神が遊んだ不完全な世界

田所舎人

主人公(仮)は久々の再開ができるのか?

 朝になり、陽光が窓から差し込むことで暖かく気持ちよい目覚めを迎えた。軽く伸びをして、十夜を手に取り木の器を創り出して水を溜めて顔を洗う。階下に向かえば有料で水を貸してくれるが、節約するに越したことはない。コートを羽織り、鞄の中身を確かめたあとに十夜とショートソードを手に取る。十夜は竹刀袋のようなものを作り、その中に入れ革紐で口を締めている。ショートソードは鞘に収めてベルトに装着し、十夜は袋をそのまま手持ちにしており、ベルトも少しだけ加工してナイフを装着できるようにしている。旅をゆらりゆらりとしている時間を使ってのことだ。
 部屋を出て携帯を取り出す。時間は『06:13』を表示していた。朝食も宿で取ることになっており、起きてから頼めばすぐに出してくれる。階下へと向かうと凛ちゃんが既に居て卓についていた。
「おはー」
「おはようございます」
 俺は親指と人差し指で円を作った後に手を開くようにして挨拶をする。凛ちゃんは朝からも律儀な姿勢を崩さない。俺も向い側の席に着く。
「今日の予定だけど、最初に商館に行こうと思うんだけどいいかな?」
「商館ですか?誰かに用事でもあるのでしょうか」
「いや、金貨を銀貨に両替しようと思ってね。普通の店に銀貨1000枚なんてなかなかないと思うからね」
「確かにそうですね」
 というのも今日は凛ちゃんとカンナ、ニーナ嬢と街巡りをする約束をしていたからだ。そのためにも金貨を使いやすい銀貨に替える必要があった。
「圭介は市場で買いたい物はありますか」
「ん…まぁ…そうだね。買いたい物はまだないけど、行きたい場所は何箇所かあるかな」
「分かりました。では、商館の後はそちらに向いましょう」
「了解」
 商館の位置は街の南側であり、建物自体は非常に大きい。主に大きな契約や取引の場として使われたり、貴族が税率を公布するときに使われることもある。そして税を納める場所でもある。国内の物とお金の流れのほとんどがこの場所で知ることができる。ただし、それは限られた人間だけである。一般の人間は当たり前だが見ることはできない。
「ケイスケ!リン!おはよう」
「おはようございます」
 後ろからカンナとニーナ嬢の声が聞こえた。振り返るとカンナが後ろから抱きついてきた。
「おい、落ち着けって」
 顔をぐりぐりと押し付けてくるようにしてくるカンナ。好かれて悪い気はしないが、過剰なスキンシップはほどほどにしてほしい。ゆっくりと引きはがして、二人共にあいさつする。
「おはような。二人とも」
 カンナの頭を右手で覆うようにしてぐしゃぐしゃと撫でまわす。
「さてと、朝飯にするか」


 その後、起きてこないケアを迎えに行ったが、部屋にはいなかった。ギルドの連中と深酒でもしたか、はたまたノギスの知人の家に泊ったのか。結局、ケアとは昨日から一度も会えなかった。
(まぁケアにはケアの都合ってものがあるからな)
 仕方なく、朝食を四人で取ったあとに市場へと向かい商館に寄ることにした。
 中に入ると大きく開けた空間とそれなりに上質そうな椅子と机を並べており、こんな朝からもお茶を飲みながら談笑にふける者もいた。身なりから見て、朝から働かなくても十分な資産を持っていると思われる人物達である。
(まぁ俺たちには関係ないことだが)
 そんな人物を尻目にカウンターのほうに向かう。
「すいません。両替したいんですが」
 カウンターの女性に話しかける。
「両替ですか?それなら、どこのお店でもできると思うんですが…」
「こちらの硬貨を両替したいんですが」
 一枚の金貨を取り出して見せる。
「!?」
 身を乗り出してこちらに顔を近づける。
「コレって…金貨…ですよね」
「そうだけど?」
「こんなに間近で見たのは初めてです。あの手に取ってもいいですか?」
「どうぞ?」
 俺が了承すると女性は割れやすい陶器でも扱うような手つきで金貨を受け取る。
「ちょっと失礼します」
 金貨を俺に渡し返すと席を外して、階上に向かう。
「なんなんだろうな?」
「金貨が珍しいのでしょうか?」
「いえ、そうではないと思いますが…」
 俺と凛ちゃんとニーナ嬢でお互いに言葉を交わす。結局のところ、俺たちだけでは分からず、再び彼女が戻ってくるまで待っていることしかできなかった。先程まで談笑していた恰幅のいい男たちもこちらのほうに視線を投げかけていた。非常に居心地が悪い。
 階上から扉が開く音が聞こえ、階段を下りる物音が聞こえてくる。
「お待たせしました」
 今度は老紳士然とした五十代ぐらいの男性が現れた。
「両替ということはそちらの金貨と銀貨を交換したいと?」
「はい、さすがにこれほど大きな硬貨だと使いにくいですから」
 苦笑いしながら、手のひらに乗せた金貨を見せる。銀貨千枚にしても使いにくいのは確かだが、使うにはやはり銀貨にする必要がある。
「わかりました。少々お待ちください」
 商館の長と思われる男は手に持った石を金貨の傍に近づける。
「それはなんですか?」
「失礼。コレは魔石の一種で感応石といいまして、簡単に言うと感応石は自然物か魔術によって創造されたものかを判断する道具ですよ」
「なるほど、そんなものがあるんですか」
 つまり、俺が金貨を作ったところでコレで見破られるというわけか。
「魔術によって創造されたものは微弱ながら魔素を漂わせます。それを感知することができるのがこの感応石なのですよ。この金貨に感応石は反応しないので、この金貨は本物ということになりますね」
「じゃあ、これを両替してもらえますか?」
「ええ、よろしいですとも。手数料として二分五厘をいただきますがよろしいですか?」
(えーっと、二分五厘は2.5%だから…1000×0.025=…25枚かな?それだったらいいかな)
「いいですよ。これで取引成立ですね」
「では、こちらが両替した分となります。確認してください」
「はい、間違いありません」
「今後とも『ノギスの商路』をよろしくおねがいします」


 商館を出て、次に行く場所を決める。
「次は武器屋に行きたいんだけどいいかな?」
「私もノギスの武器屋には行ってみたいですね」
「カンナ様は行ってみたいですか?」
「カンナはケイスケが行きたいところに行ってみたい!」
 そんな返事が返ってきたため、次は武器屋に行くこととなる。行先はもちろん『ノギスの槌』である。
「じゃあ、行くか」


 久しぶりに寄った『ノギスの槌』は相も変わらずそこにあった。中に入るとアリスが武具の手入れをしていた。
「いらっしゃ…い?」
 語尾を途切らせつつ、なぜか疑問形で迎えてきた。
「野村さんじゃないですか!!」
 アリスちゃんは俺が無事に現れたことを純粋に驚いているようだ。
「久しぶりですね。アリスさん」
 こうやって知人に久しぶりにあうと自然と笑みが浮かんでしまう。
「あれから二ヶ月以上も経って、野村さんがどうしているのか気になっていたんですよ!」
「まぁ色々とあってね」
 自然な笑いから苦笑いに変わるのはご愛嬌。
「そちらの方々は?」
「ああ、ノギスを出てから戻ってくる道中で知り合った仲間…かな」
 自分の口から仲間というのも照れくさい気もする。
「私は氷川凛と言います。兄を探す道中を圭介と共にしています」
「カンナはカンナ。世界を一緒に見て回るってケイスケと約束したの!」
「私はカンナ様につき従っているニーナと申します」
「私はこの『ノギスの槌』で働いているアリスって言います。これからよろしくね」
 お互いに自己紹介なんかしちゃったりして、仲睦まじくもある。
「そうだ!野村さんに渡さないといけないものがありました」
 パタパタと走って行ってしまったアリスちゃん。みんなと顔を合わせて頭をかしげる。
「これですよこれ。野村さんから頼まれてリリスちゃんに作ってもらったんですよ」
 そういって渡したのは鉄の棒だった。
「おお!本当に作ってくれたんだ!」
 俺が簡単に描いた図面だけで本当に作れるとは思っていなかった。
「ええ、リリスちゃんもアレを見てやる気を出してくれて一生懸命に作ってくれたんですよ」
 俺は鉄の棒の付いた出っ張りを押してみる。
[シャキン!]
 鉄の棒、正確には柄から研ぎ澄まされた刃が出てくる。
「ケイスケ?それは?」
 凛ちゃんが不思議そうに俺の手元を見る。
「コレはオートマチックナイフ。あるいは飛び出しナイフって言うらしい。柄の中にバネと刃が仕込まれているんだけど、ストッパーを外すとバネで刃が飛び出してくるって代物。妹さんに言っておいてくれないかな?素晴らしい作品だと」
「ええ、もちろんよ。私も出来上がった作品を見てみたけど凄いわ。そこで、野村さんにお願いしたいことがあるんだけど」
「ん?なにかな」
「そのオートマチックナイフ?っていうのかな、それの代金はいらないから私の店で販売したいんだけどいいかな?」
 若干の上目使いでこちらに頼みごとをするアリスちゃん。可愛い。
「そんなことなら構わないよ」
 断る理由もない。
「ほんとですか!?ありがとうございます!」
 本当に嬉しそうにしているアリスちゃんを見ているとこちらも楽しくなってくる。
「そうだ。その妹さん、えーっとリリスさんかな?直接お礼を言いに行きたいんだけど、どこに行けばいいかな?」
 俺はどうせなら作り手のリリスちゃんにもお礼がしたいと思った。
「それでしたら、街の東側の大通りから東の門に向かう方向に進みながら、右手にある二番目の薬師の工房を右折すると路地に入ります。その先の突き当りを左に行くとリリスちゃんのいる工房があります」
「えーっと東の二番目の薬師の工房の右折の突き当りの左だね」
「ええそうです」
「分かったよ。ありがとう」
 次の行先は決まった。リリスちゃんのいる工房だ。
「どうした?カンナ」
 カンナが店内の一ヶ所をじっと見つめている。
「あれは魔鳥の羽で作られた魔具なんですよ」
 なるほど、取りの羽を編んで作られたバングルのようにも見える。
「魔具ってことは何か魔術が使えるのか?」
「そうですよ。使い捨てなんですけど、ある程度の魔術なら抵抗することも可能なんです」
 抵抗アイテムってことかな。
「カンナ、それ、欲しいか?」
「欲しい!」
 カンナはバングルと俺を交互に見る。
「アリスさん、これを3つくれないかな?」
「3つですか?」
「うん、せっかくだからニーナさんと氷川にも身に着けてほしいと思ってね」
「圭介、そんな気を回してもらわなくても」
「いいんですか?私まで」
 二人が驚いた様子が可愛らしくて楽しくなる。
「ああ、アクセサリーとしてはいいんじゃないかな?それにお揃いってのも悪くないんじゃないかな」
 なんとなく女の子三人が共通のアイテムを持ってるってのは良い影響を与える気がする。それにいざというとき自分の身を守る術を持って欲しかった。その意味ではいいものを手に入れた気がする。
「この羽をいただきたいんだけど、おいくらですか?」
「え、えーっと、一枚につき銀貨一枚なので」
「分かった、三枚だね」
 銀貨三枚を手渡す。
「お買い上げありがとうございます」
「いえいえ、それじゃあそれぞれ身に着けてみてよ」
 カンナとニーナ嬢は右腕。凛ちゃんは左腕に身に着ける。
「うん。よく似合ってると思うよ」
 三人ともお互いのバングルを見て嬉しそうにしていて微笑ましくもある。
「本当によくお似合いですね」
「似合う?カンナに似合う?」
「ええ、とても」
 アリスちゃんがカンナを褒め殺しである。
「ケイスケ!カンナに似合う?」
「おう、めちゃめちゃ可愛いぞ」
「ホント!?」
 このはしゃぎっぷりである。
「じゃあ、俺らはそろそろ失礼するよ。そうそう、この剣を研いでもらえるかな?」
「それなら私も頼んでもいいですか?」
 凛ちゃんも俺と同様に腰に身に着けた刀剣を差し出す。
「分かりました。明後日の昼までには仕上げておきます」
「分かった。料金のほうは?」
「二本で銀一枚と銅五十枚になります」
「じゃあコレで」
 銀貨二枚で支払う。
「はい、待ってください」
 アリスちゃんはカウンターから大銅貨五枚を取り出してきた。大銅貨は銅貨十枚分と思ってもらって構わない。大きさとしては銅貨の直径が1.5倍。個人的には使いづらいと思うが、銅貨十枚を持ち歩くよりはいいと思う。ちなみに銀貨のほうにも大銀貨というものが存在する。こちらのほうも従来の銀貨の直径が1.5倍という大銀貨が存在して、銀貨十枚分である。さらに大きな巨大銀貨が存在する。そちらは通常銀貨の直径が2倍である。さきほどの商館で両替したのもこちらの硬貨で交換したため。銀貨袋には【巨大銀貨:9枚 大銀貨:9枚 銀貨:17枚】といった内訳になる。
「じゃあ、またくるよ」
 こうして『ノギスの鎚』を後にすることとなった。

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