神が遊んだ不完全な世界

田所舎人

主人公(仮)と秘密基地

  街を出て、携帯を取り出す。


 電池は残り2個。


 こちらに来てからは出来るだけ、電源をオフにしていた。


 それに市販の太陽パネル式充電器に救われている。


 窓際に放置していたから、後で充電をしとかないとな。


 データフォルダからサウンドフォルダを開き、ユニさんの指示を聴く。


 荷物を回収してっと。


 道なりに南に向かう。


 『蓮』を使えばいいと思ったが、手荷物にはノートパソコンがあるんだった。


 色々考えた結果、傍にある木を一部切り取り、簡易の板を作る。


 サーフボードとはいかないが、波の方は自分で操れるんだ。少し強引ではあるが、文字通り自己流で波を操れる。


「うっしゃあ!いくぜぇ!」


 掛け声一つ、ボードに乗り『蓮』を発動する。


 サーフボード経験はないが、『蓮』で水の上に直接乗る練習をしてたため、難なく乗れましたとさ。


 少し気になるのは『蓮』を使った跡が残ることだけど、ココ最近毎日のように『蓮』を使ってたし、東側の路上には今朝、『蓮』の跡も残ってることだし攪乱にもなるから、無視無視。






 『蓮』で進むこと5分。歩いたら1時間程度の距離にもなる。森の入口が見えてきた。


 森の入口をくぐるとき、例のマジックストーンを取り出す。


 注視すれば、淡く光ってるのが分かる。


 その光を頼りに森を歩く。


 こんな時にも、太陽パネル式ライト付き充電器が役立つ。


 これだけ暗い森の中ならば、こんな小さな光でも心強い。


 しかしながら、森の中でライトを付け、ピリスの血を浴びたせいか、動物たちは微かな臭いに連れられて忍び寄ってくる。


 途中で何度か襲われそうになったが、水脈から水を呼び辺り一帯に湿らせるように散水する。すると、動物が湿った土を踏む。ただそれだけでも水面の波面のように知覚できる。


 水の魔術が優れているのか、それとも貰った魔具が優れているのか、判断に困る。


 そうこうしているうちに、石が強い光を放つようになった。


 ライトを消し、石の光が最も強く光る場所を探す。


 木の根元に若干の違和感を覚える。


 巧妙に隠されてはいるが、石の鳴動によりその違和感はハッキリとしていく。


 根元には根と間違いそうなそっくりな取っ手がある。


 土をどけてみると、床下収納のような木の扉。


 取っ手に手をかけ、引っ張る。


 扉は重い。


 なんとか扉を開き、階段を降りる。


 扉を閉じると同時に階段傍の石が灯りを放つ。


 俺が持っている石とはまた違った種類のようだ。


 階段は螺旋のようになっており、壁は石造り。


 下り始めてしばらくすると、明かりが見えてくる。


 声が聞こえてくる。きっと人がいるのだ。


 ただ、ほんの一瞬、中を覗き込む。


 のぞき込んだ瞬間、


 ―――12の目と視線を交えた。


 正直ビビッたね。


「お、きたか。早く入れよ」


 屈強な戦士然とした人物が声をかけてくる。


 おずおずと中に入る。


 6人の人型がこの場にいる。


 その中にはユニさんもいる。キリスさんもいる。


 先ほどの屈強な体躯の人物はギルドでユニさんに声をかけていた人のようにも見えた。


 あとは、ほぼ見たことがない人物たち。


 帽子を目深に被った人物。


 色気たっぷりの女性。


 小柄な体躯の少年。


 少年の足元で寝ている小さな小動物。


 これらが、現在この空間にいる生き物。


 ユニさんが、一つの椅子を指差し座るように勧める。


 俺は従い、座る。


「あー、さっき話してた人が彼。野村圭介」


 どうもと頭を下げ、挨拶をする。


「まぁ経緯はしらんが、彼は神威のやつらに追われているってことだ。それでだ、とりあえずこっちで匿うことにしたんだが、構わないよな?」


 あー、俺はココで保護されるのかな~。なんて考えたりもする。


「別にいいんじゃないか?ユニがいいならさ」


 少年が言う。


「僕も彼なら構わないよ」


 キリスさんが続いて発言。


「私はどうでもいいわ~」


 色気たっぷりお姉さん。こちらとは目を合わさずに言う。


「ダルはどうだ?彼をココで匿うのは」


「ん、俺か?」


 屈強な男性の名前はダル?というらしい。もしかしたら愛称なのかもしれないのでダル(?)で


「匿うにしても、どんぐらいなんだ?一度追われたら捕まるまで終わらねぇぞ?」


 あら、意外にも慎重なダル(?)さん。一流の冒険者ほど慎重と聞いたこともあるし、もしかしたらその類なのかも。


「とりあえず、彼はもうノギスにはいられないでしょうね。ノギスから追っ手が出るかどうかは分からないけど、所詮は信徒であるノギス住人が追いかけてるだけ。だったら、ノギスを離れて別の国に行くことを勧めるわ」


 なるほど、これまた一つの選択肢か。


「こいつの意思は確かめたのか?なんでもコッチで決めちゃあコイツが可哀想だろ?なぁ」


 なぁ?って言われてもなー。申し出はありがたいし、嬉しい。


(ただな~。俺は次にやること決めちゃったしな~。どうしよっかな~。匿って貰って別の国に送り出されるのかな?だったら保身を考えて申し出を受けるのがいいんだろうな~。)


 なんて他人事のように考える。


 この場合、俺が取れる選択肢は


1.ユニさんの申し出を受け、他国まで送ってもらう。


2.ユニさんの申し出を丁重に断り、信仰都市『タユタユ』に向かう。


(はてさて、どっちがいいのかな~)


 いやまぁ、答えなんて最初から決まってるんだけどね。


「一応、『タユタユ』までちょっと殴り込みを考えていました」


 あら、皆面白い顔。


 艶っぽいお姉さんも目を丸くしてる。


 可愛いなぁ~。


 キリスさんはなんとなく納得したような顔。


 ダル(?)さんは唖然としている。


 ふむふむ。この反応から鑑みるに神威の塔ってのはよっぽど楯突いちゃ行けないモノなのかもしれない。


 いやまぁ、無駄死にするきはサラサラない。


 いざとなったら尻尾巻いて逃げますよ。


「やめとけやめとけ、お前には無理だよ」


 ダル(?)さんは俺に考えを改めるように言う。


 そこにキリスさんが出る。


「いえ、もしかしたら彼ならいい方向に持って行ってくれるかもしれませんよ?」


「いやいや、コイツがタユタユに行ってみろ。5秒で肉片ができるぞ」


「彼がルゥさんに認められたとしてもですか?」




 瞬間、空気が変わった。


「へぇー。あのバアさんに認められたのか?あのクソババアは毎回毎回人を小馬鹿にしては『不合格』の一言で一方的に虐めてくる陰湿なやつなのにな」


 ダル(?)さんも過去にいじめられたことがあるらしい。


「なるほどな、んじゃそのペンダントはババアから貰ったもんだな?」


「はい、一応は」


 納得したような顔をするダル(仮)さん。


「あのババアが『合格』と言えば、なにか良いものをくれるんだよな」


 そういって腰に携えていたひと振りの剣を見せる。


「これだって、あのクソババアにやっとの思いで『合格』と言わせて渡されたもんだ。カナリの業物で一般の冒険者が持つには過ぎたる獲物だよ」


「ダルは『合格』じゃなくて『及第点』でしょ」


 カラカラと笑う少年。


「いやでも、難しいと思いますよ?タユタユに向かうのは」


 少年がコチラの顔を真摯な目で見つめる。


「あそこは魔術に対しての耐性は並みではありません。見たところ野村さんは体格もあまりよろしくない。私がいいところを紹介しましょうか?手っ取り早く強くなれる場所を」


 彼は話を続ける。


「強くなれると言っても、それは人それぞれですけどね。ココからひたすら道に沿って南に向かうとありますよ。異文化都市『ササニシキ』が」

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