神が遊んだ不完全な世界
主人公(仮)と試合
  若草屋敷の食事は主に皐月ちゃんと凛ちゃんが受け持っている。
  理由は皐月ちゃんの場合、元来家事が苦ではなく素養があったため、師範が仕込んだそうだ。凛ちゃんの場合は空いた時間は、そのほとんどが鍛練に費やされる。だったら、料理を覚えさせた方が外だけでなく内からも強くなれるためだった。
  浄花さんはなんでも美味しく食べる。言い換えれば、食べられるならなんでもいいという感じで、料理にはあまり執着がないようだ。雪村君は意外なことにこの面子の中で一番料理が上手い。故に料理を教える必要がない。
  俺はというと、鍋を持つ暇があるなら武器を持てとのこと。
  ようは、俺が言いたいのは美少女二人の手料理が食べられるという事実だ。
  しかし、朝の仕事を終え、汗だくのまま食卓にはつけない。俺達三人は風呂に入ることにした。
  そのため、部屋に戻ったときにポケットが震えた。
―――携帯だ。
  携帯を開くと、待ち受けには『新着メール 1件』の表示。
  添付ファイルが1つ。
  俺は怪訝に思いつつもダウンロード開始。
  目の前には鮮やかな色彩で彩られた空間に黒一色に染め上げられた一振りの木刀が現れた。
  銘称は『十夜』。
  俺が武士に憧れたため、手に入れた一品。
  樫の木から作り出されたそれは、俺の憧憬の具現とも言えた。
  俺は柄を掴み取り、一振りする。
  変わらない感触。変わらない重さ。変わらない手応え。まさしくそれは俺の『十夜』だった。
  十夜は長さ102センチ、素材は樫の木、黒塗りの木刀だ。お値段は5900円。(※送料抜き)
  やはり、自分の物には愛着を持つ。自然と笑みが浮かぶ。
「あ、そうだ」
  俺は着替えと一緒に森の雫の原液の入った小瓶を取り出し、十夜に残る原液の半分を掛ける。原液は一滴も畳へ落ちることなく十夜に染み込む。
  俺は十夜に魔術を施すつもりだ。本来は木である十夜に森の雫を与えるとどうなるか?
  イメージするのは再生と癒しと糧となる自然の恵み。鋼鉄より固く、木のように軽く、磨耗することなく、折れても再び成長する。それが十夜に施した魔術のイメージだ。
  とりあえず、十夜を置き風呂場へと向かう。二人を待たせては悪いからな。
  風呂から上がり、朝食につく。起床してから朝練の名目で走ったわけだが、清々しい程に箸が進む。言わなかったが、正直な話、腹はすこぶる空いていた。
  朝食の内容はササニシキの一般的な内容らしい。山田さんが丹精込めて作ったお米や野菜と近郊に住む動物を狩って手に入れた肉。
  米は釜で炊いたためか茶色いお焦げが美味しい。個人的な要望としては醤油とみりんが欲しかった。副菜は里芋の煮っ転がし(のようなもの)。噛めばほぐれ、ふわっとした甘い香りが口内をめぐり、よく煮られた芋は甘味を伴ってとても美味しかった。主菜は肉と野菜を一口大の大きさに切り分け、炒めたものだった。少し濃い味付けは運動をしたあとには丁度良かった。この料理の特徴はなんといっても肉だ。ちょっとした臭みがあるのだが、これまた癖になりそうな味なのだ。
「二人とも料理が上手ですね!」
  俺は二人に向かい素直な感想を言う。
「いえいえ、お三方が材料を持ってきてくださるからこうして調理ができるんですよ」
  皐月ちゃんはそんな謙遜をしながらわたわたと手を振る。可愛いなチクショウ!
「私なんかはまだまだです。皐月の腕前こそ素晴らしいです。この芋を煮たのは皐月ですが、この繊細な味は私には出せません」
  と箸で芋をつまむ凛ちゃんが皐月ちゃんを褒める。この二人はとても仲睦まじく見えた。
  さてと、朝食を終えた俺は午前の練習まではちょっとした時間があった。自室に戻り、床に寝かせた十夜を見る。
  黒色に染められた刀身はやはり自分の厨二加減に辟易しつつも、ワクワクする感情は押さえきれなかった。
  俺は十夜を手に取る。
「よし!今日から鍛練にはコイツを使おう!」
  俺はそう思い言った。
「今から南城橙馬対野村圭介の試合を始める!ルールは剣術のみならず体術を用いてもよいとする!」
  と朝から張り切っている師範。聞いてませんよ~。
  名指しされた橙馬君も慌ててる。
「なんでいきなり試合なんですか?」
「お前の実力を見るためだ」
  あらあら
「なに、心配するな。橙馬とお前の実力はあまり大差ない」
「そうなんですか…」
「なによりお前に足りないのは経験だ。模擬とはいえやらないよりいいだろう」
「オッス!」
  とにかくそういうことだ。橙馬君と試合だ。
  互いに対峙する。十夜を構え、橙馬君との探りあい。
  瞬間、橙馬君が迫る。
(サクラかっ!)
  一瞬にして間合いを詰められ、懐に入られる。
(マズイ!)
  こちらもサクラで距離を離す!
  距離を離した瞬間、背中に衝撃を受ける。
(!?)
  どうやら壁にぶつかったらしい。
  後ろは壁だ。これを好機と見た橙馬は再びサクラで距離を詰めながら突きの姿勢を取る。
(落ち着け!大丈夫だ!相手はちゃんと見えてる。凛ちゃんや師範に比べれば大丈夫だ)
  迫る橙馬の刀身に十夜を滑らせる。そして剣先をずらして、橙馬の懐にはいる。
「フッ!」
  カウンター気味に肘鉄をいれる。
「ウッ!…」
  橙馬が前のめりにに倒れる。
「勝者、野村圭介!」
  師範の掛け声があがる。
  いや、それよりも橙馬が!
「ン…、大丈夫です…」
  なんとか立ち上がる橙馬。
  その橙馬に言う。
「橙馬、いつも言ってるだろ。相手の懐に入ってから剣を振るな。あれだと簡単に避けられる。だからといって突きをしながら距離を詰めるのもよくない。動きに目が追い付くやつは冷静に対処できる。野村は少し焦っていたようだが、もう少し頑張れば野村から一本取れるだろう」
  そう締めくくる。そして次に俺。
  ゴンッ!
「イッテェー!」
「お前は何やってんだ!簡単に懐に入られやがって!試合なんだぞ?橙馬があの瞬間、剣を振っていたらそれだけで試合は終わっていたんだ。あとはあのサクラはなんだ!無様にも程があるぞ!自分から壁にぶつかりって!お前の今日の練習は桜だけだ。小刻みな動きが出来るようにしろ。動と静の切り替えが出来るようにしろ。桜の練習に関しては橙馬に聞け、アイツは予備動作なしに桜ができる。アイツは速さには難があるが初速に関しては目を見張るものがあるからな」
  俺は頭を擦りながら話を聴く。言い終わった師範は最後に
「ああそうだ。最後の肘打ちはよくやった。あの一瞬だけは確かに評価してやろう」
そういった。
「オッス!ありがとうございます!」
  俺は師範に深々と頭を下げた。
「橙馬!サクラの練習だ!付き合え!」
「ハイ、野村さん」
  ニコニコしながら寄ってくる橙馬。こんな弟がいたらいいのに。
  結局の所、予備動作なしのサクラを修得するのに3日かかった。この期間、十夜を振ることができずに終わった。
  理由は皐月ちゃんの場合、元来家事が苦ではなく素養があったため、師範が仕込んだそうだ。凛ちゃんの場合は空いた時間は、そのほとんどが鍛練に費やされる。だったら、料理を覚えさせた方が外だけでなく内からも強くなれるためだった。
  浄花さんはなんでも美味しく食べる。言い換えれば、食べられるならなんでもいいという感じで、料理にはあまり執着がないようだ。雪村君は意外なことにこの面子の中で一番料理が上手い。故に料理を教える必要がない。
  俺はというと、鍋を持つ暇があるなら武器を持てとのこと。
  ようは、俺が言いたいのは美少女二人の手料理が食べられるという事実だ。
  しかし、朝の仕事を終え、汗だくのまま食卓にはつけない。俺達三人は風呂に入ることにした。
  そのため、部屋に戻ったときにポケットが震えた。
―――携帯だ。
  携帯を開くと、待ち受けには『新着メール 1件』の表示。
  添付ファイルが1つ。
  俺は怪訝に思いつつもダウンロード開始。
  目の前には鮮やかな色彩で彩られた空間に黒一色に染め上げられた一振りの木刀が現れた。
  銘称は『十夜』。
  俺が武士に憧れたため、手に入れた一品。
  樫の木から作り出されたそれは、俺の憧憬の具現とも言えた。
  俺は柄を掴み取り、一振りする。
  変わらない感触。変わらない重さ。変わらない手応え。まさしくそれは俺の『十夜』だった。
  十夜は長さ102センチ、素材は樫の木、黒塗りの木刀だ。お値段は5900円。(※送料抜き)
  やはり、自分の物には愛着を持つ。自然と笑みが浮かぶ。
「あ、そうだ」
  俺は着替えと一緒に森の雫の原液の入った小瓶を取り出し、十夜に残る原液の半分を掛ける。原液は一滴も畳へ落ちることなく十夜に染み込む。
  俺は十夜に魔術を施すつもりだ。本来は木である十夜に森の雫を与えるとどうなるか?
  イメージするのは再生と癒しと糧となる自然の恵み。鋼鉄より固く、木のように軽く、磨耗することなく、折れても再び成長する。それが十夜に施した魔術のイメージだ。
  とりあえず、十夜を置き風呂場へと向かう。二人を待たせては悪いからな。
  風呂から上がり、朝食につく。起床してから朝練の名目で走ったわけだが、清々しい程に箸が進む。言わなかったが、正直な話、腹はすこぶる空いていた。
  朝食の内容はササニシキの一般的な内容らしい。山田さんが丹精込めて作ったお米や野菜と近郊に住む動物を狩って手に入れた肉。
  米は釜で炊いたためか茶色いお焦げが美味しい。個人的な要望としては醤油とみりんが欲しかった。副菜は里芋の煮っ転がし(のようなもの)。噛めばほぐれ、ふわっとした甘い香りが口内をめぐり、よく煮られた芋は甘味を伴ってとても美味しかった。主菜は肉と野菜を一口大の大きさに切り分け、炒めたものだった。少し濃い味付けは運動をしたあとには丁度良かった。この料理の特徴はなんといっても肉だ。ちょっとした臭みがあるのだが、これまた癖になりそうな味なのだ。
「二人とも料理が上手ですね!」
  俺は二人に向かい素直な感想を言う。
「いえいえ、お三方が材料を持ってきてくださるからこうして調理ができるんですよ」
  皐月ちゃんはそんな謙遜をしながらわたわたと手を振る。可愛いなチクショウ!
「私なんかはまだまだです。皐月の腕前こそ素晴らしいです。この芋を煮たのは皐月ですが、この繊細な味は私には出せません」
  と箸で芋をつまむ凛ちゃんが皐月ちゃんを褒める。この二人はとても仲睦まじく見えた。
  さてと、朝食を終えた俺は午前の練習まではちょっとした時間があった。自室に戻り、床に寝かせた十夜を見る。
  黒色に染められた刀身はやはり自分の厨二加減に辟易しつつも、ワクワクする感情は押さえきれなかった。
  俺は十夜を手に取る。
「よし!今日から鍛練にはコイツを使おう!」
  俺はそう思い言った。
「今から南城橙馬対野村圭介の試合を始める!ルールは剣術のみならず体術を用いてもよいとする!」
  と朝から張り切っている師範。聞いてませんよ~。
  名指しされた橙馬君も慌ててる。
「なんでいきなり試合なんですか?」
「お前の実力を見るためだ」
  あらあら
「なに、心配するな。橙馬とお前の実力はあまり大差ない」
「そうなんですか…」
「なによりお前に足りないのは経験だ。模擬とはいえやらないよりいいだろう」
「オッス!」
  とにかくそういうことだ。橙馬君と試合だ。
  互いに対峙する。十夜を構え、橙馬君との探りあい。
  瞬間、橙馬君が迫る。
(サクラかっ!)
  一瞬にして間合いを詰められ、懐に入られる。
(マズイ!)
  こちらもサクラで距離を離す!
  距離を離した瞬間、背中に衝撃を受ける。
(!?)
  どうやら壁にぶつかったらしい。
  後ろは壁だ。これを好機と見た橙馬は再びサクラで距離を詰めながら突きの姿勢を取る。
(落ち着け!大丈夫だ!相手はちゃんと見えてる。凛ちゃんや師範に比べれば大丈夫だ)
  迫る橙馬の刀身に十夜を滑らせる。そして剣先をずらして、橙馬の懐にはいる。
「フッ!」
  カウンター気味に肘鉄をいれる。
「ウッ!…」
  橙馬が前のめりにに倒れる。
「勝者、野村圭介!」
  師範の掛け声があがる。
  いや、それよりも橙馬が!
「ン…、大丈夫です…」
  なんとか立ち上がる橙馬。
  その橙馬に言う。
「橙馬、いつも言ってるだろ。相手の懐に入ってから剣を振るな。あれだと簡単に避けられる。だからといって突きをしながら距離を詰めるのもよくない。動きに目が追い付くやつは冷静に対処できる。野村は少し焦っていたようだが、もう少し頑張れば野村から一本取れるだろう」
  そう締めくくる。そして次に俺。
  ゴンッ!
「イッテェー!」
「お前は何やってんだ!簡単に懐に入られやがって!試合なんだぞ?橙馬があの瞬間、剣を振っていたらそれだけで試合は終わっていたんだ。あとはあのサクラはなんだ!無様にも程があるぞ!自分から壁にぶつかりって!お前の今日の練習は桜だけだ。小刻みな動きが出来るようにしろ。動と静の切り替えが出来るようにしろ。桜の練習に関しては橙馬に聞け、アイツは予備動作なしに桜ができる。アイツは速さには難があるが初速に関しては目を見張るものがあるからな」
  俺は頭を擦りながら話を聴く。言い終わった師範は最後に
「ああそうだ。最後の肘打ちはよくやった。あの一瞬だけは確かに評価してやろう」
そういった。
「オッス!ありがとうございます!」
  俺は師範に深々と頭を下げた。
「橙馬!サクラの練習だ!付き合え!」
「ハイ、野村さん」
  ニコニコしながら寄ってくる橙馬。こんな弟がいたらいいのに。
  結局の所、予備動作なしのサクラを修得するのに3日かかった。この期間、十夜を振ることができずに終わった。
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