神が遊んだ不完全な世界
主人公(仮)と川下り
ひたすら南へ森を突っ切る。
ひたすらにひたすらに。
時計の短針が90°回転した頃には足がパンパンになった。
整備されていないだけでココまで疲れるものかと思った。
それでも、なんとか森は脱した。
正直、早めに森を抜けられたことは幸運だ。
(さすがに森の中で一人で一晩を明かすのは怖いからな。)
ココから少し東に寄ると貿易商が通る道があるらしい。
仮にそこですれ違うことがあれば、何か買わせてもらおう。肉や新鮮な野菜等があれば嬉しい。
森を出たことで『蓮』も使える。
森の中で仮に使った場合、少なくない負担を森にかける気がしたから。
水脈は南東に走っているようだ。
(都合がいい)
コートを脱ぎ、鞄を覆う。
多少なりとも水を弾くだろうという安易なコーティング。
さぁて、俺の旅はこれからだ!
少しだけカッコつけて、水を周りに漂わせる。
イメージ的にはスイレーン。
水を操る精霊のイメージを持って、水の上に乗る。
「『蓮』!!」
俺は慣れたように水を操りながら走る。
正直、太ももがパンパンだったから少し休んだほうがいいのかなとも思ったが、森から出たテンションは疲れを忘れさせた。
日は傾き、夕方。
結局誰にも会うことなく。
(やべぇよ!腹減ったよ!マズいよ!)
ぶっちゃけ、旅を舐めてました。
冒険小説では主人公が旅支度の描写なんてあんまないから、舐めてたけど…。
そりゃあ、食べ物ないと死ぬって!RPGで言うところの『詰み』だよ!
マジでどうしよう…。
神にでもすがりたい…。
折角の図鑑も植物や動物がいないんじゃあ、役立たずのただの荷物だ。
こうなったら、、、
水を鍋いっぱいに溜める。
そしてそれを…
飲む!!
とりあえず、コレで空腹を騙そう。
今の俺にできる選択は次の通り、
1.今日はココで休み、明日の朝一番に食べ物を探す。
2.もう少しだけ進み、村か何かを探す。
3.食べ物を探すため、森へ入る。
俺はココで、、、
2を選ぶ。
理由としては近くに水脈がある。
それは川へと通じている。
だったら川沿いに村が可能性が十分にある。
もっと早くにこの選択が取れれば俺はココまで苦しまなかった気がする。
よし、川なら『蓮』も使いやすい。
早速俺は川へと身を移す。
こうやって、水場の上で水の上に乗るっていうのは気持ちがいいな!!
40分もすると、村らしき集落を発見した。
川は西へと向かっており、本来のルートには外れていはいたが、ココで物資を調達できれば明日からの旅は安心できるものとなるだろう。
川から出て、村へと足を向ける。
傍には田畑が広がっていた。
もうすぐ収穫の時期なのだろう、立派な野菜や麦が実っていた。
ただし、俺が見たことがないような種類もあるようだ。
夕方にさしかかろうとしている今でも、田畑で身を屈めている人たちがいる。おそらく、虫を取り除いてでもいるのだろう。
村の規模はRPGのように数人というわけではなく、70~80人規模といったところだ。
村人から痛い視線を受ける。
まぁ不思議な訪問者が現れたらそれは、注目せざるおえないか。
腰に剣を腕と首には魔具を、肩から鞄を下げ、鞄には鍋がぶら下がっているんだ。奇人変人と思われても仕方がないかもしれない。
そんな人たちの視線をかいくぐり、店らしき建物に入る。
中には質素ながらも色々と売っていた。
「ん?おう、いらっしゃい、旅人さん。なんか欲しいモノがあったら、言ってくれたらコッチで見繕うぜ」
気さくな店主が声をかけてくる。
「いや、ちょっと自分で見てみたいから、大丈夫です。お気遣いありがとうございます」
軽く会釈して、店内を巡る。
あるものは先程の田畑で見かけたものと、見かけてないもの。あとは、乾物と雑貨。
俺は、それらの提示価格を見て少しだけ戸惑った。
『銅貨20枚』
(銅貨??)
俺の手持ちは銀貨8枚だ。
銅貨なんて持ってない。
「すいません、ココって銀貨使えますか?」
俺は店主に尋ねる。
「ん?どこの銀貨だい?」
店主は身を乗り出す。
「コレなんですけど」
銀貨を一枚手渡す。
「ああ、ノギス銀貨だね。だったら、ノギス銅貨100枚と同じだよ」
ということはココでも銀貨は使えるのか。
俺は銀貨三枚分の食料と雑貨を買う。
「ここって宿屋とかありませんか?」
「ああ、ウチがそうだよ。店と宿を兼用でやってるんだ」
「今日一晩泊めさせてもらえませんか?」
「いいですよ。一晩、銀貨2枚です。もう一枚で夕食と朝食をつけますよ」
「じゃあ、それで」
俺は更に銀貨三枚を渡す。コレで残り2枚・・・少しだけ心許ないな。
「宿は二階になります。案内しましょう」
店主に先導され、二階へと案内される。
木造のその部屋はユニ邸宅で与えられた部屋に比べると幾分小さく感じる。それでも、十分な大きさの部屋だ。
机とベッドとランプ。質素ながらもこれには満足した。
「いい部屋ですね」
「何もない部屋ですよ」
そう言って笑う店主。
「夕食まではどれぐらい時間がありますか?」
「はい、まだ時間はありますよ。あと2時間ほどです」
俺はそれを聞くと、礼を述べ村を散策することにする。
歩き疲れて部屋で休むのもいいが、せっかくのこの世界の村落だ。
好奇心が疼く。
(村長さんにでも挨拶しようかな)
近くの村人に場所を尋ね、礼を述べる。
村長の家は他の家と比べると二回りほど大きい造りだ。
戸を叩き、訪問を報せる。
足音が聞こえ、戸が開く。
「おお、お客人とは珍しい。村の子供たちが先程知らせに来たんですよ。『ぼうけんしゃさんがきたー!』という感じでの」
好々爺しいご老人は俺のことを歓迎してくれた。
「初めまして。ノギスから来た『浜久里 静実といいます』」
指名手配されてるのに素直に名前を明かすのも危険かなと思い、偽名を作ってみました。
名前の元ネタは、まぁそのまま貝です。
俺は村長こと『ジョルニバ』さんの家にご招待されました。
「あ、お茶、ありがとうございます」
「いえいえ」
俺は村長の家でお茶をごちそうになった。
村長の話では西の『交易都市レスリック』へと向かう冒険者はこの村をよく利用するらしい。
今日か明日まで誰もこないことを祈る。
まぁ名前がバレていても偽名を使う以上は平気だと思うけどね
談話もそこそこに村長に御暇をつげ、俺は宿に戻ることにした。
正直、今になって疲れが出てきたせいもあるのだろう。
夕食が用意できるまでの間だけでも休ませてもらおう。
俺は店主に夕食ができたら俺を起こすよう頼み、俺は寝た。
正直、次起きたときは晩ご飯にありつけると思ってました。
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