神が遊んだ不完全な世界

田所舎人

主人公(仮)と白き姫君2

  改めて自分の世界について話すのは不思議な気分だ。それこそ自分がこちらの人間じゃないことを言うタイミングなんていくらでもあった。それでも話さなかったのは、どこかで思うところがあったのかもしれない。


「なるほど。面白いお話ですね」


  ケアは片手に解析学のテキストを持ち言う。


「圭介は自分の元いた世界に戻りたいとは思わないんですか?」


  凛ちゃんは膝に折り畳み傘を乗せたまま尋ねてきた。


「ああ、そっか。そうだよなー。普通は思うよな。うん。俺もそう思うもん」


「だったら、圭介は元の世界に戻る方法を探すべきです」


「そうだな。氷川の言う通りだよな。ただ、俺はそこまで頑張るつもりはないよ」


「なぜですか?」


「もどったら、氷川に会えなくなるだろ?」


「な、、、なにをバカなことをいってるんですか!」


  なんていうか、凛ちゃんって意外に喜怒哀楽が激しかったりするのかな。


「それに帰る方法はあるよ」


「方法とは?」


  身を乗り出してくるケア。


「これを見てくれ」


  ポケットから携帯を取り出して開いて見せる。


  待受画面には圏外ではなく一本だけアンテナが立っている。


  ただ、ケアは初めて見る携帯だ。どんなアイテムかはよく分かっていない。


「カンナの側にいるときだけこの機械は本領を発揮できるんだ」


  携帯の受信記録から発信元に電話を掛ける。


  TRRRRR。TRRRRR。TRRRRR。…。
「現在この電話番号は御利用できません。もう一度ご確認の上、時間をおいてお掛け直しください」


  ツー、ツー、ツー。


  締まらないぜ。


「野村さん、どうでしたか?」


「いや、駄目だった」


  胸を撫で下ろす凛ちゃん。


  まぁしかし、今の固定ボイスのお姉さんのセリフに違和感を覚えたが、すぐには気付けないので、ひとまず放置。


「まだしばらくこっちにいろってことだろう」


  携帯の時計は午前3時を示している。


「おっと、もうこんな時間か。今日はここらでお開きといこうや。俺もだいぶ疲れたからな」


  気だるい体と霞がかった思考回路。


「氷川はカンナと一緒に寝てくれ。明日はカンナを連れて神威の塔に行ってくる」


  ケアを早々と部屋から追い出し、部屋へと戻ろうとするが、コートの裾が小さな力で引っ張られる。


「カンナ、今日は氷川、、、凛ちゃんと一緒に寝なさい」


  目線をカンナと合わせて、諭すように言い聞かせる。


「圭介、いいじゃないですか。彼女は私より貴方に気を許しているようですから」


「んー、でもなー」


  なんかここで折れたらダメな気がする。


「いや、今後のこともあるから氷川とカンナには仲良くなってほしい」


「こ、今後って、まさか彼女を連れていく気ですか!?」


「ん?そうだけど?」


「そんな簡単に決めていいんですか!?」


「なんていうか、返したくないと言うか返しちゃダメと言うか…」


「彼女の気持ちはどうなるんですか?」


  俺はカンナと顔を向き合わせる。


「カンナはどっちがいい?俺たちとくるか、あの聖堂に戻るのか」


  あの部屋で倒れたとき、ずっと俺の腕の中で震えていたときに俺の袖口を必死に握っていたあの姿を見てしまったから、、、守りたいと思ってしまったから。
「ケイスケと一緒がいい」


  ちょっとした緊張が解ける。


「ほらな、氷川。本人もそういってる」


「どうなっても知りませんよ?」


「分かってるって、カンナは俺が守るよ」


「守るですか、だったら外だけでなく内も守るべきですね」


  立ち上がり、カンナを見下ろす。上目使いなカンナ。勝てねぇや。


「わぁったよ。今日は俺が側にいてやるよ」


  すると満開の桜のように顔が高揚した。可愛い。


「じゃあ、氷川もきちんと戸締まりしておけよ」


  カンナの手を引いて俺は部屋に戻った。






  結局、カンナを部屋に入れたが色々とあって疲れた。踊る土人形も解放して、俺はベッドに倒れ込んだ。あとのことは覚えていない。カンナがもぞもぞとベッドに潜り込んできた気がした。


  携帯のアラームで目が覚めた。もぞもぞと携帯の時計を見る。『6:31』と表示されていた。ゆっくりと敷き布団から体を起こして、顔を洗いに洗面所に向かう。


  テーブルにはトマトとキュウリがスライスされたものにラップがかけられていた。食器棚から茶碗を取り出しご飯をよそう。引き出しから割り箸を取る。食卓に主食と副菜はそろったが、主菜が足りない。


  何かないかと冷蔵庫を開ける。主菜になれそうなものはベビーハム、ベーコン、昨日の残りの水餃子。俺は水餃子を手にしてレンジにかける。テレビを点け、ニュース報道を見ながらポン酢の用意をする。


  食事を終えたら食器を水に浸け、部屋の電気を切る。コートを羽織り、鞄を肩から下げ家を出る。


「いってきます」


  バス停でバスを待ち、定期をかざして乗車する。iPodで曲を選定しながら時間を潰す。


  駅についたら定期を通して電車に乗る。いつも乗るのは九両編成の六両目。


  停車。丁度目の前には階段。それを上り、改札を通る。歩道橋を通り、下りの階段に行き着く。


  一段目を右足から。二段目は左足。三段目を右足。


  踊り場を右足で踏もうとした瞬間。左足が滑った。落下。浮遊感。


「痛っ!」


「ケイスケ!大丈夫!?」


  あれ?ここは…


  埃っぽい臭いに木造の床。見上げると逆光で真っ暗な小さい影。起き上がり現状確認。ボサボサ髪のカンナがベッドの上でちょこんと女の子座りをして俺を見上げる。


  ああ、そうか。久しぶりに故郷の話をしたせいか。


  一人で納得して、カンナに挨拶する。


「おはようカンナ」


「うん。おはよう!」


  朝から元気なカンナ。


  とりあえず、身支度だ。


「カンナ、ご飯食べるか?」


「食べる!」


  朝から元気いっぱいだ。


  カンナの手を引いて凛ちゃんの部屋に向かう。


  コンコン。


「おーい、氷川、飯に行こうぜ」


  数度ノックすると扉越しに氷川の声が聞こえる。


「先に行ってください。すぐに行きますから」


  ああね。


「じゃあ、先に行ってるぞ」


「凛ちゃんは一緒じゃないの?」


「うん。凛ちゃんも朝は忙しいんだろうね」


  仕方なく階下に向かう。


  所詮は酒場の宿。朝食が出るはずもなく、街中に出て朝食を取る。


  俺のコートを着せてフードを頭から被らせる。


  少し肌寒いが店内に入れば少しは暖かいだろう。それにカンナに寒い思いをさせたくないからな。


  見つけたのは看板にでかでかと『飯屋』とかかれた情緒もへったくれもないような店だった。


  店内には入ってメニューを貰う。


「カンナは何が食べたい?」


  カンナはメニューとにらめっこをしている。


「ちょっと待って!」


  強い口調で主張する。


  椅子に腰掛け足をパタパタしながらメニューを見ている姿はなんとも愛らしい。犬だったら尻尾がブルンブルンしているだろう。


「ケイスケ!これがいい!」


  指差して俺に見せたのは聞いたことのない魚の煮付けとご飯、それに海藻のスープ。簡単に言うと定食みたいなものだ。


「?なんでまたこれなんだ?」


  カンナが何を選んでもおかしくないが、ちょっとした違和感を感じたからだ。


「神様がこれが美味しいって言ってた」


「え!?今も神様がいるのか?」


「?ちがうよ、ずーっと昔に神様がそう呟いたの。そしたら、このお店が大繁盛しちゃったみたい」


  ああ、なるほどね。神様が言ったことを伝えるのが巫女の仕事なら独り言も伝えてしまうのか。


  ………また違和感だ。でもなんだろ。なにがが引っ掛かるのに言語化できない。


「じゃあ、俺もそれを頼むか」


  違和感をほっぽりだし、店員に注文をする。


  出された定食は滅茶苦茶旨かったです。


  米はいつも通り旨かった。個人的には塩を振りかけて食べたかった。海藻のスープは香りが食欲をそそりこれでもかと入れられた具材は半分がワカメだった。体にとてもよさそうだ。スープ自体も出汁がよく出ており、飲んだ後の風味はなかなかに真似のできないものだった。そしてメインの魚の煮付けだ。見るからに美味しそうだ。煮汁は鮮やかに光り、身を引き立てる。箸で摘まんでみると柔らかい魚肉から冬を乗り越えるため乗っている脂が溢れてくる。口に入れた瞬間、煮汁の甘辛な風味が口いっぱいに広がる。噛みほぐす度に煮汁とは違う、素材だけがもつ仄かな甘味が出てくる。これがご飯と素晴らしく合う。その後に飲むスープは食後の満足感更に引き立てる。


「滅茶苦茶うまいな!」


「めちゃくちゃうまいな!」


  カンナは上機嫌で俺の真似をする。


  心なしか、魔素がみなぎっている気がする。


  っと、丁度、食事を終えたころに凛ちゃんが店先を通る。


「おーい、氷川」


  手を振って氷川を呼ぶ。


「圭介、探しましたよ」


「すぐに追い付くって言ったじゃん」


「だからといって宿を先に出られたら、私だって分かりませんよ」


「あー、そりゃそっか」


「まったく、、、はいこれ」


  渡されたのは見たことある袋。


  あー、そういや宿の勘定の時に凛ちゃんに渡してたっけか。あぶねぇ。危うく無銭飲食するところだったぜ。


「凛ちゃんもこれ食べてみろよ。これ、凄く旨いぜ」


「凛、ちゃん、、、ん。………」


  じっと俺のことを据わった目で見る。照れるじゃねぇか。


「どうかした?」


「…。いえ、気にしないでください。ところで、その美味しいという料理はなんでしょうか?」


「ああ、これだよ」


  メニューを見せる。


  何て言うか家族のようだ。和気藹々としていていつまでもこうしていたいと思うが、、、






「んじゃ、行くか」


  神威の塔、入口正門。


  フル装備の手加減なしの俺。


  静観するつもりだったがカンナのために最後は付き合ってくれる無銘を携えた凛ちゃん。


  途中の服屋でカンナが寒い思いをしないですむように俺達が選んだ可愛い服を着たカンナ。


  そして何故か後から合流してきたケア。俺と似たようなコートを着て何かを隠している。俺とキャラが被るんだからやめろよ。


  いつかと同じ謳い文句を言いながら扉を開く。


「恃もう!」

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