神が遊んだ不完全な世界

田所舎人

主人公(仮)の学習

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  「パーティーショーの始まりだぜ!」


  タユタユ西側郊外に俺はいる。


「数多なる土の粒子よ、人の子の形となせ!」


  足元の土からはいつか作ったクレイマンが産まれる。


「続けて三度復唱する!」


  更に足元からは三体のクレイマンが産まれる。


「それを更に三度詠唱する!」


  足元から九体のクレイマンが産まれる。


  現在、この場には13体のクレイマンが存在する。
「元に三つの要素を与え、要素に三つの規則を与え、規則に三つの罰を与え、
罰に三つの模範を与え、
その模範は私が示す!」


  3の4乗=81体のクレイマンが現れた。


  三部隊、九小隊の土塊の戦士が発生した。


  一体を操ることで、全員が模倣をする傀儡部隊。


  人ではないものが人の形を取り、躍り狂う様は悪魔の道化師だ。


  それを市中に放ったら?


  それはそれで大混乱だろう。






  市壁に穴を空けて、94体の踊る土人形を招き入れる。


  各地に一部隊10体のクレイマンを配置。


  ただ移動するだけで既に騒ぎが起こっている。


  一体を俺の側に置き、それを操る。


  操られた一体から他のクレイマンに情報が行き渡り、同じ行動をとるといった仕掛けだ。


  この異常事態に俺を探している神官らは多くの問題を抱えている最中、更に問題が増えていく状況にカナリ参っているようだ。


  郊外での無差別級魔術「落雹」、司祭長の重体、巫女様誘拐。


  特に郊外での負傷者が多いせいか、人手が少ないのか一人一人の負担が多いため、既に体力的に辛いものがあるだろう。


  俺は宿屋に戻り、踊る土人形を操りながら体を休める。


  外の喧騒に比べ、室内は実に静かだった。


  ふと床を見下ろせば、淡く浮かぶ自分の影。振り替えれば明るい星と丸い蒼月。


  思えば遠くに来たもんだ。


  夜になるとどうしても過去を想帰せざるおえない。


  …結局なにがしたいんだろうな。


  ポツポツと浮かんでは消えていく泡沫のような淡い理由。


  つまるところ、俺に目的がないんだ。


  ただ生きているだけ。


  ただ、生きるのに邪魔な火の粉を振り払うために神威の塔に攻め入り、結果として白い少女を連れ出した。


  もしかしたら、惹かれたのかな。あの少女に。


  そういえば、あの子は目を覚ましたのかな?


  立ち上がり部屋を出て、隣の凛ちゃんの部屋の扉を数度ノックする。


  すぐに凛ちゃんが扉を開けてくれた。


「もう帰ってたんですね」


「ん?まあね。あの子、起きたか?」


  凛ちゃんの肩越しにベッドに寝ている少女を見る。


「まだ起きないですね。ただ、来た頃よりも随分と血の気を取り戻したようです」


  すやすやと眠る少女は明らかに年端もいかない少女だ。何十、何百の信徒に神託を報じる巫女にはとても見えなかった。


  側に近づきそっと長く白い髪に触れる。細く汚れを知らない純白の絹のようだと思った。


  アニメや漫画なんかでよくある清廉な聖女をそのまま幼くしたような未熟な聖少女。


  人の想像上における幻想を具現化したようだった。


  おっと、白い姫巫女様がお目覚めのようだ。


「ん…、んー…」


  もぞもぞと動きながら目をこすり、起き上がる少女。


「あれ、、、ここ、、、あれ?」


  とまどいな少女。


  俺はそんな彼女の瞳を見て驚いた。


  赤眼だ。


  全身が白い少女の瞳だけが赤かった。


  思わず見とれてしまった。


  そんな俺に対して手を伸ばしてくる少女。


「0624だ」


  0624?


「0624?なんだいそれは?」


「0624は0624だよ」


  うん。説明になってない。それに俺は0624なんて名前じゃない。


「俺は0624じゃなくて、野村圭介だ。ノムラケイスケ」


「ノムラケイスケ?」


「そうだ。野村圭介だ」


  キョトンとする少女。いきなり人を数字で呼ぶとはなかなかに変わった奴だ。


「ノムラ、ケイスケ…ケイスケ…ノムラ…ケイスケ…ケイスケ、、、ケイスケ!」


「ん?なんだい?」


「そこの人は?」


  凛ちゃんを指差す。


「ああ、彼女は氷川リノンだよ。僕の友達なんだ」


「じゃあ、あの人は?」


  お姫様は扉の方向に顔を向ける。


「ああ、あいつはケアレスミスだよ。俺もよく知らないんだ」


  ………。


  OK。分かった。分かったが、あえて無視しよう。


「君の名前は何かな?」


「名前?」


  再びキョトンとするお姫様。


「うん。名前。君はなんて呼ばれてるのかな?」


「んーと、皆からはミコサマって呼ばれてる」


「あー、それは名前じゃなくて、役割だね。It is job.」


  っとっと、後ろから襟首を引っ張られる。


「あなたは私に嘘をついていませんか?」


  いぶかしげに俺の顔を伺う凛ちゃん。そんな表情も可愛い。


「嘘を?ついて?いないかって?」


  いちいち区切って話す。


「嘘なんてついてないよ。ただ、大事な内容をはしょって説明しただけだよ」


  無言、沈黙、溜め息。


「あなたはそんなに性格が悪かったでしょうか?」


「イイ性格とはよく言われるよ」


  笑う俺と溜め息をつく凛ちゃん。


「まぁ、こっちが地なんでね。慣れてくれや」


  再び少女と向き合う。


「じゃあ、君には名前がないのかな?」


「うん、たぶん、ない」


「そっか、名前がないのか」


  それは困った。名前ってのは大事だ。


「んじゃ、今日からお前はカンナな」


「カンナ?」


「おう、カンナだ」


  初めはナナシがいいと思ったが、ありきたりだからな。仮の名前で仮名でカンナ。完璧じゃないか。神の名前で神名、転じてカンナでもいい。


「カンナ(↓)?、カンナ(↑)?、カ(↑)ンナ?」


「んーと、カ(↑)ンナだな。たぶん」


「カ(↑)ンナ!私はカンナ!」


「そうそう、お前はカンナだ」


「えへへ」


  なんていうか、、、凄く癒されます。


「あのう、もういいですか?」


  扉から声が聞こえる。そうだったな、放置していたつもりがあちらさんは待っているつもりだったか。


「ああ、いいぜ。こんな夜分に女性の部屋に訪れるとはいい度胸じゃねぇか」


「あ、いや、それはあなたが部屋に入るのを見て、、、」


「いや、皆まで言うな。言い訳は聞き苦しいぜ。氷川に手を出すなら俺を倒してからにしてもらおうか」


「え!?」


  突然話を振られた凛ちゃん。眼が丸くて可愛いぜ。


「だから、私が興味があるのはあなたで、、、」


「マジか!?俺に夜這いをかける気だったのか!?しかも女性の部屋で!?おいおい、俺を薔薇園に招待するつもりかよ」


「薔薇園、、、じゃなくて!夜這いじゃありません!あなたがその少女を彼女に預けているのを見たから心配ついでに訪れたんですよ」


「分かってるって、冗談だよ。真に受けんなって」


  どうも人をからかう悪い癖は治っていないようだ。


「そうだな。カンナもここにいることだし、丁度いいな。神について色々話そうぜ」


  狭い部屋に4人が入る。凛ちゃんとカンナはベッドに腰掛け、俺は自分で椅子を作る。ついでにこいつのも。


「それでは、今日は特別講師のケアレスミスさんにお越しいただきました。皆さん、拍手を」


  俺が茶化すように手を鳴らし凛ちゃんからは乾いた拍手が2、3拍。カンナからは一人で10人分ぐらいの拍手を鳴らす。


「ありがとうございます」


  カンナに一礼をする。まるで紳士だ。


「私も長い間神について研究しました。時には遺跡に足を運び、ある時は古くからある口伝を集めるため旅をし、またある時は魔術の方面からアプローチをしてきました」


  懐から小瓶を取り出す。


「これが私の研究の成果の『不活性魔素』です」


  瓶の中には何も見えないような、、、いや、何も見えない。文字通り、瓶の向こう側が見えない。注視すればするほど見えない。まるで還元するときの光のようだ。それが光か闇かの違いだ。


「この中身は何もないように見えますが、実際は不活性魔素。私が名付けたそれがはいっています。」


  瓶を懐に仕舞う。


「野村さんは魔術を使っていますよね?」


「まぁそうだな」


「魔術を行使するには魔素が必要です。では、魔術を使うと魔素が消えてしまうのか?と私は考えました。もし消えるのならば、いつかは魔素が尽きてしまい魔術が使えなくなります」


  このときの俺の脳裏に浮かんだのはエネルギー保存則と質量保存則だった。この世界は魔素があれば物体を形作ることも物体を動かすことができる。


「不活性魔素は魔術を使った場合、魔素から不活性魔素になります。これは創造魔術、現象魔術でも結果は同じです」


「創造魔術って水を作ったり石を作ったりも?」


「そうですね。長くて2、3年。短くて数時間から数日維持するそうです」


「じゃあ、俺が魔術で家を建てても下手したら2、3時間で倒壊する可能性もあったのか」


「十分にありえますよ。維持できる時間は対象物に対する理解の深さな比例します。例えば石を扱う職人と水を操る魔術師が石を創造すると、職人の石が魔術師より長期間維持できたという実例もあります」


「なるほど」


ふと横を見ると凛ちゃんとカンナはうつらうつらとしていた。


「二人とも、このままねるかい?」


「いえ、せっかくですからもっと魔術について聞きたいです」


「カンナも起きてる!」


「だけど、二人とも眼が赤いよ?」


「気のせいです!」
「きのせい!」


  二人がこういうなら仕方ない。


「んじゃあ、俺の話しでもしてやるか」


  腰を上げて部屋から荷物を取ってくる。


「そういれば、氷川にはまだ話してないことがたくさんあったな」


「そういれ…、なんといいました?」


「いや、そこは聞き流してくれ」


  鞄から色々なものを取り出す。タオルやテキスト、ノート、レポート用紙。凛ちゃんに折られた折り畳み傘。それからノートパソコン。


「これらが何か分かるかい?」


  三人が三人とも思い思いのものを手にとる。


  ケアは解析学Ⅰのテキスト。凛ちゃんは折り畳み傘。カンナはペンケース。


「これがどこで作られたか知ってるかい?」


「わかりません」
「福岡って場所でしょ?圭介の生まれ故郷の」
「こっちにくるまえのところでしょ」


  三者三様の回答が出る。そして、俺とカンナと目が合う。


「カンナは俺がどこから来たのか知ってるんだね?」


「知らない」


「ああ、言い方が悪かった。えーっと、俺がこっちの人間じゃないことを知ってるんだよね?」


「うん。知ってる。神様が言ってた」


  また神様か。


「圭介、こっち、こっちじゃないとはどういうことですか?分かりやすく説明してください」


「んー、なんていえばいいのかな。平行世界やパラレルワールドって聞いたことあるかい?」


「ああ、それならあるよ」


  口を挟んだのはケアだった。


「歴史研究の仲間にそんなことを言ってた人がいるよ。この世界は神が何かを模倣して作り上げた世界だって」


「もし、その人物の仮説が正しいとすれば、何を模倣したかは検討がつく」


「つまり圭介やカンナが言っていた『こっちじゃない』場所を模倣した結果がこの世界ですか」


「おそらくそういうことでしょう。野村さん、そちらの世界について話していただけませんか?」


「いいぜ、最初からそのつもりだしな」


  そして俺はこちらに来て、初めて自分の世界について話した。

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