神が遊んだ不完全な世界

田所舎人

主人公(仮)と白き姫君

 地下へと通じる道には数人の見張り兵がいたが、このおっさん。司祭長のフェライトさんを連れ歩きながら通った。


 部屋には弱い光、松明が数本だけ灯されている部屋だった。


 中に入ると、少し湿り気を帯びた冷たい空気が体を震わせる。


 太い支柱が4本。巫女の傍に控える若い女性達が4人。清らかな象徴なのか、滾々と湧く泉の中に彼女はいた。


 白い髪に白い頬。白い衣装に白い手足。


 俺は神聖不可侵という見えない何かを感じた気がした。


 気がしたが、そこで足を止めては意味がない。


 靴を脱ぎ、靴下を脱ぎ、俺も同じ泉の中に足を浸した。


 思ったよりも冷たくはなかった。


 彼女の前に立つようにして、彼女の顔を見た。


 本来ならば赤いはずの唇は白くなっていた。


 目は閉じており、何か瞑想、あるいは黙想をしているように見える。


 四肢は細く、短い。


 見た目の年齢としては10歳前後。


 そんな小さな女の子が、瞳を閉じ、体を泉の水で清め、祈り、神の言葉を聞き、伝える。


 それだけが彼女の存在理由だった。


 俺は彼女の頬に触れる。
 冷たい。


 人の形をしているだけの何かだった。


 まさしく人形・人型。


 そのとき、ポケットから着信音が鳴った。


 まさかのこのタイミングでアニソンが流れた。


 それと同時に彼女の目が開いた。


 彼女と目があった気がした。


 そして、このタイミングでの着信。


 この世界でメールを送ってくる奴はただ一人。


 彼女は言葉を紡ぐ。


「送信元:作者
 件名:3000人突破記念
 添付ファイル:第三要素
 本文:なし」


 彼女は俺の携帯の画面を見ずにメールの内容を朗読する。


 いや、それはいい。


 巫女のお仕事は神の意志を伝えることだそうだ。




 だったら、こんな現象が起こり得るかもしれない。


 それよりも今回の添付ファイルというのはなんだ?


 とにかくファイルをダウンロードする。


 ・・・。


 ・・・。


 ・・・。


 特に何も現れなかった。今までのように、木刀や本が現れたりしない。


 そのとき、彼女が倒れた。


 咄嗟に、左手でその華奢な体を受け取る。


 その体は震え、先ほどよりもずっと冷たかった。


 とにかく、泉から引き揚げ、魔術で水分を除去。


 俺のコートで体を覆い、聖堂の床に横にさせる。


 本来ならば、危惧すべきところだったんだ。


 いくら思ったより冷たくない泉でも、真冬のこの時期の水に長時間身を置いていれば、こうなることがわかりそうなものだった。


 とにかく、震えている。


 どちらにしろ、温めないことにはしょうがない。


 外よりもここのほうがまだ温かい。


 なら!


 フェライトのおっさんには悪いが、少し痛い思いをしてもらうおう。


 おっさんを支えている樹木を刈り取り、乾燥させる。


「すいません!そこの松明を持ってきてください!」


 傍に控える女性に支持をする。


 その間に、木を薪の形に切る。


 先ほどよりも少女の血の気が失せている。


 唇は紫色になっており、ますます危険な状態にいっている。


 とにかく部屋が冷え切っていることが問題だ。


  松明を受け取り薪に火をつける。


  華奢な少女の体を抱き止め、焚き火にその身を近付ける。


  冷たい体は徐々に熱を帯び、震えは徐々に治まっていく。


  唇はまだ、赤いとは言えないが、紫から白に戻りつつある。すぐに赤みを帯びるだろう。


  さてと、、、久々の選択といくか。


  現状把握。


  回りには味方がいない。女性も含め、信徒が20~30いる。部屋からの脱出口は見張りによって封じられている。そして、白い少女が今、俺の腕の中にある。


  選択肢1
  少女を連れ帰る。


  選択肢2
  少女を救う。


  選択肢3
  少女の笑顔が見たい。


  選択肢4
  少女を自分の物にする。
  選択肢5
  少女を置いていく。


  俺の選択は、、、






  決めれば行動は早い。


  今までと同じ。手段は一つ。


  穴がないなら穴を作る!!


「ただの左ストレート!」


  右手に少女、左手に木刀、前には大穴、後ろには穴を木々で防がれ困っている信徒達。


  アレ?これってヒーローっていうより人拐いじゃね?


  やってしまったもんはしょうがない。それにコートは俺の物だ。それにたまたまくるまれいたのが少女だっただけだ。


  うん問題ない。潔白だ。


  と自分を納得させる俺だった。






「どうしたんですか?この少女は?」


  紆余曲折あったが、俺の部屋に少女を置いておくのも不味いので凛ちゃんに預かって貰うことにした。


「かくかくしかじかで」


「かくかくしかじかでは分かりません。あなたは何をしていたんですか」


  くそう。何から説明をすればよいのやら、、、


「(神威の塔の地下で)この子が泉の中にいて声を掛けたら(馬鹿野郎からメールが届いてその後に)倒れて、どうしようもないから(信徒から追われる中)、急いで手当てするために(魔術が飛んでくるなか)宿屋に戻ってきたんだよ」


  概ねの事実だけを伝える。


「そうですか、ではこの子は私のベッドに寝かしておきます」


「ありがとう。しばらく外で散歩してくるよ。今日は暑い冬の夜になりそうだ」


「言ってることはよく分かりませんが、あなたは狙われているんですから気を付けてくださいね」


「あいよ。その子をよろしく頼んだぜ」


  凛ちゃんの部屋を出て、階段を降りるときにそいつと目があった。


「今からどちらにおでかけですか?野村さん?」


  あの男だった。


「うぃおー。ケアじゃん。ちょっくら散歩にいってくらー」


「僕もお供してもいいですか?」


「んー、あ、いや、一人になりたいから遠慮してくれ」


「そうですか」


「それじゃあな」


  火の魔具の杖を腰に差し、十夜を形片手に携える。


  信徒撹乱大祭りだ。


  目下の目的としては、朝方まで信徒の目を欺くことと疲弊させること。


  夕方の大混乱でカナリの消耗があったはずだ。


  こちらの消耗としては、水を気化させることと、地層を移動させたこと。あとは雹が降らないように少しだけ、力を加えたこと。


  気化をさせれば勝手に上空に上がり勝手に氷になる。攻撃方法としては空中に維持する魔素を切るだけ。それでもカナリの消耗だが、、、


  未だに魔素はみなぎっている。


「さてと、どうしたものか」


  司祭長をボコボコにして、挙げ句に巫女様を拐って、神官の軍団を罠に嵌めて、


「マジでどうしようか…」


  究極、この町を消すか…。


  それは俺の望むところではない…。


「どうしてこうなった…」


  助けてくれよ神様…って神様のせいでこうなってるんだっけか。


  和平を申し込むか…。 
  巫女を拐って何が和平か…。


  巫女を盾に脅すか?


  それも今後の活動に軋轢を生むだろうな。


  巫女様に説得して貰うか?


  …んー…。


  それはそれでアリか?


  詰まるところ、巫女様が説得してくれれば俺は無事に指名手配をされなくなる。


  ってことは何か?


  今後の活動はあの少女の意思一つで左右されるのか?


  それはそれで面倒だな…。


  まぁ、悩んでいても仕方がない。


  とにかく一日を無事に乗りきろう。



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