神が遊んだ不完全な世界
主人公(仮)と目標
  キリスさんとルゥさんに礼を言い、ルゥ邸を後にする。
  手に入れたペンダントとブレスレットを見て、思わず笑みが溢れる。
キリスさんとルゥさんのおかげで、この世界における魔術の大切さに気づかされた。そして、現代物理は魔術に応用できる。
  そういえば、気になる点があった。水圧の魔術、仮に術名を「水仙」とする。ひまわりの次に好きな花の名前だ。水の光線ということで水仙。字は違うがどうせ音は同じだ。
  水は圧力をかけると融点が上がり、固体つまり氷になるはずだ。しかしならなかった…。
ともあれ、圧力をかけた水が氷にならなかったのは、キリスさんの詠唱による効果か魔具の性能か。
  おそらく前者だと俺は思う。
  詠唱にはキーワードとして「流れる」という単語があった。つまり流体を維持するという意味だったのかもしれない。
  まぁ考察はこれぐらいにしておこう。昼と夕の狭間のこの時間帯。昼食はキリスさんが振る舞ってくれたサンドイッチとスープをいただいた。簡単な料理でありながら、現代コンビニサンドイッチよりも遥かに美味だった。偏食家の俺だが、キリスさんの腕は確かだと思う。こういうB級グルメを美味しくできる人はやはり良い。
  まぁ、そんな時間なんで市場で何が売られているのを見に行くのも良い。
  
  ところ変わってココは市場街。朝向かった住人街ではなく職人街側。
  昼も過ぎ、人もそこそこ。西側に比べると落ち着いた雰囲気がある。
  街中を歩く。普通の店と豪奢な店が分かりやすい形で並んでいる。
  こじんまりとした小さな店舗。扉には開店中の札が掛けられている。
  豪奢な店はデカイ。なにかの呪いか何ヵ所かには同じ紋章が店のどこかに記されていた。
  そんな店舗のなか、一つ気になる香りを嗅ぐ。
  香水のような甘い香りや柑橘系の香りだ。
(これって調合屋だよな?)
  見た目は質素だが、人を惹き付けるような魅力を持つ店。
  足が勝手に進んでしまう。
「…いらっしゃい」
オレンジのセミロング、興味のなさそうな冷めた目、二の腕を露にした服装。肌が透き通るような白い肌のため、頬が少し赤い気がする。
「ここは何の店かな?」
「…ポーション、売ってる」
  分かりやすい。
  この話し方はクルデレか?いや、デレではない。それにこのタイプはクールというよりも、人付き合いが苦手か、人嫌いの可能性もある。
「あの、甘い香りがしたんで入ってみたんですけど、香水も取り扱ってるんですか?」
  そういう俺にたいして彼女は腕を持ち上げ、一方向を指す。
  それは小さなガラスに入れられた香水そのものだ。
  しかし、調合屋はポーション意外にも香水も取り扱っているのか。
  いや、意外じゃないのかな?むしろ回復薬だけの店のほうがおかしいのか。
  俺はその香水瓶を手に取る。
  香りは甘く強すぎない。上品な女子高生がつけるような抑え目の香り(勝手なイメージ)。
  ルゥさんやユニさんではなくルルさんに似合いそうな気がする。
  次の香水はバニラっぽい。香水に疎い俺だが、これは分かる。これはウリクさんに似合いそうだ。
(んー…、円満な人間関係を作るために一歩踏み出す必要があるか?)
  今俺が考えてるのはコレをウリクさんにプレゼントをすることだ。
  しかし、今手持ちのお金で買えるか分からない。それにこのお金はユニさんから貰ったものだ。
  今の状況は親からの仕送りで彼女にプレゼントを買うことに近い。
(やっぱり買うなら自分で稼いだ金がいいよな~)
  そうと決まればコレはとりあえずの目標だ。
『香水を買える程度の金を稼ぐ!』
  よし、目標ができたらやる気が湧いた。
「すいません!これを予約したいんですが」
  とりあえず、コレを買う。そう決めたら、まずは確保だ。
  彼女はカウンターの下から、あの割り符という木片を取り出した。
「…いつ、取りに来る」
  質問というより確認のような事務的な応答。まぁ作り笑顔しろとも思わないが…。
  俺はこういうタイプの笑顔が見たい。
ギャルゲだって、リアルだって女性の笑顔は何にも勝る。
  まぁ初対面だからいきなり笑顔は無理か。とりあえずフラグを立てないと。
「一週間以内で」
「分かりました」
木片を受けとり、ポケット仕舞う。
「店員さんは一人で店の経営をしてるんですか?」
「…まぁ」
  目を背けて答える。嫌われてるのかな?
「このお店名前ってなんですか?
「…『ミクの祝福』」
  ミクの祝福。
「ミクってどんな意味があるんですか?」
「…花の妖精様」
  妖精か、ルゥも湖の主と対峙したらしいし、人外の種類は多いのかも。
「そうなんですか。花の妖精か~、一度は御目にかかりたいものですね」
  イメージだと美しい花弁の上で居眠りをしている姿。
  とりあえず、予約は済ました。
後は金を稼ぐだけだ!
  俺は店から出ようとすると、店員さんから声を掛けられた。
「あ、…あの、名前…予約…」
  ああ、割り符を受け取って予約は終わったつもりだった
「えーっと、名前は圭介。野村圭介」
  クル店員さんは帳簿かなにかに書き留めると、それを仕舞う。
「店員さんの名前は何て言うんですか?」
  ビクッと肩を揺らす。不味いこと聞いたかな?名前を尋ねただけなのに。
  それから少しして、唇を振るわせながら
「ジ、…ジル…」
  そう言うと、顔を俯かせた。その表情は読み取れない。
「じゃあ、また今度です。ジルさん」
  俺はそう言い残し手、店を出る。振り向き様にジルさんを見ると、髪が揺れていた。
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