量の多さ。どんな料理でも二人前。大盛りは三人前。圭介はどちらかというと食が細い方だ。そんな彼が頼んだのは山盛りの半ライスと塩茹でした山菜に鶏肉の揚げ物。カドムさんが気を利かせて、とても一人では完食できそうにない量になっていた。仕方なく、残すのも悪いと思い全てを還b元・吸収する。他の客はあの量をよく一人で平らげたものだとはやし立てたが、圭介はそれに対して愛想笑いをすることしかできなかった。


 会計を済ませ店を出る。途端やることがなくなった。仕方なく足を商店街の方へと向ける。

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