神が遊んだ不完全な世界

田所舎人

主人公(仮)と出発

「うおおおおお!!すげええええ!!!」


 目の前にあるのは用意された馬車。牡馬二頭に俺の身の丈二倍程もある荷台。


「マジでこれもらってもいいのかよ!?」


 オーステナイトのおっさんが乗っていた馬車に比べ二回りほど大きい。俺達五人が入ってもまだ余裕がありそうだ。


「すごーい!」


 カンナが俺を真似て大きく手を広げて大きいことをアピールする。愛らしい。


「凄いな!」


 俺はカンナと顔を合わせて満面の笑みを見せる。何故かお互いにハイタッチをしていた。


「圭介、他の人々が見ています」


 そっと耳元で囁く凛ちゃん。少しだけこそばゆい。


「分かった分かった。そこまで言うなら、氷川から先に乗せてやるよ。ほら、早く乗った乗った」


 凛ちゃんの背中を押す形で馬車の荷台に押し入れる。聞く耳も持たず、相手の意思なんかも関係なく無理やりに。


「ちょ、圭介。待ってください。自分で乗りますから」


 凛ちゃんが慌てふためく。可愛いなぁ。


 幌を開き中へと入る。ハラリと幌は閉じ、こちらからは凛ちゃんが見えなくなった。


「氷川、中の様子はどんな感じだい?」


 俺は俺でそわそわしながら尋ねる。


「凄いですね。これほどのものを本当に私たちが頂いていいのでしょうか?」


 少しだけ凛ちゃんが感嘆している。内部はそれだけすごいのか!


「次はカンナが乗る!」


 カンナも我慢ができないのか荷台に乗りたいと言い出す。俺だって乗りたいさ!


「よし分かった。今乗せてやるからな」


 カンナの両脇を持ち、荷台へと乗せる。やはりまだまだ少女。軽い軽い。


「おおーー!」


 中に入ったカンナは驚いたように声を上げる。もう我慢できん!


「じゃあ、次は俺が乗ろうかな」


 荷台に手をかけ、昇り入る。


「おお、広いな。んー、でも天井が少し低いか?」


 中の様子は外から見たよりも大きく見えたが、少しだけ天井が低い気もする。ふと床を見てみると気になる取っ手がある。それを引いてみると床扉が存在したのだ。中は空洞になっており、きっと中に食料やら寝具を仕舞う部分なのかもしれない。


「おおおおお!!これ凄くね!?」


 自然と笑みが溢れる。


「ケア、ニーナ。乗ってみろよ」


 幌を開き二人に声をかけてみる。


 最初にケアが乗り込んできた。


「これはなかなかに上質な馬車ですね」


 内部を見渡しながらそう感想を述べる。


 ニーナ嬢に手を貸して内部へと引き入れる。


「改めてよろしく。ニーナさん」


 これからの旅をこの馬車と、そしてニーナを仲間に加えて行く。うん。なかなかどうして楽しみだ。


「おっさん、いいものくれてありがとな」


「ありがとな」


 俺が幌から顔を出しておっさんに礼を言うと、カンナもマネして俺の顔の下から同じように顔を出して口調を真似る


「いえいえ、気に入っていただけて嬉しいです。くれぐれもカンナ様のことをよろしく頼みましたよ」


 そう言って手を左手を差し伸ばしてきた。


(ん?)


 何か違和感があった。


「ああ、よろしく頼まれた」


 握手で返す。




(ああ、何がおかしいのかって、普通に歩いて握手できてるのがおかしいんだ)


 俺が折った右足と左腕が完治している。


「カンナ様、ありがとうございました。おかげで手足も無事に動かせるようになりました」


 カンナにかしずき礼を述べる。その姿は一種の騎士と姫のやり取りのようにも見えた。


「うん。よかったね。しさいちょー」


(ああ、昨日のアレはそういう…)


「早速、出発するか。っと、その前に皆でそれぞれ物資を調達してくれ。ケアと氷川で食料を頼めるかな?俺とカンナ、それからニーナででランプや油、それから寝具のような雑貨を手に入れてくるよ」


 銀貨袋をケアに渡す。


「分かりました。お任せ下さい」


 銀貨袋を受け取り、こちらに笑顔を向ける。気持ち悪い。


「じゃあ、あとは任せたよ。馬車は俺達が使ってた宿屋のほうに停めておくから、荷物が多かったらそっちに運んでもらってくれ」


 そう断って、俺たちは二手に別れた。






「それじゃあ、俺達は今後に必要となりそうな寝具やランプの油なんかを手に入れようと思うんだが、俺はここらの地理に詳しくない。そこでだ、ニーナに案内してもらいたい」


 俺はニーナに視線を向け、お願いをする。


「ニーナ…」


 カンナも同じように視線をニーナに向ける。


「お任せ下さい!」


 ここぞとばかりに張り切るニーナ嬢。目線を街に向けながら、あれこれと考えている様子。


「ええっと、あそこと、あそこ、それからそちらのお店がこの街では多くの人に利用されています」


 ニーナが指したお店は他に比べて少しばかり大きいお店。そして、もう一つは他とは変わりない大きさのお店。それから最後は少し裏路地に入ったところにある小さなお店。


「じゃあ、まずはあの店から行くか」


 最初に行くことにしたのは裏路地に位置する小さなお店。小さいお店の物をいくつかピックアップしてそれ以上のものがあるかをより大きな店に行って比べてどちらを購入するかを決める。現在は懐事情も安心であるため、品質面重視で行こう。






 なんやかんやあって再び集まる。ケアと凛ちゃんが購入してきた食料をそれぞれ種類に分けて床下収納。俺達が買ってきた寝具も床下収納。ランプは天井から下げ、油も備える。精肉店で処分するであろう鳥の羽毛を布地に詰めて簡単に本返しで縫いクッションを作った物を座布団がわりにそこらへんに配置する。


「オーケー!」


 収納を終え、改めて見る。見事なまでに完璧に収納できていた。あれだけの荷物がすっかり収納されていた。食料は5人が一週間十分に食事が取れるだけの量。それから厚手の毛布が5人分。


「圭介、あなたは意外に器用なのですね」


 凛ちゃんが俺が作ったふかふかのクッションをふにふにさせながらそう言う。


「まぁ意外に簡単だぜ。それよりニーナが針と糸を持っていたのが助かったよ。あれぐらいの精度の針があるとは思わなかったよ」


 布二枚と羽毛はあったが、肝心の糸と針はなかった。そのときにソーイングセットを差し出してくれたのがニーナだった。


「もし、カンナ様の御衣類に何かあってはいけないので巫女仕えとしてこれぐらいは当然ですよ」


 ニーナは嬉しそうにしながら笑顔を浮かべている。


「リン、それカンナにも貸して」


 凛ちゃんからクッションを受け取ったカンナはそれに顔を埋める。


「あったかーい」


 正真正銘の羽毛クッションにご満悦のカンナ。


「ホントに意外ですよね。野村さんがこんなこともできるなんて」


 俺の手作り羽毛クッションを片手にふにふにしながらそういうケア。俺が作ったクッションは二つ。時間がなかったから即興で作ったにしては個人的には力作だ。本返しで縫って、苦手な玉止めもできた!


「あんまり無茶に扱うなよ。強度は低いんだからな」


 俺はケアからクッションを奪って、自分でふにふにする。


「それじゃあ、行くぞー!ケア!馭者、任せた」


 俺はケアに指示を出す。


「しょうがないですね。分かりました。ところで次の行き先はどこにしますか?」


 そういえば、この旅は俺が指針を出さなきゃ動き出さないというスタンスの下だった。


「次に目指すは”始まりの都市『ノギス』”だ」


 こうして再び俺はノギスに帰ることとなる。

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