神が遊んだ不完全な世界

田所舎人

主人公(仮)と行先

  ギルドで目的の物を納品して報酬を受けとる。


  銀貨30枚と受注当日に依頼を終えたため、追加報酬に1割の銀貨3枚が付いてきた。ラッキー。


「んじゃ、報酬の山分けといきますか」


「山分けですか?」


  何を不思議そうにキョトンしてるんだ?


「俺がインボリュートを発見して左腕、ケアが右腕。本来の報酬が30枚だから、6:4でこっちが18枚。そっちが12枚。追加報酬はこっちが貰っていいか?」


「ええ、それは構いませんが…」


「んじゃ、これな」


  12枚の銀貨を手渡す。


「俺は少し市場を回るから、宿屋に戻るなら氷川に伝えといてくれ」


「分かりました」


「それじゃ、また後でな」


  俺は席を立ちギルドを出る。


  時間もそこそこに夕方。足を市場に向ける。夕焼けに照らされ白い街並みは茜色に染め上げる。


(ん?)


  目に止まったのは薬屋。医療道具から魔具まで取り扱う店。純水魔素結晶を取り込みやすいように丸薬か粉末にして体内に取り込む薬が一般的。呼吸、食事、瞑想よりも早く魔素が回復するが、魔人化する可能性があるため多用は禁物。通称魔薬。そんなものも取り扱っている。


(そういえば、まだ受取に行ってないっけ)


  鞄の中に入れたままにしてある木の割符。ノギスから出てから長い時間が経っていた。


(そうだな。騒動も一段落したから一度戻るか)










「うぃーっす、ただいま」


「おかえりなさい、圭介」
「おかえり!ケイスケ!」


  宿屋に戻って二人に声をかける。


「明日、タユタユを出て一度ノギスに帰ろうと思うんだ」


  二人に簡単に話す。


「私は構いません」


「カンナはココ以外ならどこでもいいよ!」


  あっさりと了承が貰えた。まぁ反対されるとも思ってないけど。


「分かった。それじゃあ、晩飯でも食べに行くか」


 カンナはベッドから飛び降りて、トコトコと俺のコートを掴む。


「カンナ、外はまだ寒いからきちんと服を着なさい」


 側にかけてあったカンナの上着を上から被せるようにして着させる。カンナは頭を出しながら可愛く笑う。


「氷川は晩ご飯で食べたいものはあるか?」


 優しげな笑みを浮かべながらカンナを見つめる凛に声をかける。


「私ですか?それよりもカンナが食べたい物を食べさせましょう」


 俺はカンナの服を簡単に直しながら、カンナに尋ねる。


「カンナは何が食べたい?」


「んーとね、カンナもリンが食べたい物が食べたい!」


「って言ってるけど?」


 俺とカンナで凛ちゃんを見つめる。


「う…」


 ちょっとだけたじろぐ凛ちゃん。


「で、では、ササニシキの料理を私が振る舞いましょう」


 凛ちゃんが言葉に詰まらせながら答える。


「やったー!」


 カンナが上機嫌で凛ちゃんに飛びつく。嬉しそうに満面の笑みで凛ちゃんの足に顔を埋める。


「それじゃあ、俺が下のキッチンを使えるように交渉しておくから、氷川とカンナは食材の買出しに言ってくれ。今日の報酬も入れておいたから、この金を使ってくれ」


 懐から少しだけ膨らんだ銀貨袋を手渡す。


「分かりました。それでは、ありがたく使わせていただきます。カンナ行きましょう」


「おうよ。料理、楽しみにしてるぜ」


 俺は先に部屋を出て、自分の部屋に荷物を下ろしてから階下に向かう。






 簡単な交渉の末、銅貨8枚と調理後の清掃を条件にキッチンを貸してもらえることになった。薪は備え付けのものを使うよう言われ、懐に忍ばせておいた追加報酬銀貨3枚の内から支払った。


「ありがとうございます」


「別にいいのよ、旦那のために手料理を作ってあげようってんだから、無碍にしちゃ奥さんに悪いもの」


 おばさんはそんな感じで茶化してくるが、乾いた愛想笑いで誤魔化す。






 帰ってきた二人は籠に食材を詰めて嬉しそうにしていた。


「今日の晩ご飯は何だい?」


「見ちゃダメ!」


 カンナが俺の視線を遮って食材を見せないように籠を背にして俺と対峙する。


「カンナが圭介のために料理を作るのを…」


 凛ちゃんが視線をやや下げながら、カンナを見つめる。少しだけコートを掴む力が強くなるのを感じた。


「いや、なんでもないです。それより、圭介。スミスを呼んできてください。彼の分も用意しましょう」


「お、そうか。それじゃあ呼んでくる」


 唯々諾々と頷き、ケアの部屋へと突撃する。


 ・・・ってかケアの部屋ってどこだ?


 答えは簡単だ。使われていない部屋は扉が開いたままなので、閉じたドアのうち俺たちが使っていない扉のうちの一つ。それがケアの部屋だ。


<コンコン>


「おーい、ケア。いるかー」


 返事がない。ただの留守のようだ。


「いないなら開けるぞー」


 ドアノブを開くと死体があった!なんてことはなく、なにもなかった。


 なにもなかった。なにも。


(ケアのやつ、荷物とかもってないのか?)


 部屋から出て、階下へと戻る。






 結局、ケアを呼ぶこともできずに俺たち3人で夕食をとり、一日を終える。






 朝を迎える。昨日はカンナを凛ちゃんの部屋に預け眠った。


「おはー」


「おはようございます。圭介」


「ケイスケ!おはよう!」


 凛ちゃんとカンナに朝の挨拶を交わす。




「おいすー、ケアいるかー?」


 昨日は結局、一度も戻らなかったのか誰も何もなかった。


「不思議だな」


 ボソリと呟く。


「スミスなら昨日は帰らなかったようですよ。ドアの前を通ったのならば、私が気づきますから」


「ふむ・・・」


 凛ちゃんがそういうならきっとそうなのだろう。




 朝食も軽く取り、約束の時間になると塔へと向かう。

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